トピックス 「第13回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」開催される

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2023年9月8日~9日に、学術総合センター(東京都千代田区)にて、「レギュラトリーサイエンスに求められる進歩と調和」をテーマに「第13回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」が開催されました。

はじめに

医療現場、大学・研究機関、産業界や規制当局の関係者が、対等の立場で一堂に会して、医薬品・医療機器等のレギュラトリーサイエンスに関する研究成果や考えを公開討議し、その学術の進歩と普及を図るという設立理念のもと、2010年8月にレギュラトリーサイエンス学会が設立されました。本学会は設立から13年を迎え、レギュラトリーサイエンスの概念は広く浸透しつつあります。

2023年は9月8日~9日の2日間にわたり、「レギュラトリーサイエンスに求められる進歩と調和」をテーマとして、各セクションで活発な議論が行われました。

本学術大会は、大会長講演、特別講演(3題)、大会長企画シンポジウム(2題)、シンポジウム(12題)、一般演題(口演15題、ポスター27題)で構成されました。

シンポジウム

■シンポジウム1

ドラッグ・ロス/ドラッグ・ラグを考える

座長:製薬協 森 和彦 専務理事                                                     

はじめに、製薬協医薬産業政策研究所の飯田真一郎統括研究員より「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの現状」として、2010~2020年末に日米欧で承認された品目を比較分析した結果を基に、国内未承認薬の状況とその特徴が発表されました。調査結果より、2010年後半より国内未承認薬の増加の傾向がみられ、国内未承認薬の問題を解決するための課題として、日本以外の欧米・アジア地域で臨床試験を実施している新興バイオ医薬品企業の国内開発への呼び込みが重要であることが挙げられました。この課題の解決には、薬事規制の改善、臨床試験を実施する環境整備および魅力ある国内市場の創生が重要な点として発表されました。

次に、製薬協薬事委員会の柏谷祐司委員長より「企業からみたドラッグ・ロス/ドラッグ・ラグに対する提言」として、製薬協薬事委員会に所属する内資・外資系企業を対象に行われた国内開発未着手の品目に関するアンケート結果(2023年5月実施)を基に、国内開発未着手の理由および課題が発表されました。調査結果から見える重要な課題として、採算性・事業性の確保、患者数が少ない場合の治験実施体制の整備、国際共同治験への円滑な参画を促進する制度および承認申請における海外データの柔軟な受け入れ体制が挙げられました。

続いて、国立がん研究センター中央病院の山本昇氏より「医療現場から見たドラッグ・ロスの現状と取り組み」として、臨床医の立場から、抗悪性腫瘍領域におけるドラッグ・ロスの実例の紹介が行われました。また、医療現場からのドラッグ・ロス改善の取り組みとして、抗悪性腫瘍の開発を行っている海外の新興バイオ企業への日本国内での治験誘致活動の紹介も行われました。

最後に、厚生労働省医薬局医薬品審査管理課課長補佐の松倉裕二氏より「医薬品のアクセス改善に向けた厚生労働省の取組みについて」として、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消に向け、「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」にて現在議論されている、薬事規制の課題・対応の現況が発表されました。主に希少疾病用医薬品の早期指定、小児用医薬品の開発促進、国際共同治験に参加する場合の日本人第I相試験の必要性および日本の薬事制度に関する海外への情報発信等の議論と今後の展望について発表されました。

シンポジウム1 総合討論の様子 シンポジウム1 総合討論の様子

■シンポジウム11

医療用医薬品の承認書記載の課題について

座長:独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審査マネジメント部 部長 清原 宏眞
製薬協 薬事委員会 柏谷 祐司 委員長                                                  

はじめに、製薬協薬事委員会薬事制度部会の中山能雄委員より「製薬協が行った『第2回承認事項及びその変更手続き並びにGMP適合性調査の規制上の取り扱われ方の実態調査』の結果並びに日米欧の薬事制度に関する考察について」として、日米欧の承認事項の違い、日本にはない中リスクと低リスクの変更届出に関する欧米の制度およびその運用状況、日米欧におけるGMP調査の実施状況等に関する製薬協のアンケート調査結果が発表されました。また、調査結果を踏まえ日本の承認事項、変更手続き制度ならびにGMP調査制度の課題について問題提起がなされました。

次に、製薬協薬事委員会薬事制度部会の小林正次部会長より「承認事項、変更管理及びGMP調査に係る『目指すべき姿』について」として、医薬品の製造・供給環境のグローバル化が進む中、品質は各国共通であることを踏まえ、製薬協薬事委員会が考える目指すべき姿として、国際整合性を踏まえた各国共通の薬事制度(承認事項、変更手続きおよびGMP調査)が提案されました。また、目指すべき姿に向けた承認事項、変更手続きおよびGMP調査の具体策についても一案として提案されました。

続いて、熊本保健科学大学教授の蛭田修氏より「GMP調査の目指すべき姿について」として、日米欧におけるGMP調査の違いについて、日本では製造販売承認の要件であり品目を対象とする調査であること、一方で欧米では製造所の品質システムを対象とする調査であること等が紹介され、2021年より導入された基準適合証制度の課題、国際整合性を踏まえたGMP調査制度の必要性について発表されました。

最後に、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)再生医療製品等審査部審査役の岸岡康博氏より「ICMRA PQ KMSの取組み~共同審査パイロットを中心に~」として薬事規制当局国際連携組織(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities、ICMRA)が主導する医薬品品質知識管理システム(Pharmaceutical Quality Knowledge Management System、PQ KMS)についての進捗が紹介され、2つの共同審査パイロットプログラムが進行し、バイオ医薬品の製造所追加に係る承認後変更管理実施計画書(Post-Approval Change Management Protocol、PACMP)の審査が完了していること、この経験を今後のパイロットプログラムに活かしていくこと等が発表されました。

シンポジウム11 総合討論の様子 シンポジウム11 総合討論の様子

一般演題<ポスター>

ポスター発表は、製薬協薬事委員会から以下の6つのテーマについて発表が行われました。

医薬品医療機器総合機構が行う対面助言の現状及び企業の現状認識に係るアンケート

製薬協 薬事委員会 申請薬事部会 杉原 正 委員、他                                            

製薬協薬事委員会に加盟する64社を対象に、2021年10月~2022年9月に実施した対面助言について、第一部「対面助言全般」として、相談件数、医薬品事前評価相談に対する企業の考え方、対面助言全般に対する意見を採り上げ、第二部では「個々事例」に関する調査結果が報告されました。

新型コロナ感染症(COVID-19)の影響により、主にウェブで面談が実施されていましたが、多くの企業からはメリットありとの意見が示されました。対面助言の満足度は高いことがうかがえましたが、さらに満足度を上げるための意見として、PMDAの柔軟な見解や代替案の提示、PMDA担当者とのコミュニケーションに関する事項(背景等の補足説明)等の要望が挙げられました。事前評価相談については、前回調査と同様に関心は高いものの、相談実績は少なく、メリットの明確化を求める声が多くあったことが報告されました。

日本における申請ラグの現状調査に関するアンケート

製薬協 薬事委員会 申請薬事部会 呉 サン 委員、他                                            

2020年~2021年度に承認された新有効成分含有医薬品69品目のうち、未承認薬・適応外薬検討会議品目を除外した67品目の申請ラグについて、アンケート調査の結果と、同期間に小児適応に関連する承認(効能・効果または用法・用量追加)を取得した新医薬品35品目の調査結果が報告されました。

申請ラグのタイプは、同時申請と欧米先行がそれぞれ全体の42%と40%を占めていること、小児適応の承認を取得した新医薬品は、欧米先行が最も多いことが示されました。第III相国際共同治験への日本の参加と同時申請が開発戦略の主要な選択肢として定着したこと、小児適応承認における欧米先行の要因として日本の臨床環境の整備が求められていることが挙げられました。

本発表は、第13回優秀ポスター賞を受賞しました。

申請薬事部会のポスター発表の様子 申請薬事部会のポスター発表の様子

新医薬品の審査状況に関するアンケート2023

製薬協 薬事委員会 申請薬事部会 山本 善一 委員、他                                           

2022年1月~12月に承認された新医薬品162品目のうち、製薬協薬事委員会加盟会社64社が承認取得した117品目を対象としたアンケート調査結果が報告されました。申請から承認までの中央値の期間は、通常審査品目で10.9ヵ月、通常審査品目以外で7.3ヵ月でした。

初回面談を実施した割合は3年連続で減少し、初回面談で議論されたトピックについて、今回は効能・効果が多かったとの報告がありました。審査の満足度は、これまでのアンケート結果に基づく改善(担当者への携帯電話支給、押印省略や電子化(Gateway)等)に対して前向きな意見が複数寄せられたとの報告がありました。一方、専門協議の見直し等の「効率化」、照会事項発出タイミングや最適使用推進ガイドラインの運用プロセス・議論等の「透明性」「制度・通知の見直し」によりさらなる改善を期待することが挙げられました。

日本製薬工業協会薬事委員会加盟会社における開発プロジェクトの現況 ~グローバル開発実施状況からの考察~

製薬協 薬事委員会 申請薬事部会 米田 賀行 委員、他                                           

製薬協薬事委員会加盟会社64社を対象として、2022年3月末時点における開発中および申請中のプロジェクトについて、グローバル開発の最新の傾向や傾向変化が報告されました。開発疾患領域は、近年の傾向と同様、抗悪性腫瘍薬の割合が高く、グローバル開発品目の割合は8割以上を占めていたことが報告されました。開発ストラテジーとして、リアルワールドデータの利活用の状況、グローバル開発における日本人を含むPhase I試験の実施状況、小児医薬品開発に対する企業の考え方について報告され、小児医薬品開発着手のハードルやインセンティブ等の要望が示されました。

都道府県間での薬事手続きにおける相違について —各種薬事手続きにおける課題解決を目指して—

製薬協 薬事委員会 薬事制度部会 樽井 行弘 委員、他                                           

各都道府県に対して実施している各種薬事手続きあるいは薬事対応のうち、製造販売業者としての薬事対応、GMP適合性調査対応、卸売販売業者としての薬事対応等に関する事項について、製薬協薬事委員会薬事制度部会加盟会社を対象に2023年1月に行ったアンケート調査結果が紹介されました。同じ手続きでも都道府県による違い(窓口提出が必要な手続き、押印の要否、手数料支払い法、手続き書類)があることが明らかとなりました。そのほか、GMP適合性調査の手続きの対応および卸売販売業でのサンプル卸の許可手続きにおける許可証の記載が都道府県によって異なっていることもわかり、これらの都道府県による違いが、各製薬企業にとっては共通化された手続きへのニーズとなり、行政および企業の両者の負担軽減あるいは効率化の方法をさらに追求すべきであるとの考えが示されました。

基準確認証制度の現状およびGMP適合性調査制度の更なる合理化について —製造販売業者の立場からの考察—

製薬協 薬事委員会 薬事制度部会 藤川 誠 委員、他                                            

2021年8月改正医薬品医療機器等法施行において導入された基準確認証制度について、製薬協薬事委員会薬事制度部会加盟会社を対象に2022年11月に行ったアンケート調査結果を、2022年のレギュラトリーサイエンス学会で報告した2021年アンケート調査結果と比較しながら紹介しました。本制度は導入から約2年経過するも利用の進展が見られず、普及のための対策が必要である一方で、いまだ製造販売業者の立場から本制度利用のメリットが見出せず、適用範囲の拡大等、本制度をさらに発展させる要望が多いことがわかりました。本制度によるGMP調査効率化への寄与の検証を踏まえ、GMP調査制度に係るリソースの最適化、そしてGMP調査全体のさらなる合理化を図る必要があるという考えが示されました。

薬事制度部会のポスター発表の様子 薬事制度部会のポスター発表の様子

最後に

2022年から開始された「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」において、ドラッグ・ロス/ドラッグ・ラグ問題の解消、小児医薬品開発の促進、医薬品の製造方法に係る薬事審査等のあり方、薬事制度におけるリアルワールドデータの活用のあり方等、薬事規制のあり方を検討する必要があることが指摘され、「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」が立ち上げられ、検討が進められています。

2023年の学術大会では、これらの課題がシンポジウムで採り上げられ、さまざまな立場から数多くの積極的な議論が行われました。これらを通じて、今後、レギュラトリーサイエンスの推進と産学官間のさらなる連携がいっそう進むと思われ、レギュラトリーサイエンスがさらに発展し、本学会の活動がますます活発になっていくことが期待されます。

(薬事委員会 竹内 豊小室 真人中西 顕伸山内 園子

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