トピックス 「令和6年度費用対効果評価制度の見直しに関する説明会」を開催
2024年3月28日、ベルサール東京日本橋(東京都中央区)とオンラインのハイブリッド形式で「令和6年度費用対効果評価制度の見直しに関する説明会」を開催しました。講師として、厚生労働省 保険局医療課 医療技術評価推進室の中島美穂氏、国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センターの福田敬氏、日本大学医学部 医療管理学分野の田倉智之氏を迎えました。当日は会場とオンライン合わせて250名以上の参加がありました。講演の概要は以下の通りです。
会場の様子
費用対効果評価制度の概要と実際について
厚生労働省 保険局医療課 医療技術評価推進室 先進・再生医療迅速評価専門官 中島 美穂 氏
当制度の見直しに関して、変更された項目ごとに以下のように解説がありました。
分析方法に関する事項
分析対象集団の取り扱いの整理については、データが開示されない等、企業の協力が得られず、分析が困難と判断される場合には、該当集団に対する係数は最低の係数として最終評価します。
費用対効果の品目指定
再指定時等の運用については、以下の通りです。
・ | 保険適用時に指定基準を満たさない品目の指定について、市場拡大によって基準に該当するかの確認は、四半期再算定の運用等を参考に四半期ごとに確認します。 |
・ | 再指定時の価格調整範囲について、加算部分割合は、薬価収載時における算定薬価(外国平均価格調整を受けた品目および費用対効果評価に基づく価格調整を行った品目で再指定を受けた品目については、当該価格調整前の価格をいう)に対する有用性系加算の加算額の割合とします。 |
分析プロセス
製造販売業者は、人員不足等を理由に分析不能を申し出ることができます。また、製造販売業者は、分析が困難であることの理由および公的分析に分析の根拠となるデータが提供できるか否かを報告することとします。費用対効果評価専門組織は通知上で規定する手続きにより、製造販売業者が提供する分析の根拠となるデータをもとに公的分析を行うか否かを決定します。
介護費用の取扱い
介護費用の分析結果が得られた場合の取り扱いについて、レケンビに係る特例的な取り扱いも踏まえつつ引き続き議論します。
費用対効果評価の結果の活用
各学会が作成する診療ガイドライン等の検討にあたって、その評価結果等の活用のあり方を国立保健医療科学院等が検討します。また、厚生労働省においても関係学会や関係機関に対して費用対効果評価制度に関する情報提供を行う等、関係学会と連携のうえ、適切に対応します。
分析体制の充実に関する事項(分析体制の充実について)
公的分析結果の学術的な取り扱いについてはこれまでも検討されています。現在、国立保健医療科学院において、報告書としてウェブサイトに公開されている分析結果を論文形式で公的刊行物等に掲載することを検討しており、引き続きこうした取り組みの進捗状況を確認します。厚生労働省においても、引き続き関係学会等に対する周知や人材育成ならびに分析体制への支援を行い、公的分析班に携わる人材の確保および組織の充実を行います。
費用対効果評価分析ガイドラインの改訂について
国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター センター長 福田 敬 氏
今般取りまとめられた「中央社会保険医療協議会における費用対効果評価の分析ガイドライン第4版(2024年度版)」(以下、分析ガイドライン2024年度版)について、第3版からの変更点が解説されました。本ガイドラインは、中央社会保険医療協議会において評価対象として選定された医薬品・医療機器・再生医療等製品の費用対効果評価を実施するにあたって用いるべき分析方法を提示しており、製造販売業者により提出される分析と公的分析を対象としています。
第3版からの主な変更点は「分析対象集団」「比較対照技術」「追加的有用性」「分析手法」「効果指標の選択」「モデル分析」に関するものであり、詳細は以下の通りです。なお、今回説明のあった分析ガイドライン2024年度版(日本語版および英語版)は、国立保健医療科学院保健医療経済評価研究センターのウェブサイト(https://c2h.niph.go.jp/ )にて公開されています。
分析対象集団
複数の集団がある場合の患者割合について、長期的な観点からの推計を基本とすることが記載されました。ただし、当該推計が困難な場合は、上市から一定期間後の安定した状態における断面の患者割合を用いることも考えられます。
比較対照技術
臨床的に標準的な治療法として用いられているものの中で、治療効果がより高いものを1つ選択する考え方が明記されました。ただし、比較対照技術の設定に関する基本的な考え方はこれまでから変更ありません。
追加的有用性
非無作為化比較対照試験の扱いや、ネットワークメタアナリシス実施の際の注意点(ネットワークの広さ、投与量等)が記載されました。これには、複数の分析手法が実施可能な場合は、実施した方法を選択した理由について十分に説明する必要があることや、いずれの分析手法においても追加的有用性の評価に用いた各研究については文献情報を報告書中に提示する必要があること等が含まれます。
分析手法
費用および効果同等とすべき場合について記載されました。
効果指標の選択
QOL(Quality of Life)値を測定する方法の推奨順位および利用する際の留意点が記載されました。これには、海外で得られたPBM(Preference Based Measure)の回答について、日本における換算表を用いたQOL値の集計、マッピングの実施、ビニエット法によるQOL値の測定等に関する記載が含まれます。
モデル分析
マイクロシミュレーションを用いる際の注意点が記載されました。これには、結果の再現性が担保できるよう、乱数のシード値を設定すること等が含まれます。
医療経済学における費用対効果評価の考え方
日本大学 医学部 医療管理学分野 主任教授(東京大学大学院 医学系研究科 医療経済政策学 兼任) 田倉 智之 氏
医療経済学における費用対効果評価の考え方について、以下のように講演がありました。
医療経済学を論じる背景
費用対効果評価の制度設計においては、患者アクセスや財政への影響等の次の基本方針が示されていました。1)治療が必要な患者のアクセスを確保すること、2)透明性の高い仕組みとすること、3)財政への影響を考慮すること、4)既存の薬価制度、材料価格制度を補完することです。また、当制度の背景として医の倫理も確認する必要があります。医の倫理とは、医療者が守るべき行動の(体系的な)規範や基準を指すものであり、混乱や矛盾が生じた場合に専門家が参照できる一連の価値観から構成されます。
日本の社会保障の収支は悪化しており、その背景として経済基調と高齢化率が影響しています。持続的な診療提供のために医療経済の議論が必須です。医療革新に伴う新規医薬品の高騰化が注目されており、価格水準、適正な価格、支払方法を議論するためにも価値評価が望まれます。医療価値を評価する理論と手法として、「限界効用と費用効果」の理論・手法の応用が考えられます。
医療が置かれた状況から、患者さん(個人)と社会(公共)の立場のバランス(配慮)が必要です。世界医師会宣言(旧World Medical Association(WMA)マドリッド宣言、1987年)では、Professional Autonomyが言及されており、医師の責務(配慮、視点)として、診療機会の公平性を念頭に医療資源の適正使用も必要とされています。つまり、「目の前の患者さん」のみに医療資源を過剰に消費してしまい「次の患者さん」の治療機会(医療資源)がなくなってしまわないよう、医療者は適正な診療・看護を心がけるべきであり、医療制度運営の環境が厳しくなる中において、限られた医療保険財源の効率的かつ効果的な配分がますます希求され、次世代の患者さんも含む集団全体の価値の最大化を目指すことも重要です。
患者さん(個人)と社会(公共)の立場に配慮しつつ、次世代の患者さんも含む集団全体の価値の最大化を目指す流れでは、臨床経済的な根拠も背景に診療選択(例:年齢検討等)の議論も散見されます。そして、選択基準の議論は次の3つの要素から整理すべきです。1)臨床成績(介入のリスクとベネフィット)、2)標準治療(コンセンサスとエビデンス確立)、3)社会経済(システムの持続性や生産性)です。また、個人・社会に対する価値が見いだせない場合は、選択指標や選択基準を検討する必要があります。ここまでの整理から、費用対効果評価においては「公益性」の重視が想像されます。
コンセンサスとエビデンス
医療保険財政のひっ迫と医療イノベーションの進展等を背景に、エビデンス(臨床的、経済的な有用性)や財政均衡(数量×単価=総計)にかかわる議論が進んでいます。海外の循環器領域では、診療ガイドラインにおいては医療経済評価の視点も一般的になりつつあります。診療ガイドラインが拠る基本的手法として、比較分析も含めて集団の特性や介入のアウトカムの代表性や頑健性(確からしさ)が基盤となります。
エビデンスについては、さまざまな論点や要点はありますが、最後には集団の分布等が肝になります。費用対効果分析は、シミュレーション研究(マルコフモデル、モンテカルロ法等)の占める割合が多いですが、英国オックスフォードエビデンスセンターやGRADEによると、シミュレーション研究は、エビデンスレベルや質を厳密に論じられないため、その取り扱いを事前に検討することが望まれています。
ここまでの整理から、費用対効果評価においては、「分析枠組み」が重要と推察されます。手法が技術的に洗練されていても、デザインに問題があれば、正しい結論(目的達成)に至らない可能性があります。
費用対効果評価への期待
臨床試験データの少ない新薬等の費用対効果評価は、モデリング等の積極応用も不可欠と考えられます。そして、費用対効果評価は、因果推論の証明のみならず、制度上の意思決定の立場でも創薬等(医療の発展)にとって大変重要であり、以下のように整理されます。
・ | 実証実験/証明のツールとして(時間をかけてエビデンスを積み上げる意義はある) |
・ | 意思決定のツールとして(確実なデータが少ない、エビデンスレベルが不明でも議論はできる) |
・ | 臨床経済的予測のツールとして(医療資源の配分、投資・回収の推定もできると良い) |
費用対効果評価は、医療革新を下支えする、または促進する意思決定ツールとして期待されます。
(産業政策委員会 産業振興部会 費用対効果評価対応チーム リーダー 湯淺 晃、サブリーダー 戸部 啓亮、加藤 雅章)