トップニュース 「2023 APEC Good Registration Management(GRM),
Center of Excellence(CoE)Workshop」開催される
COVID-19パンデミック後、初の現地開催

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アジア太平洋経済協力規制調和運営委員会(APEC RHSC)は、APECの経済協力枠組みの一つとして、域内の医薬品・医療機器規制調和の推進を目的として設置された組織です。日本と米国の共同議長のもと、医療や医薬品のアクセスに関する規制調和が図られています。その活動の中にはGRM(Good Registration Management)の普及活動があり、製薬協ではAsia Partnership Conference of Pharmaceutical Associations, Regulations and Approvals Expert Working Group(APAC RA-EWG)の活動を通して2016年よりメンバー会社からエキスパートを選出し、研修資材の開発や講師の派遣等、GRMのトレーナーを養成するGRM CoE Workshopの開催に協力してきました。GRMのWorkshopは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以降もウェブ形式で継続されてきましたが、2023年は久々に台北(台湾)で現地開催されることとなり、9月6日~8日の3日間にわたって活発な議論が行われました。

講師全員の集合写真 講師全員の集合写真

はじめに

GRMの活動は年間計画に基づいて継続的に実施されており、これまでも製薬協ニューズレターNo. 177、183、187、188、194でその内容が紹介されています。2023年の台北におけるWorkshopは参加者(8エコノミー、83名)が台北Beitou Resortに集結し、9月6日~8日の3日間で開催されました。今回、APAC RA-EWGの一連の活動に講師役として参加し、感じたことを含めて報告します。

会場周辺の風景 会場周辺の風景

1日目

台湾衛生福利部食品薬物管理署(TFDA)長官であるShou-Mei Wu氏、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のアジア医薬品・医療機器トレーニングセンター(Asia Training Center for Pharmaceuticals and Medical Devices Regulatory Affair、ATC)事業室長の遠藤あゆみ氏、およびRA-EWGのリーダーであるエーザイの畠山伸二氏から参加者への期待や激励の言葉が送られ、本GRM Workshopの幕が切って落とされました。

TFDA長官のShou-Mei Wu氏

RA-EWGリーダーの畠山伸二氏

PMDA ATC事業室長の遠藤あゆみ氏

Keynote Speechとして「Good Review Practice and Regulatory Convergence in Accepting Global Clinical Data for Regulatory Approval」についてTFDAのHerng-Der Chern氏より台湾における審査体制や工夫、米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)等の海外当局との連携等の説明がありました。その後、EMAのAaron Sosa Mejia氏より「Assessment of Global Clinical Data for Drug Approval in Europe」のタイトルで、EUの中央審査に関する解説に加えて、2022年より導入されたAccelerating Clinical Trials in the EU(ACT EU)や、1つの統一資料を格納するポータルサイトであるThe Clinical Trials Information System(CTIS)等の最近の取り組みについても紹介されました。さらに、「Managing and Conduction the Review」を主眼においたテーマについて、TFDAのYueh-Tung Tsai氏、PMDAの大原香苗氏、マレーシア国家医薬品規制庁(NPRA)のCheong Ooi Jin氏およびインドネシアFDAのVringga Sandia Surya氏より各国の審査システムや審査方法に加えてGRMトレーニングへの期待を含めて紹介され、非常に興味深い内容でした。

また、University of Southern California(USC)のLawrence Liberti氏より、世界保健機関(WHO)のGlobal Competency Framework for regulators of medical productsのドラフトバージョンや、The RAPS Regulatory Competency Framework、さらにその中で示されているAssessment Toolの活用について紹介されるとともに、Competency Frameworkの重要性についても説明がありました。

そのほか1日目のトピックとしては、GRMの基本であるConcept of GRM、またGRMを広く普及できるようにするためのGRM Trainer’s Manualが議題として含まれました。GRM Trainer’s Manualの紹介は、製薬協の規制許認可チームが対応し、MSDの川口浩子氏が受講者に対して説明を行いました。

USCのLawrence Liberti氏 USCのLawrence Liberti氏

2日目

1日目のレクチャーセッションとは異なり、2日目はレクチャーの後にグループ討論が行われるインタラクティブな3つのセッションで構成されました。なお、本Workshopでは、異なる立場である企業(申請者側)と当局(審査側)が同じグループで意見を交換することができる貴重な機会を提供しています。

1つ目のセッションは、企業側として重要なPlanning of Applicationについてであり、台湾Eli LillyのRosa Fu氏がモデレーターを務めました。新薬やジェネリックの申請戦略について8つのグループに分かれて議論した後、各チームで話し合った申請計画をプレゼンテーションで紹介しました。

2つ目のセッションでは、引き続き企業側のテーマであるPreparation of Application Dossierを採り上げ、APAC RA-EWGの活動をリードする製薬協規制許認可チームが担当しました。前半のレクチャーセッションはアステラス製薬の野口由紀子氏がモデレーターを務め、セッション開始時に参加者の緊張を解くためQuick Memory Testというゲームを行いました。最初はスライドに示された数個のアイテムを各自が暗記し、最後の問題は数十個のアイテムをチームワークで記憶するもので、このゲームにより各グループ内のコミュニケーションが推進され、非常にリラックスした雰囲気となってレクチャーセッションに引き継がれました。

アステラス製薬の野口由紀子氏 アステラス製薬の野口由紀子氏

レクチャーでは、田辺三菱製薬の匹田久美子氏による高品質な申請書類を効率的に準備するための標準的な手順の紹介に続き、大塚製薬の簡野正明氏より申請書類準備に欠かせないいろいろなお役立ちツールについて説明が行われました。

田辺三菱製薬の匹田久美子氏 田辺三菱製薬の匹田久美子氏

大塚製薬の簡野正明氏 大塚製薬の簡野正明氏

本セッションのグループディスカッションは、昼食を挟んで午後に継続されました。RA-EWGリーダーの畠山氏がモデレーターを務め、申請書類準備の観点からDigitization、Digitalization、Digital Transformation(Digitxxx)の活用について、将来的な期待も含めた討論を行いました。最新のデジタルツールであるAIが申請書類の品質確認を担うことができるようになってほしい等、申請者側の夢を含めたさまざまな意見が出されました。

グループディスカッションの様子 グループディスカッションの様子

3つ目はCommunicationsのセッションで、当局側としてTFDAの顧問のMin Chen氏(元米国FDA審査官)がモデレーターおよび演者を務め、企業側としてAPAC RA-EWGからMSDのWimolsiri Punjatanasak氏より、申請者側として感じる当局とのコミュニケーションのハードルを含めた説明が行われました。セッションが進むにつれて、グループメンバー間の関係性が当局や企業の垣根を越えてさらに親密になり、議論がより深まっていきました。

3日目

午前中は、当局側で極めて重要なCritical Thinking and Regulatory Decision-Makingについての議論が企画されました。まず、審査における当局の意思決定の重要性の説明とともに、判断時の傾向、難しさ、解決策等を踏まえてレクチャーが行われました。続くグループディスカッションでは、医薬品に関する仮想臨床データを用いて議論が行われました。議論課題の一つは、「白人とアジア人データ間のPK/PDについて臨床的に意味のあるものかどうか?」と、その理由を問うており、とても実践的で、グループディスカッションを見守るわれわれも考えてしまうような興味深い内容でした。どう判断するかは人により分かれるようなケースになっており、Decision-Makingの難しさ、ひいては当局審査官が直面した悩みを体験することができる内容でした。本Workshopを通して最後のグループディスカッションでしたが、チーム内でも意見が分かれるような白熱した議論が繰り広げられていました。

■ セッションの様子

■ ランチ

午後は、最後のKeynote Speechとして「Decentralized Clinical Trials」をテーマとした米国FDAの取り組みが紹介されました。その後、Closingセッションに移り、本Workshop受講を完了した受講者の方々にTFDA長官のShou-Mei Wu氏から修了証明書が直接授与されるとともに記念撮影が行われ、本Workshopは盛会のうちに締めくくられました。

TFDA長官のShou-Mei Wu氏と受講者らとの記念撮影の様子 TFDA長官のShou-Mei Wu氏と受講者らとの記念撮影の様子

おわりに

APEC GRM WorkshopはTrain the Trainerモデルを採り入れています。COVID-19パンデミック以前は徐々にその効果が得られはじめ、台湾でのWorkshop受講者が自国に戻り、トレーナーとしてLocalでのGRM Workshopを開催する報告がいくつかの国から聞こえてきていました。しかしながら、COVID-19パンデミックに伴い、台湾におけるGRM Workshop以外の開催は進んでいないように思われます。今回の台湾現地でのGRM Workshop開催が刺激となり、再度GRM Workshopが各国で開催されるようになることを期待しております。

APAC RA-EWGメンバー APAC RA-EWGメンバー

(規制許認可チーム、APAC RA-EWG 川口 浩子

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