薬事委員会
柏谷委員長インタビュー

「創薬力の強化」と「医薬品の安定供給」は、日本の製薬業界、ひいては国民の健康を支える上で極めて重要なテーマです。しかし、その実現の途上には、規制のあり方や国際競争力の観点から、数多くの課題が横たわっています。薬事委員会では、医薬品医療機器等法の制度運用や承認審査、安全対策といった薬事規制の諸問題について調査検討し、研究開発型製薬企業の立場から政策提言を行っています。2024年に取りまとめられた「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」で見えた課題、そして深刻化する「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス」にどう立ち向かうべきなのでしょうか。今後の展望について、同委員会の柏谷祐司委員長に伺いました。

薬事制度はどう変わり、どうあるべきなのか
目指すべきは国際調和なのか

「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス」など課題は多い

薬事委員会が担っているのは、企業活動の効率化や承認審査の迅速化など、各種薬事行政に関する政策提言活動です。研究開発型製薬企業の立場から、日本の創薬環境をより良くするために、制度運用上の課題を調査し、改善を働きかけています。

その活動の根底には、常に薬害の歴史と向き合い、日本人の安全性を第一に考えるという哲学があります。その上で、いかにして優れた医薬品を一日でも早く患者さんのもとへ届けるかという両立こそが、私たちに課せられた使命だと考えています。

近年の議論の中で、いくつかの課題が浮き彫りになっています。一つは、規制緩和における行政と業界の“解釈のズレ”です。例えば、日本人を対象とした第1相試験に関する規制緩和が通知された際、一部の企業では「第1相試験が全面的に不要になった」という誤った解釈が論じられるケースがありました。行政やPMDA(医薬品医療機器総合機構)が踏み込んだ姿勢を示しているからこそ、製薬業界側も規制緩和の背景やその意図を正しく理解し、判断するという成熟した対応が求められています。

希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定においても、もどかしい状況があります。私たちの働きかけで指定件数は増加したものの、審査側のリソース不足から、結果的に優先対面助言や優先審査非該当品目という新しいカテゴリーが制度化されました。これでは希少疾病の患者さんに早期に医薬品を届けるという本来の目的を達成できず、指定件数の増加が単に薬価上の優遇措置を享受する品目増加に留まっているのが現状です。これはPMDAの工数不足という構造的な問題であり、共に解決策を探る必要があります。

そして、日本の医療における喫緊の課題が「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス」です。海外では承認されている革新的な医薬品が日本では使えないという問題の本質は、「海外ではアクセスできる治療に、日本ではアクセスできない」という点に尽きます。単に未承認であることだけを問題にするのではなく、治験などを通じて患者さんが治療にアクセスできる選択肢も含めて、この問題を協議する必要があるでしょう。

また、品質関連の国際整合性も深刻な問題です。品質は人種差がない観点から日米欧で統一されることも不可能ではないと思いますが、各国の薬事規制の違いが影響し、例えば各国の薬局方の国際的なハーモナイゼーションは30年以上も議論されています。

既存制度を改めて見直し、改善を続けていく

これらの課題を乗り越え、日本の創薬力を再び世界最高水準に引き上げるために、私たちは長期的な視点で制度を運用し、変革していかなければなりません。

ドラッグ・ラグ/ロス対策においては、海外で承認された医薬品を迅速に国内で活用するための「条件付き承認」という制度が選択肢の一つとなります。もちろん、データの信頼性といった懸念点はありますが、リスクを管理しつつ、患者さんの利益を最大化する道を模索すべきです。重要なのは、一度承認した薬が、5年後、10年後も患者さんへ継続的に供給されているかを国として検証し、制度の改善に繋げていくことです。

先日、条件付き期限付き承認された製品が薬価削除となる出来事がありました。これを単なる「失敗」で終わらせてはなりません。なぜ有効性を確認できなかったのか、その理由を企業と国が連携して深く分析し、今後の対象品目の設定や運用方法に活かす、そうした学びのサイクルを回していくことこそが、制度を真に価値あるものへと成熟させます。

また、リアルワールドデータの活用も今後の鍵となります。まずは添付文書の改訂などで着実に実績を積み重ね、長期的にはAIなども活用しながらデータの信頼性を担保し、新薬承認申請にも活かせる未来を描くべきです。

「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」を起点に、私たちは既存の制度を深く議論をすることができました。今後は、まだ注目されていない制度などにも目を向けて「本当に今でも通用する制度なのか」を立ち止まって改善の必要性を継続して見直していきたいですね。

薬事委員会の体制、活動は製薬協のホームページに掲載しています。是非サイトにアクセスしてみてください。

【薬事委員会 サイト】
薬事委員会 | 委員会からの情報発信 | 日本製薬工業協会

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