「製薬協会長記者会見」を開催 新政権への期待
2024年10月8日、室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区)にて、「製薬協会長記者会見」を対面とウェブのハイブリッド形式で開催しました。同会見では製薬協の上野裕明会長から、10月1日に発足した石破新政権に向け、「新政権への期待-創薬力強化と日本市場のさらなる魅力向上のために-」と題したプレゼンテーションを行いました。岸田前政権からのポジティブな流れを引き継いだ製薬産業に関する支援の継続、さらなる強化への期待を込めたメッセージを発信しました。当日は参加した17社41名(会場参加28名、ウェブ参加13名)の報道関係者と活発な質疑が交わされました。以下、上野会長の発表内容と質疑応答を紹介します。
会見会場の様子
1.はじめに
岸田前政権時代の製薬産業政策の振り返り
岸田前政権が発足した2021年当時から、製薬産業においては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける日本発ワクチン・治療薬の開発の遅れ、ドラッグ・ラグ/ロスの問題、必須医薬品の安定供給の問題などが顕在化していました。これらの諸課題の解決に向け、2022年9月に厚労省に「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が設置され議論が重ねられてきました。その結果である報告書(2023年6月公表)に基づき、日本での開発を促進するための2024年度の薬価制度改革や薬事制度の見直し等が進められました。また、2023年12月からの創薬力構想会議においては日本の創薬力向上について議論され、それを踏まえて7月の創薬エコシステムサミットでは当時の岸田文雄首相自らご講演され「医薬品産業を日本の成長産業・基幹産業に位置付ける」と宣言されました。
今般スタートした石破新政権では、岸田前政権におけるこの流れを止めることなく、諸施策を着実に実行いただきたいと思っています。(図1)

図1 岸田前政権時代の産業政策に関する振り返り
目指す姿の実現に向けて
2023年5月に製薬協会長に就任した際に、私ども製薬業界は世界の人々の健康に貢献し、かつ、日本経済にも貢献するためにも、私どもが入口と称している「日本の創薬力強化」と、出口と称している「イノベーションの適切な評価」、これらが好循環する事が重要とお話ししました。そしてこれらを実現すべく製薬協内でも入口施策および出口施策の議論を重ね、実際の行動に移してまいりました。その過程で改めて認識したことは、この出口施策の入口への繋がりと、さらには入口施策の中のそれぞれの施策の「繋がり」が重要という事です。
従いまして、新政権においては、製薬産業政策を考えるうえで、この繋がりの重要さを十分に認識して各政策を立案、実行に移していただく事を訴えていきたいと思い、本日はその内容についてお話ししたいと思います。
出口施策と入口施策の「繋がり」の重要性
研究から薬事承認までの創薬工程に関する「入口施策」については、これまでも健康・医療戦略の策定とこれに基づく国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の設立など、日本の創薬力強化を目的にさまざまな取り組みがなされてきました。健康・医療戦略は来年度から5ヵ年の第3期に入りますが、振り返りますと、さまざまな取り組みや予算立てがなされてきた一方、各々がバラバラに運用されてきたように思います。これからは、同じカテゴリーの取り組みは統合的に運用することが基本だと考えます。そのうえで、基礎研究段階では連携しやすい同ステージでの取り組みでの繋がり(縦)と、実用化研究になったら各取り組みの時間的な繋がり(横)を意識しながら、効率的・効果的にゴールに向かう運用が成果につながる鍵と考えています。
また、創薬力強化によって生み出された革新的新薬が評価される仕組みである「出口施策」は、入口にも大きく影響します。昨今のドラッグ・ラグ/ロスの問題も、この関係性を示す一例と思います。2024年4月の薬価制度改革は、それまでの薬剤費抑制に偏重した政策から、イノベーション評価への転換点となりました。医薬品の研究開発には莫大な費用と時間を要することから、このイノベーション評価の方針が確実に継続されることは研究開発を進めるうえで重要になります。
このように、日本発の革新的新薬を継続的に創出するうえで、医薬品産業全体を俯瞰し、入口の各施策間の繋がり、そして出口施策と入口施策の繋がりを意識し、政策を継続的かつ統合的に実行することが重要と考えています。(図2)
図2 本日お話したい“繋がり”の重要性
2.出口施策の入口への繋がり-2024年度制度改革の影響-
2024年制度改革のインパクト
2024年度の薬価制度改革は私どもの要望を多く盛り込んでいただいたことでイノベーションへの一定の評価がなされ、我が国のイノベーションを後押しする第一歩となったと捉えています。また、薬事制度の見直しも行われ「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」においてさまざまな検討がなされました。
これらの制度改革が、製薬企業個社にどのように受け止められているか、経営にどのようなインパクトを与えているかの効果検証をすべく、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)、製薬協の製薬業界3団体にて合同調査を実施しました。調査はPhRMAを調査事務局として、薬価制度改革が実施され数か月たった6月下旬から7月上旬に実施しました。調査対象企業は3団体のいずれかに加盟する内資企業10社、外資企業20社の計30社を対象に実施し、回答率は100%でした。
この結果によれば、9割を超える企業が2024年度薬価制度改革を支持し、日本における新薬開発にポジティブな影響が期待できると回答しています。また、各社の行動への影響については、8社が「実際に日本国内の開発計画を前向きに変更した」、16社が「近い将来変更され得る」と回答しています。このような短期間で開発計画が変更されたことは驚くべきことであり、今回の制度改革がインパクトのあったものであると言えます。すなわち、日本市場の魅力を向上することで、海外発新薬の日本における開発の加速や、日本発新薬の研究開発の加速に繋がることが示唆されたことを表してします。
薬事制度見直しに関する各社の評価については、9割を超える企業が「前向きに評価する」との結果が得られております。日本人データの必要性見直しや、小児や希少疾病の取り扱いの見直しを評価する意見を多く確認できました。この結果を見て、薬価制度に加え、薬事制度見直しを含む総合的な環境整備が日本市場のさらなる魅力向上につながるものと考えています。
日本市場のさらなる魅力向上に向けて
今後、海外からの新薬・イノベーション投資を呼び込み、また、日本発新薬の研究開発を加速するには、このイノベーション評価の流れを止めずにさらに進めることが重要であります。日本市場の魅力向上のアクセルとなる要素としては、薬価制度においては新たな価値評価の仕組みの構築、特許期間中の薬価のさらなる予見性向上などが、薬事制度においては国際連携や審査体制のさらなる強化、リアルワールドデータや分散型臨床試験、治験エコシステムの推進などが重要と考えます。ブレーキとなる要素としては、薬価制度の中間年改定や費用対効果評価の拡大などが挙げられます。(図3)
図3 日本市場のさらなる魅力向上に向けて
先ほど日本市場の魅力向上のアクセルとなる要素として紹介した、新たな価値評価の仕組みについてお話しします。ご存知のように、新薬は従来の低分子や抗体製剤などから、核酸医薬、遺伝子治療、再生医療などモダリティが多様化し、その使われ方、患者さんにもたらす価値や造り方などが劇的に変化しており、今後その流れはいっそう加速するものと考えます。一方、新薬の価値を薬価上で評価する仕組みは従前の原価計算方式と類似薬効比較方式の2方式しかありません。日本で先行して研究開発を進める場合は、参照できる海外価格や比較対象となる医薬品や技術がないため原価計算方式で算定することになりますが、革新的な価値の評価がコストの積み上げで良いのか疑問があります。また、製造方法も大きく異なる中で全てのコストが算定できない問題もあります。新規モダリティ等の新たな価値を評価する仕組みの必要性を強く感じています。
このように考えると、入口をさらに活性化させるためには新しいイノベーションに相応しい出口施策を考えることがますます重要になります。
3.入口施策における繋がりの重要性-成果創出のために求められる繋がりとは-
日本の創薬力の現状
ここから話題を少し変え、成果の創出、実用化に求められる「繋がり」についてお話しします。日本の創薬力強化のためには、現状と課題を改めて認識した上で、効果的・効率的な施策の実施が必要です。
ここから数枚のスライドを使い日本の創薬の現状についての認識をお話しします。日本の創薬力を「世界売上上位100品目の創出数」で見た場合、2008年に世界第2位でありましたが、2022年には第6位と順位を落としています。これは特に、モダリティ別に見た場合、化学合成医薬品は第2位であるものの、バイオ医薬品の第6位が影響しています。一方、「グローバル承認品目の創出数」で見た場合には、2013年から2021年の累計となりますが、世界第1位の米国に続いて日本は33.5品目創出の世界第2位につけています(注:出願人として複数の機関が記されている場合、国籍別に均等割している)。如何に新薬を創出するかの点で考えれば、日本は依然として新薬を創出する力は高いレベルを維持しているといえます。そのため、日本に力がある間に、さらなる創薬力強化を図る必要があると考えています。
日本が大型製品の創出で遅れた原因は、バイオ医薬品での出遅れだと言われています。しかし最近では、日本からも世界的にインパクトのあるバイオ医薬品が創出されるようになってきています。各社の研究開発パイプラインを見てみても、バイオ医薬品に加えて新規モダリティのプロジェクトも増加しており、これからの日本企業の巻き返しが期待できます。(図4)
図4 日本の創薬力の現状
入口施策に必要な3つの「繋がり」
日本の創薬力強化に向けては現在でもさまざまな施策が講じられておりますが、その全体像を俯瞰してみるとまだまだ改善の余地があります。今後その実効性を高めるために必要なこととして、「空間的」、「時間的」、「政策的」な3つの「繋がり」が必要です。
1つ目は創薬エコシステムにおける“空間的繋がり”です。創薬ターゲットがより複雑となり、またモダリティも多様化している環境下においては、創薬研究の初期段階から複数のプレイヤー、即ちアカデミア、スタートアップ、そして製薬企業が協働して創薬研究を実施する事がますます必要となります。また、協働を進めるうえでは、いわゆるバイオクラスター内、および各バイオクラスター間におけるヒト・モノ・カネ・情報(知)を繋いで日本の創薬エコシステムとして強化することで、各プレイヤーがいかに上手く繋がれるかが重要となります。創薬エコシステムとして有名なのは米国ボストンです。ボストンでは非常に多くのプレイヤーが限定された地域に集積し、自然発生的に強固な繋がりが形成されています。また、英国ではロンドン、オックスフォード、ケンブリッジと3拠点にまたがるものの、政府が主導しながら人為的な繋がりを形成しています。一方、日本では北は北海道から南は沖縄まで日本各地にバイオクラスターが形成されており、特に首都圏や関西圏ではGTB(Greater Tokyo Biocommunity)※1 やバイオコミュニティ関西(Biock)※2 といった一定程度の集積性を持ったバイオクラスターとして多くのプレイヤーが存在していますが、各拠点間の繋がりは必ずしも十分とは言えません。今後は各地のバイオクラスターにおける各々の特徴を活かした活動に加え、他の地域のバイオクラスター同士が更に連携するような仕組み作りが必要ではないかと思います。日本独自の創薬エコシステムを形成し、また積極的に国内外に発信することにより、海外のエコシステムとの連携、即ち「繋がり」も強化されると考えます。
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※1GTB(Greater Tokyo Biocommunity):一般財団法人バイオインダストリー協会が事務局を務める東京圏におけるバイオ産業の産学官ネットワーク
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※2バイオコミュニティ関西(Biock):「バイオ戦略2020(内閣府)」に基づき、バイオエコノミー社会の実現のため、国際都市型バイオコミュニティの形成を目指す活動を進める、関西圏のグローバルバイオ拠点づくりのための団体
2つ目は基礎研究から実用化研究への“時間的繋がり”です。最近の創薬研究では、アカデミアの基礎研究、発見が重要となります。その先にある、基礎研究の成果を実用化に繋げる実用化研究も当然に重要です。基礎研究と実用化研究ではその性質が異なることから、マネジメントスタイルやファンディングのあり方などについて、両者で区別して施策を考える必要があります。もう一つ重要なのは、これらの基礎研究の中から「筋の良いもの」を選び、これをいかに実用化研究に“繋ぐ”かです。AMEDの設立で、基礎から実用化までのアカデミアの研究支援体制は整備されてきていますが、まだまだ十分な実用化には至っていないのが現状と思います。サイエンスベースで柔軟な運用による“基礎研究”の振興と、薬事承認を目指す“実用化研究”の両立が可能となるよう、社会実装へ向けての実用化研究は基礎研究の延長線上にはないことを理解した上で、リソースを集中しこれを加速化する必要があります。
3つ目は、日本の創薬力強化に向けて実施される日本政府による各種政策や予算の“政策的繋がり”です。これまでさまざまな政策が企画、予算措置、実行されてきたことは、非常にありがたく思っています。しかし、これらの政策が成果創出において必ずしも効果的に実行・運用されていない部分も見受けられます。特にAMEDではさまざまな事業が予算に紐づいて実行されていますが、それらの事業が相互に効果的に連携し、繋がっているかをしっかり検証し、また改善する必要があると考えます。
入口施策においては、空間的な繋がり、時間的な繋がり、そして政策的な繋がりが重要です。これらの3つの“繋がり”を十分意識した上で、一貫性、継続性をもって統合的に実行することが必要です。そして、この“繋がる”ための取組み、“繋がる”仕組みづくりに、製薬協としても協力していきたいと考えています。(図5)
図5 入口施策における繋がりの重要性
4.製薬協の取り組みと新政権への期待
製薬協の取り組み例
最後に、製薬協の取り組みを紹介するとともに、新政権に期待する事についてお話しします。まず、日本の創薬力強化に向け製薬協の取り組み例を示します。製薬協では、個社では対応が難しい課題や、非競争領域での課題を設定した上で、各社がリソースを出し合い、その解決に取り組んでいます。
産学官連携として、研究コンソーシアムの立ち上げ、またアカデミア医薬品シーズ開発推進会議(AMED-FLuX)への協力など、アカデミア研究に早期から産業界の目線を導入する取り組みをしています。製薬企業のメンバーは、アドバイザーや評価委員などさまざまな形で、製薬企業の知識や経験を伝播するよう努めています。
人材育成では、バイオ製造に係る専門人材を育成する機関である一般社団法人バイオロジクス研究・トレーニングセンター(BCRET)へ、製薬協として講師派遣やOJTを実施するなど、積極的に貢献しています。
このような取り組みを通じて、製薬協は関係するプレイヤーとの繋がりを強化し、日本の創薬力強化に貢献していきたいと思っています。
新政権への期待
最後に改めて石破新政権へ期待することとして、2点お話しします。
1点目は、これまでの良い流れを引継ぎ、着実に政策を実行いただくことです。岸田前政権において、製薬産業が日本の成長産業、基幹産業と位置付けられ、政府を挙げて取り組みを進めていくことが国内外に宣言されました。製薬産業における諸課題の解決のために打ち出された諸施策について、新政権でも継続して取り組んでいただくことを望みます。
2点目は、本日お話しした俯瞰的視点および“繋がり”の視点をもって、今後の製薬産業政策を強力に推進いただくことです。製薬産業全体を俯瞰し、入口施策の繋がり、出口施策と入口施策の繋がりを意識し、一貫性をもって継続的・統合的に実行されることを望みます。(図6)
図6 新政権に期待すること
本日は新政権が発足するこの機会を捉えて、「繋がりの重要性」を中心にお話ししました。この考え方を踏まえて、製薬協としての具体的な提案を“政策提言2025”としてまとめる予定です。また、政策提言とともに製薬協におけるアクションを検討し、2025年初旬に公表したいと考えています。
製薬産業が日本の基幹産業として、世界の人々の健康に貢献していくために、我々製薬協もステークホルダーの皆様と連携しながら取り組みを進めてまいります。
5.主な質疑応答
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※カッコ書きでの回答者記載のない回答は上野会長による
Q1:新政権への期待とのことであるが、今回の組閣についてどう受け止めているかうかがいたい。
A1:石破新首相の「岸田前政権の政策を受け継ぐ」の発言から、国の政策を守る姿勢を感じている。「国を守る」という観点からも産業政策に理解を示していただけると思う。また、加藤財務大臣、福岡厚労大臣とも、製薬産業だけでなく医療全体にご理解が深く、我々の課題もご理解いただいていると前向きにとらえている。
Q2:岸田前首相は創薬エコシステムサミットにおいて、「日本を創薬の地としていく」という発言の後に「主役は(製薬企業の)皆さま方だ」と続けていたと記憶している。製薬協として新薬創出にどう取り組むのかうかがいたい。
A2:新薬創出自体は各個社が取り組むことであり、製薬協は業界団体として、新薬を創出しやすくする環境づくりへの貢献を考えている。AMEDの事業そのものはアカデミアの基礎研究をどう実用化に向けるかということにおいて、我々の考えと一致する。ただし、その中身はまだまだ改善の余地がある。産業界の経験を入れることや、人的な貢献などどう貢献できるのかの環境整備を検討している。国が進めるべき基盤整備については、データベースの整備や臨床試験のあり方、治験薬の製造設備などが挙げられる。政策提言の中では製薬協のアクションについてもお示ししたい。
Q3:製薬企業の国内の研究拠点が実質的に消えていっており、「日本はもぬけの殻」と言われている。シーズの芽が出てきてスタートアップが育ってきたとしても、国内にリスクを取って投資する企業がないとどうにもならない。資本力のある外資に期待する考えもあるが、それではシーズが海外に流出してしまう。日本の強みを日本に残しつつ、日本企業がリスクを取って投資する覚悟はないのかうかがいたい。
A3:「日本がもぬけの殻」とは思っていない。海外に研究拠点を持っている国内企業もあるが、国内の拠点を維持している企業が多いのではないか。個社の話になるため私が発言することではないが、海外のイノベーションと国内の研究をあわせて日本発のシーズを育てる考えではないかと思っている。もちろん逆に、海外企業が日本のアカデミアのシーズを導入して海外発の新薬にすることもあるだろうが、それはそれで日本のアカデミアやスタートアップのレベルアップになる。どちらのケースもあるのではないかと思っている。
Q4:「繋がる」については、企業同士のつながり、要は再編を含めた業界の動きをどう見ているかうかがいたい。「新薬メーカーは数が多い」と言っている人もいるがどう思うか。
A4:会社間の連繋について、単純に会社が一緒になることは繋がり方の1つではあるが、経営を統合せずともコラボレーションで繋がることはできる。また、イノベーションは規模の問題でないと思っている。それ故に新しいイノベーションはベンチャーから多く生まれている。そういう観点から、国内に新薬メーカーの数が多い点は課題とはならないと考える。
Q5:今回の薬価制度改革でポジティブな意識変容があったとのことだが、中央社会保険医療協議会(中医協)では十分に理解が得られておらず、支払側からは薬価で評価したとしてもイノベーションにはつながらないのではないかという厳しい意見もあるがどう思うか。
A5:企業は年度単位で経営予算を組むため、通常は半年足らずで開発計画が変わることはない。よって、半年で意思決定がされたというのは制度改革のインパクトがあったのではと捉えている。もちろん、中医協の先生方の理解を得る必要があり、そのためには我々の示し方や理解を得る姿勢の醸成も重要である。海外メガファーマからも今回の制度改革はポジティブな評価を得る一方で、まだ第一歩だとも言っている。改革をさらに進めるためにも、中医協の場で理解を深めていただくべく、意見陳述などで委員の意見にも答えていきたい。
Q6:2024年度の製薬業界3団体アンケートで行動変容が速かったとの話であったが、ということは、半年後、1年後とこれからもう少し時間が経つとさらに行動変容が見えてくることになるのか、今後の見通しをうかがいたい。
A6:行動変容のファクトの把握のために、今回のようなモニタリング、アンケートは定期的に続けていく。個社の動きを業界誌で見る限り日本での開発がさらに進むようになったと聞いているので、今後の調査の結果、開発数が増えていくと期待している。
Q7:ドラッグ・ロス品目は海外のスタートアップによる創製品が多いため、引き続き製薬業界3団体のアンケートを実施しても、半分は手付かずで終わると思われる。海外のベンチャーやスタートアップの製品をどのようにすくい上げるか、行うのは製薬協なのか日米欧なのか、政府なのか、お考えをうかがいたい。
A7-1:今回製薬業界3団体で実施した調査について、日本に拠点を持たない海外のスタートアップに対しても行うことにしている。我々としても国と一緒になって、制度改革の詳細な中身を伝え、薬事規制については独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の取り組みなどを伝えていく。
A7-2(森和彦専務理事):PMDAの米国ワシントンD.C.の事務所がこれから設置される。タイ国バンコク事務所は先日設置された。こういった海外拠点を通じて、日本の薬事制度をスタートアップややバイオベンチャーにわかりやすく伝えていくことは、PMDAの努力もさることながら、製薬協会員会社の現地スタッフも設立準備やネットワーク拡大など協力できるのではと考え、体制づくりを準備している状況である。
Q8: 新規モダリティの価値評価の仕組みについて、具体的な制度設計について製薬協での議論の進捗、また2025年の政策提言へ盛り込むかどうかをうかがいたい。
A8:政策提言へは盛り込む方向で進めている。新規モダリティの多様性を加味しながらしっかり評価できる方法論は何かを考えたい。たとえば現在の薬価算定は既存の医薬品との比較となるが、既存薬がなくても治療法がある場合は治療法と比較するなど、いくつかの観点で評価する方法はあるのではと考えている。
Q9:物価上昇が速いと価格交渉が硬直化し薬価差が生まれなくなり、結果的に薬価が下がらないとの仮説を深掘りしたいとの意見が審議会で出ている。製薬協としてどう捉えているか。
A9(木下賢志理事長):基本的には、現在の薬価制度改革では中間年改定でも2年に1回の本改定にしても、薬価差をもとに改定している。ただ、そこで物価を加味して改定するとなると、不採算品目が増える可能性がある。物価や賃金が上がると不採算の品目が増えるため、それをどう考慮するかの意味と理解している。制度的に組み込むとなると、マイナスの改定はしない等、一般的には原価上昇への対応を行うお考えではないかと捉えている。
Q10:「製薬産業を基幹産業へ」というのが掛け声になっているが、そもそも基幹産業とはどういうものか。目標として掲げているということは、今はまだ基幹産業になっていないということだが、その目標は何で、今何合目の位置にあるのかうかがいたい。
A10:基幹産業の定義については私見になるが、「必要な医薬品をしっかり届けて国民、世界の人々の健康寿命の延伸に貢献すること」と「産業として成長し日本経済に貢献すること」の両方ができる産業と考える。これらに鑑みるに、1点目については現時点では新薬創出数が足りず、2点目については経済への貢献はそれなりにできていると思うが輸入超過になっていることを考えると、もう少し力を付ける必要があるため、将来の伸びしろも考えて、現在は6合目から7合目かと思う。
質疑応答の様子
以上
(産業政策委員会 田村 浩司、小林 信教、藤原 章子)