流通適正化委員会
熊谷委員長インタビュー

医療用医薬品の流通は、患者さんへの安定供給と適正な市場形成を担保する上で極めて重要な役割です。しかし、その複雑な商流・物流は、常に様々な課題に直面しています。「1社流通」をめぐる医療現場とのコミュニケーションのあり方や「割り戻し・アローアンス」の透明化、「2024年問題」に端を発する物流コストの上昇と薬価差益の構造的な問題などは、医薬品が患者さんの手元に届くまでのプロセスに影響を及ぼす可能性があります。製薬業界がこれらの課題にどのように向き合い、持続可能な流通の実現を目指しているのかについて、熊谷裕輔委員長にお話を伺いました。

医薬品の価値を踏まえた取引と安定供給を将来に渡って持続できる流通を検討する

流通現場における合意形成の難しさと透明化が課題

流通適正化委員会は、将来にわたって医療用医薬品の流通を持続可能なものとすることを第一の使命としています。医薬品の品質を確保し、安定供給を実現することはもちろん、健全な市場を形成するために、商流・物流に関わるあらゆる事項を調査・分析し、あるべき姿を検討することが私たちの役割です。

具体的には、診療報酬や薬価制度といった医療制度の動向が流通に与える影響を評価したり、より合理的で標準化された取引のあり方を模索したりと、その活動は多岐にわたります。変化し続ける環境の中で、医薬品流通の根幹を支え、将来を見据えた提言を行っていくことが、流通適正化委員会に課せられた責務です。

医薬品流通が直面する課題の中でも、特に難しいのが関係者間の合意形成です。例えば、特定の医薬品の流通を1社に絞る「1社流通」を行う際には、その理由を卸と協力して医療機関や薬局に丁寧に説明することが求められます。しかし、全国に約24万件もの取引先が存在する上、MRやMSといった現場の担当者が減少している中、すべての方に完璧な説明を徹底することは非常に困難なのが実情です。

この問題は、流通形態を問わず、すべての取引において「患者さんへの安定供給」という大前提を、製薬企業、卸、医療機関・薬局といった関係者全員が共通認識として持つことの重要性を示唆しています。

また、長年の課題であった「割り戻し・アローアンス(販売報奨金)」については、流通改善ガイドラインの見直しなどを通じて透明化が進み、着実に改善傾向にあります。具体的には、2018年に医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン(流通改善ガイドライン)が発表されて以来、毎年見直しが行われており、直近では約4割の企業が令和7年(2025年)の改定に合わせて見直しを進めています。2018年以降、継続的に多くの企業が見直しを行ってきたことが確認されており、この動きは今後も進んでいくでしょう。

かつて、広く多数の患者さんに使われる薬剤が主流だったところが、現在は高額な専門薬が増えており、今後もより一層の透明化が重要です。私たちは、こうした現場の課題一つひとつに向き合い、関係者の皆様との対話を通じて、信頼に基づいた円滑な流通の実現を目指しています。

リードタイム確保と効率化で構造的課題を解決していく

将来にわたって安定供給を維持するためには、より大きな構造的課題にも目を向けなければなりません。その一つが、いわゆる「2024年問題」に代表される物流コストの上昇と、薬価差益をめぐる問題です。

現在、卸売業者から物流コストの上昇分を直接的に求める声はありませんが、薬価と市場実勢価格の差(薬価差)が年々縮小する中で、卸も医療機関も厳しい経営環境に置かれています。かつて薬価差益が医療機関の経営資源となっていた時代もありましたが、その構造自体を見直し、本来は診療報酬の中で適切に手当てされるべきだというのが私たちの考えです。製薬企業としても、多大なコストと年月をかけて開発した医薬品の価値が、流通の過程で正当に評価されないという状況は、果たして正常な姿と言えるのか、という問題意識を持っています。

もちろん、私たちもただ手をこまねいているわけではありません。当日出荷から翌日出荷へのシフトや、共同配送の推進など、業界としてリードタイムの確保と効率化に向けた取り組みは着実に浸透しつつあります。また、コロナ禍を経て大きく変化したプロモーション活動についても、デジタルツールの活用などを調査・分析し、新たな時代の情報提供のあり方を模索しています。

医薬品流通を取り巻く環境は、今後も変化を続けます。私たちはその変化に的確に対応し、患者さんが必要とする医薬品を、適正な価値で、安定的に供給できる持続可能な流通システムの構築に向け、これからも活動を続けてまいります。

【流通適正化委員会 サイト】
流通適正化委員会 | 委員会からの情報発信 | 日本製薬工業協会

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