政策研のページ 政策研の2編の研究レポートの発刊について

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政策研では日々の調査研究の内容を公表資料として発刊しています。毎年3月、7月、11月をめどに「政策研ニュース」を定期発刊しているほか、個別の調査研究内容をまとめた「リサーチペーパー」や研究会の年度報告書等を発刊しています。ここでは、2020年6月に発刊されたリサーチペーパーNo.75『患者視点から「医薬品の価値」をあらためて考える』と『医療健康分野のビッグデータ活用研究会報告書 vol.5』について、内容の紹介をさせていただきます。

(1) リサーチペーパーNo.75
『患者視点から「医薬品の価値」をあらためて考える—創薬・育薬・活薬の好循環を目指して—』

医薬産業政策研究所 前主任研究員 田村 浩司

本文はこちらからご覧ください。

2019年5月に公表したリサーチペーパーNo.73『「医薬品の価値」をあらためて考える』の中で、医薬品の "価値の連鎖"として「価値をつくる(創薬)」→「価値をそだてる(育薬)」→「価値をとどける/いかす(活薬)」の3つの段階を考え、「活薬」=創製された医薬品の価値を適切にお届けし適切に使用していただくことにより医薬品の効能・効果を正しく発揮させることの結果として、その価値が顕在化され最大化されると記載しています(図1)。

図1 医薬品の価値の連鎖(3つのフェーズ)

この「活薬」のためには、提供者(製薬企業)側は当該患者さんに有効・有用な「モノ(としての医薬品)」+「(必要な)情報」を適切にお届けすることが、また利用者(患者さん)側には適切な使用法を守ってお使いいただくことが、それぞれ必要となります。診療技術の進歩や、新しいモダリティ(治療技術)等による薬物治療法の進化等によって、 "個別化医療"あるいは "適正医療"に対する取り組みの重要性がいっそう増している中、われわれ製薬企業においても正しい「活薬」に向けた活動をいっそう進めていく必要があると考えています(図2)。

図2 環境変化を踏まえた今後の医薬品の役割とは

その点を踏まえて、今回公表したリサーチペーパーNo.75『患者視点から「医薬品の価値」をあらためて考える—創薬・育薬・活薬の好循環を目指して—』では、正しい「活薬」のあり方、および、その実現のための課題と解決方法等について、できるだけ患者・国民側の視点に立って述べています。全体は4章で構成されています。

第1章 なぜ「患者視点」からの「医薬品の価値」なのか

『医薬品の価値の3つのフェーズ』では、「創薬」「育薬」「活薬」の3段階のうち、なぜ「活薬」にあらためて注目したのかを述べています。バイオ医薬品をはじめとする薬物治療の進歩に伴い、その使用方法が難しいものも増えているという薬剤側の理由とともに、特に長期間の治療を要する場合や長寿化に伴う「疾患との共生」が避けられない中で、治療中の生活の質(QOL)をできるだけ落とさずに治療を受けたいという患者さん側のごく自然な望みも、「活薬」の重要性が高まっている理由となっています。そして「活薬」には、医師と患者さん、さらには(医師や薬剤師を介したかたちを基本とする)製薬企業と患者さんの協同(協働)作業が必要となります。公益社団法人日本薬剤師会と一般社団法人くすりの適正使用協議会では「活薬」について、「くすりは正しく使ってこそのくすり」と表現しています。

第2章 医薬品の3つの価値と、患者・国民視点

ここでは、「活薬」の基本を「モノの品質」×「流通品質」×「情報品質」と位置づけたうえで(図3)、リサーチペーパーNo.73で整理した「医療的価値」「社会的価値」「保健基盤的価値」に関して、患者・国民視点からあらためて説明しています。特に「医療的価値」と「患者・国民視点」については、日本でも近年徐々に注目されるようになってきている「患者・市民参画」(Patient and Public Involvement、PPI)という考え方に基づいて、創薬・育薬への患者・市民の関与のあり方等について記述しています。

図3 「活薬」=「医薬品(モノ)の品質」×「流通品質」×「情報品質」

第3章 よりよい「活薬」のために:課題と解決策

この章では、「活薬」には「くすり」×「情報」×「リテラシー」の3要素が必要であると位置づけ、情報提供者(製薬企業)、情報利用者(患者さん)それぞれに求められること、および、情報提供における公的(第三者)機関等の役割について述べています。

第4章 患者と医療提供者が同じ志向で病と闘うために

ここでは、「リスクコミュニケーション」と「患者の権利基本法」をキーワードに、病という共通の闘うべき相手に対し、関係者がどのように連携すべきかについて論じています。

本リサーチペーパーが、これまで必ずしも直接の接点が多いとはいえなかった製薬企業と患者さんの距離を少しでも近づけ、協同に進む一助になれば幸いです。

(2) 『医療健康分野のビッグデータ活用研究会報告書 vol.5』

医薬産業政策研究所 主任研究員 佐々木 隆之

本文はこちらからご覧ください。

2015年7月に立ち上げた「医療健康分野のビッグデータ活用研究会」も、2019年度で5年目の活動を終えました。この間にデータ駆動型社会に対する関心や理解が進み、我が国でも「Society 5.0」の取り組みやデジタルトランスフォーメーションなど、データ駆動型社会の実現に向けた動きも活発化してきました。そこで2019年度は、価値を生み出す源泉である「データの要素」に着目しました。

データ駆動型社会では、データ活用が自律的・継続的に発展する「データエコシステム」の形成が重要です。そしてその実現には、実際に使えるデータを生み出すこと、またデータへのアクセス性が高まることが前提になります。こうした視点から、特にデータの「クオリティ」と「アクセシビリティ」の要素を中心テーマとして設定し、調査研究を行いました(図4)。

図4 医療ヘルスケア分野におけるデータエコシステムの構成要素

医療ヘルスケアの「データエコシステム」で主役となるのは「デジタル化された患者・生活者のデータ」です。電子カルテや画像データ等の医療情報に始まり、ゲノム情報、健診・検診データや生活・行動データなどのPersonal Health Record(PHR)も含めた多様な情報が対象となります。これらのデータが実際に使えるデータとして生み出されるためには、利用目的に応じた質の確保や、連結・相互運用の可能性を高めるとともに、データへのアクセス性を高め、データから創出された価値や成果が速やかにフィードバックされる環境を整備することが必要となるでしょう。

ただし、健康医療に関する情報は、特に機微性の高い情報が多く含まれるため、利活用促進と個人情報保護の両立を図ることが求められます。個人が自分のデータにアクセスでき、また適切にコントロールできる環境整備と、公益性の高い研究や事業におけるデータ利活用を広げていく枠組みの構築といった、情報の提供から活用に係るそれぞれの立場でのアクセシビリティを高める方策が必要です。

また、データの2次利用を進める視点では、データベースやレジストリ等の構築に際し、2次利用も前提としたデザインを進めることが大切です。これに加え、データ提供者がデータを安全に・安心して提供できるシステムを構築すること、国民と一体となった研究を推進し、成果やメリットを実感しやすい仕組みの社会実装を進めることといった、国民の理解を深める施策も、重要であるといえるでしょう。

こうした視点から、本報告書では、下記の3つの観点を重要な方策としてまとめています(図5)。こうした取り組みにより、データ駆動型ヘルスケアの実現がさらに進展していくことが期待されます。詳細な情報は、報告書本編をご覧いただければと思います。

図5 重要な方策

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