トピックス 「2023年度 医薬品評価委員会総会」を開催 Breakthrough toドラッグ・ロス ~安全・安心・ウェルビーイングな医療・社会の実現を目指して~

印刷用PDF

2023年11月25日に、室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区)で「第143回 医薬品評価委員会総会」を開催しました。開催はハイブリット形式とし、製薬協幹部や医薬品評価委員会メンバー等は会場から、その他オンラインでの参加を含め1000名を超える参加者となりました。

パネルディスカッションの様子 パネルディスカッションの様子

総会は製薬協の手代木功副会長による、「ドラッグ・ラグ/ロス解決に向けて、既成概念を取り払い産学官が一丸となって進めていかなければならない」というメッセージを含めたOpening Remarkから始まりました。2部構成とし、第1部では、行政、医薬産業政策研究所、医薬品開発業務受託機関(CRO)、医療機関、患者さんというさまざまな立場から見たドラッグ・ラグ/ロスの現状や課題、取り組みについて紹介しました。第2部のパネルディスカッションでは、新たなドラッグ・ロスを今後産まないためにわれわれができることが議論され、4時間にわたった総会が終了しました。

第1部

行政から見たドラッグ・ラグ/ロスの課題と取り組み

厚生労働省 医薬局 医薬品審査管理課長 中井 清人 氏                         

まず、ドラッグ・ラグ/ロスへの対応として、創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会(薬事規制のあり方検討会)で議論されているオーファンドラッグ指定や小児適用の開発、国際共同治験に参加するための日本人P1試験、医薬品の製造方法等の審査のあり方といった日本を魅力ある環境にするための取り組み状況を共有しました。また、リアルワールドデータ(RWD)の活用、市販後を見据えた医薬品開発の重要性にも触れ、産学官と患者団体も含めて議論していく必要性があるとともに、関係者がそれぞれファーストペンギンになり、新しいことに恐れず、ともにチャレンジしていくことを強調しました。

ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの現状

政策研 飯田 真一郎 統括研究員                                   

ドラッグ・ラグ/ロスといわれている現状の分析結果について紹介があり、ドラッグ・ラグに関しては、この10年ではラグ期間は短縮していると説明しました。ドラッグ・ロスでは、欧米で承認されている新規有効成分の薬剤が本邦では承認されていない“未承認薬”が、2010年代後半に増加し、その半数以上は国内で開発情報がない状況であり、未承認薬の増加は、海外新興企業品目が増加していること、国際共同治験に日本未組入れが要因と考えられるとのデータを示しました。また、ドラッグ・ロス品は、希少疾患・小児適用の薬剤が多く、必要とされ得る、画期性の高い薬剤が多いことを示唆しました。

CRO業界としてのドラッグ・ラグ/ロスの問題と取り組み

一般社団法人 日本CRO協会 副会長 藤枝 徹 氏                            

日本のドラッグ・ラグ/ロスがCROや治験施設支援機関(SMO)に及ぼす影響として、国内の新薬開発業務の絶対量の低下が考えられ、解決に向けて医薬品市場としての日本の魅力向上と治験実施の場としての日本の魅力向上が必要と話しました。日本CRO協会では、日本の治験の魅力アップに向けて3つの分科会を立ち上げて検討を進めており、1つ目の分科会は「日本の治験のアピール」で、どのような情報をどのような形でアピールすべきかの検討となります。2つ目は「治験コストの透明化推進」で、治験コスト全般に関しての議論と低減可能性の検討、3つ目は「治験の効率化(プロセスの見直し)」で、スピード、コスト等、治験の効率性を阻害しているものはなにかを探り、その改善に向けて取り組んでいると報告しました。加えて、Decentralized Clinical Trial(DCT)の推進とRWDの活用について検討を行っていることを共有しました。

臨床医の立場から見たドラッグラグ・ロスの課題と取り組み

国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 副院長 先端医療科 山本 昇 氏             

ドラッグ・ロスの現状から医療現場でのドラッグ・ロスの認知・議論について触れ、Emerging Biopharma(EBP)へのアプローチ作戦等、実際にドラッグ・ロス解消に向けて取り組んできた活動について紹介しました。活動の結果、最近では海外EBP等による日本国内での開発が予想以上に進み始めている印象があると話しました。それがさらに進むと新たな課題として日本の治験実施環境の課題、すなわち、症例登録に貢献できない、リソース不足といったことが顕在化してくると予想され、さらなるドラッグ・ロス解消に向けて、医師の認識向上や治験実施体制の整備、ドラッグ・ロスの正確な理解等の課題に対応していくとともに、メディア等の意見に振り回されることなく、正確な状況把握と、柔軟な対応を進めていく必要があると訴えました。

患者の立場から見たドラッグ・ラグ/ロスの課題と業界への要望

特定非営利活動法人 パンキャンジャパン 理事長/
一般社団法人 日本希少がん患者会ネットワーク 理事長 眞島 喜幸 氏                  

ドラッグ・ラグ/ロスに対し、膵臓がんでの患者としての取り組みについて具体的事例を交えて紹介しましたが、現在においても、希少がん、特に小児がんの医薬品開発が進んでいないことが大きな課題となっていると訴えました。ドラッグ・ラグ/ロス解消に向けて、関係者(産・官・学・患)が1つになって声を上げることが重要であり、オーファンドラッグ制度の改革や治験の実施・推進体制の整備、公的資金の優先的活用等の支援の抜本的な日本の制度改革も必要となります。ドラッグ・ラグ/ロス解決のために、一緒に考えていきたいとのメッセージがありました。

第2部

製薬協の森和彦専務理事と医薬品評価委員会の柳澤学委員長を座長として、第1部で発表した演者に加え、厚生労働省医薬局医薬品審査管理課課長補佐の松倉裕二氏(中井氏と交代)と医薬品評価委員会データサイエンス部会の山本英晴部会長をパネリストとして招き、「新たなドラッグ・ロスを今後産まないためにわれわれが取り組むこと」を論点として議論しました。

冒頭、柳澤委員長より、ドラッグ・ラグ/ロスの現状と医薬品評価委員会の取り組み状況について共有し、パネルディスカッションのポイント整理をして議論を開始しました。  議論の中では、最初に「いざ医薬品開発を国内で実施しようとしたときに対応ができるのか?」という問題提起がなされました。

医療機関では、対象疾患が重複している、リソース不足といった理由からすべての企業治験を受け入れられていないという現状がすでにあります。リソース不足という点はCROの立場でも同様であり、治験を行ううえでのオペレーションの課題を解決する必要がある点が提議されました。治験を患者さんの立場から考えると、がんセンターのような中核的な医療機関にかかっていれば治験を紹介されやすいですが、ほかの医療機関が同様かというと疑問があり、治験情報の不均衡という問題があります。患者さんが治験の情報を知り得る手段の一つである治験の情報サイトは、米国ではClinicalTrials. govというサイトがあり、国内ではJapan Registry of Clinical Trials(jRCT)が同様の位置づけとなりますが、jRCTは使いにくいという課題もあり、企業の治験に関する情報がもっとオープンに、患者さんが利活用しやすくなるような取り組みが必要となる点が議論されました。

希少疾患等では、限られたデータを有効に活用して承認を取得するという考え方もありますが、国際共同治験に参加することが優先であり、RWDの活用は治験が実施できない場合等に検討したほうが良く、まだ確立された方法ではないため、パイロット的なことを協働で実施していくことも大切となるとの意見が出されました。

DCTに関して、治験を実施するうえで有効に活用することによりスピード感等も変化するのではないかとの提案もなされました。DCTを進めるには、治験のオペレーションや思考をドラスティックに変えていかなければなりませんが、そのためには時間と費用も必要となるとともに、東京近郊と遠方での不公平感等に対する制度的な対応も必要となります。また、医療機関がDCTの活用を持ちかけても、企業側が断るケースも見られるため、DCTのメリット部分を活かすように諦めずにチャレンジしていくことが重要との意見が出されました。DCTは、適切に導入すれば、効率化、機会の公平性をもたらすことが期待できる手法の一つでありますが、活用したいときにできない状況にならないよう協力しながら取り組んでいく、グレーゾーンがあればガイドライン等で解決に結び付けていくことの重要性について共有されました。

情報発信という点に対し、ドラッグ・ラグ/ロスに関して産官は広く認識しているように感じますが、医療機関ではあまり認識されていない可能性があり、医療機関側にもドラッグ・ラグ/ロスの現状を理解してもらえるよう発信をしていくことも大切である点が提案されました。また、海外のEBPに対して、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は米国・ワシントンに事務所を開設して日本を知ってもらえるような取り組みを始めますが、その施策に対しては、企業側には日本法人から海外法人に対して社内で情報発信をしている経験を有している企業もあるため、発信するポイント等、協力できる内容は多いであろうことが確認されました。

最後に、治験の内容や日本の医薬品開発環境等に関する情報発信の重要性、DCT推進の必要性、jRCTの操作性向上を含めたユーザー・フレンドリーな情報提供の協力体制について参加者で共通認識とされ、今後の医薬品評価委員会の活動に活かしていくことを確認してパネルディスカッションは結ばれました。

(医薬品評価委員会 副委員長 近藤 充弘

このページをシェア

TOP