「第7回 日インド医療製品規制に関するシンポジウム」がニューデリーにて開催

2024年12月12日

2024年7月10日、インドのニューデリーにて、第7回 日インド医療製品規制に関するシンポジウムが開催されました。このシンポジウムは、厚生労働省(MHLW)・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)およびインド保健家族福祉省・中央医薬品基準管理機構(CDSCO)によって開催され、製薬協は日本製薬団体連合会、日本医療機器産業連合会、再生医療イノベーションフォーラムとともに後援団体として企画・運営に協力しました。本シンポジウムは、医薬品、医療機器、再生医療等製品の規制に関する日インド両国の最新動向、産業界の課題や提案を共有し、国際的な規制調和や協力等を議論することで、両国の薬事規制のレベル向上や、産業界による規制対応の円滑化をめざすものです。今回は、両国の薬事規制当局からそれぞれ最新動向が共有され、医薬品セッションではPMDAから原薬の品質管理、JPMAよりe-Labeling、CDSCOからは最近のGMP改正に関するアジェンダが組まれ、産業界からの課題に関する質問を含め活発な議論が展開されました。ここでは主に医薬品に関する内容について報告します。

全体写真

はじめに

製薬協国際委員会アジア部会インドグループは10名ほどのメンバーからなり、現地日系企業が抱える課題解決のために日々取り組んでいます。医薬品登録にかかる臨床試験免除やインドにて製造される原薬および製剤の品質確保については各社事業への影響が大きいことから優先課題としており、このシンポジウムを積極的な課題解決の場として活用してきました。今回は、インドグループのメンバー、アジア部会長/副部会長、製薬協事務局、常務理事らが現地入りしました。課題解決への提案についてはシンポジウムの前日に、インドの製薬団体(OPPI)のニューデリーオフィスを訪問し、現地外資系企業の方々と作戦会議をし、産業界が抱える課題についての共通認識を確認しました。OPPIメンバーや日本の規制当局の皆様を含め多くの関係者のご支援とともに課題解決のための機会をいただけたことに感謝しております。

コロナの影響もあり、しばらく対面での開催ができませんでしたが、この度ニューデリーにて一堂に会し、所々で現地関係者の本音を聞くことができ関係性が深まりました。また、シンポジウムの直前、6月15日にはG7サミットで岸田文雄首相(開催当時)がナレンドラ・モディ首相と首脳会談し、「両国の関係を一層多様化・深化させていきたい」との発言があり、このような両国の良好な関係性をベースに、今回のシンポジウムで医療製品において両国の一層の連携強化が図られ、革新的な医薬品の創出を通じて世界の患者さんへの貢献に繋がる、ゆるぎのない契機となったことは大変有難く思います。このシンポジウム、関連する日印間の医療に関する対話が今後も続くことを切に願っています。

オープニングセレモニー

両国規制当局からの挨拶の後、製薬協の中川祥子常務理事が日本の医薬品産業界を代表し、挨拶を述べました。新たなイノベーション創出とそれが継続的に生み出されるよう、知的財産の保護や適切な価格設定について触れ、ユニバーサルヘルスカバレッジを達成するための考えを述べました。さらに、ランプライティングが行われました。ランプライティングは参加者にとって特別な意味を持ち、伝統的な文化を尊重しながら、知識、成功、良い始まりを象徴しています。

インドの文化に深く根付いた儀式、ランプライティングの様子

レギュラトリーアップデート

先ずCDSCOのJoint Drugs ControllerであるRanga Chandrasekhar氏より、開発から販売までの製品ライフサイクル全体の品質管理について説明がありました。インドでは2023 年 12 月にスケジュール M(GMP概要)を改訂し、今後段階的に導入していく状況です。GMP 要件をグローバル基準に合わせて改訂しており、製品品質照査 (Product Quality Review、PQR) 、品質リスクマネジメント(Quality Risk Management、) 等が示されました。対象となるのは、売上高25 億ルピーを超える大企業、それ以下の中小企業でカテゴライズされており、それぞれ実装のタイムラインが異なります。インドは中小企業が多いため、CDSCO によるワークショップを定期的に開催するなど注意喚起のトレーニングを行っています。州によって解釈が異なる場合もあるので、差異をなくすために国と州による共同査察を導入しています。規制システムを強化するための最近の取り組みとして、輸出用咳止めシロップの品質試験をより厳しい基準で行う等、また透明性、説明責任、承認の迅速化を向上させるなどビジネスのしやすさについても言及されました。

続いて、PMDA国際部部長の田中大祐氏から最新の取り組みが共有されました。PMDAでは2006年と比較して2022年では審査期間が短縮され、医薬品の迅速な安定供給実現に向けたドラッグラグ・ロス解消がされていますが、特にドラッグ・ロスは希少疾病や小児医薬品に多いと言われています。この解消のため、薬事規制のあり方に関して、開発の促進、臨床試験、市販後調査、品質、情報発信の視点から検討が重ねられています。さらに、日本での第1相試験の必要性、スタートアップやベンチャーに対するPMDA の将来的な計画、海外連携拠点、医薬品査察協定および医薬品査察共同スキーム(PIC/S)オフィス、日本の 2024 年度薬価改訂を含むトピックスにもおよび、医薬品のアクセス改善を多面的に捉え、幅広い取り組みについての工夫が述べられました。

このセッションにおいて、製薬協からはCDSCOに対して、「Ph4試験免除に関するガイダンスを発出予定と聞いたが、最新情報があれば教えて欲しい。本日、臨床試験要件の明確化についても話があったが、確認できるガイダンスはあるか。」と質問しました。これに対して、CDSCOからは、「臨床試験については、2019 年新薬及び臨床試験規則に基づいている。他国で承認済であれば、条件付きにはなるが要件に応じて免除も認められるケースがある。」とした上で、日本を含めた参照国リストについてもこのガイドラインを改訂し、準備を進めているとのことでした。

後日談にはなりますが、2024年8月7日付で臨床試験免除国とカテゴリーに関するOrderがCDSCOのウェブサイトに公開されました。5つのカテゴリーの医薬品について、6拠点(米国、英国、日本、オーストラリア、カナダ、欧州連合)で承認されていればインド国内臨床試験を免除するというもので、5つのカテゴリーは希少疾病医薬品、遺伝子・細胞治療製品、パンデミック状況で使用される新薬、特別防衛目的で使用される新薬、現在の標準治療よりも大きな進歩がある新薬、とされています。

医薬品セッション

PMDA医薬品品質管理部部長の美上憲一氏より、PMDA実地調査の実績など日本における医薬品の品質管理体制に関する最新の話題が共有されました。日本におけるGMP 関連の法規制、GMP 適合性調査の種類や範囲、査察のリスクに基づく意思決定サイクル、製品カテゴリー別の調査システムの従来比較などについて紹介されました。そして、CDSCOのDeputy Drugs Controller であるSh. Arvind Kukrety氏からは医薬品原薬に関する改正GMP 要件について、医薬品規制とその枠組み、基準とインド薬局方、承認と承認後のライセンス要件などについて共有されました。インド薬局方委員会は品質と安全性を保証し、医薬品の試験と分析のために必要な全ての基準を設定しています。インドの標準品はこの薬局方委員会から入手し、要求事項を遵守しなければなりません

製薬協はこの薬局方の規制調和も優先課題に挙げており、CDSCOに対して以下のとおり質問しました。

(製薬協)インド薬局方の標準品の入手について質問します。標準品を取り扱う日本の代理店がないという事態に直面しています。複数の日本の代理店に聞きましたが、 どこも標準品を取り扱っておらず、今後も取り扱わないとの回答でした。インド薬局方委員会から直接購入していますが、その直接購入はスムーズではありません。標準品が手に入らないことが障壁となって、インド薬局方への収載が進まない、インド薬局方に準拠した試験の実施が困難になるという事態についてご意見を聞かせていただけますでしょうか?標準品の調達の強化や代理店の拡大等、状況を改善するためのアイデアがあれば知りたいです。

CDCSOからは以下のとおり回答がありました。

(CDSCO)さまざまな基準がありますが、ほとんどがジェネリックを対象としたものです。 他国の薬局方を参照できるように努力はしていますが、難しい状況です。国外の企業にとって、標準品は存在するが、調達ができないという状況について、これまであまり認識していませんでした。この課題を理解し、薬局方委員会にも共有し、標準品の調達の問題を解決していきたい。

インドグループメンバーからCDSCOへ質問を投げかけ、
課題解決を働きかける様子

この点に関して、現地日系企業の薬事担当者より補足コメントがあり、CDSCOの理解の促進が図られました。

(現地担当者):調達に困っている。特にプロセスが合理的ではなく、調達ができない。全てはメール等でコミュニケーションをしなければならない現状がある。インド国内はオンラインでコミュニケーションができるが、国外メーカーは困難である。

CDSCOからはその場に薬局方委員会の担当者がいないので改めて確認するとのことでした。その後、シンポジウム翌日の規制当局間の会合では、PMDAがこの課題を再度CDSCOに確認し、解決を働きかけました。

さらに、本シンポジウム開催翌月の8月には、インドにおいて薬局方のオンラインポータルがオープンしたとの知らせを現地から受けました。このポータルでは標準品の購入も出来るようで、スムーズな調達に繋がることを期待したいと思います。

続いて、製薬協よりAPAC e-labeling EWG Leaderの松井理恵氏が登壇し、日本とアジアにおけるe-labelingの実装について産業界の立場で発表しました。e-labelingは、医薬品承認条件をもとにした医薬品の情報が得られる正式な文書です。国によって求められる要件も異なりますが、 紙・電子媒体、患者さん・医療関係者向け等があります。製品に同梱されている紙の添付文書は、国によって対象が異なり、EU では患者さん向けのものも作成されていますが、 アメリカ・日本では医療関係者向けの医薬品情報です。アジア諸国の多くの国では、labelingのほとんどが医療従事者向けのみで、患者さん向けのlabelingが存在している国々は30%程度です。これまでlabelingは記載内容が重要視されていましたが、実際の現場でどのように運用および使用されてきたのか、患者さんの経験に基づいて考え方を変えていかなければなりません。e-labelingは、国、地域によって定義は異なりますが、主に5つの利点があげられます。

  1. 最新の製品情報をオンラインで確認できる
  2. QRコードやGS1コードを利用することで医療関係者や患者さんが信頼できる情報にアクセスできる
  3. 紙媒体をなくすことができる
  4. 標準規格等に基づいて構造化できる
  5. 他の医療システムと相互運用ができる、等

日本でe-labeling導入時に行った業界の取り組みとして、MHLW/PMDAと一緒に業界団体が医療関係者へ啓蒙活動を行いました。アジア地域でのe-labelingの取り組みを比較すると、日本の取り組みが進んでいますが、アジア地域でも7つのマーケットが最近e-labelingのガイダンスを出しています。また、このe-labelingの取り組みは、患者さん向けではなく主に医療関係者向けに作成されています。電子的標準規格に基づいて構造化されたe-labelingを作成することで、パーソナルヘルスレコードや電子処方箋とも相互運用可能となり、パーソナライズされた医薬品情報の提供ができる等のメリットがあり、インドでも医療分野での導入について、基準構築の議論が進められています。

この発表に対して、フロアから質問が挙がりました。「e-labelingはすべての医療製品(ワクチン、バイオ医薬品他)に適用されるのか。どのような規制の対象になるのか。輸出向け、国内向けのどちらなのか、企業に責任も問われるのか。」

これに対して、松井氏が「e-labelingは処方箋、ワクチンが対象であるが、OTCは対象外である。今までは製薬会社は規制に準拠できており、規制当局の措置等は経験していない。」と回答しました。

e-labelingのセッションで産業界から登壇した松井理恵氏

最後に

シンポジウムの最後にはCDSCOからRanga氏が登壇し、閉会の挨拶を述べました。

Ranga氏は2015年に締結された「医療製品規制に係る対話と協力の枠組みに関する日本国厚生労働省とインド共和国政府保健家族福祉省中央医薬品基準管理機構との間の協力覚書」(Memorandum of Cooperation、MOC)に言及し、このMOCはこれまでインドが締結した中で最も機能的な MOC の一つであり、日印両国が共通目標に対して積極的に取り組み、そして関与してきたことを述べました。日本がインドにおけるキャパシティビルディングを継続的に支援していることを感謝とともに語り、この試みがベストプラクティスを知るだけなく、業界を支援し、業界のコンプライアンスを促進し、それらが達成できれば大きな成功を収めるとのことです。また、インドはジェネリック大国として知られていますが、今後革新性の高い医薬品供給国に変わっていき、世界にイノベーションを創出していきたいというインド側の意欲も感じられました。製造も含めて信頼性の高い拠点として認知されることがインド当局の目標であるようです。

日印両国はこれからも高品質で革新性の高いイノベーションを継続的に創出するため互いに協力し合い、関係性を深化させ、産官学が一体となって多面的な議論を継続する必要があります。そして、この良好な関係が世界中の新薬を待ち望む患者さんへ迅速に医薬品を届け、どのような時も医療に光を灯す存在であり続けて欲しいと切に願います。

(国際委員会 アジア部会インドグループ リーダー 桑原 千佳)

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