くすり相談対応検討会
若杉委員長インタビュー

医薬品の適正使用を支える上で欠かせない「くすり相談」。デジタル化の波、患者さんのリテラシー向上、そして遺伝子治療や再生医療といった新しい治療法の登場等、製薬業界を取り巻く環境は大きく変化しています。その最前線で、情報提供の重要な役割を担うのが各社の「くすり相談窓口」であり、そのあり方等を検討しているのが「くすり相談対応検討会」です。環境変化の中でどのように課題に対峙し、患者さんへの医療の最適化に、いかに貢献していくのか?「くすり相談対応検討会」の使命と、2025年度の最重要テーマである「くすり相談対応の指針」の全面改訂、そして今後の展望について、若杉昌宏委員長に伺いました。

くすり相談の力を医療の未来へ
適正使用と患者視点を支える情報提供

3つのステークホルダーが抱える課題と、私たちの取り組み

「くすり相談窓口」の使命は、医療関係者や患者さんからの問い合わせに対し、医薬品情報を「正確・公正・迅速」に提供することです。

医薬品の価値は、製品そのものの有効性や安全性だけでは決まりません。その価値は、付随する医薬品情報とセットになって初めて総合的に評価されます。私たちは、医療従事者や患者さん一人ひとりのニーズを深く理解し、適切な情報を提供する「最後の砦」として、医薬品本来の価値を維持・向上させる役割を担っています。この活動は、製薬協産業ビジョンの基盤となる「トラスト(信頼)」に直接貢献するものだと自負しています。

「くすり相談対応検討会」の役割は、社会や業界の環境変化の中で生まれる新たな課題を抽出し、対応策を検討・提言することで、各社のくすり相談窓口全体の質を高めていくことです。 現在、当検討会の対象には「医療関係者」「患者さん」「製薬会社」という3つの主要なステークホルダーが存在し、それぞれに情報提供や対応に関する課題があります。
まず「医療関係者」においては、遺伝子治療のような新しい治療法が登場し、求められる情報が飛躍的に高度化しているという課題があります。また、電話だけでなくウェブ等を活用した24時間アクセス可能な情報提供体制の構築も急務です。各社でデジタル化の進捗に差があるため、私たちは各社の実態調査や最新のデジタル技術に関する情報共有を通じて、業界全体のデジタルリテラシーの向上を目指しています。

次に「患者さん」においては、リテラシー向上に伴う質問の多様化に加え、「カスタマーハラスメント」への対応という大きな課題もあります。私たちはこれを顧客側のみの問題とはせず、問い合わせに対応する「メディカルコミュニケーターのスキル強化」によっても解決できるものと考えています。高度なコミュニケーションスキルを身に付けることで、ハラスメントへの発展を防ぎ、コミュニケーターの負担軽減と業務の生産性向上につなげます。

そして「製薬会社」においては、製品開発や改良、適切な情報提供やクレームの再発防止につながる貴重な情報源として、「ボイス・オブ・カスタマー(VOC)」を的確に活用するという課題があります。単にVOCを社内の関係部署に伝えるだけでは、受け流されてしまうこともあります。重要なのは、VOCから本質的な課題を特定・抽出し、具体的な解決策として提案できる仕組みを構築することです。私たちは成功事例を共有し、VOCを活かすための各社における組織的な仕組みづくりを提言しています。

『指針』の全面改訂と今後の展望

先ほど述べた課題に体系的に取り組むため、私たちは今年度、これまでの活動の集大成として「くすり相談対応の指針」を2025年10月に全面改訂する予定です。

この指針の初版は1995年に作成され、これまで何度か改訂されましたが、今回の改訂は部分的な修正ではありません。デジタル技術、カスタマーハラスメント、VOCの活用という3つの重要課題を網羅的に反映させるため、構成そのものから抜本的に見直す大幅なアップデートです。現場のコミュニケーターが日々の業務で困ったときに参照できるバイブルとして、また各社の業務マニュアルに組み込める実用的な指針となることを目指しています。この指針が、各社のくすり相談対応の質を維持・向上させ、最終的には患者さんに対する医療の最適化に貢献できると信じています。

私たちの活動は、この指針の改訂で終わりません。夜間や休日を含めた医療現場の診療体制に合わせた対応が求められる中、24時間体制での情報提供はますます重要な課題となっています。AIの活用を視野に入れつつ、企業の規模に関わらず実現可能な将来像を業界に示していく必要があります。

私は委員長として、検討会メンバーが自由に議論できる活発でオープンな環境を作ることで、潜在的な課題をも見つけ出し、解決していきたいと考えています。私たちは、患者さんと直接対話できる唯一の窓口としての責任を胸に、情報提供の「最後の砦」として、これからも製薬業界の信頼を支え続けていきます。

くすり相談対応検討会の体制、活動は製薬協のホームページに掲載しています。是非サイトにアクセスしてみてください。

【くすり相談対応検討会 サイト】
くすり相談対応検討会 | 委員会からの情報発信 | 日本製薬工業協会

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