トピックス 「製薬協メディアフォーラム」を開催 どうするワクチン? —未来のために今できること—

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2023年4月10日、室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区)にて「製薬協メディアフォーラム」を開催しました。今回は「どうするワクチン? —未来のために今できること—」をテーマに、厚生労働省健康局予防接種担当参事官室室長補佐の井上大輔氏、および公益社団法人日本医師会常任理事の釜萢敏氏の2名の講師による講演と質疑を行いました。当日は会場およびWeb配信にて、22社33名のメディア関係者の参加がありました。

講演の様子 講演の様子

開催の背景としては、この数年の間にコロナ禍を経て、全世代が感染症の脅威を身近に捉え、感染症予防についてさまざまに意識変化が生じていることから、本フォーラムでは2023年5月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策が新たな段階に入るタイミングで、予防接種行政において検討されているデジタル化構想や、感染症予防のためのワクチンの意義や価値を改めて発信したいと考えました。

今後も製薬協は、ワクチンに関するすべての関係者と協力・連携しながら、予防接種行政において検討されているデジタル化構想や、感染症予防のためのワクチンの意義や価値を発信していきたいと考えています。

以下、講演内容を紹介します。
 

■演題1

予防接種事業のデジタル化について

厚生労働省 健康局 予防接種担当参事官室 室長補佐 井上 大輔 氏                      

より良い予防接種を実現するために

予防接種が感染症の発生およびまん延の予防、公衆衛生水準の向上ならびに国民の健康の保持に著しい効果を上げ、人類に多大な貢献を果たしてきたことは、歴史的にも証明されています。直近では、COVID-19の予防接種において、重症化予防等の効果を発揮し、医療上の対策として重要であったと考えています。より良い予防接種の実現のために厚生労働省にて現在検討を行っている予防接種事業のデジタル化についてご紹介します。

井上 大輔 氏

予防接種事業デジタル化の推進

予防接種事業デジタル化(図1)を進める目的は、「国民の利便性向上」「地方公共団体や医療機関の事務負担の軽減」および「より的確な予防接種の有効性や安全性調査の実施」です。

(1)予防接種実施事務の効率化

現在の予防接種事業では、実施主体である自治体が、紙の予診票や接種券を対象者に送付しています。そして、接種を行う医療機関は、これらを用いて対象者確認や予診を行い、接種後は自治体宛てに予診票の郵送やパンチ入力を行い費用請求します。このような紙媒体での運用により、自治体や医療機関における事務的な負担が生じています。

今後は予防接種事業にマイナンバーカードを活用して、紙の予診票や接種券で行っている対象者確認や費用請求がオンラインで行われるようになります。これにより、自治体が行う接種記録管理や、自治体と医療機関が行う費用請求・支払いに関する事務を効率化することを目指しています。

(2)データベースの構築による効果的かつ効率的な調査・研究の実現

薬事審査を経て承認を得たワクチンを用いて予防接種が実施されていますが、予防接種を受けた方のうち一定の人にやむを得ず副反応等が生じる場合があります。安全性に関する調査・研究を行うことを求められることがありますが、現在の予防接種事業では自治体が接種記録を管理しているため、厚生労働省が早急に接種状況の把握や有効性・安全性に関する調査を行うことが難しい状況にあります。そこで、厚生労働省では予防接種履歴と副反応疑い症例報告を個人単位で連結するためのデータベース構築を検討しています。

まず、医療機関が予防接種記録・予診情報記録システム(仮称)に登録した接種情報に基づき、予防接種の接種状況を把握できるようにします。さらに、予防接種データベース(仮称)を構築し、収集した接種記録と副反応疑い報告症例を匿名化して格納します。これらのデータはナショナルデータベース(NDB)と連結されて、第三者を通じて予防接種の安全性や有効性に係る調査研究に活用されることを想定しています。

図1 予防接種事業のデジタル化等(イメージ)
図1 予防接種事業のデジタル化等(イメージ)
 

全国医療情報プラットフォーム(将来像)

国民へのより良い医療提供を実現するために、オンライン資格確認システムのネットワークを拡充し、全国医療情報プラットフォーム(図2)の構築を検討しています。診療報酬明細書(レセプト)や特定健診情報に加え、予防接種も含めた医療情報をクラウド間連結する予定であり、これらの情報を自治体等が必要時に閲覧して、事業に活用することを想定しています。この仕組みにより、マイナンバーカードで受診した患者さんは、本人同意のもとで自身の情報を医師に共有することが可能になります。

図2 全国医療情報プラットフォーム(将来像)
図2 全国医療情報プラットフォーム(将来像)
 

まとめ

予防接種を活用した感染症対策においては、国民の協力や理解が不可欠です。厚生労働省としては、これまで以上に予防接種事業を効果的・効率的に運用したいと考えています。予防接種事業デジタル化の実現には解決すべき課題が多く、困難が予想されます。これからもデジタル化の推進に向けて、厚生労働省として最善の努力と検討を進めてまいります。
 

■演題2

コロナ禍を踏まえた今後のワクチン接種

公益社団法人 日本医師会 常任理事 釜萢 敏 氏                              

COVID-19の世界的な大流行は、感染症の脅威を全世代が身近なものとして捉えると同時に、感染症対策が命と健康を守るために非常に重要な手段であると実感する大きな契機となりました。2023年5月8日からCOVID-19の感染症法上の類型は5類へ移行し、感染症対策のフェーズは新たな段階に入ります。本講演では、コロナ禍を踏まえたうえで感染症予防のためのワクチン接種の意義や価値について改めてお示しします。

我が国の予防接種の現状

釜萢 敏 氏

(1)日本の予防接種の区分

我が国において、予防接種法に基づくワクチン接種は「定期接種」と「臨時接種」に区分されます(図3)。日頃から感染症対策として行われる定期接種は、どの年齢で接種を受けるのが最適かという判断のもと定められています。新型コロナワクチンで注目された臨時接種は、特例という位置づけで行われました。

予防接種法に基づかないワクチン接種は「任意接種」と呼ばれており、本人が接種を希望した場合に接種を受けるものです。ただし、基本的には予防接種法に基づく接種も、本人や保護者の理解と同意のもとで接種するのであり、無理やり接種をするという体制は我が国にはありません。

図3 日本の予防接種の区分
図3 日本の予防接種の区分
 

(2)ワクチンで予防できる疾病(VPD)

ワクチンで予防できる疾病をVPD(Vaccine Preventable Diseases)と呼びます。世界保健機関(WHO)がワクチン接種を推奨している疾病を図4にお示しします。ここには挙げられていませんが、帯状疱疹は重要なVPDの一つであり、エムポックス(サル痘)もVPDに含まれます。これだけ多くのVPDがある中で、諸外国に比べて接種可能なワクチンが足りず、その差により国民の健康に悪い影響を与えているのではないかということから、ワクチンギャップが問題になっています。

図4 VPD(Vaccine Preventable Disease)
図4 VPD(Vaccine Preventable Disease)
 

我が国のワクチンギャップは解消されつつあり、現在多くのワクチンが接種可能となっていますが、おたふくかぜワクチンはいまだ定期接種になっていません。課題として、おたふくかぜワクチン接種後に無菌性髄膜炎の発症が多いということが理由でしたが、なぜ増えたかという十分な解明が必ずしも行われないまま現在に至っています。無菌性髄膜炎の発生頻度を極力抑えた優れたワクチン開発がなされた時点で定期接種に入れるという検討会での合意事項があったことも一因となっていますが、現在のおたふくかぜワクチンはすでに優れたワクチンであることから、この方針を変えても良いのではないかと考えています。

また、我が国の課題として高齢者の肺炎球菌ワクチンの接種率が伸びていないという現状があります。このワクチンの導入当時に、高齢者肺炎球菌ワクチンを5年以内に2回接種すると非常に副反応が強いことが懸念され、5年ごとに接種するという整理がされました。現在、このために接種率が伸びないのではないかという点も含めて議論されています。

(3)努力義務の解釈

1994年に極めて大きく方針を変えた予防接種法改正がありました。予防接種はあくまで本人や保護者の意思に基づいて接種を受けるもの、つまり、強制的に受けるものではないと定められたのです。それまでは「義務接種」であったことの対極として「努力義務」という概念が出てきました。私は努力義務には、“義務”というニュアンスは極めて低いと認識していますが、新型コロナワクチンでも話題となったように、最近では義務という言葉から、強制的なイメージが連想されることもあるようです。

努力義務と行政からの接種勧奨はセットであり、これを公的措置と表現します。1994年の法改正から時間が経過していることもあり、現在接種を受ける方が最も理解しやすい形の対応になれば良いと思います。

今後のワクチン接種に関する課題

(1)新型コロナワクチン

我が国では当初、いつになれば新型コロナウイルスに対する免疫が得られるのか、つまり、感染を抑制するために必要とされるワクチン接種率や罹患者の割合等について見通しが立ちませんでした。そのような中で、日本はゼロコロナを目指さないものの、慎重に対応することを選択し、ワクチン接種や感染対策が推進されました。結果として、欧米やG7の国と比較して、人口あたりの感染者数は少ない状況が維持されています。

2価ワクチンについては、免疫刷り込み現象(最初に接種したワクチン株に対する免疫記憶が影響して、その後に受ける変異株ワクチンの抗体価が十分上昇しない)の懸念も検討されましたが、幅広い免疫を付けるメリットを考えて2価ワクチンを使用することが決定しました。現在は5~11歳に対しても2価ワクチンの接種が可能となっています。2023年度も特例臨時接種を継続することが決まっており、5月から段階的に接種を進める準備をしているところです。

(2)ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン

HPVワクチンは、2022年4月から積極的な接種勧奨がようやく再開されました。さらに、2023年4月から予防接種法に基づいた接種として9価ワクチンの接種が可能となり、これまで接種できなかった人のキャッチアップ接種にも使用できることとなりました。副反応としては疼痛の頻度が高いですが、ワクチンの利点が非常に大きいことから徐々に理解を得ています。2013年6月から長期間にわたり積極的勧奨を差し控えましたが、その後、当時問題になった副反応がワクチン接種を受けていない人にも同様に見られることが分析疫学の調査研究(名古屋スタディ)で明確に示されたことにより再開できました。

(3)ワクチン接種率の低下

これまで小児のワクチンは接種率を高く維持できていましたが、コロナ禍において接種率が低下しています。特にMRワクチンの接種率低下は、麻疹や風疹の再流行を招く懸念があります。妊婦が風疹に罹患すると先天性風疹症候群の危険が出てくるため、注意する必要があります。また従来から、MRワクチンの1期の接種率は高いですが、就学前の2期は少し接種率が低下する傾向があります。HPVワクチンは、接種率が徐々に上がってきているもののいまだ低い状況にあります。インフルエンザワクチンは、コロナ禍において関心が高まり、少し接種率が上がりましたが、今後の推移を注視したいと思います。高齢者用肺炎球菌ワクチンは、接種率が低下して回復しておらず、大きな課題があります(図5)。

いずれのワクチンも、我が国において接種率を確保しなければなりません。しかし、予防接種に対する国民の関心や理解を深めることの難しさがあり、たとえば、HPVワクチン接種後の一部のショッキングなけいれん事例を映像で見た際に、国民のみなさんが抱くワクチン接種に対するイメージを回復することは容易ではありません。

また今後は、今まで以上に予防接種の実施状況をタイムリーに把握することが重要となります。ワクチン接種のデジタル化の取り組みにおいて、この点は改善されるものと期待しています。

図5 国内の主なワクチン接種率の推移
図5 国内の主なワクチン接種率の推移
 

予防接種の意義と価値

予防接種は感染症対策において、非常に大きな柱です。日本や世界で優れたワクチンが接種可能となる取り組みが必要であり、国の支援を再考する必要があります。予防接種により個人だけでなく社会も感染症から守られるということが重要です。ほかの人のためにということを強調しすぎるのはバランスを欠くかもしれませんが、しっかり伝えるべきことであると考えます。人生のあらゆる時期において健康と命を守るために、予防接種が必要であることを幅広く国民の理解を得る必要があると考えています。

(バイオ医薬品委員会 ワクチン実務委員会 政策グループリーダー 増田 糸往里

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