「第43回 広報セミナー」を開催 ~伝わるメッセージライティングと話し⽅の技術~

2025年06月24日

製薬協広報委員会は、2025年5月27日にコングレスクエア日本橋において「第43回 広報セミナー」を開催しました。広報セミナーでは、製薬産業を取り巻く環境や広報関連トピックスをテーマに情報共有を行っています。今回のテーマは「伝わるメッセージライティングと話し⽅の技術」と題して、株式会社カエカのスピーチトレーナー 長門萌氏に講演いただきました。

講演の様子

本セミナーは、各種説明会やメディア対応、講演登壇などを担う発表者に対し、広報担当者がより効果的な話し方を助言できるよう、そのサポート力を高めることを目的に企画したものです。講演では、「話し方は努力で変えられる」という考えのもと、話の中身(コンテンツ)と伝え方(デリバリー)の両面から整理し、明日から実践できる具体的なテクニックが紹介されました。当日は会員42社から計138名が参加。「非常に分かりやすかった」「実務に直結する内容だった」といった声が多数寄せられました。

以下、セミナー内容の採録を紹介します。

伝わるメッセージライティングと話し⽅の技術
株式会社カエカ スピーチトレーナー 長門 萌 氏 

(1)「話し方」の14の要素

「話すのがうまい人はもともと才能がある」と思っていませんか。実は、話し方は“努力で変えられる”ものなのです。今日皆さんに意識していただきたいのは、話し方は努力で変えられるということです。
もちろん、努力の方向性はとても大事です。私たちはその方向性として、「話し方はコンテンツとデリバリーに分けて考える」ことをご提案しています。

このあとお話ししていきますが、話し方には“内容構築”と“音声・動作”という2つの側面があると考えています。そして私たちは、それらを合わせて全部で14の要素に定義しています(図1)。

どなたでも、この14の要素を一つ一つ体系的に学習いただくことで、話し方は努力で変えることができるのです。

図1 「話し方」の14の要素

(2)伝わるメッセージライティングの基本技術

1.話す際の3つの原則

はじめに、話し方の基本として押さえておきたい3つの原則をご紹介します。

1つ目は、「話す目的を明確にする」ことです。目的が曖昧なまま話し始めてしまうと、聞き手にとっては単なる情報の羅列となり、伝わりにくくなります。話すシーンにはなんらかの目的があるはずです。たとえば、「信頼される人に見られたい」「数値目標を達成したい」など、話す前に話す目的を明確にしましょう。

2つ目は、「対象者を分析する」ことです。聞き手の属性、状況、知識量を把握し、それに応じて用語や表現を選ぶ必要があります。たとえば、専門用語を多用していないか、相手の理解度に合った説明になっているかを確認することが求められます。

3つ目は、「話し言葉の意識を持つ」ことです。話し言葉は書き言葉と異なり、音声情報として一度しか流れません。そのため、一文を短く区切るなど、聞き取りやすさを意識した構成が必要です。

図2のBeforeとAfterを読み比べると、同じ内容でも一文を短くするだけで聞きやすさが大きく変わることを体感いただけると思います。話し言葉では、なるべく文章を区切りながら話をしていくことが重要なポイントです。

図2 話し言葉の意識

2.コアメッセージを明確にする

次に、「コアメッセージ」についてお話しします。コアメッセージとは、その話で一番伝えたいことを短く端的に表現したものです。

好例として、WBCの試合前に大谷翔平選手が語ったスピーチが挙げられます。伝えたい内容が複数あっても、「憧れるのをやめましょう」という一つの明確なメッセージに集約することで、印象に残ります。

図3にあるように、コアメッセージは、だいたい5~10文字程度に収めるのが効果的です。たとえば、「今の私たちに必要なのは協力しながら継続する力を持つことです」といった複数のメッセージが入っていると、聞き手によって受け取り方が異なります。これを「継続する力」と明確に言い切ることで、聞き手に一番伝えたいことが明確に伝わります。

図3 目的の達成

3.ファクトとストーリーを組み合わせる

次に、コアメッセージを支える要素として、「ファクト」と「ストーリー」の活用についてお話しします。

ファクトとは、統計やニュース、サービス紹介など、誰が話しても同じ内容となる外部情報です。ストーリーは、話し手の体験や感情、価値観といった内部情報です(図4)。

図4 説得力のある話の組み合わせ

この2つをバランスよく組み合わせることで、信頼性と共感性を兼ね備えたメッセージになります。たとえば、ワイヤレスヘッドフォンを紹介する場面では、性能や売上などのファクトに加え、実際にカフェで使って集中できたとった自分自身の体験(ストーリー)を添えることで、より説得力が増します。

なお、ファクトとストーリーの“正解の比率”はありません。相手や場面によって調整する必要があります。一般的には、ファクトの比重が高いと「信頼感」、ストーリーが多いと「その人らしさ」が伝わります。文章が冷たく感じる時は、ストーリーを加えるだけで温度感が出ます。

(3)スピーチの印象を左右する「スピード」と「間」の使い方

抑揚には4つの要素があります。声の大小、声のスピード、声の高低、そして「間」です。今回はこのうち、「スピード」と「間」に焦点を当てて紹介します。

1.声のスピードを使い分ける

まず声のスピードですが、すべてを同じスピードで話すのではなく、強調したい部分を意識的にスピードを落としてゆっくり話すことで、聞き手に印象づけることができます。特に社名・商品名・人名などの固有名詞、コアメッセージ、比較語や数値などは、ゆっくり発話することで印象づけが可能になります。

2.「間」を効果的に使う

続いて、「間」についてお話しします。「間」は、文字通り“話していない時間”ですが、これも立派な話し方の技術です。間を上手に取ることで、聞き手の理解を促し、落ち着いた印象を与えることができます。ここでは、特に意識して「間」を取るべき5つの場面をご紹介します。

  • 話し始める前
    冒頭に一呼吸置くことで、場に期待感を生み出すことができます。
  • 聞き手に考えてほしい事項のあと
    「皆さんはどう思いますか?」のように問いかけた後、すぐに話し始めてしまうと、聞き手が考える余白がなくなります。しっかり一拍置くことが大切です。
  • 話題の転換
    「さて」「ところで」といった転換語の直後や、時系列が変わる場面では、話の段落が聞き取りにくくなります。ここで間を入れることで話の構造が整理されます。
  • 重要な言葉の前後
    前後に間を取ることで、コアとなるフレーズを際立たせることができます。
  • 終わり
    スピーチの終わりに結びの言葉をすぐに言ってしまうと、締めの印象が薄くなってしまいます。一呼吸置いてから丁寧に結ぶことで、スピーチ全体が洗練された印象になります。

間の取り方のひとつの目安は「句点(。)のあとに2秒の間を取る」ことです。1秒以下では早すぎて印象に残らず、3秒以上になるとやや冗長に感じられる場合もあります。自分では「少し長いかも」と感じるくらいの間を取ることが、聞き手にはちょうど良く伝わることが多いです。

(4)伝える力を高めるジェスチャーの活用法

1.大きく堂々と

ジェスチャーをうまく使えば、言葉だけでは伝えきれない熱意や説得力を補完できます。たとえば、キーワードの強調、感情の共有、空間の広がりの演出など、さまざまな使い方があります。

ただし、腰のあたりで小さく手を動かすだけでは、聞き手には伝わりません。目線の高さでしっかり見えるようにジェスチャーを出すことが大切です。最初は少し勇気が要るかもしれませんが、動画で見返すと意外と自然に映ります。

また、ジェスチャーは、片手と両手で意味合いが異なります。片手は平常時に使いやすく、力強さや個別性を表現するのに適しています。たとえば、誰かに語りかける場面などで効果的です。一方、両手はスピーチ全体や場全体に向けて訴えかける印象を持たせます。メッセージを「包み込む」「支える」ようなイメージで、決めどころでの使用に適しています。

両手を使うことに抵抗がある方も多いかもしれませんが、むしろ場の空気をつかむには、両手を堂々と使うことが効果的です。

2.勇気をもって動きを静止させる

ジェスチャーは動きだけではありません。止めるタイミングもまた、伝える技術の一つです。話の流れに合わせて手をずっと動かし続けてしまうと、主役である言葉がぼやけてしまうことがあります。要所で動きを止めることで、言葉の重要性が際立ちます。

3.手を下すタイミングを考える

ジェスチャーを下ろすタイミングにも注意が必要です。話の結論部分で曖昧に下ろすと、メッセージが弱く伝わります。言葉の意味に合わせて、手の動きに「始まり」と「終わり」を持たせることが大切です。

(5)話し方は“努力で変えられる”

ここまで「伝わる話し方」についてお話ししてきました。私たちは話し方を14の要素に分けて整理していますが、今日はその中でも、プロット、ファクト、ストーリー、コアメッセージ、スピード、間、ジェスチャーといった基礎を中心にご紹介しました。

繰り返しになりますが、話し方は努力で変えられます。今日の学びがそのスタート地点となれば、これ以上嬉しいことはありません。

(広報部 宮永 睦)

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