トピックス 「バイオジャパン2023」開催・参加報告
開会式ならびに基調講演、バイオ医薬品委員会セミナーについて

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「バイオジャパン2023」が2023年10月11日~13日にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催されました。また、例年同様に「再生医療JAPAN 2023」および「healthTECH JAPAN 2023」も併催されました。2023年の「バイオジャパン」は25周年の記念大会であり、2022年を超える約1万6000名が来場したほか、展示会への出展社数もかなり多く、パートナリングへの参加者は過去最高の約2700名にのぼりました。また、2022年と違って海外からの来日参加者が激増し、会場を活気づけました。製薬協も主催団体の一つとして参加し、会員会社のみなさんが多数発表するとともに、多くの会社・団体がアライアンスブースを出展し、アカデミアやベンチャー等と面談する等、活発な情報交換と交流が行われました。

開会式開会式

開会式ならびに基調講演

主催者団体を代表して一般財団法人バイオインダストリー協会会長の吉田稔氏による挨拶の後、経済産業大臣の西村康稔氏(ビデオ出演)、厚生労働大臣政務官の塩崎彰久氏、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員の上山隆大氏、神奈川県知事の黒岩祐治氏および横浜市長の山中竹春氏による英語の祝辞がありました。その後、基調講演として以下の4つの講演がありました。

「イノベーションの加速に向けて —日本の課題とDeNAの挑戦—」
  一般社団法人 日本経済団体連合会副会長/ディー・エヌ・エー 代表取締役会長 南場 智子 氏
「来るべきHaaS(Healthcare as a Service)の時代」
  第一三共 代表取締役会長兼CEO 眞鍋 淳 氏
「Innovation at Imperial College London: Collaboration, Translation and Venture Creation」
  President of Imperial College London, Prof. Hugh Brady(ビデオ出演)
「Preparing for the next pandemic: lessons learned from COVID-19」
  Vice-Dean (Research), Faculty of Medicine, Imperial College London, Professor of Infectious Diseases NIHR Research Professor Interim Chair of the MHRA, Prof. Graham Cooke

 

一般社団法人 日本経済団体連合会副会長/ディー・エヌ・エー 代表取締役会長 南場 智子 氏一般社団法人 日本経済団体連合会副会長
/ディー・エヌ・エー 代表取締役会長
南場 智子 氏 ※1
南場氏の講演では、日本におけるイノベーションの課題として、スタートアップの活用不足と人材の流動性の低さが挙げられ、日本はスタートアップの数も質も発展途上であること、大企業では人材の流動性の不足によるエンゲージメントの低下、労働生産力の低下に加えて、優れた人材の育成も妨げられていることが指摘されました。一方DeNAでは、従業員のモチベーション向上と独立サポートのために、ストレッチアサイン、シェイクハンズ制度、社員のスピンアウト支援等を導入することにより、社内に囲い込むことなく、日本全体でイノベーションを加速できる人材育成に拘り続けていることが述べられました。
第一三共 代表取締役会長兼CEO 眞鍋 淳 氏第一三共 代表取締役会長兼CEO
眞鍋 淳 氏 ※1

続いて眞鍋氏の講演では、製薬企業の多くは多様な医療ニーズに応える医薬品を提供することをミッションとし医薬品を提供してきたこと、産業資本主義からデジタル資本主義へと思考変換が求められる中、HaaS(Healthcare as a Service)として産業を再定義し、創薬モダリティの多様化とともにビッグデータやデジタル技術の活用、遺伝子検査と個別化医療を軸とするデータの連携・共有システムの整備等、トータルケア・プラットフォーマーとして期待されるようになってきていることが示されました。また、このような時代においては、健康・医療ソリューションの提供に加えて、多様なステークホルダーとの連携とともに、患者さんを中心に据えた社会課題解決の方策が重要となってくることが述べられました。最後に、第一三共はパートナー企業と連携し、トータルケア・エコシステムの構築に向けたプロジェクトを開始したこと、来るべきHaaSの時代において、医療の変革および社会のサステナビリティに貢献するということで締めくくられました。

 

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    写真(一般財団法人バイオインダストリー協会提供)

バイオ医薬品委員会セミナー

次世代バイオ医薬品の製造拠点整備 ~産学官におけるバイオ製造人材育成の取り組み~

製薬協バイオ医薬品委員会では、バイオ医薬品の製造プロセスや製造基盤に関する話題について、過去数年間にわたりセミナーを開催してきており、2023年度は「次世代バイオ医薬品の製造拠点整備 ~産学官におけるバイオ製造人材育成の取り組み~」というタイトルで10月12日に開催しました。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科特命教授の内田和久氏がコーディネーターとなり、海外からのリモート参加の演者も含め4名が登壇し、官公庁、アカデミア、企業のそれぞれの立場から幅広い議論が行われ、会場はほぼ満席となりました。

主催者セミナーの様子 主催者セミナーの様子 ※1

セミナーのイントロダクション

冒頭、内田氏より、本セッションのオーバービューが紹介され、次世代バイオ医薬品、mRNAワクチン等新たなモダリティによる開発が進められている中で、製造における拠点整備、人員確保、プロセス効率化、リスク低減等、生産体制の強化が必要となっており、デュアルユース製造拠点整備事業による大きな投資促進が決まっている中で、設備稼働に必要なGMP製造人材に加え、CMC(Chemistry, Manufacturing and Control)開発人材の育成・確保に課題があることが示されました。また、人材育成・確保には業界をまたいだ流れがあることが紹介され、今後のバイオ人材育成・確保の方向性について考えたいと、本セッションの趣旨が説明されました。

各演者による講演内容

経済産業省商務・サービスG生物化学産業課(バイオ課)課長補佐の堀卓朗氏は「日本におけるバイオ医薬品製造を担う人材育成の方向性」について講演し、政府としてAIや半導体だけでなくバイオにも総額1.1兆円規模のプロジェクトがあること、その一つであるデュアルユース事業で採択された機関は平時にバイオ医薬品、有事にワクチンを製造することになるが、拠点整備において人材確保が課題であること、バイオ製造人材育成には長い時間がかかり、たとえば製造オペレーターに1年、製造工程責任者に3年、製造管理責任者に10年もの歳月がかかることを紹介しました。また、人材育成は個社でできるところばかりではないので、産学官で取り組む必要があり、一般社団法人バイオロジクス研究・トレーニングセンター(BCRET)での研修事業や東京理科大でのGMP教育訓練コースだけでなく、トレーニングに製薬企業等の設備を活用することも検討する点に触れました。最後に「デュアルユース事業で箱ものはできるが、モノづくりに必要な人材確保はこれからになる。半導体のように何年間で何万人必要といったニーズ把握を含め、なぜできないのかを分析し、必要な手当てを議論していきたい」と総括しました。

次に、AGC Inc.ライフサイエンスカンパニーバイスプレジデントの村田博氏は「グローバルネットワークを生かしたCDMO事業におけるバイオ製造人財の獲得と育成」について講演しました。冒頭、国内から海外に事業を拡大し、2020年からは逆輸入して3極標準オペレーションを目指しているが、そのうえで製造人材の獲得・育成への課題感を示しました。そのため、マネジメント人材の確保に始まり、設備稼働に向けてバックキャストからのグランドデザインを策定し、リード人材に次ぐオペレーション人材は社外、新卒採用で増員を図り、社内でのオンジョブ・トレーニングと社外BCRETでの教育、さらに他社との協力について計画中である旨を説明しました。また、海外サイトに目を向けると、モダリティにより求められる人材像が異なる点、日本ではインハウス・トレーニングが必要だが、ドイツでは国によるデュアルシステム・トレーニングにより学生に企業実習を手当てし、デュアルスタディ・プログラムにより州が職業学校の手当てをしており、学生が即戦力として企業に入ってくる点に触れました。最後に、日本にはこういった社会的な仕組みがないが、製薬協では2月の会長記者会見で、(1)即戦力バイオ製造人材育成支援、(2)学生のバイオ人材育成支援、(3)BCRETによる人材育成支援を発表しており、業界を挙げた人材育成の取り組みが重要であると述べました。

続いて、富士フイルム兼富士フイルム富山化学バイオ事業本部第一部部長の伊藤久俊氏は「バイオ医薬品製造人材の育成 ~富士フイルム富山化学のアプローチ~」について講演しました。バイオ医薬品の存在感が高まっており、それに伴い医薬品開発・製造受託(CDMO)マーケットも拡大していること、日本における人材の課題は母集団が小さいことに加え流動性も低いこと、取り組みとして有効なトレーニング・プログラムと外部の教育活用を行っていること、今は教育の箱がないためFDB(FUJIFILM Diosynth Biotechnologies)から富山へ輸入し、座学中心の(将来はラボとGMPを含む)施設をインストールする計画について紹介がありました。最後に、人材育成の課題は各社、各団体で協調できることを述べました。

また、2011年からバイオプロセスのタレントプールを年間4500名輩出するアイルランドのNIBRT(National Institute for Bioprocessing Research and Training)Business Development ManagerのBarry Shortt氏は、インダストリー・トレーニングではグローバルにバイオファーマの成長に貢献し続けていること、アイルランド政府からの資金提供を受け、2023年11月に既存スペースに加え新たに1800平方メートルの先進医療専門スペースが増設されることを紹介し、ワークフォース開発・ソリューションでは顧客ニーズに応えバーチャルな人材育成にも対応していることを強調しました。

まとめ

最後のパネルディスカッションでは、今後取り組む必要がある人材育成上の課題として、CMC開発人材・GMP製造人材を獲得する方策、バイオロジクスのモダリティをまたいで人材育成を行ううえで留意すべき点、バイオ人材育成を担う機関への期待・要望について議論されました。人材獲得の方策では、教育の場を増やし、母集団を増やしていく必要性があるという意見や、モダリティをまたいだ人材育成では、各モダリティで求められる人材像を可視化し、見定めたうえで打ち手を講じる必要性が挙げられました。また、バイオ人材育成を担う機関への期待・要望について、人材育成は協調領域であり、BCRETだけでなく製薬協等の社外取り組みも活用することを考えるべきといった意見があり、総じて目指す方向性はグローバルで共通であるとの認識でした。コーディネーターの内田氏は、人材育成の必要性について、産学官で個別分散しているが「産学官3者一体的な議論でない点がもどかしい」とする一方で、必要となる人材について「定量的、グランドデザイン的な提示ができていない」との課題も指摘しました。複数の産業、教育機関にまたがる人材育成になることについて「全体を見ることができる国にもリードしてほしい」と総括しました。

製薬協のブース 製薬協のブース

次回の「バイオジャパン2024」は2024年10月9日~11日、パシフィコ横浜にて開催される予定です。

(薬事・バイオ医薬品部長 塚田 純子、バイオ医薬品委員会 政策実務委員長 金子 佳寛

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