国際委員会
村上委員長インタビュー

日本の優れた創薬力を、いかにして世界中の患者さんに届けるか。各国の薬事規制や医療財政、そして複雑化する国際情勢など、その道のりには数多くの課題が横たわっています。世界と日本の製薬産業をつなぐハブとしての役割を担うのが、国際委員会です。グローバルヘルスへの貢献という大きな使命を胸に、同委員会が描く未来の姿について、村上伸夫委員長に伺いました。

アドボカシー活動によるグローバルプレゼンスの強化
ステークホルダーとの連携を推進

製薬業界の"架け橋"としてグローバルヘルスの実現に挑む

国際委員会の使命は、日本で生まれた革新的な医薬品を、世界中の患者さんに確実に届けることです。日本の製薬企業が海外でのビジネス展開をサポートすることを目指していますが、同時に医薬品へのアクセスがまだ十分に確保されていない国々への貢献や感染症対策も含め、世界の医療に貢献するという「グローバルヘルス」の視点も根幹に据えています。

製薬協の多くの活動が国内志向になりがちな中で、国際委員会は外部に目を向け、国内外をつなぐ「ハブ機能」を担っています。具体的には、海外の最新動向を正確に把握し、産業政策や知的財産、薬事など、製薬協内の各専門委員会にその情報を共有しています。同時に、日本が発信したいメッセージを世界や海外の国々に向けて伝えていく役割も担っています。この双方向のコミュニケーションを通じて、日本の医薬品産業のグローバルなプレゼンスを一層高めようとしています。

日々の活動においては、各地域の市場特性や課題に応じてアプローチを変えています。

アジアは、各国で薬事規制や医療財政の状況が大きく異なり、日本と同じように医薬品を届けることは容易ではありませんでした。このため国際委員会は、各国の医療制度の基盤づくりを支援することに重点を置いています。薬事面では、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)とアジア各国との協議を長年に亘り支援、これにより日本のデータを活用して承認手続きを進められる国が増え、開発・承認プロセスが大幅に効率化されつつあります。

アクセス面では、日本は世界でも有数の国民皆保険制度を成功させてきた実績があります。このノウハウを先進事例としてアジア各国の政府や関係団体に共有することや、他国の取組み事例の紹介により、限られた医療財政の中でも、革新的な医薬品がアジアの患者さんの手に届くような仕組みの構築を支援しています。

一方で欧米では、各国の医薬品価格政策がビジネスに与える影響が大きな課題となっています。過度な医療費抑制策は製薬企業の投資意欲を削ぎ、結果的にイノベーションや患者さんのアクセスを阻害しかねません。国際委員会は、現地の製薬団体や在外公館と緊密に連携し、各国へポジションペーパーの提出やパブリックコメントを実施、今後はさらに直接交渉を通じて、ビジネス環境を整備したいと考えています。

現在問題となっている米国における医薬品関税問題やMFN(Most Favored Nation Price)への対応は、日本の製薬産業にとって非常に大きな意味を持っています。国際委員会は、産業政策委員会と連携した特別チームを立ち上げ、対応を検討しています。

関税は患者さんの医薬品アクセスを阻害し、グローバルな医薬品の安定供給を脅かすリスクがあるという基本認識のもと国際委員会では「医薬品の関税はゼロであるべき」という立場を堅持しています。
MFNも不確実な状況ですが、大きな影響を与える可能性があり、米国研究製薬工業協会(PhRMA)などと緊密に連携、現地の動向や業界の意向を正確に把握し、最も効果的な方法を模索しています。

Global Health課題にも取り組んでいます。
感染症対策では国内外の感染症関連イベントでの情報発信やアドボカシー活動を通して、サステナブルなビジネス環境作りも積極的に行っています。

また、医療環境の整備が十分でない国への支援活動もしています。本年も国立がんセンターの協力のもと、ベトナム最大の公的病院への研修を行い、抗がん剤調剤マニュアルの作成や調剤室の整備を実現させました。適切な院内物流や暴露対策により、患者さんや医療関係者の安全性確保とともに、地域全体の医療環境整備にも貢献しております。

「発信力強化」に向け、マルチラテラルアドボカシーグループを新設

国際委員会が現在最も重要視しているのは、日本の「発信力強化」です。優れた創薬力やグローバルヘルスへの貢献活動を行っているにもかかわらず、その情報が十分に世界に伝わっていないという課題を感じています。それを克服するため、この4月に「マルチラテラルアドボカシーグループ(MLA-G)」を委員長直下に新設しました。

目的は、WHOやG7/G20といった国際的な場で製薬協の見解を発信することです。まだ立ち上げたばかりのグループですが、他の委員会と連携し、多様なテーマに関するポジションペーパーを作成・共有により、製薬協の意見をより強力に発信を目指します。

宮柱会長が掲げる「Co-creation(共創)」の精神は、国際委員会の活動にも深く浸透しています。
国際委員会は、自らが専門性を持つというよりは、多様な知見を有する他の委員会と連携することや、製薬協以外の様々なステークホルダーとの協力関係により、より強力な発信を実現したいと考えています。そのことにより、「海外への発信力」が飛躍的に高まることが期待されますので、国際委員会への参加や、連携の重要性を製薬協全体に強く訴えていきたいと考えています。

日本の医薬品市場が世界の中での相対的なシェアを下げていく状況下、医薬品産業が日本のリーディング産業として発展するためにも、今後ますますグローバルでのビジネス展開が重要となります。国際委員会は、一連の活動を通じて日本の製薬企業の国際展開のサポートを行います。その実現のためにも、グローバル市場での存在感を一層高めるとともに、今後も変化する世界情勢に柔軟に対応しながら、積極的な活動を展開してまいります。

国際委員会の体制、活動は製薬協のホームページに掲載しています。是非サイトにアクセスしてみてください。

【国際委員会 サイト】
国際委員会 | 委員会からの情報発信 | 日本製薬工業協会

このページをシェア