くすりの情報Q&A Q8.自然に病気を治す力(自然治癒力(しぜんちゆりょく))とくすりの関係は。
回答
くすりは、あくまでも人間がみずからの力で病気やけがを治(なお)すための助けとなるものです。くすりを上手に用いることで、私たちがもっている自然治癒力を回復させることが、本来の役目なのです。
解説
自然治癒力は、人間にもともと備わっている能力の一つだといわれています。
昔から「手当て」という言葉があるように、おなかが痛い時などに患部に手を当ててじっとしているうちに、症状が治(おさ)まってしまうことがあります。
また、かぜをひいた時、消化の良いものを食べ、暖かくして寝ていると、治ることがあります。これらは人間が持つ自然治癒力のおかげといえるでしょう。
私たちが、痛みなどの強いストレスを感じた時、脳下垂体(のうかすいたい)からエンドルフィンという物質が分泌(ぶんぴつ)されます。このエンドルフィンには、麻薬のモルヒネと同じ作用、つまり痛みや不安をやわらげる力があります。
人間(女性)が経験する典型的な痛みは出産だといわれますが、分娩(ぶんべん)の前からエンドルフィンの活性は高まり始め、分娩(ぶんべん)時には通常の6倍にも達することがわかっています。出産のストレスと痛みに対応するために、人間の体はみずから、エンドルフィンという麻薬をつくり出しています。
このことからわかるように、自然治癒力には、人間の体が病気やけがを乗り切るためにつくる「体内のくすり」が大きく働いていると考えてもいいでしょう。
エンドルフィンの他にも、強心薬のジギタリスと同じ作用をする物質や、狭心症の発作を抑(おさ)えるニトログリセリンとよく似た効果をもつ物質が、私たちの血管の内面(内皮細胞)から分泌されることがわかっています。
また、私たちがけがをした時、傷(きず)が化膿(かのう)して、膿(うみ)が出ることがあります。膿は、侵入しようとする細菌を防ぐために、白血球が闘った跡(あと)なのです。白血球のような食細胞は、体内に入り込もうとする細菌を食べることで、病気の感染を防いでいます。
このような抵抗力も、人間のもつ自然治癒力の一つだといえます。
人間の体には、このような優れた治癒力が備わっていますが、時にはその能力を超えた強い病原菌が侵入することがあります。また、ストレスが続くと、自然治癒力が弱まることもあります。このような時に病気にかかると、「体内のくすり」や白血球だけでは抵抗できなくなり、くすりの助けが必要となるのです。
図表・コラム
8|自然治癒の概念
体内の反応が順調におこなわれていれば健康(常態)です。しかし、何らかの理由で反応が不調になると病気(病態=異常)になります。その時、生体内反応は常に健康な状態に戻ろうとして働きます。これを「ホメオスタシス」といいます。
この恒常性の維持能力を大きく超えた病態については、くすりの力を用いて常態(健康)に戻す必要があります。