トピックス 「第5回 日韓医療製品規制に関するシンポジウム」を開催

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2023年9月4日、ソウル(韓国)で「第5回 日韓医療製品規制に関するシンポジウム」を開催しました。本シンポジウムは2004年に始まり、日本と韓国の製薬産業を取り巻く環境の相互理解を目的として民間主催で開催してきたもので、2016年より官民共同主催として開催されてきました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響等により、2020年以降中断していましたが、このたび2019年以来4年ぶりに、業界主催で開催することとなりました。日本および韓国の当局、産業界から多くの方が参加し、139名が現地で参加しました。

シンポジウム講演者による集合写真シンポジウム講演者による集合写真

日本側は、製薬協が主催し、厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の協賛として開催されました。厚生労働省医薬局総務課国際薬事規制室長の古賀大輔氏、PMDA理事の新井洋由氏等、関係各所から多くの方が参加しました。製薬協からは中川祥子常務理事(写真中央)、国際委員会アジア部会韓国チームの小山辰也チームリーダー、水原寿紀サブチームリーダー、金泰鎬サブチームリーダーが参加して意見を述べました。

韓国側の主催は、韓国製薬協会(KPBMA)で、韓国食品医薬品安全処(Ministry of Food and Drug Safety、MFDS)が協賛しました。

第5回となる本シンポジウムでは、Keynote Speechとして両当局から規制に関する情報のアップデートが行われ、その後、Regulatory review reliance、リアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス(RWE)、原薬(API)の供給に関する韓国および日本双方の取り組みの共有、さらに医療保険に関する議論がありました。

小山 辰也 リーダー 製薬協 国際委員会 アジア部会 韓国チーム
小山 辰也 チームリーダー

水原 寿紀 サブチームリーダー 同 水原 寿紀 サブチームリーダー

金 泰鎬 サブチームリーダー 同 金 泰鎬 サブチームリーダー

1. Keynote Speech

医薬品に係る規制のアップデートとして、韓国および日本双方から最新状況の発表がありました。

MFDSからは、COVID-19に対して特例での使用承認や迅速審査体制の構築、治療薬の生産命令等のさまざまな対策を講じてきたこと、またe-labelingの導入に力を入れており、パイロットで実施した対象品目10社27品目について紹介がありました。さらに、今後は専門医薬品のうち医療機関で直接投与する注射薬から、段階的なe-labelingの拡大を推進していきたい旨の話がありました。

また、COVID-19によって対面診療が減ったことで、これまで通りの臨床試験体系を維持することが難しくなったことや、デジタル技術に対する需要が高まったため、韓国国内の技術力を使い、デジタル技術を活用した分散化臨床試験(DCT)を推進している旨の話がありました。

COVID-19の蔓延時に、特定の医薬品の不足、輸入依存度の高い品目では予想外の外的要因により国内の流通が混乱したことから、不足のたびに分散処方の誘導、薬価の適正化、均等配分等の措置を検討していること、今後は国家必須医薬品の指定とその確保に向けた生産体制の構築を進めていく旨の話がありました。

PMDAからは、昨今の医薬品開発を踏まえた海外ベンチャーの日本開発に向けたPMDAの対応について紹介がありました。米国で特に顕著になっていますが、製薬企業が自前のシーズを探すのではなく、ベンチャーから探すケースが多くなり新薬の生み出し方が変わってきていること、この変化に対してPMDAとしてどのように支援をしていくかが紹介されました。PMDAは、新薬創出までのより良い環境整備を責務と捉えており、具体的には早期からの開発相談窓口を設けて開発の道筋を作ることや、優先審査制度のメリットを広く知らしめていくことを検討しているとのことでした。アジアは今後も人口が増えていく地域であり、アジアへの医薬品進出はより活発になると想定されます。医薬品開発を円滑に行うため、医薬品に対する評価体系をアジア地域全体でどう議論していくかが課題であり、その解決のため、当該国間でのネットワーク形成や、当局主催のセミナー等を引き続き実施していく方針と紹介されました。また、PMDAはアジアと米国に海外拠点を設置し、情報収集と開発支援を行う旨の紹介がありました。

2. Regulatory review reliance

MFDSとして、製薬産業を輸出産業とするために、医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム(PIC/s)加盟、GMPの国際調和等を図ってきた経緯があり、その経緯を踏まえスイスとのGMP相互信頼協定やシンガポールとのGMP相互承認協定といった二国間協約を推進しているとのことでした。二国間協約については、今後も、米国、欧州、日本等、さらに国を広げていきたい旨の話がありました。

また、東南アジア諸国連合(ASEAN)でのGMP支援については、互いの理解を深めるためにGMPカンファレンス、GMP調査官教育といった活動を実施しているとのことでした。

PMDAからは、近年はアカデミア発のシーズが増加しており、PMDAとしてもRegulatory Science Consultationを通じて、ロードマップに対するアドバイス、臨床試験に対する相談対応、再生医療等製品に対する相談対応等を行い、医薬品・医療機器へのアクセスの向上を支援している旨の話がありました。

COVID-19の世界的な流行を経て医薬品を取り巻く環境は大きく変化してきており、また、国際共同治験(MRCT)が引き続き増加傾向になることが見込まれ、Relianceの活用も重要となってくること、国際調和を進めることで規制上の重複を避ける等しながら開発を支援すること、アジアの規制当局の能力強化のためAsia Training Centerを通じた活動をPMDAとして行っていること、アジアでの連携が重要であること、Asian Studyも増加させていきたいこと等の話がありました。

3. RWD/RWE

本セッションでは、RWD/RWEに関する取り組みに関して現状の紹介がありました。

韓国からは、MFDSからの委託を受けて、韓国における医療ビッグデータを用いた有効性評価活用事例を海外事例と比較調査した結果の紹介がありました。RWD活用事例として、キムリアについて研究設計から評価指標、統計分析方法、研究対象者選定、臨床的特性の比較分析に活用する事例を紹介し、その適切性を評価するために生存分析実施結果と欧州医薬品庁(EMA)意思決定との規制的一致度と推定値一致度も示されました。今後の普及課題として、活用可能なレジストリ確保、欠測値の最小化、レジストリのQC等が重要となる旨の話がありました。

厚生労働省からは、臨床試験はランダム化比較試験がゴールデンスタンダードであるものの、対象患者が限られる難病・希少疾患は比較試験の実施が困難なため、日本でもRWDが活用されつつあり、厚生労働省がレジストリの活用についての相談体制を構築することにより活用を推進している旨の話がありました。レジストリを承認申請に活用するためのガイドラインにおいては、レジストリの活用例を5つの類型に分類し、基本的な考えや留意点を整理、またレジストリの信頼性を高めるための留意点を「申請者が確認すべきレジストリ保有者の状況」と「申請者等が対応する事項」に分けており、利用目的によって求められる信頼性の水準が異なるため、PMDAに相談することを推奨している旨の話がありました。

4. Sustainable Supply Chain to Avoid API shortage

本セッションでは、APIの安定供給に関する現状の紹介がありました。

韓国側から、原料医薬品の対日本輸出は増加してきたが、2019~2022年(コロナ禍)に問題が生じ状況が変化していること、国別JDMF(Japanese Drug Master File)の登録(品目や会社)は、韓国、日本が低下する一方、中国、インドが増加していることが共有されました。日本の後発医薬品を取り巻く課題は、品質管理不備、供給不安、低い採算性についても触れられ、韓国API輸出ビジネスの方策として日本への参入を促進したい旨が感じられる発表でした。

日本からは、一般社団法人日本薬業貿易協会の活動状況および日本のジェネリックの状況について紹介がありました。輸入原薬等の品質試験検査、輸入原薬安定供給推進のため、日本の薬事制度を周知、国内外関係団体との連携を行っていること、日本のジェネリック医薬品原薬の6割程度は輸入であり、サプライチェーンとしては中国、インドへの依存度が高いが、品質とコンプライアンスに関する信頼感、コミュニケーションが取りやすい点等、韓国が日本にとって最も重要な原薬供給国の一つである旨の話がありました。

5. Health Insurance for Sustainable Universal Health Coverage

本セッションでは、両当局から薬価制度の紹介があり、その後産業界を含めてパネルディスカッションを実施しました。

韓国保健福祉部(MoHW)からは、少子高齢化による健康保険財政問題がある中、研究開発に力を入れている会社に、薬価で適切な保障ができるようにバランスが取れた政策を作るのが目標である旨や、韓国の国民皆保険制度は、日本と類似しているが、国民健康保険公団(NHIS)によるsingle payerシステムであることが特徴であること等の共有がありました。

そのほか、韓国の総診療費は約98兆ウォンで、中でも、薬品費が22.9兆ウォンで、その割合は2022年24.1%から23.3%に下がっている等の現状について報告がありました。医療技術評価(HTA)に関しては、増分費用効果比(ICER)値は流動的に使用し、固定数値を採択していないこと、日本にはないRSA(risksharing agreements)は、基本抗がん剤、稀少疾患治療剤を主な対象にしており、その他の医薬品については関連委員会で選別している旨の話がありました。薬価制度の改善案としては、革新性の認定範囲を広げながら、高い薬価を算定すること、必須医薬品についても適正な価格で保障することを検討中で、近いうちに関連した薬価制度改善案を発表する予定について話がありました。

厚生労働省からは、医薬品の供給不安定が問題となり薬価政策だけでなくさまざまな対策を検討中であること、韓国と同じく少子高齢化による保険財政の問題があるが、医薬品産業は日本の経済成長において重要な位置づけの産業であり、安全保障の意味でも重要な産業であり、革新的な医薬品に対する適正な保障を常に考えている旨の話がありました。

また、透明性と予見性をより明確にし、官民協力して、医薬品市場の魅力を上げていくことで投資を呼び込み、患者さんへの医療アクセス向上につながる仕組みにしていくことが必要であると考える旨の話がありました。

パネルディスカッション

冒頭に、韓国および日本の業界から、医療保険制度に対するコメントがありました。

韓国の業界からは、「革新性製薬企業認定制度」等を作って研究開発投資率が高い企業にいくつか優遇を提供していること、その流れで上位数社の研究開発投資率は年々上がっているが、まだグローバル企業に比べると小さいこと、いまだに研究開発に乏しい会社もたくさんあること、会社別に研究開発投資率を反映した薬価優遇等を検討してほしい等のコメントがありました。

日本の業界からは、日本医薬品市場の魅力度が下がって日本に上市しない製品が年々増え、米国に比べ半分くらいしか発売されていないという報告があり(いわばドラッグ・ラグ/ロス問題)、保険財政の維持も重要だが、必要な医薬品が患者さんに届いていない問題についても真剣に向き合うべきであるとのコメントがありました。

パネルディスカッションの中で、ドラッグ・ラグ/ロス問題においては、厚生労働省から、革新性の高い医薬品を評価しつつ、保険財政のバランス、メリハリをとる政策樹立が必要な旨、またMoHWから、今まで革新的な新薬がなかったため、日本と同じ加算は難しい点があるが、優先順位を考えながら革新的な新薬が保障されるような政策作りの努力をしているという話がありました。業界側からも、韓国製薬会社はまだbest-in-class新薬に集中している企業が多いが、企業のサンクコストが補償される制度があればジェネリック中心の事業体から新薬開発に移る企業も多くなる旨、日本の業界からは、医療の無駄が発生しないように管理する努力も重要であり、One patient One record管理ができるようなシステム開発も必要だというコメントがありました。

パネルディスカッションの様子パネルディスカッションの様子

6. 総括

2019年以来の再開となった本シンポジウムが対面で開催されたことで、幅広い演題に対して、日本および韓国双方から最新情報が共有されるとともに、活発な議論、意見交換がされ、非常に有意義なシンポジウムとなりました。われわれ製薬会社の使命は、有効性/安全性等、質の高いエビデンス、品質の高い革新的な医薬品を患者さんにいち早く届けることにあります。日本および韓国で問題となっているドラッグ・ラグ/ロス問題を改善するため、デジタル、イノベーション、規制調和等さまざまな分野で日本・韓国の薬事当局・産業界が継続的にコミュニケーションをとり、相互理解と信頼を深めていくことが不可欠だと感じました。今回の日韓シンポジウムの再開を機に、日本および韓国の医薬品、医療機器に関する規制調和・協力、相互の規制制度の理解が官民で進展されていくことを願ってやみません。

(国際委員会アジア部会 韓国チーム 小山 辰也金 泰鎬水原 寿紀

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