知的財産委員会
奥村委員長インタビュー
政府の「知的財産推進計画2025」に医薬品データ保護制度が初めて明記されるなど、製薬業界の知財戦略は大きな転換点を迎えています。さらに、AI技術の急速な発展は、これまでの知財の枠組みそのものを問い直すものです。こうした変化の中、知的財産委員会は、従来の活動に加え、新たな領域への挑戦を始めています。委員会の取り組みと今後の展望について、奥村浩也委員長に伺いました。
共創とイノベーションを支援する知財制度の実現を
魅力ある事業環境の実現を目指して
「医薬品データ保護」「パテントリンケージ」「特許期間の延長」の三つが重要課題
知的財産委員会の活動には、これまで4つの柱がありました。「国内の知財制度課題の解決」「国際的な知財制度の調和」「グローバルヘルスなど国際的な知財課題への対応」、そして「知財情報の発信」です。
しかし、AI技術が驚くべきスピードで発展し、オープンイノベーションが加速する今、知財はもはや知財だけの問題ではなくなりました。そこで私たちは、従来の4本柱に加え、「研究開発と知財」「産業政策と知財」といった、複数の領域が重なる「境界領域」への対応を5本目の新たな柱として取り組み始めています。これが、今の時代の要請に応えるための、私たちの新しい挑戦です。
私たちの継続的な課題は、知財制度の改善です。特に「医薬品データ保護」「パテントリンケージ」「特許期間の延長」は"三点セット"とも言える重要な課題であり、中でも「医薬品データ保護」と「パテントリンケージ」は大きな動きがあり、現状での最重要課題と位置付けています。
「医薬品データ保護」とは、医薬品販売承認申請において医薬品規制当局に提出される試験データを、一定期間、第三者による利用から保護する制度です。日本の現行の再審査制度は実質的に同様の機能を持っていますが、法的な権利ではないため、侵害されても対抗措置を取ることができません。また、海外からは「日本にはデータ保護制度がない」と誤解されることもあり、日本の創薬環境にとって大きなデメリットとなっていました。
この長年の課題に、今年進展がありました。政府がまとめた「知的財産推進計画2025」に、データ保護制度の必要性が「課題の認識」として初めて明記されたのです。これは、今後の幅広い議論に向けた扉を開く、「第一歩」です。私たちはこの機会を捉え、製薬業界としての意見を集約し、次のステップである「施策の方向性」への格上げ、そして将来的な法改正へと繋げていきたいと考えています。
「パテントリンケージ」は、後発医薬品について、先発医薬品に係る特許の侵害訴訟等によって安定供給の問題が生じることがないよう、薬事当局が後発医薬品の承認にあたって、先発医薬品に係る有効特許を考慮する仕組みです。現状では、後発品が承認される段階になって初めて情報が開示されるため、事前の調整時間が足りません。私たちは、後発医薬品の申請段階での開示、及び早期の事前調整機会の設定等を導入すべく、制度の改善を求めています。
「イノベーション推進タスクフォース」の新設で共創の可能性を広げる
5本目の柱である「境界領域」での活動も、具体的に動き出しています。委員会内に「イノベーション推進タスクフォース」を新たに設立し、研究開発委員会や産業政策委員会など、他委員会との連携の可能性を探っています。例えば、ベンチャー企業の知財戦略を支援する勉強会や、産学官コンソーシアムにおける契約のサポートなど、私たちが貢献できることは多くあるはずです。
また、AIと知財の問題は避けて通れません。「AIが発明者になり得るか」といった根本的な議論が世界中で始まっています。製薬業界では、AIが自律的に創薬を行うのはまだ先かもしれませんが、今のうちから研究者も交えて議論を進め、来るべき未来に備えておく必要があります。
私たちの活動は、国内に留まりません。国際的な制度調和も重要な使命です。例えば、中国では近年、知財制度が大きく変わりましたが、国際標準とは異なる部分も見受けられます。私たちは、様々な協議の場を通じて、政府に改善を働きかける活動も継続しています。
こうした知財制度の整備は、最終的に患者さんの利益に繋がると信じています。医薬品データ保護制度が法制化されれば、これまで日本での開発が見送られていた医薬品(ドラッグラグ/ロス)への投資が促進されるかもしれません。それは、日本の医薬品開発環境を改善し、患者さんへ新しい治療選択肢を届けることに繋がります。
世の中がこれだけ早い速度で変わる今、知財だけで完結する問題は少なくなりました。私たちは、従来の4本柱を深化させると同時に、5本目の柱である「境界領域」を強く意識し、共創を通じてイノベーションを支える活動を、これからも推進していきます。
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【知的財産委員会 サイト】
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