環境問題検討会
有馬委員長インタビュー

気候変動対策や循環型社会の実現は、あらゆる産業にとって避けて通れない重要課題です。特に、人々の生命と健康に貢献する製薬業界にとって、環境問題への取り組みは、医薬品の安定供給という使命を守り、社会からの信頼を支える基盤となります。その中心的役割を担うのが、2022年に発足した「環境問題検討会」です。業界が一体となってこの難題に挑むための中核として活動しています。製薬業界が直面する課題、具体的な取り組み、そして今後の展望について、環境問題検討会の有馬覚委員長に伺いました。

人類と地球の健康のためにできること
環境危機における製薬サプライチェーン強靭化

生命関連産業の責務を果たす、環境問題への挑戦

私たち環境問題検討会の最も重要な使命は、製薬協が掲げる『産業ビジョン2035』の柱の一つである「トラスト」、すなわち社会から信頼される産業となるための基盤を確立することです。WHOが「21世紀最大の健康への脅威」と警鐘を鳴らすように、気候変動は人々の生命に直接的な影響を及ぼします。生命関連産業である私たちがこの課題に真摯に向き合うことは、医薬品の安定供給を維持し続けるための事業基盤そのものであり、当然果たすべき責務でもあります。
環境問題検討会は、こうした世界的な意識の高まりを受け、製薬協としての取り組みを強化すべく2022年に発足しました。日本製薬団体連合会(日薬連)の環境委員会とも密接に連携し、業界一丸となって活動を推進しています。

「カーボンニュートラル」と「循環型社会」の二つが重要な課題

現在、私たちが特に注力している課題は二つあります。一つは「カーボンニュートラルの実現に向けた気候変動対策」、もう一つは「循環型社会の実現に向けた廃棄物問題への対応」です。
カーボンニュートラルは、単にCO₂を削減するだけの話ではありません。近年の異常気象や自然災害は、医薬品の原材料調達から製造、物流といったサプライチェーン全体を脅かす深刻なリスクです。私たちは人々の健康を守るため、強靭なバリューチェーンを構築していく必要があります。
また、循環型社会の実現に向けては、プラスチックの取り扱いが大きな挑戦です。例えば、医薬品の包装に使われるPTPシートは、プラスチックとアルミニウムの複合素材であり、リサイクルが技術的に非常に難しいという業界特有の課題を抱えています。
これらの課題に対し、私たちは具体的な目標を掲げ、着実に取り組んでいます。CO₂排出量(スコープ1・2)については、日薬連と共同で「2030年度までに2013年度比で46%削減」という目標を掲げ、再生可能エネルギーへの転換などを進めた結果、2023年度実績で40.4%の削減を達成しました。目標達成は可能だと考えていますが、残りの削減余地を見つけるのは年々厳しくなっているのも事実です。

バリューチェーン全体で挑む、未来への布石

より大きな挑戦は、自社だけでは完結しないバリューチェーン全体での課題です。当検討会では、「カーボンニュートラル行動計画グループ」がスコープ3に、「循環型社会形成自主行動計画グループ」が廃棄物問題といったテーマにそれぞれ専門的に取り組んでおり、発足から3年目を迎え、ようやく業界全体の課題解決に向けた土台作りに着手したところです。
スコープ3については、サプライヤー各社の排出量を統一基準で算定することが難しく、業界としての削減目標をまだ設定できていません。この課題を解決するため、私たちは官民が連携して進める環境省の「令和7年度バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業」に応募し、採択されました。この事業を通じて、業界共通で利用できる排出量の算定ルールやガイドラインを作成する計画で、これが今後の戦略を左右する重要な一歩となります。
循環型社会への取り組みでは、PTPシートのリサイクルなど、個社の先進的な事例を業界内で共有し、横展開を図っています。さらに、優れた取り組みを表彰・共有する「製薬サプライチェーン環境表彰」という制度も新たに開始しました。優れた事例を広めることで、業界全体のレベルアップを目指しています。

「連携」から「Co-creation(共創)」へ

患者さんが手に取る医薬品が、当たり前に環境に配慮されたものであること。私たちは、その状況を目指すべきだと考えています。環境配慮は付加価値ではなく、医薬品の安定供給と産業の信頼を支える事業活動の大前提です。
短期的な最重要課題は、スコープ3の算定基盤の確立です。そしてその先には、「2050年までに業界としてカーボンニュートラルを達成する」という高い目標を見据えています。この壮大な目標は、製薬業界だけで達成できるものではありません。『Co-creation(共創)』の精神に基づき、サプライヤー、政府・規制当局、アカデミアといった多様なステークホルダーの皆様と手を取り合ってこそ、初めて実現可能です。
規模も状況も異なる皆様と共に、環境問題という共通の課題に立ち向かう。そのための共通ルールを作り、誠実な情報公開を重ね、建設的な対話を促進することで生命関連産業としての責務が果たせるものと信じています。この責務を、委員会のメンバーと共に、着実に果たしていく所存です。

環境問題検討会の体制、活動は製薬協のホームページに掲載しています。是非サイトにアクセスしてみてください。

【環境問題検討会 サイト】
環境問題検討会 | 委員会からの情報発信 | 日本製薬工業協会

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