患者団体連携推進委員会 第28回、第29回 患者団体セミナー

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海外患者会の活動について

講演:「希少・難治性疾患領域における海外患者会の活動について」

NPO法人 アスリッドについて

NPO法人アスリッドは「ASrid」として登記をしており、当団体名は「希少・難治性疾患分野における全ステイクホルダーに向けたサービスの提供(Advocacy Service for Rare and Intractable Diseases’ stakeholders in Japan)」に由来しています。希少・難治性疾患を取り巻くさまざまな人々のなかで、必ずしも患者だけでなく、そのほかの多くの関係者(ステイクホルダー)の横のつながりを作ることが重要と考え、どの関係者からも独立した中間組織として、全ステイクホルダーに向けたサービスを提供することを目標としています。

国内患者会の現状について

国内の(難病に関連した)患者会を対象とした調査結果では、患者会の平均活動年数は23.7年でした。また、団体の資金面では、5割以上の患者会が500万円未満の収入で活動しているという調査結果が出ています。ここで、「患者会の活動はボランティアで実施しなければならないのか?」という疑問が浮かぶかと思います。この疑問に対して、「こうしなければならない」というつもりはありません。本講演は、海外の事例などを含めた、選択肢の1つとして紹介します。

NPO法人アスリッド 理事、
JPA 国際交流部 事務局長、
東京大学先端科学技術研究センター 助教
西村 由希子 氏

アメリカの難病患者会・協議会の歩み

1983年1月、アメリカにおいて、希少疾患の治療や予防・診断に関する製品開発支援のためのオーファンドラッグ法(Orphan Drug Act)が成立し、そのわずか4カ月後の同年5月に、全米希少疾患患者協議会(National Organization for Rare Disorders、NORD)が設立されています。つまり、希少疾患の“創薬開発支援”を主目的として設立された患者会・協議会であるという点が、NORDの最大の特徴です。NORDはこのほかにも、研究開発や医療費助成に関連した法律に対する政策支援、提言を行うなど、日本の患者会よりもはるかに広い分野をターゲットとしています。これは、どちらが良い悪いといった問題ではなく、NORDの出発点が「くすりをつくって病気を治すこと」であり、日本の患者会とは異なっていることから、周りの関係者の患者会・協議会に対する意識も日米で異なっている、ということがいえるかと思います。
それでは、希少・難治性疾患分野を取り巻く状況に、日米で大きな違いがあるかといえば、決してそのようなことはなく、関係者が少ない(いない)、情報が少ない(ない)、治療・診断・くすりが少ない(ない)といった状況は、日米で基本的には同じです。

協議会活動の重要性と、国際連携の意義

個々の患者会の活動ももちろん重要なのですが、昨今の厳しい経済状況などを鑑みると、今後は個々の患者会だけではなく、場合によってはほかの団体や関係者と連携、協調し、社会への発信を目指すことが重要ではないかと考えています。実際に、この数年で複数の協議会が世界中で誕生しています。
患者協議会間の連携事例を挙げると、RDI(Rare Disease International)は、30から60カ国の患者会・協議会が加盟している団体で、世界保健機関(World Health Organization、WHO)や国際連合への政策提言などを行っています。JPAも、NORDならびにヨーロッパ希少疾病団体(European Organization for Rare Diseases、EURORDIS)との連携覚書を2013年に締結し、世界の情報が過不足なく入手できている状態にあります。現在は、JPAが日本の窓口として、ASridがサポート組織として対応を行っています。
日本の患者会のなかには、日本には発信するべきものがなにもない、と考えている方が多いかもしれませんが、「NANBYO」(難病)という考え方や、国内の研究者とその研究成果、そして国民皆保険制度など、世界に向けてアピールするべきものはたくさんあります。
しかし、すべての患者会が国際連携を実施することは難しいため、協議会(中間組織)が役割の一部を担う重要性があると考えます。

国内協議会と海外患者会・協議会との共通点および差異

国内協議会と海外患者会・協議会とを比較すると、その基本的な活動内容に大きな違いはありません。しかし、日本と海外の大きな違いは、外部ステイクホルダーとの連携や、患者関係者「以外」との協働にあります。具体的には、海外患者会・協議会の構成人員のなかには、患者関係者のほかに、医療やビジネス、ITなどのプロフェッショナルが存在しています。特に、IT技術者は協議会運営にはなくてはならない存在として重要視されています。そのほか、海外の患者会・協議会には、自分たちで企画したイベントでの資金収集や、資金を活用しての臨床研究支援に加え、協議会が学会を主催している事例もあります。もちろん、日本と海外では、法律なども含めた背景が異なりますが、それ以上に患者会からの「外部ステイクホルダーの理解があってこその患者会」という意識と、外部からの「患者会は必要だ」という意識があることが日本との大きな違いであると考えています。この点に関しては、日本の患者会、企業もまさに過渡期にあるといえます。

今後の国内患者会活動の方向性・示唆

日本には、病気と「向き合う」経験については事例が豊富であり、これは大きな強みだと思います。この病気と「向き合う」に加えて、これからは病気を「治す」が目標になります。一連の難病法の制定は一段落しましたが、これから運用へと移っていく段階で、患者会という組織の存在は重要だと考えます。そこからさらに、個別疾患「だけ」から個別疾患を「超えて」、患者「だけ」から患者「主体」へと、少しずつ活動を展開していくことが重要になります。難病・希少疾患を取り巻く状況にはさまざまな問題・不足が存在しており、これは関係者個人や個々の団体だけで解決できるものではありません。そこで、つながるための仕組みとして、Rare Disease Dayの開催、患者主体のデータベース「J-RARE」の構築、患者向け研究協力・連携ガイドラインの策定、世界患者会インデックスの作成など、さまざまな活動を実施しています。

最後に

希少・難治性疾患領域の活動はゴールの見えない、大変なものだと思います。しかし、当事者であるみなさんが思っている以上に、間違いなく重要なもので、必要としている人が多く存在しています。そこで、活動をどう「続けて」「育てて」「見つけて」「伝えて」いくかを、今後もみなさんと一緒に検討していきたいと考えています。

質疑応答

質疑応答の時間では、東京会場・大阪会場ともに多くの質問が挙がりました。
海外患者会の具体的な活動内容に対する質問に対しては、治験をサポートした事例や、患者の名前を冠したチャリティーマラソン企画の事例などが紹介されました。
そのほかには、特に患者会・協議会活動における日本と海外の違いについての質問が多く、西村氏は「海外では、“みんなで”声を挙げることで、各団体の足りない部分、不足している部分を補い、制度を変化させていく動きがある。本日集まった人たちで議論するだけでも、なにか新しい考えが生まれるのではないでしょうか」と回答しました。加えて、国内患者会の方向性に関して、「病気に向き合うことで得られる、心の充足や安心感・連帯感は非常に重要だと思います。さらに、そこから“治すためになにをするか”という考えが重要ではないでしょうか」と述べました。
西村氏による講演時間に続いて、製薬協より、東京会場では梶原直子副委員長が、大阪会場では上杉直世副委員長が、広告に関する関連法規の説明を行いました。製薬企業は、患者・患者団体との協働において、さまざまな法律や広告規制のなかで活動をしていることを説明し、加えて、患者団体とのよりよい協働のために協働に関するガイドライン(※1)を、お互いの関係の透明性を高めるために透明性ガイドライン(※2)を発行し、製薬協ウェブサイトに掲載していることを紹介しました。
最後に、製薬協の田中徳雄常務理事より、製薬協が2015年度実施した「くすりと製薬産業に関する生活者意識調査」の結果について、「製薬産業に関する印象・評価」項目において、肯定意見が85%を超えていたことを紹介しました。今後も、この結果に満足することなく、さらに透明性・信頼性の高い産業を目指していくことを約束し、盛会のうちに患者団体セミナーは閉会となりました。

患者団体連携推進委員会 芝 宏樹

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