バイオ医薬品委員会
藏夛委員長インタビュー

新型コロナウイルス感染症は、国内におけるワクチン製造体制の重要性を改めて浮き彫りにしました。その一方で、バイオ医薬品の製造現場を担う「人材」の不足という課題も明確になりました。バイオ医薬品委員会は、この喫緊の課題に正面から向き合い、未来の創薬を支えるための革新的な取り組みを進めています。日本のバイオ医薬品産業が世界をリードする存在となるためには、何が必要なのでしょうか。今後の委員会としての取り組みなどについて、藏夛敏之委員長に伺いました。

革新的なバイオ医薬品等を創出・安定供給を
バイオ製造人材の確保と魅力の発信

国内におけるバイオ医薬品の「人材育成」は重要課題

バイオ医薬品委員会の使命は、遺伝子組換え及び細胞培養タンパク質医薬品に加え、予防ワクチン、治療ワクチン、再生医療・細胞治療、遺伝子治療等の全ての革新的なバイオ医薬品を創出するための環境基盤整備を推進することです。そのために、研究開発から生産、市販後に至るまでの課題を幅広く調査し、政策提言などを行っています。

その活動の中で、私たちが大きな課題として認識しているのが、国内におけるバイオ医薬品の「人材育成」です。特に、製造現場を担う人材はもちろんのこと、アカデミアで見出された有望なシーズを製品へと結びつけるための、いわば創薬プロセスの「後ろの部分」を担う人材が決定的に不足しています。具体的には、プロセスの設計や製法開発、試験法開発、そしてそれらのプロセス全体を見据えて品質保証を構築する人材、さらには国内外の薬事申請に対応できる専門人材まで、幅広い領域に及びます。

経済産業省の支援などにより、有事の際にワクチン製造へ切り替えられるような大規模な設備投資は進んでいます。しかし、いざ設備が稼働する段階になっても、それを動かす「人」が足りていません。この構造的な問題を解決することこそ、私たちの喫緊の課題です。

この人材不足に対し、私たちは二つの軸で具体的な取り組みを進めています。一つ目は「即戦力となるバイオ製造人材の育成」です。今後数年で国内の製造基盤が次々と立ち上がるのを見据え、製薬企業が保有する実生産設備を他社の若手人材の育成に活用する実践的な教育プログラムがすでに開始しています。この取り組みは、一般社団法人バイオロジクス研究・トレーニングセンター(BCRET)がとりまとめの機能を担い、厚生労働省とも連携しながら活動しています。

二つ目は「将来のバイオ製造人材の教育支援」です。5年後、10年後を見据え、バイオ医薬品の生産についての学びの機会が少ないためにその開発・生産現場を就職候補先としてイメージしにくい学生に対してバイオ医薬品製造の魅力を伝え、「気づきのきっかけ」を与える機会を創出することを検討しています。

この人材育成支援策は、個社の利益を超え、日本のバイオ医薬品産業全体の裾野を広げるための挑戦です。国内の人材が増えれば、海外に委託せずとも日本で製造を完結できるようになり、ひいては国際競争力の向上にも繋がります。経済産業省は2030年までに1,000人規模のバイオ人材育成が必要と試算しており、私たちはこの目標達成に向けて各社の取り組みを後押ししていきます。

基盤研究の推進とワクチン事業の強化にも取り組んでいく

人材育成と並行し、私たちは創薬環境の基盤を底上げするための、より専門的な調査・研究にも取り組んでいます。例えば、産学官の連携を強化してスタートアップを支援する施策の検討や、新しい医薬品の承認申請における記載事項のあり方の研究、さらには再生医療等製品の規制に関する課題について、PMDAや関連団体と実務者レベルで毎月議論を重ねるなど、地道な活動を継続しています。

もう一つの重要な柱として取り組んでいるのが「ワクチンに関する諸課題の解決」です。新型コロナを経て顕在化した課題や、少子化による小児定期接種市場の縮小を踏まえると、企業が安定的に設備などへの継続的な投資を行い、国内でワクチンを安定供給できる体制を整えることが急務です。また現在の制度では新しい技術を用いた付加価値の高いワクチンの研究開発を後押しする、インセンティブが十分といえません。そのためには、開発優先度の高いワクチンを速やかに定期接種に組み込むことで市場の予見性を高めることや、安定供給・生産性向上のための供給体制整備への支援が不可欠です。

また、全ての人が個々の感染症リスクに応じて生涯を通じて適切なタイミングでワクチンを接種する「Life course immunization」という考え方を日本においても積極的に推進していく必要があります。現状の予防接種法の枠組みでは、B類定期接種や任意接種ワクチンの自治体や被接種者の負担が大きいことなどが課題になっています。例えば、新型コロナワクチンについて、G7諸国の多くで推奨年齢層への接種が無料で提供されているのに対して、日本では一部自己負担が生じる制度に移行しました。こうした自己負担の増加は、接種率の低下につながる可能性が指摘されています。国民が安心して予防接種を受けられる持続可能な環境を整備するためにも、ワクチン産業基盤の強化と予防接種事業の刷新を提言しています。

私たちは常にグローバルな視点を持つことが重要だと考えています。iPS細胞や再生医療といった分野で日本は高いポテンシャルを持っていますが、常に海外をベンチマークとし、世界水準の基盤を整備していかなければなりません。

私たちが始めた人材育成支援策は、そのための「火付け役」です。この取り組みを起点に、人材が育ち、産業が活性化し、さらに新たな人材が集まるという「正のサイクル」を創り出すことが、日本のバイオ医薬品産業の存在価値を高める道だと確信しています。この流れを止めないよう、業界全体が一丸となって取り組むことで、日本のバイオ医薬品産業が世界をリードする未来を実現できると信じています。

バイオ医薬品委員会の体制、活動は製薬協のホームページに掲載しています。是非サイトにアクセスしてみてください。

【バイオ医薬品委員会 サイト】
バイオ医薬品委員会 | 委員会からの情報発信 | 日本製薬工業協会

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