新たな耐性菌への対応

新規抗菌薬の開発

アレキサンダー・フレミングによるペニシリンの発見以降、多くの抗菌薬が開発され、感染症により命を落とすことが少なくなりました。しかしながら、近年は新たな抗菌薬の研究開発が大きく停滞しています。その理由として、抗菌薬の開発に成功しても発売までの投資に見合う回収が見込めないことが挙げられます。米国では薬剤耐性(AMR)治療薬の開発を担っていた企業が新薬の開発に成功し、発売にこぎつけたにもかかわらず倒産してしまった事例もありました。

この喫緊の課題に対応するため、2020年、製薬協会員会社を含む世界の24の製薬企業が非政府系の利害関係者と提携し、10年間で最大4種の新規抗菌薬の発売を目標に、10億米ドル規模の研究開発支援のためのファンド、AMR Action Fundを立ち上げました。日本からは、エーザイ、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、中外製薬の5社が本ファンドに拠出、支援しています。また、抗菌薬の研究開発に対する持続可能で堅固な投資を誘引するための新たな枠組みを創出するために、製薬協はAMRアライアンスジャパンメンバーの一員としてプル型インセンティブ*導入等のAMR政策の進展と対策の具体的な実施に寄与しています。細菌は常に変異するため、新しい抗菌薬が開発され続けなければ、単なる切り傷でも致命的となった時代、死因として感染症が最も多かった時代に引き戻されるリスクが生じます。私たちは、薬剤耐性菌が流行する前に、AMR治療薬を備えておく必要があり、それは可能なのです。

  • *
    製造販売承認以降に売り上げを保証する等のインセンティブのこと。国が抗菌薬の研究開発を促進することを目的とした制度で、英国で定期定額購買制度(サブスクリプションモデル)が試行されている

薬剤耐性対策のための新規抗菌薬開発の促進に関する意識調査

AMRや抗菌薬開発に対する意識調査の結果が閲覧できます。今後数年間調査を継続し、AMRアドボカシーに反映させて参ります。

医師に対する意識調査

調査結果報告書(2022年6月)

新たな抗菌薬開発を促進するための広報活動(産学官連携)

日経・FT感染症会議

日経・FT感染症会議の有志によって、年間を通じてパブリック・プライベート・パートナーシップ(P3、官民協力)プロジェクトを立案・実施する日経アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC)の一部会として、AMR部会が2019年に設立されました。当部会は、抗菌薬の持続的な研究開発に繋がる実効性のある産業政策の提言を目的に、日本経済新聞社とAMRアライアンス・ジャパン(事務局:日本医療政策機構)が共同で開催し、産学官民の関係者と議論を重ねています。製薬協はAMRアライアンスジャパンメンバーの一員としてAMR部会の活動に参画しています。

第10回 日経・FT感染症会議 次のパンデミックに備える体制を

  • 掲載日:2023年12月25日
  • 日本経済新聞(朝刊)全15段モノクロ

詳細を見る

2021 AMR Preparedness Indexに関するセミナー開催(2023年6月14日)


製薬協国際委員会グローバルヘルス部会では、Global Coalition on Aging(GCOA)のMichel Hodin CEO来日の機会に、2021 AMR Preparedness Indexに関するセミナーを開催いたしました。
GCOAは、薬剤耐性(AMR)問題にも強い関心を持たれており、各国におけるAMR対策状況を評価するAMR Preparedness Indexを構築し、第1回の評価結果 を2021年に公表しております。GCOA-AMR-Preparedness-Index
現在、第2回の評価を行っている現状を踏まえ、CEOのHodin氏に、本Indexにつきご紹介いただきました。
AMR対策アクションプラン2023-2027が決定された日本において、本プランの着実な実行を促す意味でも、このようなIndexは重要と考えております。

当日の発表資料はこちら

メディアフォーラム

薬剤耐性(AMR)セミナー 感染症対策の歴史と現状 ~センメルヴェイスからの学び~ 開催(2019年11月22日)

製薬協は日本医師会と政策研究大学院大学、日本医療政策機構との共催により、薬剤耐性(AMR)を喫緊に取り組むべき社会問題として取り上げ、感染症対策の歴史と現状、抗菌薬開発の実態についてのセミナーを開催しました。一般の方々、医療従事者、政府関係者など、AMRについての理解を深めていただくことを目的に開催しています。

AMED抗菌薬産学官連絡会の取り組み

今後の感染症領域における戦略的アプローチを検討するとともに、これらを通じて感染症領域における産学官連携を一層推進させることを目的に、日本医療研究開発機構(AMED)内に当連絡会が2018年9月に設置されました。感染症領域における医療ニーズ及び製薬企業の開発動向などについて、AMED、関係学会(日本感染症学会及び日本化学療法学会)と意見交換を行うため、関連する製薬企業の代表として製薬協が当連絡会に参画しています。

AMRアライアンス・ジャパンとの取り組み

AMRへの国内外の関心が高まる中、2016年からAMRに関する専門家会合を開催してきた日本医療政策機構は専門家会合の議論の結果、AMRに関してマルチステークホルダーで議論する独立したプラットフォームを作り、AMR政策に対し影響力をもつ協調体制を確立することが必要との判断に至りました。日本医療政策当機構は、国内感染症関連8学会と連携し、AMR対策の推進により公衆衛生を向上させることを目的とした、マルチステークホルダーによる「AMRアライアンス・ジャパン」を2018年11月に設立しました。
製薬協はAMRアライアンスジャパンメンバーの一員としてAMR政策の進展と対策の具体的な実施に寄与しています。

AMRに関する各種提言

AMRに関する製薬協の各種提言について紹介しています。

2022年

2022年 G7 広島サミット保健アジェンダに対する製薬業界からの提言(413KB)

2019年

  • 国際製薬団体連合会(IFPMA)及び米国研究製薬工業団体(PhRMA)と3団体連名で「G20サミット議長国引継ぎに関する製薬業界からの要望」を来年のG20議長国であるサウジアラビア並びに今年の議長国である日本の外務大臣及び保健担当大臣宛に提出しています。

G20サミット議長国引継ぎに関する製薬業界からの要望(261KB)

  • 「G20保健大臣会合に向けた製薬協からの提言」を厚生労働大臣宛に提出しています。

G20保健大臣会合に向けた製薬協からの提言(厚生労働大臣宛)(368KB)

  • 薬剤耐性(AMR)に対する医薬品等の研究開発促進に向けたPull型インセンティブの導入に関する製薬業界からの提言書を厚生労働大臣に提出しました。なお、同内容の提言書を厚生労働省医政局長、健康局長、医薬・生活衛生局長、保険局長、厚生科学課長に提出しました。

薬剤耐性(AMR)に対する医薬品等の研究開発促進に向けたPull型インセンティブの導入に関する製薬業界からの提言 (294KB)

  • 「G20大阪サミット保健アジェンダに対する製薬業界からの提言」を、内閣総理大臣、厚生労働大臣、財務大臣、外務大臣に提出しました。

2017年

  • AMR対策の為の研究開発促進策に関する提言書を厚労省に提出しました。

薬剤耐性(AMR)対策のための医薬品等研究開発促進策に関する提言(230KB)

外部リンク

厚生労働省

抗菌薬の不適切な使用を背景として、薬剤耐性菌が世界的に増加する一方、新たな抗菌薬の開発は減少傾向にあり、国際社会でも大きな課題となっています。
2015年5月の世界保健総会では、薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランが採択され、加盟各国は2年以内に薬剤耐性に関する国家行動計画を策定することを求められました。
これを受け、厚生労働省において、薬剤耐性対策に関する包括的な取組について議論するとともに、「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」のもとに、「薬剤耐性に関する検討調整会議別ウィンドウで開く」を設置、関係省庁とも議論及び調整を行い、2016年4月5日、同関係閣僚会議において、我が国として初めてのアクションプランが決定されました。
今後、「適切な薬剤」を「必要な場合に限り」、「適切な量と期間」使用することを徹底するための国民運動を展開するなど、本アクションプランに基づき関係省庁と連携し、効果的な対策を推進していきます。

AMR臨床リファレンスセンター

抗菌薬の開発と細菌の耐性獲得はいたちごっこです。人類が新たな抗菌薬をいくら開発しても、細菌は新しい薬剤に対して次から次へと耐性化してしまうのです。
ついには1993年、これまで耐性菌への最終兵器的な存在であったカルバペネム系抗菌薬に対しても耐性をもつ悪夢の細菌、「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem resistant enterobacteriaceae = CRE)」が発見されてしまいました。
CREの中には、現存するありとあらゆる抗菌薬に耐性の細菌も含まれています。このような細菌に感染した場合、もはや抗菌薬で感染症を治療する術はありません。今なお、CREは世界に拡大しており、世界的なAMR対策が叫ばれるきっかけのひとつとなっています。 われわれはこれらの細菌をなるべく蔓延させないよう、感染対策や抗菌薬の適正使用を行っていく必要があります。

特設ページ:かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~

WHO

WHOが2015年に採択した5つの薬剤耐性(AMR)対策目的の一つ「すべての国のニーズを考慮した持続可能な経済投資モデルを開発し、新薬、診断ツール、ワクチンや他の介入への投資を増やすこと(to develop the economic case for sustainable investment that takes account of the needs of all countries and to increase investment in new medicines, diagnostic tools, vaccines and other interventions)」について各国・各団体での取り組みを紹介します。

Centers for Disease Control and Prevention(CDC)

疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)は、国内外における人々の健康と安全の保護を主導する立場にある連邦機関であり、健康に関する種々の決定の根拠となる信頼できる情報の提供と、強力なパートナーシップを通じた健康の増進の任にあたっています。

抗菌薬開発の取り組み

富士フイルム富山化学

現在、世界的に薬剤耐性菌が増加する中、耐性菌に対抗できる新規抗菌薬の開発は重要な課題であると考え、フルオロケトライド系抗菌薬「T-4288」(一般名:ソリスロマイシン)の開発に取り組んでいます。本剤は、新しいフルオロケトライド系抗菌薬であり、マクロライド系抗菌薬に耐性のある肺炎球菌や肺炎マイコプラズマに対して強い抗菌活性を示す薬剤です。富士フイルム富山化学は、2013年に「T-4288」の日本における開発、製造及び販売の独占的権利をCempra, Inc. (現Tetard, Inc.) より取得し、臨床試験を進めてきました。2019年4月に耳鼻咽喉科感染症の治療薬として製造販売承認申請を行い、呼吸器科領域の感染症患者を対象とした開発を継続中です。

住友ファーマ

薬剤耐性菌感染症に対する治療薬の創製を目指し、2017年より北里大学の大村智特別栄誉教授の創薬グループと共同研究に取り組んでいます。この共同研究は、2017年10月より10年間を予定するもので、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE : Cyclic Innovation for Clinical Empowerment)」に係る研究開発課題として採択されています。
住友ファーマは、アカデミア等との共同研究により感染症領域の創薬研究を加速し、グローバルヘルスへの貢献を目指しています。

塩野義製薬

「感染症の脅威からの解放」を取り組むべき重要課題の1つとして掲げ、未だに治療法が確立していない感染症に対する新薬の創製に取り組んでいます。最も優先して対処すべき菌種の多くは、カルバペネム系抗菌薬に対する耐性菌であり、それらに対応できる薬剤を世界が求めています。塩野義製薬で創製された新規のシデロフォアセファロスポリン抗菌薬セフィデロコルは、2019年11月に米国食品医薬品局(FDA)、および2020年4月に欧州委員会(EC)より承認を取得しており、WHOの必須医薬品リストにも掲載されています。また、セフィデロコルのグローバルでの公平なアクセスの実現に向け、関係パートナーとライセンス契約および提携契約を締結する等、低中所得国を含む世界各国における抗菌薬へのアクセス拡大に向けた取り組みを推進しています。塩野義製薬は、これからも世界のAMRに関する問題に対して、全力で取り組んでいきます。

杏林製薬

杏林製薬では、現在多剤耐性菌に有効な抗菌薬の創製を目指し、公益財団法人微生物化学研究会微生物化学研究所との共同研究を行っており、今後も継続して取り組んでいきます。

Meiji Seika ファルマ

薬剤耐性(AMR)対策はいまや世界規模で取り組む重要課題であり、わが国でも薬剤耐性菌による感染症に対する新たな予防・診断・治療法などの研究開発推進が謳われています。そうしたなかで、明治グループが開発した新規のβ-ラクタマーゼ阻害剤「OP0595」は、産学官連携による研究開発や創薬の革新を目的とした国家事業(医療研究開発革新基盤創成事業ーCiCLE)に採択され、開発が進められています。「OP0595」は、これまでのβ-ラクタマーゼ阻害剤にない作用を有する特徴を持ち、WHOや米国疾病予防管理センター(CDC)が最も懸念する薬剤耐性菌の1つとして位置付けているカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)に対して有効な治療法を提供できる薬剤として期待されています。すでに日本を含むグローバル臨床第Ⅲ相試験が開始され、海外も視野に入れた研究開発も精力的に進められています。明治グループは、感染症の脅威に対して、OP0595の開発をはじめ、予防から治療までのソリューションを提供し、世界の人々の健康に貢献してまいります。

第一三共

2019年、第一三共はGlobal Antibiotic Research and Development Partnership(グローバル抗菌薬研究開発パートナーシップ、「GARDP」)が主導する「AMRスクリーニングコンソーシアム」に参加する契約を締結しました。本コンソーシアムへは日本企業として3番目の参画となり、各社の化合物ライブラリーを用いて抗菌活性を有する新規化合物の取得を目指しています。
また2019年、第一三共が創製した合成抗菌薬レボフロキサシンの薬剤感受性調査で集積された国内臨床分離株11万株を、国立感染症研究所に無償譲渡しました。これにより当研究所 薬剤耐性研究センターでの研究に広く活用されることが期待されます。
2021年4月には、これまでのワクチン開発の取り組みに加え、感染症治療薬に対する研究開発を活性化するために「新興・再興感染症研究特別チーム(EReDS: Emerging and Re-emerging Infectious Diseases Research Special Team)」を設置し、活動を開始しました。

皆さまにAMRを知っていただくための取り組み

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