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先端医療とその成果を一日も早く第一線に


先端医療とその成果を一日も早く第一線に
京都大学大学院 医学研究科・医学部 薬剤疫学分野 教授 川上浩司 氏
解説講演(要旨)

 2009年11月19日、大手町サンケイプラザ(東京)にて製薬協メディアフォーラムが開催されました。今回は『先端医療とその成果を一日も早く第一線に』と題して、京都大学大学院医学研究科・医学部薬剤疫学分野の川上浩司教授の講演がありました。講演では、先端医療をはじめとしたライフサイエンス分野における研究成果の創出のために、わが国で取り組むべき重要政策課題について、アメリカなど、諸外国における先進的な取り組みを引き合いに出しながら、興味深い話がありました。


●オバマ政権の研究開発政策


講演中の川上先生

 冒頭、米国食品医薬品庁(FDA)において6年間にわたり、審査官および研究官として従事した経験から、アメリカにおける基礎研究、応用研究への取り組みについて説明がありました。そして、オバマ政権発足後、大統領自身が研究開発投資を対GDP比3%以上にすることを宣言し、数学、科学教育、医療などの各分野で、研究開発事業がこれまでにない勢いで積極的に進められようとしていることが紹介されました。
 また、アメリカにおける今年の景気対策法で手当てされた予算の半分が医療、健康分野に向けられていることを例に取り、オバマ政権に移行したことにより、政策の中心は軍事から健康に明らかにシフトしていることが強調されました。
 このままでは、ライフサイエンス領域における基礎研究、応用研究ともに、わが国との格差が広がるばかりであり、少しでも彼我の格差を縮小し、10年後、30年後のわが国の健康・医療基盤を充実したものとするには、疫学基盤、臨床疫学・薬剤疫学研究の推進、教育の充実、臨床試験制度のあり方の見直し、臨床研究司令塔の確立、疾病注力分野の選定が不可欠であることが強調されました。

●わが国における薬剤疫学の重要性
 医療分野における研究を充実させるうえで、薬剤疫学は極めて重要であり、わが国においては一部の地域で自主的な取り組みが見られますが、基本的には皆保険制度であるにもかかわらず、国を挙げての疫学研究は発達してこなかったこと、また、疫学研究の欠如に伴い、アウトカムリサーチやEBM研究についても日本ではほとんど行われていないといった状況が紹介されました。加えて、日本ではエビデンスがあっても、そのとおりに治療しない医師が多いことも特徴で、そのような中、臨床研究を行っていくことがいかに困難であるかについて改めて問題指摘がなされました。
 一方、アメリカでは薬剤疫学に関連して「副作用の国家レベルでの報告制度」が日本より遅れていたとのことで、それが、2年前に法改正に伴い、状況が一変したとの話がありました。すなわち、アメリカで承認された薬について、副作用が保険会社のコンピューターを通じてすべて国に集約されることとなり、それにより、治験で得られた安全性データを統計学的に有意に上回る副作用発現が観察された場合、FDAは当該医薬品の承認取り消し、回収命令をできるようになったとのことです。
 アメリカではこのような大胆な副作用報告制度の取り組みにおいて日本を一気に追い越したとの話は大変、興味深いものでした。

●わが国における臨床研究と治験
 日本において、臨床試験の制度は特異的であり、そのことが、先端医療の普及を妨げていることも強調されました。
 日本では治験は薬事法(GCP)に基づき、製薬企業がスポンサーとなって実施し、厚生労働省に承認申請を行うことをゴールとしていますが、公的施設で科研費等を用いて行う臨床研究では、薬事法の拘束はなく、あくまで医療行為の一部として行われています。臨床研究は、承認(効能追加等)取得には結びつかないため、正式に承認を取ろうとすると、1から薬事法に基づいて治験を実施しなくてはならないわけです。川上教授からは、日本における臨床研究、治験というトラックの違いが、手続き上の混乱をきたしていることに加え、データの蓄積の欠如、特許期間の浪費等といった「非効率」をもたらしているという問題指摘がなされました。その結果、治験の空洞化、ドラッグ・ラグおよびデバイスラグを生んでいるわけです。アメリカでは治験と臨床研究は制度的に分かれていないことから、日本で言う「臨床研究」であがってきたデータであっても、承認申請に活用されているとのことです。また、申請の時に支払う審査手数料について、ベンチャー企業には大きく値引きがなされ、大学の場合、無料だったりすることも、アメリカにおける臨床研究の活性化に結びついているとのことです。
 欧州についても臨床試験指令に基づき、商業スポンサーか非商業スポンサーか、承認申請目的か否か、にかかわらず、試験実施前に倫理審査委員会の審査が行われるなど、臨床研究と治験に隔たりはないとのことです。
 れらを鑑み、日本でも医薬品医療機器庁(仮称)を設立して、基礎研究の段階から規制当局が助言を行い、また、治験と臨床研究の区別をなくし、産と学の人事交流を増やし、審査を効率化すべきとの提言がなされました。

●研究開発の司令塔について
 また、わが国における研究開発政策の司令塔の確立の必要性についても触れられました。
 イギリスでは、国立ヘルスリサーチ研究所、医学研究会議、国民健康保険サービスによる助言、ニーズをもとに、政府のヘルスリサーチ全般にわたる統合的戦略を立案しているとのことで、医療分野においては、シーズからニーズではなく、ニーズからシーズというアプローチが取られようとしているとのことです。
 また、アメリカでは、「国費による健康研究がどれほど医療を向上させ、国民の健康を増進させたか」を研究して、結果を公表しているとの事例が紹介されました。
 残念ながら、日本ではこのような取り組みは行われていません。これらの施策は、わが国においても大いに参考になるものと思われます。

●まとめ
 最後に、今後、超高齢社会を迎え、科学技術の進歩と健康の増進の両方を実現させることが可能かどうかという問題提起がなされました。医薬品においても然りで、たとえば、がんの薬剤の上位の多くは抗体医薬であり、抗体医薬品を投与すると、数百万円も余計にかかるのは事実です。抗体医薬の高薬価問題という議論が世界で巻き起こってきており、ポスト抗体医薬という議論も開始されています。
 締めくくりとして、コストをコントロールできる科学技術のあり方が今後、わが国においても極めて重要な課題であるとの認識が示され、盛会裏にフォーラムは終了しました。


以上が今回のフォーラムの要旨でした。

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