トピックス 「次世代副作用症例評価業務ワークショップ」を開催

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2023年10月19日、製薬協医薬品評価委員会ファーマコビジランス部会(PV部会)の主催により、「次世代における副作用症例評価業務の未来像 —PVの北極星を考える—」というテーマでワークショップを日本橋ライフサイエンスビルディング(東京都中央区)にて開催しました。このイベントは、PV部会で通常の安全性監視活動ならびにE2B(R3)に関する課題について検討している継続課題対応チーム2(KT2)所属メンバーによって企画・運営され、当日は安全管理情報のデータベースにおけるRobotic Process Automation(RPA)やAI技術の導入事例を軸に、次世代の症例評価業務の未来像と必要なスキルセットについての深い洞察と熱心な議論が交わされました。各企業から70名以上の症例評価担当の精鋭たちが集結し、それぞれの専門知識と経験を共有することで、症例評価の未来についての情報交換を行い、貴重な機会となりました。

会場風景 会場風景

はじめに

オープニングセッションでは、製薬協PV部会KT2の守田真リーダーが、今回のワークショップの目的と業界への影響の大きさについて熱意を込めて説明しました。守田リーダーは、副作用症例評価業務の進化とそれに伴う業界の変革の重要性を強調し、参加者のみなさんに新しい時代への適応と革新を求めました。また、クロージングセッションでは、製薬協PV部会の西谷敏彦副部会長が、イベントの成功を称え、未来への展望と期待を表明しました。西谷副部会長は、参加者たちの積極的な議論に感謝の意を表し、今後の業界の発展と技術革新の進行に向けた継続的な協力と取り組みを呼びかけました。

講演の詳細

■講演1

弊社システム自動化に向けた経験のご紹介

ブリストル・マイヤーズ スクイブ 原田 祐美 氏                                                     

ブリストル・マイヤーズ スクイブの原田祐美氏による講演では、データベースに関するRPAやAIの導入事例が採り上げられました。原田氏は、症例評価プロセスにおけるAIやRPAの具体的な利用例と、これらの技術導入に伴う課題について詳細に説明しました。特に、業務効率化の必要性に重点を置きつつ、完全な自動化やAIの包括的活用にはいくつかの障壁が存在すると指摘しました。自動化プロセスの初期段階として、まずはシステムインフラの安定性を含む強化が重要であると述べ、現行技術を活用することの重要性を強調しました。また、業務の標準化を進めることと規制の順守を両立させるアプローチについても言及しました。限られたリソースの中で効率化を達成するためには、実現可能な技術を先に採り入れることが鍵であるとの考えを示しました。これにより、AIやRPAを段階的に導入し、徐々にプロセスを改善していくアプローチが提案されました。

講演は、AIやRPA技術の導入が症例評価業務に与える影響についての深い理解を提供し、業界におけるこれらの技術の将来的な役割に対する洞察を深めるものでした。技術の進化に伴う課題を認識し、これらの課題に対応するための具体的な戦略を構築することの重要性が強調され、参加者たちに新たな視点を提供しました。

■講演2

DXによるPV業務の将来 ~AI活用の理解のために~

FRONTEO 成田 周平 氏                                                     

FRONTEOの成田周平氏の講演では、デジタルトランスフォーメーション(DX)とファーマコビジランス業務の未来に焦点を当て、現代の医薬品安全性評価業務におけるデジタル技術の進化とその影響について深く掘り下げました。医薬品安全性に関する情報が従来の静的なスナップデータから、リアルタイムで更新される連続データ(デジタルバイオマーカー等)へと移行している現状を指摘し、この変化に対応するためには、RPAやAIを活用したデータ分析が不可欠であると強調しました。さらに、DXによる業務変革の過程で、どのような点を変革すべきか、そしてなにが本質的に変わらないかを見極めることの重要性についても触れました。成田氏は、AIを「優秀な新卒社員」と比喩し、この「新卒社員」に成功を収めさせるためには、明確なルールと具体的な目標・ゴールの設定の重要性を説明しました。この比喩は、AI技術が高度な機能を持つものの、適切な指導と目標設定がなければその潜在能力を最大限に発揮することができないという点を示唆しています。

講演では、DXという大きな潮流の中で、ファーマコビジランス業務がどのように進化し、技術革新を採り入れていくべきかについての考察がありました。また、AIやRPAのような先進技術を効果的に活用するためには、業務プロセスの見直しと、これらの技術に対する理解の深化が必要であるとのメッセージが伝えられました。これにより、参加者はファーマコビジランス業務におけるデジタル技術の可能性とその効果的な活用方法について新たな視点を得ることができました。

講演の様子 講演の様子

グループディスカッションの概要

<Discussion 1>
「AIやRPAの活用で自分たちの業務はどうなっていくだろう?」という未来像
<Discussion 2>
AIやRPAを使う自分たちに今後どのようなスキルが必要になるだろう?
Digital化が進んでも自分たちにしかできないことはなんだろう?

分科会形式で行われたディスカッションでは、参加者は10のグループに分かれ、将来の症例評価業務におけるAIやRPAの活用ビジョンに関して熱心に意見交換を行いました。一部のグループで、「365日24時間対応のAIメディカルドクター」という提案が特に注目を受けました。安全管理情報のシームレスな連携に関しては、AIの能力を活用することに多くの企業が期待感を寄せており、医療機関、企業、規制当局間でのデータ構造の標準化や、迅速かつ正確な情報共有の改善を求める意見が多く出されました。ヒトとAIの協働に関する観点から、個別症例安全性報告(ICSR)の報告に関する各国の規制への適応や、AIが停止した際の事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)の確立が必要との意見も寄せられました。多くのグループから、将来の症例評価担当者には、基本的な医学・薬学の知識、グローバルな規制の専門知識に加え、AIやRPAの技術についての理解や倫理的な判断力、コミュニケーションスキルが不可欠であるとの見解が示されました。総括として、患者さんのためになにを実現すべきかの視点が共有され、参加者は症例評価担当者としての使命感や責任を再確認する機会となりました。

事後のアンケート結果から得られたこと

ワークショップの気づき

各社のサービス活用事例の共有が早速行われた。
他社でも類似の課題に直面していること、また、これらの課題に対する解決策がすでに高い精度で進展していることが明らかになり、有意義だった。
目指すべき方向性(北極星)が各社で共通しており、目的が同じであれば、アプローチの多様性が建設的な議論を促進すると実感した。今後も対面での会合の開催を強く望む。
AIが業務を奪うという漠然とした不安があったが、PVの本質を理解し、AIに学習させる必要性が社内で共有された。
他社とのディスカッションで、未使用だったOffice365の「Power Automate」機能を知り、業務効率化に活用したいと考えている。

このワークショップでは、AIやRPAの技術を用いた症例評価業務に関する実践的な事例が数多く提示され、今後の業界のビジョンについての洞察が共有されました。こうした事例は、業務の効率化だけでなく、品質の向上とリスク軽減にも寄与する可能性を示しており、参加者たちはこれらの新しい技術の導入によって症例評価業務がどのように変化し、どのような新しい可能性が開かれるのかを探求しました。特に、AIによるデータ分析やRPAの導入による業務自動化は、業界全体の生産性向上に寄与するとともに、症例評価の正確性と迅速性を高めることが期待されています。

グループディスカッションの様子 グループディスカッションの様子

最後に

本ワークショップでは、参加者たちの間で活発な情報交換が行われ、業界内の異なる視点やアプローチに関する新たな気づきが共有されました。この情報交換が、それぞれの企業が直面する課題に対する解決策を見出す手助けとなり、症例評価の新しいアプローチの創出に貢献すると期待します。そして、このようなインタラクティブな環境は、参加者にとって互いの経験から学び、自社の業務に応用するための貴重な機会となったと考えます。

私たち企画・運営メンバーとしては、このワークショップが症例評価担当者同士の交流を深め、業界全体の協力と成長を促進する良い機会となったことを嬉しく思います。参加者からのフィードバックや意見は、今後の業界活動における重要な指針となります。これらの貴重な意見を踏まえ、私たちは今後も業界の発展のために協力し、新たなイノベーションを推進していく所存です。今後もこのようなイベントを通じて、業界の連携を強化し、症例評価の品質と効率を向上させることを目指していきます。

(医薬品評価委員会 ファーマコビジランス部会 継続課題タスクフォース2 松本 直樹守田 真西谷 敏彦

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