イベント・メディア向け情報イベント・メディア向け情報

医師主導臨床試験と企業治験の違い

医師主導臨床試験と企業治験の違い
東京慈恵会医科大学臨床研究支援センター 景山 茂 氏

ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)をはじめとする一連の問題報道をきっかけに、臨床試験のあり方に関して、昨今さまざまな報道が行われています。承認申請を求める企業治験に厳しい規制があるのに対し、医師主導臨床試験をはじめとするEffectiveness Trialには厳格な規制がありません。日本における医師主導臨床試験はどうあるべきなのか、また規制を設けるべきか否かの議論のベースとなる、医師主導臨床試験(Effectiveness Trial)と企業治験 (Efficacy Trial)の違いを理解してもらうため、2014年8月4日に製薬協メディアフォーラムを開催し、東京慈恵会医科大学臨床研究支援センターの景山茂氏が「医師主導臨床試験と企業治験の違い」をテーマに、講演しました。この講演の要旨を紹介します。


東京慈恵会医科大学臨床研究支援センター 景山 茂 氏

●1.エビデンスの歴史

  「薬を使った、病気が治った、故に薬が効いた」という論法が成立しないことは周知のとおりです。現在では、介入する因子以外の要素の偏りをなくし、比較可能性を得るためのランダム化(ランダム割付)による試験が理想的です。
  医療の根拠を示すための研究は歴史的にもさまざまな形で行われてきました。1750年代にジェームズ・リンドにより実施された「壊血病」研究のはじめての比較試験にはじまり、1840年代にはジョン・スノウによる「コレラ」研究、1880年代には日本の海軍軍医である高木兼寛による「脚気」研究など、病気の発症とその原因に関する関係を調べる研究が行われ、治療の道筋を作ってきました。
  世界で最初のランダム化比較試験としては1940年代のMRC(Medical Research Council)により実施されたストレプトマイシン研究が挙げられます。結核の患者さんに対して、「ベッド上安静群」と「ストレプトマイシン投与と安静群」に分けて、胸部X線所見および「死亡」という客観的な指標で薬効を評価した意義ある研究です。

●2.臨床研究デザインの分類

 現在実施されている臨床研究は、観察研究(Observational Study)と介入研究(Interventional Study)に大きく分類されます。観察研究にはありのままの状態におけるフォローアップ研究や症例対照研究があり、介入研究においては、多くはランダム化比較試験のデザインが採用されています。

図1 臨床研究と臨床試験

 臨床研究と臨床試験を図式化すると、このようになります。治験とは医薬品や医療機器の製造販売承認のための資料収集を目的とする臨床試験を指します。
  創薬には長い時間をかけた試験が実施されます。薬の素となる新規物質の発見と創製にあたる基礎研究に2〜3年、非臨床試験(製剤学的試験、毒性試験、薬理試験、薬物動態試験など)に3〜5年、その後ヒトを対象とした有効性と安全性の試験である臨床試験(治験)に3〜7年かかります。臨床試験の中の第1相(フェーズⅠ)は少数の健康な人を対象に、副作用などの安全性について確認します。通常は健常成人男子を対象に実施されますが、抗がん剤などの場合は患者さんを対象に実施されます。次に第2相(フェーズⅡ)において、少数の患者さんを対象に有効で安全な投薬量や投薬方法などを確認します。さらに第3相(フェーズⅢ)において、多数の患者さんを対象に有効性と安全性について標準薬やプラセボとの比較を行います。
  これだけの試験を実施すれば治験により医薬品のエビデンスは万全でしょうか。
  治験の限界(制約)を表現する「Five Too’s」と呼ばれるものがあります。

● Too few
一般に治験は多くとも2,000名程度までの規模で実施されるので決して十分な人数における検証が行われているわけではありません。
● Too simple
複雑な症例やほかの薬を使っている場合などは治験への組み入れへの除外対象となるため、それらのエビデンスを得ることはできません。
● Too median-aged
通常は20代から70代の年齢層で実施されますが、子供や80歳以上の高齢者は除外されます。
● Too narrow
いったん発売されると、ほかの疾患を併発した人などにも使用されますが、それらのエビデンスを治験で得ることはできません。
● Too brief
通常、治験は長くても1年程度の期間で実施されることが多いため、長期間使用した場合の安全性や有効性に関するエビデンスは不十分です。

  上記の限界をカバーするために、製造販売後の調査や臨床試験が実施され、発売後の安全性や使用法のチェック、薬の改良と開発に活用されています。しかしながら、実臨床における効果やヘテロな集団における効果を検証するためには、さらなる研究が必要とされるのです。

●3.Efficacy TrialとEffectiveness Trial

 Efficacy TrialとEffectiveness Trialについては適当な日本語訳がないため、英語のまま使用しますが、先述の治験は Efficacy Trialに該当します。現在、社会的に問題になっている臨床試験はEffectiveness Trialで、実臨床の条件下における薬の効果を検討する試験を指します。

図2 Efcacy Trial( Explanatory Trial)と Effectiveness Trial( Pragmatic Trial) の比較

景山 茂、臨床試験の考えかたと分類、CRCテキストブック 第3版 日本臨床薬理学会 編 2013年 p.81-8

図3 医師主導臨床試験と企業治験

 厳格な規制のもとで実施される治験に対し、GCPは適用されず倫理指針により実施されるEffectiveness Trialに治験並みの規制を設けるべきとの動きに対しては懸念を感じています。Effectivenessをみる医師主導臨床試験に求められる要件、精度は治験とは異なります。Efficacy Trialを念頭にEffectiveness Trialを論じると制度・規制をミスリードする恐れがあります。いったん、不祥事が起こると世論は極端な方向に振れますが、ここは慎重に検討を重ねるべきだと考えています。診療ガイドラインにエビデンスとして取り上げられる臨床研究に対しては、モニタリングや監査を実施するなど、第三者による監視はある程度必要と考えます。厳しい規制を設ければ不適切な事例はなくなると思います。しかし、1つの不適切な事例をなくすために、他の多くの研究を抑制してしまっては本末転倒といえます。適切な規制により日本での臨床研究が前進することを期待します。

メディアフォーラム会場風景

メディアフォーラム会場風景

●終わりに

 景山氏が紹介した、東京慈恵会医科大学の創設者でもある高木兼寛の海軍における脚気の実験航海による研究は、同時対照をとっていない研究デザインであったことや、ビタミンという概念がなかった時代のため、事象の起こるメカニズムを説明できないことを理由に、事象自体が否定されてしまったそうです。この研究の結果を活かすことができなかった陸軍では残念なことに多くの兵士が脚気で亡くなりました。一方、海軍ではこの研究成果を活かして、脚気の撲滅に成功しました。患者さんのベネフィットのためにも、日本における臨床研究のあり方を世界に通用するものとするための議論を尽くさねばなりません。


以上が今回のフォーラムの要旨でした。

このページのトップへ

  • キャンペーン
  • 製薬協ニューズレター メールマガジン登録はこちらから
  • くすり研究所
  • 治験について
  • グローバルヘルス
  • Stop AMR 薬剤耐性に対する製薬協の取り組み
  • APAC
  • くすりの情報Q&A
  • 製薬協のテレビCM