産業政策委員会
岩下委員長インタビュー
日本の医薬品市場は、この10年ほぼ横ばいで推移し、実質的な縮小という厳しい現実に直面しています。この状況を打破し、日本の創薬力を未来へ繋ぐために、今何をすべきなのでしょうか。製薬協で産業政策委員会を牽引する岩下圭二委員長は、薬価制度が重要な課題だと語ります。『製薬協 産業ビジョン2035』の実現に向けた、岩下委員長の展望に迫ります。
日本の医薬品産業の未来を拓くために、産業政策委員会が描く成長戦略とは
医薬品市場全体のあり方と薬価制度が重要な課題
産業政策委員会は、製薬業界が関わる非常に幅広い領域を所管しています。その範囲は、新たなイノベーションの創出から、ドラッグラグ・ドラッグロスといった医薬品アクセスの問題、そして産業振興に不可欠な薬価制度、税制まで多岐にわたります。
多岐にわたるテーマの中で、重要な課題だと捉えられているのが「薬価制度」です。薬価制度は医薬品産業にとって「市場そのもの」に他なりません。処方薬は公的な保険制度のもとで償還価格が決められており、その制度のあり方が企業の経営、ひいては産業全体の成長を大きく左右します。この10年間、市場の成長率は年平均で0.4%程度とほぼ横ばいで推移してきました。これは物価の上昇率をも下回る数字であり、医薬品市場は実質的に目減りしているとも言えます。
薬価制度の中でも特に喫緊の課題として取り組むべきは「革新性の高い医薬品の価値が、適切に評価されているか」という点です。画期的な新薬はその価値に見合った価格が算定され、特許期間中はその薬価が維持される仕組みが必要であり、その仕組みがイノベーションへの投資を促し、次なる創薬へつながっていきます。
「カテゴリー別薬価制度」では、カテゴリー別に改定のあり方を考えなくてはいけません。革新的な新薬については薬価が維持されるべきですし、長期収載品と後発医薬品については改定があってしかるべきです。基礎的な医薬品については、すでに改定を繰り返しもはや下がっていく段階にはないものが多いので、革新的新薬とは違った考え方で、薬価が維持される必要性があるでしょう。
費用対効果評価制度については、さらなる議論が必要です。費用対効果評価制度の開始時には長きにわたって議論がされ、補正加算の対象となった医薬品で売上が一定以上になるものに限定的に適用するということで導入されました。そのため、費用対効果評価制度のあるべき姿は、まだ検討の途中だと捉えています。価格調整の対象範囲や対象品目などについて拡大の議論がありますが、現行制度が本当に機能しているかどうかをしっかり検証したうえで展開していく必要があるでしょう。
Co-creationによって日本の医薬品市場の魅力を高めていく
製薬協では目指すべき未来像として『製薬協 産業ビジョン2035』を策定し、「人々の健康と経済成長に貢献する」ことを謳っています。このビジョンを実現するため、産業政策委員会として多角的な取り組みを進めていきます。
まず何よりも、日本の医薬品市場そのものが魅力的で、持続的に成長していくことが不可欠です。もちろん、社会保障費とのバランスを考慮する必要はありますが、産業振興という観点からも、市場が一定の成長率を保つべきであるという点は、社会のさまざまなステークホルダーの皆様にご理解をいただきたいポイントです。これは、製薬協が掲げる「Co-creation(共創)」の精神にも通じるものであり、対話を通じてコンセンサスを形成していくことが重要です。
次に、日本の創薬力をさらに高めていくためのエコシステムの構築です。もはや、一つの製薬企業の力だけで革新的な医薬品が生まれる時代ではありません。大学や研究機関、そして独創的なアイデアを持つスタートアップは、未来のイノベーションを担う重要なプレーヤーです。彼らが持つポテンシャルを引き出し、具体的な創薬に結実させるために、官民が連携し、適切な仕組みを考えなければなりません。
さらに、産業の基盤を支える制度設計も重要なテーマです。企業の挑戦を後押しする研究開発税制の拡充や、パンデミックのような有事にも対応できる経済安全保障の観点からの政策も、ビジョン実現のためには欠かせません。
今後は、前会長時代に策定された産業ビジョンを受け継ぎ、それを具現化・具体化した議論としてさまざまな政策提言を図っていきます。丁寧に皆さんと議論をし、業界の発展に貢献できるよう活動していきます。
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