トップニュース 「CMC Strategy Forum Japan 2023」が開催

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2023年12月4日~5日の2日間にわたり、CASSS(California Separation Science Society)主催の「CMC※1Strategy Forum Japan 2023」が東京マリオットホテル(東京都品川区)にて開催されました。今回は2019年以降4年ぶりに対面会合にて開催されましたが、日本だけでなくアジア、北米、欧州等11ヵ国から約100名の参加登録があり、非常に活発に意見が交わされました。

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    CMC:Chemistry, Manufacturing and Control。医薬品製造および品質を支える統合的な概念

CMC Strategy Forum Japan開催の経緯

CMC Strategy Forumは2002年にWCBP(Well Characterized Biotechnology Pharmaceutical)シンポジウムから独立し、米国で第1回が開催された後、2007年から欧州、2012年から日本、2014年からラテンアメリカ、そして2021年から中国でも継続して開催されています。CMC Strategy Forumでは、企業、アカデミア、および規制当局の専門家がバイオ医薬品のCMCについての研究開発、製造、規制等に関する課題に関して、十分に時間をかけて議論を行い、相互理解と課題解決を促進しています。

日本でのCMC Strategy Forumは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と製薬協で準備委員会を組織し、テーマの選定や議論の方向性を決めるだけでなく、2023年は4年ぶりに対面のみの学会運営ということで、約1年をかけて準備を行ってきました。

会の開催に際し、CASSSのFellow、CMCフォーラムグローバル諮問委員会議長を務めるGenentech社のWassim Nashabeh氏とPMDA審査センター長 兼 レギュラトリーサイエンスセンター長の鈴木洋史氏からのWelcome and Introductory Commentsの後、以下のテーマで議論が開始されました。

・Session 1: Recent Trends in the Regulation of Biopharmaceutical Products
・Session 2: Stability of Biopharmaceutical Products: Topics about ICH Guidance Q1/Q5D Revision
・Session 3: Challenges, Opportunities and Regulatory Expectations for CGT Product Comparability
・Session 4: A Strategy for the Quality Control of Antibody-Drug Conjugates (ADCs) Throughout the Entire Life Cycle of the Product

CASSS Fellow CMCフォーラムグローバル諮問委員会 議長 Wassim Nashabeh 氏 CASSS Fellow
CMCフォーラムグローバル諮問委員会 議長
Wassim Nashabeh 氏

独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審査センター長 兼 レギュラトリーサイエンスセンター長 鈴木 洋史 氏 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
審査センター長 兼 レギュラトリーサイエンスセンター長
鈴木 洋史 氏

Session 1:Recent Trends in the Regulation of Biopharmaceutical Products

Session 1では、PMDA再生医療製品等審査部長の丸山良亮氏とGenentech社のCecilia Tami氏の司会のもと、バイオ医薬品を中心とした最新の薬事規制動向、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックからの学び等、幅広い内容が紹介されました。

PMDA再生医療製品等審査部の岸岡康博氏からは、日本におけるバイオ医薬品関連の薬事規制のアップデート、厚生労働省/PMDAの国際活動(医薬品規制調和国際会議(ICH)、ICMRA(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities)等)、製品関連のトピックス(バイオシミラー・マイクロバイオーム・エクソソーム関連)について説明がありました。

米国食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)生物製品評価研究センター(Center for Biologics Evaluation and Research、CBER)のIngrid Markovic氏からは、COVID-19からの学びと医薬品へのアクセス向上のための取り組み(IND Expanded Access、緊急使用承認等)、希少疾患の細胞/遺伝子治療へのCMC Development and Readiness Pilot programによる寄与、申請/審査の効率化・近代化に関する取り組み(ICH M4Q(R2)、PQ/CMC、KASA(Knowledge-aided Assessment & Structured Application)等)について解説がありました。

カナダ保健省(Health Canada)のHugo Hamel氏からは、患者さんの医薬品へのアクセスをサポートとするためのHealth Canadaの取り組みとして、ICMRA、世界保健機関(WHO)等との国際協働活動が紹介されました。また、EMA、ACCESS、FDA、Project ORBISとのパラレル・レビューやWork sharingについても話がありました。

欧州医薬品庁(European Medicines Agency、EMA)のBrian Dooley氏からは、グローバルなハーモナイゼーションおよび協働として、ICH、PIC/S(医薬品査察協定および医薬品査察協同スキーム)、ICMRA、OPEN(Opening procedures at EMA to non-EU authorities)、IPRP(International Pharmaceutical Regulators Programme)等の活動が紹介されました。また、PRIMEでの品質データをサポートするためのガイダンスであるPRIME tool boxガイドラインについて説明がありました。

中国国家医薬品監督管理局医薬品審査センター(Center for Drug Evaluation、CDE)のJiaqi Lu氏は、中国におけるATMP(Advanced Therapy Medical Products)開発に関する規制の枠組み、ATMP申請の最近のトレンド、ATMPの薬事ガイダンスについて案内しました。

さらに、Roche社のMarkus Goese氏は、ICMRA PQKMSおよびパイロットプログラムを説明したうえで、Roche社の同パイロットプログラムの経験について述べました。Roche社は、バイオ医薬品の製造所追加に関する承認後変更について同パイロットプログラムに参加することを提案し許可され、規制当局間の審査の結果、EMA/FDAから同日に承認を得たということでした。また、2023年7月にICMRAステークホルダー・ワークショップが開催され、複数の企業から同パイロットプログラムについての経験が共有されたことも紹介されました。

パネルディスカッションでは、座長や一般参加者からの多くの質問に対しパネリストが意見を述べる形で、COVID-19パンデミックからのCMC領域の学び、バイオ医薬品のCMC領域にかかわる薬事課題等について活発な議論が行われました。

パネルディスカッションの様子(Session 1) パネルディスカッションの様子(Session 1)

Session 1の座長と演者 Session 1の座長と演者

Session 2:Stability of Biopharmaceutical Products: Topics about ICH Guidance Q1/Q5D Revision

抗体医薬品をはじめとしたバイオ医薬品の有効期間は、Q5Cガイドラインに従い、実保存温度条件で得た実データから設定されていますが、迅速な医薬品開発を行う過程で有効期間の設定が律速となるケースが増えています。このような背景を受け、Session 2では、国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部長の石井明子氏とRoche社のMarkus Goese氏の司会のもと、安定性ガイドラインQ1/Q5C改訂の中で議論されている事項のうち、バイオ医薬品のモデリングを活用した有効期間の外挿の検討に関する内容が紹介されました。

PMDAワクチン等審査部の亀田隆氏からは、Q1/Q5Cガイドライン改訂状況の説明がありました。また、バイオ医薬品についてもモデリングによる有効期間の外挿を可能とする方向性で改訂作業が行われていることから、許容される製品、モデリングの手法について、必要となる予備知識等の議論をし、実装の可能性を探る必要性があるとの意見を述べました。

国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部の柴田寛子氏は、迅速審査におけるバイオ医薬品の安定性評価の課題、バイオ医薬品の開発において、分解経路の複雑性を考慮した安定性の予測のためのツールとモデルの活用と課題、今後の展望について解説しました。

Health CanadaのPaula Russell氏からは、規制当局から見たバイオ医薬品のモデリングの課題、2例のケーススタディ、今後の展望について話がありました。

Novartis Pharma社のMitja Zidar氏は、複数の海外製薬企業が参加したScientific reportの内容をもとに、アレニウス予測を使用した抗体医薬品の安定性の予測、凝集体の生成についてモデリングの手法および予測した結果と課題について説明しました。

パネルディスカッションでは、第一三共の田村幸介氏が加わり、座長や聴衆からの質問に答える形で進行しました。バイオ医薬品についてモデリングを活用した安定性の予測について、以下に示すように活発な議論が行われました。

バイオ医薬品の分解経路の複雑性から、どのような製品にモデリングを適用できるのかといった規定は、現時点で明確なものはないが、製品への理解、これまでに得られている知見をもとに、説得力のある説明の裏付けにより適切に評価される必要がある。
新しい概念を導入するには規制当局を巻き込むことが重要となる。モデリングを活用して安定性を評価する道を切り開くためには、規制当局と早い段階から議論を開始し、解析した結果をもとに企業としての考え方を示していくのが重要である。
既存製品で得られた回顧的なデータを解析して安定性の予測を行うことも考えられるが、その解析が妥当であるという説明を当局に説明することができるかが重要となり、相当の知識の蓄積が重要になる。
ATMPに対してもモデリングによる外挿の可否を考慮するポイントはあり、ガイドラインにどのようなアプローチがあるかを示す必要がある。

パネルディスカッションの様子(Session 2) パネルディスカッションの様子(Session 2)

Session 3:Challenges, Opportunities and Regulatory Expectations for CGT Product Comparability

製品ライフサイクルを通じて製造工程や製品品質を改善・変更管理していくうえで、Comparabilityの評価は重要な課題である一方で、再生医療等製品(CGTPs)においては原材料や製品特性に起因する特有の技術的困難が想定されます。Session 3では、国立医薬品食品衛生研究所再生・細胞医療製品部長の安田智氏とGilead Sciences社のVandana Chauhon氏を座長とし、日本および米国におけるCGTPsのComparabilityガイドライン案の解説や製品開発、市販後の変更管理の経験等が紹介されました。その後、パネルディスカッションでは、CGTPsのComparability評価における技術的課題へのアプローチ、および当局との対話の重要性等が議論されました。

国立医薬品食品衛生研究所薬品部長の佐藤陽治氏からは、細胞加工製品の重要品質特性を探索、評価するうえでの技術的課題や、評価法開発および製法変更前後のアプローチが紹介されました。その後、「ヒト細胞加工製品の製造工程の変更に伴う同等性/同質性評価に関する指針(案)」について説明しました。

FDA CBERのIngrid Markovic氏は、CGTPsにおける製法変更とComparabilityについて、2023年7月に発出されたドラフトガイドラインに基づき解説しました。特に、製法変更やComparability試験におけるリスクマネジメント、ライフサイクルを通じたFDAとの相談(事前計画)や合意形成の重要性を示しました。また、Split source comparabilityによる考え方についても紹介しました。

Novartis Pharma社のEdyta Pawelczyk氏からは、CAR-T製品開発の事例をもとに、開発初期の問題点や、実製造を代表するプロセスにおける評価等、Comparability試験における留意点に加え、製造過程の段階に応じた考え方(たとえば自己血等の不均一な原材料を用いてComparability試験を実施する場合のアプローチ(Split apheresis approach)等)について話がありました。当局との正しいコミュニケーションが問題解決の鍵であるとともに、品質が製品の有効性に影響があるかどうかのリスクアセスメントを行うことが重要であるとのことでした。

ジャパン・ティッシュエンジニアリングの森由紀夫氏からは、自家培養表皮や自家培養軟骨を例に、原材料の自家細胞の特性による製品品質への影響が比較的大きい製品タイプにおける製法変更や、Comparability試験の考え方が示されました。なお、市販後にも患者さんに最適な製品を届けるための継続的なアプローチについても述べ、細胞採取時の条件の重要性について説明しました。

パネルディスカッションでは、PMDA再生医療製品等審査部の國枝章義氏とブリストル マイヤーズ スクイブの宮武佑樹氏が加わり、聴衆から寄せられた多くの質問を端緒にして、製品への十分な理解の必要性(作用機序、特性解析因子への理解、開発初期から信頼性のある分析法で十分に特性解析をしておくこと等)、Scale-out等の製造能力増強における製品品質への影響リスクアセスメントの考え方、また、将来の変更可能性について早い段階で当局と相談を開始し対話することの重要性等、活発な議論が展開されました。

パネルディスカッションの様子(Session 3) パネルディスカッションの様子(Session 3)

Session 4:A Strategy for the Quality Control of Antibody-Drug Conjugates(ADCs)Throughout the Entire Life Cycle of the Product

抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate、ADC)は、特異的なリンカーを介して抗体と薬物を結合させた複雑な分子であり、既存の医薬品とは異なる独特な作用機序を提供する有望な治療法として期待されています。一方、ADCはその複雑性から他の抗体製品とは異なる品質管理のアプローチが必要であり、製品品質が有効性、薬理学、毒性等に直接影響を与える要素があります。また、バイオ医薬品や低分子の両方の視点での品質管理戦略が必要となるため、規制要件も複雑です。Session 4では、第一三共の木所資典氏とMSDのHelen Louise Newton氏を座長とし、ADCの品質管理に焦点を当て、前臨床から臨床開発、商業製造までのADC製品のライフサイクル全体での品質管理戦略、ADCに特異的な品質評価項目における課題、CTD(Common Technical Document)作成時の留意点や各国の規制動向等が議論されました。

PMDA再生医療製品等審査部の中野歩希氏からは、日本におけるADCの承認事例、ADCの承認申請時に参照するガイドライン、ADCの不均一性で注目する品質評価項目、PMDA側の審査体制、CTD作成時の留意点について説明がありました。国立医薬品食品衛生研究所の青山道彦氏からは、ADCの凝集体に起因するoff-target cytotoxicityの想定メカニズムについて、具体的には撹拌により形成された凝集体はFcγ受容体を介した非標的細胞への内在化において重要な役割を果たし、細胞障害性のリスクを増加させる可能性があることが報告されました。

第一三共の塩入優紀氏は、ADC開発における品質管理戦略について解説しました。ADCは抗体、DL(Drug Linker)、原薬、製剤の品質特性をそれぞれ考慮する必要があり、ADC固有の品質特性評価項目として、DAR(Drug-to-Antibody Ratio)の分布とばらつき、DLの純度と安定性、抗体の抗原結合性、Potency、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)等への考慮、シグナル阻害等、意図せぬ作用機序の調査等を例示しました。また、製造プロセス変更時は品質への影響リスクに応じて同等性評価項目を設定することの重要性を指摘しました。

Gilead Sciences社のVandana Chauhan氏からは、ADCに関する各国の規制動向、製法変更におけるPACMP制度の活用について説明されました。ADCは高分子と低分子の組み合わせであり、開発と審査の両方において両チームの協力が必要であること、ADCはバイオロジクスとして規定されており、特化したガイドラインはまだ存在しないことを指摘しました。また、変更管理も課題であり、ADC製品において抗体製造に変更を加える場合、変更の程度によっては原薬や製剤の安定性評価も必要となり時間を要するが、承認後変更管理実施計画書(Post-Approval Change Management Protocol、PACMP)を用いた制度を活用することにより、時間を短縮できることを提案しました。

パネルディスカッションでは、聴衆から寄せられた多くの質問をきっかけに、製剤に含まれる凝集体の安全性に関する考え方や、青山氏より紹介されたデータの解釈、ADCの処方設計、CTDの構成、PACMP制度の積極的な活用等、活発な意見が交わされました。

Session 4の座長と演者ほか Session 4の座長と演者ほか

最後に

今回のフォーラムは4年ぶりに対面にて開催され、各セッションのパネルディスカッションでは非常に活発な議論が交わされていました。また、フォーラム中に設定されていたNetworking ReceptionやNetworking Breakでは、国内外の産学官からの参加者がコミュニケーションを取ることができる非常に良い機会となり、本フォーラムならではの良さを十分感じとることができました。

4つのセッション終了後、CASSS Board of DirectorsのVice PresidentであるJamie Moore氏から、本フォーラムの総括が実施され、閉会となりました。

このグローバル会議が、今後も日本で継続的に開催され、バイオ医薬品の研究開発の促進とCMC領域の活性化の一助になるよう、製薬協として支援を続けていきたいと考えています。今後ともみなさんのご支援をよろしくお願いいたします。

次回の「CMC Strategy Forum Japan 2024」は、2024年12月9日~10日の開催を予定しています。

(バイオ医薬品委員会 久保寺 美典野々山 輝柴田 瑞世中村 奈央池田 晶子杉原 努

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