宣伝会議賞 中高生部門
審査レポート第1弾
製薬業界=イノベーティブな業界という課題に、
中高生が出した答えとは?
「宣伝会議賞 中高生部門」審査レポート
AIによる創薬、デジタルデータの活用、未知のウイルスへの迅速な対応。
製薬業界はいま、大きな変革の時代を迎えています。かつてないスピードで進化を続けるこの業界の姿を、次世代を担う中高生はどのように捉え、どんな言葉で表現するのでしょうか。
第63回「宣伝会議賞」中高生部門において、私たち日本製薬工業協会(製薬協)が掲げた課題テーマは、「製薬業界がイノベーティブな業界であることを表現するキャッチフレーズ」です。
単に「薬をつくる産業」というイメージを超え、その背景にある革新性や情熱、そして未来への挑戦を言葉にする——。
大人でも簡単ではないこの課題に、全国の中高生が真摯に向き合い、数多くの作品が寄せられました。
本記事では、そうした一つひとつの言葉に込められた思いを受け止めながら行われた、「協賛企業賞」選考の舞台裏をレポートします。
中高生の発想を刺激した「3万分の1」というキーワード
「製薬企業」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。一般的にはかぜ薬や塗り薬が身近かもしれません。ですが、病院で処方される薬や様々な治療に使われる薬も含めて、世界には非常に多くの薬があります。新しい薬が一つ、世に出る確率はなんと、わずか3万分の1ほど。基礎研究から承認までには、9年から16年もの長い歳月と、莫大な費用がかかります。それでもなお、まだ治療法のない病いに向き合う患者さんのために、決して諦めることなく、最先端の科学を駆使して挑戦を続ける。それが、製薬業界です。
こうした業界の価値や挑戦を、若い世代に少しでも身近に感じてもらい、業界の理解向上や将来の人材育成につなげていきたい。その想いから、今回、「宣伝会議賞 中高生部門」への課題協賛を行いました。
最先端のバイオテクノロジーやAI創薬といった技術革新のスピードは、近年ますます加速しています。しかし、どれほど技術が進歩しても、そこに社会的価値が宿り、人々の幸せにつながらなければ意味がありません。特に私たちが「産業ビジョン2035」で掲げる「創薬イノベーション」や「患者・市民参加型創薬の実現」を「Co-creation(共創)」で推進していくためには、製薬業界の視点だけでは不十分です。医療の受け手である患者さんや生活者、とりわけ未来の主役となる若い方の感性こそがこれからの新薬開発に欠かせなくなってきます。そのため今回、製薬業界の革新性や情熱、未来へのわくわく感を、中高生ならではの視点と言葉で表現していただくことを期待し、キャッチフレーズを募集しました。
予想を超える応募数と、かつてない審査プロセス
製薬業界がもつ複雑でスケールの大きな取り組みを、短いキャッチフレーズで表すことは決して簡単ではありません。「イノベーティブ」という言葉が持つ幅広い意味に加え、「薬」という製品そのものだけでなく、その裏側にある人々の想いや、技術の進歩までをどう表現するかという難しさもあります。
今回の課題は、そうした製薬業界の本質をしっかり理解したうえで、中高生ならではの感性で言葉にすることが求められる、非常にハードルの高いものだったと言えるでしょう。
しかし約2ヶ月の募集期間で、私たちの予想を大きく上回る数の応募が寄せられました。これは、多くの中高生が製薬業界という未知の領域に関心を持ち、悩みながらも言葉を紡ぎ出してくれた、何よりの証です。
その熱意に応えるべく、審査は5段階、製薬協の役員を含む延べ100名以上が関与するプロセスで実施されました。これほど多くの人が関わり、議論を重ねて意思決定を行う取り組みは、製薬協としても過去にあまり例をみない試みでした。
「なぜこのコピーが良いと思ったのか」
「この表現に、中高生たちはどんな想いを込めてくれたのか」
中高生とは思えないほどレベルの高い作品が多く寄せられたからこそ、審査員一人ひとりが真剣に向き合い、時に頭を悩ませながら選考を進めました。中高生の言葉が、大人の心を動かし、本気の議論を引き出した瞬間でした。
易しくも本質を突く言葉に「ハッとさせられた」
審査を通じて、多くの審査員が口を揃えたのが、中高生の「翻訳能力の高さ」です。業界の中に長く身を置いていると、どうしても専門用語や正確な定義にとらわれてしまいがちです。しかし中高生の作品は、言葉のテクニックではなく、「それが患者さんにとってどんな希望になるのか」という視点で語られていました。理屈ではなく、「自分ならどう感じるか」という生活者としての実感。その素直な視点こそが、審査員の心を動かした大きな要因だったと感じています。 審査を終えたばかりの4名の審査員にも、今回の取り組みを振り返っていただきました。
驚きと発見に満ちた、中高生ならではの視点
「純粋に驚いたのは、『こんなにたくさん応募してくれたんだ』ということでした。若い方々が、この難しいテーマに自分の思いついたアイデアを投稿してみようというモチベーションをこれほど高く持っていただけたことに、深く感動しました。応募作品を見ても、様々な表現が使われていて、なぜその言葉を選んだのかという意図を見てみると『なるほど』と思わされることが多かったです。
今回はイノベーティブな業界というテーマでしたが、若い人たちの頭の柔らかさはすごいですね。業界の中にいると、イノベーションというテーマでも決まり切った硬い言葉になりがちですが、中高生は直接的な言葉を使わず、例えば『ヒーロー』といった言葉を使って『困ったときには助けてくれる存在』という柔らかい表現をしているケースもあり、すごく新鮮でした。
製薬協は今、『Co-creation』、つまり共創をキーワードにしており、今後の活動にもその精神を織り込んでいきたいと考えています。薬は案外身近にあるもので、一生の中で必ずお世話になる場面があるでしょう。この業界の大切さや薬の価値といったイメージを、今回の応募作品のように、中高生の皆さんと『共に創って』いければと思っています」
日本製薬工業協会 広報委員会 委員長
多田毅 (武田薬品工業株式会社)
「井の中の蛙」を打ち破る、中高生の鋭い着眼点
「今回の審査で大変だったのは、非常にレベルの高い多くの作品から絞り込む必要があることでした。審査基準としては、やはり『イノベーション』という協会のテーマがありますから、それを喚起させる言葉を第一に選ぶ必要がありました。テーマと少しズレているために、とても面白い発想であっても、また、能力の高さを感じさせながらも選外にせざるを得なかった作品も多くあり、そこはとても辛い決断でしたね。 私たち業界にいる人間は、どうしても『井の中の蛙』になりがちで、難しい専門用語を当たり前のこととして使う傾向があります。しかし今回、中高生の皆さんは、創薬イノベーションという難しい概念を平たい言葉で表現し、かつ鋭い着眼点を持っているものが数多くありました。易しい言葉でありながら、本質を突いている。そうした作品に出会えたことは大きな発見です。 出張授業でもお伝えしていることですが、私たちは『失敗にくじけない』こと、そして『失敗からこそイノベーションが生まれる』ものと信じています。失敗の原因を考え抜いた先に新しい発想が生まれ、その連鎖の果てに『3万分の1』の確率で薬が生まれる。この地道で実直なチャレンジこそが製薬業界なんです。
今回の宣伝会議賞を通じて、そうした業界の姿を知り、興味を持って調べていただいた結果、将来この業界に入っていただければとても嬉しいですね」
日本製薬工業協会 広報委員会 副委員長
京川吉正 (塩野義製薬株式会社)

日本製薬工業協会 広報委員会
井村竜太(小野薬品工業株式会社)
期待を超える力作を、複数視点で選び抜く
「業界のことをあまり知らない中高生がどんなキャッチフレーズを生み出すのか、期待と興味がありましたが、実際には驚くほど良い作品が多く、選定には本当に悩みました。
その中でも、選定にあたっては自分なりにいくつかの視点を設けました。たとえば『医薬品産業の挑戦を軸にした視点』や『患者さんのニーズを軸にした視点』などです。
それぞれの視点で作品を見比べながら、どのコピーが心に響くかを考え、一つひとつ丁寧に選びました。」
日本製薬工業協会 広報委員会
森雄亮(住友ファーマ株式会社)
AI時代でも埋もれない、人の数だけある発想
「AIなどのテクノロジーが活用できる時代にもかかわらず、一つとして同じものはなく、予想を超える内容がたくさんありました。
選考は非常に難しいものでしたが、中高生からの多様なアイデアに触れることで、自分自身の視野も広がり、非常に刺激的な時間でした。」