トピックス 「第10回 日本-タイ合同シンポジウム」開催される

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2024年1月16日、「第10回 日本-タイ合同シンポジウム」がタイ食品医薬品局(タイFDA)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の主催にて開催されました。2023年の「第9回 日本-タイ合同シンポジウム」に続き、タイ・バンコクにおいて対面での開催となり、タイおよび日本の規制当局ならびに製薬業界含む各産業界より200名を超える参加がありました。

シンポジウム参加者 シンポジウム参加者

本シンポジウムは、2018年4月にタイFDAと厚生労働省間で締結された「医薬品医療機器規制協力に関する覚書(MOC)」に則り、日本とタイの薬事関係者間の相互理解を深め、両国の医薬品・医療機器規制や開発のための協力体制の基盤形成を目的としています。今回は第10回の記念のシンポジウムということで、2013年から始まった合同シンポジウムを含めた連携協力について、10年間を振り返り、その経験を踏まえ、次の10年の連携協力を続けていくため、互恵的な関係をさらに発展させていくことが確認されました。

日本からは、PMDAをはじめ厚生労働省、製薬協会員会社、一般社団法人日本医療機器産業連合会(JFMDA)加盟企業、タイからは、タイFDAをはじめ、タイにおけるヘルスケア産業界から本シンポジウムに参加しました。

タイFDA Secretary-GeneralのNarong APHIKULVANICH氏、PMDA理事長の藤原康弘氏による挨拶で本シンポジウムは開幕しました。さらに今回は第10回の記念にあたることから、Memorial Session for 10th Symposium“Regulation and clinical trials”が設けられ、タイを含むアジアでの共同の臨床試験推進に向けた両国の取り組みについて講演がありました。

また、現在の医薬品・再生医療等製品・医療機器に関する規制について両国における取り組みを共有しました。ここでは、医薬品関連の発表を中心に紹介します。

■Memorial Session for 10th Symposium

Regulation and clinical trials

Chair    Director of Medicines Regulation Division, Thai FDA Worasuda YOONGTHONG
       厚生労働省 医薬局 総務課 国際薬事規制室 室長 古賀 大輔
Speakers  Secretary-General, Thai FDA Narong APHIKULVANICH
       独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事長 藤原 康弘
       Director of CHULA CLINICAL RESEARCH CENTER: CHULA CRC, Faculty of Medicine,
       Chulalongkorn University Thanyawee Puthanakit
       国立がん研究センター中央病院 国際開発部門 部門長 中村 健一 氏                              

タイFDAは、タイにおける臨床試験数は440で(ClinicalTrials.gov:2024年1月3日時点)、東南アジア地域では一番多いが、まだ十分ではなく、システム化・効率化を図ってもっと治験数を増やしていきたいとの意向を示しました。また、規制的な観点から、これまでのProduct-based AuthorizationからClinical Trial-based Authorizationに変更となり、臨床試験のリスク(3段階)に応じた提出資料や審査期間となること等の説明がありました。

チュラロンコン大学(バンコク)からは、タイにおける臨床試験実施環境について、チュラロンコン大学等の大学病院やタイ保健省管轄の病院等で治験コーディネーター(Clinical Research Coordinator、CRC)が配置されていることの紹介がありました。また、分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial、DCT)についても触れ、デジタル技術を応用していくことで、病院が患者さんにアプローチする、患者中心の臨床試験を実現できるようになるとのことでした。今後、臨床試験を推進していくポイントとして、人材育成、国際連携、デジタル化、タイ国内のシステム改善が挙げられ、特に臨床試験に関する国際連携は重要で、CD19標的CAR-T細胞治療で、名古屋大学と連携を取り始めていることを紹介しました。

PMDAからは、アジア地域で臨床試験を行い、将来の医薬品・医療機器の開発に貢献できるよう、その基盤強化にPMDAおよび厚生労働省が取り組んでいることを案内しました。その一環として、国立がん研究センター(NCC)が進めているアジアがん臨床試験ネットワーク(Asian clinical trials network for cancers、ATLAS)を例に挙げ、こういったネットワークの広がりを推進し、アジア発の医薬品・医療機器を創出していくためのタイの役割の重要性、および日本とタイのさらなる協働について言及しました。また、2024年中にPMDAはバンコクにアジア拠点を設けることとしており、その中でアカデミアや企業が実施する多地域的な臨床試験がスムーズに進むようサポートを行っていく等の意向を示しました。

NCCからは、ATLASプロジェクトと、その中で実施されているMASTER KEY試験やProject CAD試験等について紹介がありました。また、タイにおける臨床試験の課題として、施設内でのさらなる支援体制の強化、倫理委員会の審査の効率化等を挙げました。さらに、DCTについても触れ、DCTのメリットとして、遠隔地の患者さんの治験へのアクセスの改善、検査を委託している近隣病院(パートナーサイト)での倫理審査やモニタリングの簡略化、患者登録の促進やコストの削減等を挙げました。一方で、DCTの薬事的な課題として、パートナーサイトに委託可能な検査の範囲、eConsent(電子的なツールを用いて治験参加の同意を得る手法)の本人署名の担保、パートナーサイトとの間でのインターネットを介した医療情報共有の条件等について、規制当局と協議しながら対応を進める必要があるとのことでした。また、国境を超えた(cross-border)DCTをタイと始め、日本で実施している臨床試験にタイの医療機関がパートナーサイトして参加できるように準備を進めており、こういった新しい取り組みを日本とタイから世界に広げていきたいとの考えを明らかにしました。

製薬協から、タイにおける臨床試験の承認プロセスについて、Central Research Ethics Committee(CERC)承認後に、各施設のLocal Research Ethics Committee(LREC)承認も必要となるのか、また、今回の変更により、倫理委員会での審査期間が短縮されるのか質問し、タイFDAから、システムを構築して短縮に取り組みたいとの回答を得ました。また、CERCから、手続きが簡略化できるように各施設と協力し、自動的に承認できる施設が多くなるようにシステムを改善していきたいとの意向が示され、費用面も含めてタイFDAとの協議が必要であるとの意見を述べました。製薬企業にとって、臨床試験立ち上げまでのスピードは重要で、今後、審査期間が短縮されることによって、タイにおける臨床試験がさらに促進されることが期待されます。

■Regulatory Update

Director of Strategy and Planning Division, Thai FDA Varavoot SERMSINSIRI
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 国際部長 田中 大祐 氏                                       

タイFDAから、新しい薬事規制や国際基準に準拠するために規制整備等が進められており、医薬品登録・更新、臨床試験等に関する13の規制が改正されたことの紹介がありました。医薬品登録証明書の登録更新については、品質、有効性、安全性情報に基づいて登録更新するガイダンスが2023年6月に通知されているとのことでした。また、医薬品の登録審査のプロセスについても話があり、通常審査のほかに、簡易的な審査プロセスとして、PMDAをはじめとした参照規制当局の審査報告書を利用する簡略審査や、世界保健機関(WHO)Collaborative Registration Procedure(CRP)※1のリライアンスによって審査期間を短縮していることの説明がありました。

PMDAは、2012年以来、世界で審査スピードが最も速いレベルになり、審査の予見性が高くなってきたことや、それに伴いドラッグ・ラグが解消されてきたことを述べました。一方で、現状の課題として、ベンチャー発の医薬品、オーファン医薬品、小児医薬品等、日本国内で開発されていない医薬品があるといったいわゆるドラッグ・ロスの問題や、後発品の供給不足の問題が挙がり、これらの問題について厚生労働省で開発振興や薬事規制の観点から検討を進めているとのことでした。国際連携とリライアンスについても、日本は、タイ、フィリピン、インドネシアに加えて、2024年1月1日からマレーシアの医薬品簡略審査制度の参照規制当局として採用になったことの紹介があり、東南アジア諸国連合(ASEAN)における規制調和の促進に取り組んでいる旨を伝えました。

参加者から、PMDAに対して審査期間短縮のための取り組みについて質問があり、PMDAから、海外と日本における開発開始のタイミングのラグと、審査当局による審査日数のラグの2種類があることを説明しました。審査日数のラグについては、PMDAの審査担当者の増員や審査の効率化を図ることによって解決してきたこと、また、開発のラグについては、日本の薬事規制が国際調和した内容であること等を海外の方々に理解してもらえるように英語でも情報発信していること等、回答しました。タイ側が日本の審査システムに関して、非常に高い関心を持っていることがうかがえました。

  • 1
    医薬品のWHO共同登録 (承認) 手続き

■Pharmaceutical Session

Pharmaceuticals including Advanced Medical Products
“Regulatory efforts for efficient development of various pharmaceuticals”
(1)Pharmaceuticals

Director of Medicines Regulation Division, Thai FDA Worasuda YOONGTHONG 氏                          

タイFDAから、タイにおける医薬品開発の迅速化の取り組みについて発表がありました。タイFDAはSpeed、Safety、Satisfaction、Supporter、Sustainability、Securityの6Sのもとで政策を進めており、この1年間の変化としては、e-submissionに100%移行して、2023年9月から完全ペーパーレスになったということでした。その他、リソースマネジメント、審査員の増員、安全性監視(Safety Monitoring Programme、SMP)から医薬品リスク管理計画(Risk Management Plan、RMP)への変更等にも取り組んでいる旨の紹介がありました。また、承認プロセスをリスクベースで分ける試みをしており、低リスク薬の承認プロセスを簡略化し、高リスク薬は強いエビデンスを求めるよう検討しているとのことでした。米国、オーストラリア、カナダ等を参考に、低リスク薬については成分ベースでの評価(Ingredient-based review)を採り入れる等、タイに適した承認プロセスの構築を試みているとのことです。さらに、Assessment reportの精度も上げる努力をしており、独立行政法人国際協力機構(JICA)やPMDAのサポートに感謝の意を表し、日本とタイの規制当局同士の信頼関係が厚いことがうかがえました。

製薬協から、e-platformで、企業側も審査が今どの段階にあるのか確認できるようになるか質問し、タイFDAから、Skynetで審査の進捗状況を確認できるよう改良を行っており、当局側も企業側もモニタリングが可能になるとの回答がありました。これにより、審査の透明性と予見性が高まるものと期待されます。

結び

今回の「第10回 日本-タイ合同シンポジウム」は、10回の記念にふさわしい充実した、盛大なシンポジウムとなりました。10年にわたる連携協力の取り組みが再確認され、それを礎に、さらなる発展に向け見直しをしていくことに加え、臨床試験に関するトピックが盛り込まれた等、新たな取り組みが促進されていることを実感できました。われわれ製薬協として、革新的な医薬品をより早期に両国民にお届けすることができるよう、このような交流の場を活かし、産学官医の枠組みを促進していきたいと思います。

産業界参加者 産業界参加者

(国際委員会 アジア部会 タイチーム リーダー 馬渕 圭、サブチームリーダー 近藤 恵一郎

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