トピックス 「第12回 アジア製薬団体連携会議(APAC)」を開催 —革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける—

印刷用PDF

2012年より開催しているアジア製薬団体連携会議(Asia Partnership Conference of Pharmaceutical Associations、APAC)は2023年で12回目を迎えました。2023年4月18日、4年ぶりにオンラインと対面のハイブリッド形式で開催し、製薬団体関係者に加え、日本を含むアジア各国/地域の規制当局関係者・アカデミアから800名を超える関係者が参加しました。「革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける」というミッションの実現に向け、今回は、“We’re all together again —Deliver tenacious power for Access to Innovative Medicine by reaffirming cooperation in Asia”をテーマに、アジアにおける協力を再確認することで、革新的な医療へのアクセスに粘り強い力を発揮することを掲げました。

全体写真 全体写真

はじめに

アジア製薬団体連携会議(APAC)はそのミッションに則り、申請(新薬、市販後)・許認可に係る規制の課題解決に注力してきましたが、患者さんの手元に医薬品が届くまでには規制のみならず、医薬品アクセスの向上が不可欠との認識のもと、2022年から開始したアジアのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を議論するaUHC Session等、5つのSessionの構成となりました。

なお、本カンファレンスの発表資料は下記のウェブサイトに掲載しています。ぜひこちらもご参照ください。

https://apac-asia.com/achievements/12th_apac.html

挨拶、祝辞、基調講演

製薬協 岡田 安史 会長(当時) 製薬協 岡田 安史 会長(当時)

製薬協の岡田安史会長(当時)より、開会の挨拶がありました。以下、抜粋紹介します。

5月に開催されるG7広島サミットに向けて、製薬協と国際製薬団体連合会(IFPMA)は連名で「保健アジェンダに対する製薬業界からの3つの提言」を政府に提出しました。3本柱の一つ、「持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現」では、平時・有事を問わず安定供給を実現できる強靭なサプライチェーン等のさまざまな議論を要望しています。「次なるパンデミックへの備え」については、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックからの学びを活かし、リアルタイムの疫学情報の共有や薬事承認での国際協調の議論推進を提言しています。さらに、「薬剤耐性(AMR)への対処」では、ビジネスとして成り立ちにくい感染症分野で、総合的・戦略的な支援体制を要望・提案しています。

今回のパンデミックを契機に、「人類のすべてが安全でなければ誰もが安全とはならない」ことが各国間で共有されました。「革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける」を旗印に掲げて活動してきたAPACが目指す、製薬企業・規制当局・アカデミアのグローバルな協力体制をさらに促進していく必要があります。

今回のAPACのテーマは、“We’re all together again —Deliver tenacious power for Access to Innovative Medicine by reaffirming cooperation in Asia”です。医薬バリューチェーンの中でわれわれが検討すべきクリティカルな課題に関して、「規制当局間の信頼(リライアンス)」と「薬事的機動性(アジリティ)」を軸として報告・討議いたします。

IFPMA 理事長 トーマス・クエニ 氏 IFPMA 理事長 トーマス・クエニ 氏

岡田会長の挨拶の後、IFPMA理事長のトーマス・クエニ氏からの祝辞がありました。

祝辞の中では、G7の議長国として、APACのセッションでも採り上げている、UHCをはじめとしたグローバルヘルスに関する課題解決に向けた日本の行動への期待と、主導的な役割を担っていることへのコメントがありました。

PMDA 理事長 藤原 康弘 氏 PMDA 理事長 藤原 康弘 氏

トーマス・クエニ氏の祝辞の後、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原康弘氏による基調講演が行われました。

講演の中では、コロナ禍における「国際協働」として、36当局から成る薬事規制当局国際連携組織(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities、ICMRA)の副議長としてICTツールを用いたリモート査察導入等に注力したこと、患者さんへの迅速なアクセスのためにアジアにおける国際共同治験の重要性等が示されました。

RA(規制・許認可)セッション

規制・許認可を取り扱うRAセッションでは、「規制当局間の信頼(リライアンス)や薬事的機動性(アジリティ)を通した効率的な医薬品申請・審査の促進」をテーマとしたパネルディスカッションを実施しました。

RAセッションでは、2019年開催の第8回において世界保健機関(WHO)が推奨するリライアンスをトピックとして採り上げており、また、2021年開催の第10回では、アジア規制当局がアジリティを発揮した「薬事規制のニューノーマル」の重要性を強く認識し支援していくことを確認しています。これらの議論を受けて、実際にアジアを中心に実践されてきたリライアンスやアジリティの成功事例を広く共有し、活動の裾野をアジア全体に広げていくことを目的として、今回のテーマを設定しています。

セッションチェアとしては、PMDA国際部長の佐藤淳子氏とIFPMAのJanis Bernat氏が登壇しました。パネルディスカッションを進めるにあたり、各パネリストからそれぞれの成功事例の紹介を行いました。フィリピン食品医薬品局(FDA)のJesusa Joyce N. Cirunay氏より、直近の世界的なCOVID-19流行の対応からの学びを通して、パンデミック以降においても法整備を伴った継続的なリライアンス・アジリティ推進の実施例や重要性の紹介がありました。台湾FDAのWen-Yi Hung氏からは、日台間コーポレーションスキームに基づく日本承認・PMDA審査報告書を参照した複数の新薬審査成功事例、リライアンスを活用したことによる審査効率化のメリットや今後の展望の共有がありました。引き続き、グローバルでの当局間による審査協力推進例として、米国FDAのSau(Larry)Lee氏から、ICMRAが推進する承認後CMC変更管理共同審査パイロットについて、そのコンセプトや進捗状況の発表がありました。産業界からは、フィリピン製薬団体(PHAP)のRichard Simon R. Binos氏、MSD InternationalのSannie SF Chong氏、製薬協国際委員会の簡野正明委員による共同発表で、アジアにおけるアジリティの実践と発展について包括的な研究事例報告がありました。

続くパネルディスカッションでは、インドネシアFDAのDesi eka Putri氏からインドネシアにおけるリライアンスのガイダンス整備状況についての紹介があり、アジアでリライアンスやアジリティを今後も広く実装するために重要な点として、下記の3点が紹介される等、パネリストから活発な提案がありました。
 

(1) より効率的かつ発展的なリライアンスを推進するためには、新薬審査のみではなく承認後CMC変更管理に加えてGMP・ GCP等の査察へも対象を広げる
(2) リライアンス審査を実施する当局に対しては、参照国審査報告書の評価を確実に行えるよう、申請者は参照国へ提出した資料と同じ内容を提出する必要がある
(3) リライアンスやアジリティは近年推奨されている概念・プロセスであるため、各国で実施するために法的整備とそれに基づくガイドライン策定が必須である

これからリライアンス・アジリティを開始・促進するアジア規制当局の参加者にとっても意義のあるディスカッションとなりました。

RAセッションの様子 RAセッションの様子

MQSセッション —PACMP制度のアジアでの活用促進—

MQS(Manufacturing, Quality control and Supply)セッションでは、APACのゴールである新薬アクセス(Access To Innovative Medicines、ATIM)を達成するため、製造・品質・サプライに関するテーマについて協議を行っています。今回は、2022年のAPACで紹介した承認後変更管理計画書(Post-Approval Change Management Protocol、PACMP)のアジアでの活用促進をテーマに選び、台湾FDAのWan-Yu Chao氏、シンガポール健康科学庁(HSA)のSubin Sankarankutty氏(オンライン参加)、PMDAの八木聡美氏をパネリストとして招待し議論しました。共同座長であるPMDAの奥平真一氏からセッションのオープニング宣言の後、MQS-タスクフォース(TF)メンバーである製薬協品質委員会の仲川知則委員から、アジアでの承認後変更管理に関するアンケート結果の共有、PACMP制度の概要、セッションの目的を説明しました。各パネリストからの自国でのPACMP制度の導入状況についての報告後、パネルディスカッションに移りました。パネルディスカッションでは、(1)制度導入後、本制度の利用を促進するため、業界団体や国際機関が支援できるポイント、(2)PACMPの利用を広げるため、同等のパッケージでPACMP申請ができるよう当局間での調和に向けた取り組み、に関してパネリストから貴重な意見が述べられました。PACMPの利用拡大を図るには、製薬業界からの情報発信が必要であり、ICH Q12に基づいた調和を進めることにより、審査の効率化や重複作業が削減され、アジアの多くの患者さんが同じ品質の医薬品にアクセスできるようになります。

最後に、奥平氏から承認後変更の予見性が向上し、効率的な供給体制の構築が可能になる本制度を活用し、患者さんをはじめとする関係者にメリットを届けるため、アジアの各地域でPACMP制度の導入を促進することが必要である、とパネルディスカッションのまとめがあり、セッションは終了しました。

MQSセッションの様子 MQSセッションの様子

e-labelingセッション

第3セッションは、2021年7月に発足し、アジア地域の13製薬団体から約40名で活動しているAPAC e-labeling EWGのセッションです。本セッションでは、まず初めに2022年に合意した2023年度の4つの活動コミットメントに対する進捗として、下記の報告がありました。

(1) e-labelingの早期実装およびアプローチの統一化に向けたポジションペーパーの最終化および合意
(2) アジア10規制当局から65名が参加した「第1回 APAC e-labeling規制当局ワークショップ」の開催
(3) 日本で立ち上げたコンソーシアムによる、国際標準規格であるHL7FHIR標準に準拠した形式のe-labelingの利用についてのパイロット試験の計画
(4) アジア地域の12エコノミーを対象としたe-labelingサーベイの論文化

次にポジションペーパーの内容として、以下の共有がありました。
 

(1) 信頼できるe-labelingのプラットフォーム
(2) GS1、二次元バーコード等のアクセサビリティーの選択肢とそれらの長所・短所
(3) 紙媒体での添付文書の同梱廃止に対する考察や留意点
(4) e-labelingの電子的形式と医療システムとのインターオペーラビリティ

そのうえで、各エコノミーが利用可能な技術、リソースを考慮して段階的なアプローチにて、より高度なものへ発展させていくことを推奨し、アジア地域におけるe-labelingの進展のために、規制当局、医療従事者、患者さんおよび製薬企業間の緊密な連携が重要であることを再確認しました。

その後、PMDAの大澤智子氏、韓国食品医薬品安全処(MFDS)のYubin Lee氏およびマレーシア国家医薬品規制庁(NPRA)のRosilawati Ahmad氏から各エコノミーでのe-labelingの実装、パイロットプログラムの現状が紹介されました。日本ではGS1コードをアプリで読み込むことでPMDAウェブサイトへ掲載されたe-labelingや関連文書へのアクセスと、紙の添付文書の同梱廃止が開始されており、2023年7月末に完全移行することが共有されました。韓国では2023~2024年に医療用医薬品のe-labelingのパイロットプログラムの実施を予定しており、薬事法改正の見直しも引き続き行っていくことが共有されました。マレーシアでは2019年からe-labelingについての産官タスクフォースを立ち上げ、2022年に実施したe-labeling実装に関するサーベイをもとに2023~2026年にかけて自主的な実装を計画していることが共有されました。

次に、上記3名に加え、インドネシア共和国国家医薬品食品監督庁(BPOM)のNova Emelda氏、台湾FDAのPo-wen Yang氏、タイFDAのWorasuda Yoongthong氏、フィリピンFDAのJesusa Joyce N. Cirunay氏、ベトナム保健省医薬品管理局(DAV)のNguyen Thanh Lam氏をパネリストに迎え、APAC e-labelingサミットを開催しました。

インドネシア、タイおよびフィリピンから2023~2024年にかけてのパイロット試験・実装の計画が共有され、ベトナムからもe-labeling導入について、今が議論を始める良い機会であるとの見解が共有されました。多くのエコノミーから、計画中のパイロットプロジェクト・実装に先立ち、すでにCOVID-19ワクチンやその治療薬にてe-labelingの経験があったことも併せて共有されました。さらにパイロットを実施中の台湾からは、現在のパイロット試験から見えてきた課題が共有されました。さらに、e-labeling掲載プラットフォーム、紙の同梱廃止および国際標準規格であるHL7FHIRの医療システムへの実装や今後のe-labelingへの導入の可能性について意見交換が行われました。紙の同梱廃止は多くのエコノミーで課題と考えられており、日本ではステークホルダーとの丁寧な対話を継続してくことで合意が得られたという例示が共有されました。HL7FHIR規格のe-labelingの導入については国際標準化の重要性が認識されつつも、さらなる議論が必要であり、今後の展望が期待されます。

サミットの締めくくりにあたって、シンガポールHSAのMimi Choong氏からシンガポールにおけるe-labelingの実装状況が共有され、電子添付文書は、規制当局、企業、医療従事者・患者さんにとってwin-win-winで、ユーザーフレンドリーであるという前向きな意見が出されていることが共有されました。最後に医療情報提供における添付文書の位置付けの重要性とe-labelingの今後の可能性、さらなる推進の重要性について触れ、セッションは終了しました。

e-labelingセッションの様子 e-labelingセッションの様子

DA(創薬連携)セッション

DA-EWGではアジアにおける創薬連携の推進を目標に、主にアジアにおける創薬シーズの情報共有推進を目的とする取り組み(Drug Seeds Alliance Network in Asia、DSANA)と天然物の創薬活用の推進と人材育成を目的とする取り組み(天然物創薬コンソーシアム(APAC Natural Product Drug Discovery Consortium、ANPDC)という2つの施策に取り組んでいます。

ANPDCの活動期間は2018年から2023年までの5年間とされており、日本の製薬企業からは2社が参加し、各社がそれぞれにタイのアカデミアや研究機関と連携し、若手人材育成を兼ねた創薬スクリーニング技術移譲を行い、その技術を使用したタイ現地での天然資源スクリーニングを実施することができました。2022年は、11月に本国内の関係機関によるラップアップミーティングを開催し、2023年3月には、この取り組みの参加国、タイ、台湾、そして日本によるANPDCカンファレンスを開催しました。最終年となる2023年度は、この活動を通じて関係各国の間で得られたネットワークを3国間で活かせるような新たな取り組みやアプローチを考えていきます。

2023年のDA-EWGセッションでは、DSANAの活動を採り上げ、3名から講演がありました。最初に、国立研究開発法人国立循環器病センター心血管老化制御部部長の清水逸平氏より、自身のアカデミアシーズ創出と企業との連携の経験から、日本のアカデミアシーズの魅力やスタートアップ企業育成の難しさについての講演がありました。続いて、台湾生物技術開発中心(DCB)Vice PresidentのTsai-Kun Li氏より、台湾の産学官による創薬連携の取り組みとアジア(台湾)から見た日本のアカデミアシーズとスタートアップ企業の魅力について話があり、最後の講演者のJST Senior Fellow、広島大学客員教授の中川雅人氏からは、大きな視点でのアジア連携について話がありました。3名による講演の後、DSANAメンバーの寺内淳氏も参加し、創薬連携について、パネルディスカッションを開催し、創薬研究におけるコラボレーションの考え方について意見を交わしました。

新薬創出において、スタートアップ企業の役割が大きくなっています。今後も、アカデミアシーズ、スタートアップ企業連携等、国内外での創薬連携についての課題抽出と解決方法を検討していきます。

DAセッションの様子 DAセッションの様子

aUHC(アジアのUHC)セッション

本セッションは、aUHC(Asia Universal Health Coverage)をテーマとして2022年より3回シリーズで企画しており、各国の社会保障制度・UHCの構築に向けたナレッジの共有を通じて、アジア各国における革新的医薬品へのアクセス改善を目的としています。

第1回の2022年は、コロナ禍にてその重要性が再認識されることとなったUHCの強靭性・持続性の重要性に関して議論され、これを実現するためには必要な財源の投入(Financing)が重要であると結論付けられました。

第2回となる今回は、Financingをテーマとして、参議院議員の武見敬三氏よりOpening Presentationとしてグローバル視点でのFinancingに関して紹介がありました。その後、日本、シンガポール、タイそれぞれの立場から、一般社団法人未来研究所臥龍代表理事の香取照幸氏、シンガポール国立大学のJeremy Lim氏、タイ・チュラロンコン大学のRungpetch Sakulbumrungsil氏より、UHCのFinancingに関する各国の現状について講演がありました。セッションの最後に、3名の演者と座長のボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザーの武田俊彦氏により、各国・地域の異なる状況を踏まえたUHCのあり方と現状のギャップ、ギャップを埋めるための対応策について議論され、公的保険が果たす役割やカバーする対象、財源等についての考え方が共有されました。

3回シリーズの最終回となる2024年は、今回の議論から高額医薬品への公的資金の支出(Financing)の必要性等を採り上げることを検討していきます。

aUHCセッションの様子 aUHCセッションの様子

閉会にあたって

製薬協 野村 博 副会長 製薬協 野村 博 副会長

閉会にあたり、フィリピンFDAのJesusa Joyce N. Cirunay氏、マレーシアNPRAのRosilawati Ahmad氏、台湾FDAのShou-Mei Wu氏の3名からAPAC開催への感謝の言葉とともにスピーチがありました。

最後に、製薬協の野村博副会長から1日のセッションの総括として、4年ぶりの対面形式での開催、パンデミックがもたらしたもの、各セッションの振り返りがありました。特に、初めての開催形式であるハイブリッド方式について、対面での深いコミュニケーション、オンラインを活用した幅広いコミュニケーションのメリットについて感想が述べられました。パンデミックは、オンラインテクノロジーをはじめ、わたしたちの社会を大きく変えてきました。製薬産業でもデジタルトランスフォーメーションが大きく議論されています。多角化した創薬ターゲットを実現するための産学の協力、共同審査、審査結果の共有による承認の迅速化等、確実な変化をもたらしています。「第12回 APAC」では、4年ぶりとなる対面形式で開催を行い、製薬産業のこれらの大きな変化に対して、アジア各国の関係者から日本のリーダーシップに期待していることを強く感じました。アジアのヘルスケアの課題に対して、日本がリードして解決していくことを示すことができた大きな節目となりました。

(国際連携部長 松岡 和治国際部長刀根 拓也

このページをシェア

TOP