「2026ライフサイエンス知財フォーラム」を開催 デジタル化の進展と新しいAI利活用の日常化がもたらす製薬産業の未来
2026年2月3日にソラシティカンファレンスセンター(東京都千代田区)において、製薬協主催「2026 ライフサイエンス知財フォーラム」を開催しました。2026年は「デジタル化の進展と新しいAI利活用の日常化がもたらす製薬産業の未来」と題して、有識者5名の方々による講演およびパネルディスカッションを行いました。2025年に引き続き、当会場とオンライン形式とのハイブリッド開催となり、当日は、ご来場者様含めて500名を超える参加となり大変盛況でした。本稿では、講演内容およびパネルディスカッションの概要について報告します。
はじめに
2018年以降、これまでライフサイエンス知財フォーラムでは4回にわたり、「医療データの利活用」「AIを活用した創薬」「情報のデジタル化とプラットフォーム化」「IPランドスケープ」「デジタル治療」「AIの活用と人材」等の議論を通じ、そこに関わる知的資産・知財権の扱い、そして事業と人材についての議論を行ってまいりました。
昨今の医薬品産業のバリューチェーン各業務における生成AIの活用は、単なる「作業の効率化」にとどまらず、AIエージェントの登場により、複数タスクを自律的に処理するようになり、ビジネスの自動化が視野に入ったと言われています。製薬産業においてもAI利活用を推進しビジネスそのものを変革していかなければ、企業として生き残りが難しい状況に来ているといっても過言ではありません。
そこで、今回の知財フォーラムでは、製薬業界のバリューチェーンにおいてデジタル化とAI利活用が何をもたらすかについての現状を俯瞰し、その上で、具体的に、製薬企業内でAI利活用による業務の革新、とりわけ、創薬研究開発を例に、実際のAI活用による研究開発の効率化の現状について取り上げました。またAI利活用にあたり、留意すべき法制度として、AI生成物についての取り扱い、保護のあり方等について解説しました。さらに、AI利活用にあたりデータのプライバシーやバイアス問題、AI生成物についての信頼性等の課題についても紹介しました。これら前半の講演内容を踏まえて、後半のパネルディスカッションでは、AIの自律性向上とそれが知財(特許)に及ぼす影響、医療データの利活用、AIガバナンス・倫理、法規制、知財業務のAIによる変革と人材育成等、多岐に渡る重要な論点について活発な討論が交わされました。
AIで変える AIと変わる
株式会社野村総合研究所(NRI) コンサルティング事業本部
ヘルスケア・サービス産業コンサルティング部 シニアプリンシパル 工藤 寛長 氏
製薬業界におけるDX/AI利活用の全体像・方向性、AI利活用の日常化のためには、まず人が変わる必要があります。
日本の製薬企業が置かれている現状について概観してみると、これまで同様、“イノベーション”と“グローバル”による成長が重要であることに加え、生産性・コストマネジメントの重要性が増しています。特に、医薬品開発のコストと期間の増大化は、今の製薬産業がサステナブルとは言い難い深刻な懸念が示されています。この点で、AIを用いた生産性向上を、改善ではなく改革というレベルでかつスピード感を高めて実現できるかが鍵となっていると言えます。
DXの進展は3つの段階に分類できます。
DX1.0として、企業内活動やエンドユーザー向けのプロセス改革があります。DX2.0として、今までにないデジタルサービスの提供段階としてのビジネスモデル変革があり、DX3.0としては社会課題の解決を目指すパラダイム変革があります。多くの産業でDX2.0の活動が取り組まれる中、製薬企業 の活動の多くはDX1.0に留まっているのが特徴です。
野村総合研究所(NRI)が毎年行っているIT活用実態調査において、AIに関する企業アンケート結果を紹介します。日本企業全体で生成AIが急速に普及しており、特に、化学・薬品系では約85%の企業が導入済みとの回答が得られました(2025年9月)。AI活用対象として、「情報の探索・知識や洞察の獲得」「文書の作成・要約・推敲」への使用が目立ちました。個人の文書作成・情報収集等のバックオフィス業務でのAI活用が主で、フロント(対顧客向け)業務や新規ビジネスへの活用は少数・限定的でした。そして、AI活用に関してはリテラシー不足や効果の見え難さによる普及面の課題が明らかとなってきました。
次に、AIを活用した業務の自動化(効率化)の成熟段階について紹介します。成熟段階は、(1)コンテンツ作成の自動化、(2)仕事の手順(プロセス)・ワークフローの自動化、(3)戦略目標の自律的達成のためのAgentic自動化と3段階に分けられます。(2)仕事の手順(プロセス)・ワークフローの自動化はデータのばらつきや例外処理対応が自動的に対処できるレベルであり、現状として、多くの企業がワークフロー・オートメーションに挑戦しています。(3)戦略目標の自律的達成のためのAgentic自動化は外部環境の変化を読み取り、変化に対応した戦略や行動を自動的に決めることが目標であり、現状は研究段階と言えます。
AIの成熟に伴い、そこで働く人の役割や仕事のやり方も大きく変わり、全従業員がAIのボスとなる「Agent Boss」の時代が近づいています。人の役割は、定型業務をAI(Agent)に任せ、Agentの性能や挙動を監督・評価する仕事に代わります。人は意思をもって、より創造的・戦略的な業務に集中することになります。また、組織のあり方も変わり、現状の機能別の組織から目的・ミッション起点の組織に変化していくと考えられます。
最後に、今後のDXによる生産性向上のステップとして、AIをツールとしてバリューチェーンの生産性を向上させる段階(AIで変える)と、AIとともに人・組織が自ら変わることで生産性を劇的に向上させる段階(AIと変わる)があると考えられます。前者は現状の効率化という連続的な変革段階であり、後者は機能・プロセスを再定義した非連続な変革と言えます。今後のAI活用は、後者の機能・プロセス自体を作り替えることがトレンドになるでしょう。
テクノロジーと人間の共存:製薬業界における新たな機会と挑戦
中外製薬株式会社 参与 デジタルトランスフォーメーションユニット長 鈴木 貴雄 氏
人の命や健康に関わる医薬品やサービスを取り扱う製薬業界では、品質・有効性・安全性を確保する観点から、関係部門や外部機関との綿密な確認・評価・連携が求められる厳格なビジネス風土があります。さらに1つの新薬を研究開発し上市するまでに約9~16年の期間と数千億円の費用がかかり、成功確率は2万数千分の1 という厳しいビジネス環境にあります。この課題をブレイクスルーし、創薬期間や費用の大幅な短縮、成功確率の向上を実現する手段として、AIへの期待が業界全体で高まっています。中外製薬では、2030年の絵姿として「真の個別化医療」を掲げ、AIとデータを活用したビジネス変革を推進しています。すでに基盤作りのフェーズ「DX1.0」は完了し、現在はバリューチェーン全体を変革する「DX2.0」の段階にあり、R&Dアウトプット倍増および自社グローバル品毎年上市の成長戦略「TOP I 2030」の実現に向けて全社で取り組んでいます。
AIの進化に伴い、弊社ではAIを単なる「道具」ではなく、共に働く「パートナー」と再定義し、新たなAI戦略「Chugai AI Strategy」を策定しました。この戦略は3つの柱から成ります。1つ目は「AI Everyday」です。マルチAI環境を構築し、現在すでに約9割の社員が業務においてAIを活用していますが、今後はAIが自発的に社員を支援する「AIバディ」の実現を目指します。2つ目は「AI Everywhere」で、ビジネスプロセスそのものをAI前提で再構築します。個別の業務(点)のAI化から、エージェントAI同士や人とAIが会話しながらプロセス(線)を人間の監督のもとで自律的に進める体制への移行を進めています。3つ目は「AI Transformation」です。AI創薬など経営課題に直結するテーマにおいて、自社の競争優位性の強化を目的にパートナーとの共創も含めて新たな価値を生み出していきます。
AIの活用が全社に浸透する一方で、AIガバナンスのあり方も見直す必要があります。AIへの入力時における著作権や機密情報の漏洩、出力時における他社の知財侵害やハルシネーション※といったリスクに対し、従来はガイドラインの整備や人間によるチェックで対応してきましたが、AIを全社員が日々大量に使用し、多くのAIエージェントが自律的に業務を推進する時代にはこの方法では立ち行かなくなります。未来のガバナンスとして、定型的な業務プロセスをAIが担うことで、人間はより高度な判断・倫理的意思決定にフォーカスすることが出来る体制構築が急務となっています。
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※ハルシネーション:AIが事実に基づかない情報を生成する現象
最後に、AI時代に求められる人財についてです。AIが進化する中で重要なのは「BTC人財」です。すなわち、自社の強みやビジネスを深く理解する「Business」、最新技術を常に吸収する「Technology」、そしてAIには代替できない発想力や人間的な共感力を生み出す「Creativity」です。この3つの領域を統合し、AIと協働して新たな価値を創出できる人財の育成が、今後の製薬企業の競争優位性を保つための鍵となります。
シミュレーションと連携した創薬AIプラットフォームの開発と展開
国立研究開発法人理化学研究所 生命医科学研究センター チームディレクター 本間 光貴 氏
医薬品に求められるプロファイルは、薬効(活性)に加えてADME※や毒性など多面的であり、特に低分子では複数項目を同時に良好に保つことが難しく、最適化負荷が大きい点が特徴です。ヒット化合物から開発候補分子に至るまでには、概ね20~30項目の指標を同時に最適化する必要があり、ここが創薬プロセスの難所といえます。そこで2000年代以降はAIに化合物構造と評価データを学習させ、代謝安定性等を予測して設計を効率化する取り組みが進みました。
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※ADME:薬物の吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)の4つの過程
一方、化合物空間は極めて広く(分子量500以下の有機化合物は10の60乗程度のバリエーションがあると推定)、実測データは限られるため、学習データから離れた領域では予測精度が落ちてしまう「適用範囲(AD)」の問題が避けられません。創薬AIでは、この点を前提に利用する必要があります。
このような背景のもと、2020年度より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)を中心に「DAIIA※1」を立ち上げ、製薬協会員会社の17社を含む産学官で学習データを拡充しました。オン/オフターゲット※2487種で約1,500万データポイント、ADMET30項目で50万超の構造式付きデータを集積し、企業データの活用により予測精度が改善することが確認できました。企業から多数の構造式付きデータが提供された点は、世界的にも例が少ないDAIIAの特徴と言えます。さらに、データ秘匿と両立する連合学習を併用しました。
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※1DAIIA:産学連携による次世代創薬AI開発の5か年プロジェクト(2024年度終了)
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※2オンターゲット:創薬において、薬物が意図した生物学的標的に対して効果を発揮すること
オフターゲット:オンターゲット以外の分子や受容体に作用してしまう現象
また、予測AIを報酬関数として用いる生成AI(ChemTS)により多目的同時最適化を行いながら、ADを考慮して“見かけの高スコア”に引きずられない構造生成手法を整備しました。加えて、ドッキング予測AI(Boltz-2)を用いることで、J-Public(44万化合物)を約16日でスクリーニングし、アッセイ(分析・評価法) 候補を1~3万化合物に絞り込む運用が現実的になりました。
最後に、DAIIAの成果をプロジェクト終了後も活用できるよう、成果版プラットフォームの提供と事業化の枠組みを整えています。参加企業は成果版を無償利用でき、アップデートやサポートが必要な場合は有償版で継続利用が可能です。国家プロジェクトは終了後に成果の活用が止まりがちという課題に対し、DAIIAでは継続的な事業化を可能とする仕組みを整えることができました。
AI技術の発達を踏まえた特許制度上の論点
特許庁 総務部総務課 企画調査官 千本 潤介 氏
近年、AI技術の急速な進展は知財制度にもさまざまな影響を及ぼしています。発明創出の過程でAIの役割が大きくなっているなか、AIが発明の大部分を創作した際に発明や発明者をどう定義するか、という観点について、有識者を招いた特許制度委員会で議論している点についてご紹介いたします。
この議論の契機としては「ダバス事件」と呼ばれる事案があります。これは人工知能「DABUS」を発明者として記載した特許出願が各国になされた事例です。各国で訴訟となりましたが、日本を含め各国で、発明者は自然人に限られると判断されています。
特許制度委員会では主に(1)発明、(2)発明者、(3)引用発明適格性の3つの論点に焦点をあてて議論しています。
(1)発明は、特許法の「発明」は自然法則を利用した技術的思想の創作と定義されていますが、AIは「思想」や「創作」ができるのか、という点などが問題となります。
(2)発明者は、自然人がAIを利用した場合、自然人がどのような貢献をすれば特許法上の「発明者」の地位を得られるのか、という点などが問題になります。この論点に関連して、米国では米国特許商標庁(USPTO)が2024年2月にAI支援による発明者認定のガイダンスを発出しましたが、2025年11月に全面撤回し、改訂版を発表しました。新しいガイダンスでは、AIをツールとして利用しても人が着想していればその者が発明者となる、という着想基準を採用しています。なお、ガイダンスは司法判断を経たものでもないため、今後も動向に注意が必要です。中国国家知識産権局(CNIPA)も簡易なガイドラインを公表していますが、内容は抽象的で実務的に運用の詳細が決まっている状況ではありません。また、日本や欧州、韓国など多くの国では、現時点で明確な指針などは示していません。
(3)引用発明適格性は、AIが生成した情報は、他の出願の審査との関係で引用発明として引用できるのか、というものです。(1)の論点で仮にAI生成物が「発明」でないとの立場をとると、(3)の論点でAI生成物は引用発明として他の出願の拒絶の根拠としても引用できないことになります。
総じて、AIを活用した発明に係る諸問題は、国際的にもまだ確立されたルールが存在しません。各国とも暫定的なガイドラインや裁判例をもとに議論を進めていますが、今後AI技術がさらに発展し、創作活動に深く関与する場面が増えるにつれ、制度のあり方についてもしっかりと考えていく必要があります。特許庁は、国際的・技術的動向を踏まえ、新たな時代の知的財産制度のあり方を引き続き検討してまいります。
AI利活用の日常化がもたらす製薬産業界の変化と知財業務
製薬協 知的財産委員会 奥村 浩也 委員長
はじめに、DX/AI利活用に関して2つお話します。1つ目は日本の「AI新法」です。AI利用の促進とリスク対応の両立を掲げる理念法・基本法で、規制や罰則が原則明記されていないのが特徴です。EUはハード・ローで制限、米国は原則フリーハンドで、日本はその中間に位置すると理解していますが、AI新法はソフト・ローを軸に柔軟に運用し、「最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すという国のスタンスを初めて定義した点に意義があります。
2つ目はいわゆる「日本版EHDS」です。医療分野のAI活用の前提として、欧州のヘルスデータスペース(EHDS)のようにリアルワールドデータ(RWD)を利活用できるプラットフォームが必要ですが、日本はこの点で遅れているため欧州での事例に学んだ「日本版EHDS」が期待されています。 企業も利用して次世代創薬と医療を加速する構想で、2024年に仮名加工医療情報の第三者提供が一定の条件下で可能となった後、2026年夏に政府の方針が確定し、2027年に法案提出の予定です。
バリューチェーンでは、R&Dからマーケティングまで全社でDX/AIを使い、まずはスピードアップと効率化を進めている段階です。金融業界などに比べると製薬業界は遅れており、先ほどお話があった「AIで変わる」段階にはまだ距離があるという理解です。
また、データではプライバシーが1つの重要な論点です。匿名化は有用性や信頼性とトレードオフで、個人情報に多くアクセスするほど性能は上がる一方、目的限定・最小化・同意といった重要な原則を機能不全にする可能性もあります。
最後に、知財業務におけるAI活用について、 ここ1年での生成AIの飛躍的進化に驚いていますが、とは言え知財業務での利用は一般には未だ日常業務の一部利用に留まります。しかし、先進企業の知財部ではいわゆる基幹業務にも使われるようになっており、そのような企業では機密情報のセキュリティ確保等の課題にも取り組まれ、克服されていると思われます。総じて、生成AIを広く業務に活用するためには個人のスキル向上と組織的な体制整備が必要であると我々は考えます。
パネルディスカッション
モデレーター:奥村 浩也
パネリスト:工藤 寛長 / 鈴木 貴雄 / 本間 光貴 / 千本 潤介
1.AIの自律性向上と知財(特許)への影響
モデレーター:生成AIの自律性が高まる中、AIが自律的に(医薬活性体等の)発明を成し得る可能性をどう見るか?
- 医薬品は要求項目が多く、データ量も十分でないことからハルシネーション等のリスクが高いため、短期(2〜3年)での発明は難しく、長期的(10〜20年)には起こり得る。
- 現状は課題設定やAIの条件設定等、人の関与が不可欠で「丸投げ」できない。
- 実験自動化とデータ蓄積が進めば、自律性は高まり得る。
モデレーター:製造・製剤・医療機器等では自律発明の可能性は高まるか?
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創薬と比較して、製造・製剤工程は条件設定が明確であり、段階的な自動化・デジタル化が進めやすい領域である。ただし、品質管理や安全性確保における人的監視は引き続き重要である。
- シミュレーションやデジタルツインで製造の自律性は上がり得る。
- 製剤設計は物性予測モデルと自動化設備の親和性が高い。
- 医療機器はデータ取得が容易で、薬より早く自律化が進む可能性がある。
モデレーター:The AI Scientist※等のような研究プロセス自動化AIは、創薬にも応用が可能か?
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応用できる可能性はあるが、人に投与する医薬品では、高い安全性が要求されるので、AIの『それらしい』アウトプットだけでは厳しい。
- AIが比較的シンプルな研究を自動化する段階から、多くの項目を適切に考慮して医薬品へ仕上げていくためには、現在のシステムよりさらに上のレベルが必要。
- 創薬はサブタスクに分解でき、部分的適用の余地がある。
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※The AI Scientist:アイデア創出、実験の実行と結果の要約、論文の執筆及びピアレビューといった科学研究のサイクルを自動的に遂行する新たなAIシステム
モデレーター:AI自律発明の発明者認定や国際調和(ハーモナイゼーション)は進んでいるか?
- 五庁(IP5)※等で情報交換は行われており、国際連携の重要性は高い。
- ただし各国とも対応を模索中というのが実情で、ハーモナイゼーション以前の段階。
- ユーザーの意見も踏まえ、他国と協力し制度検討を進める必要がある。
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※五庁(IP5):日本国特許庁(JPO)、米国特許商標庁(USPTO)、欧州特許庁(EPO)、中国国家知識産権局(CNIPA)、韓国特許庁(KIPO)
モデレーター:産業分野ごとに発明者認定基準が異なり得る議論はあるか?
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分野別に発明者認定基準を変えるべきと言った公的議論は把握していない。
- ただし分野により自律化の進み方や「実験」の貢献度の意味合いが異なる。
- 基本となる基準は共通としつつ、分野特性を考慮すべきという見解。
モデレーター:AI自律発明が現実化した場合、医薬品価値の保護はどう考えるべきか?
- 医薬品の価値は、臨床価値、薬事要件の充足、RWD、科学的エビデンスの積み重ねで成立する。
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物質特許だけではアイデアや期待値に留まり、それに情報・信頼性・臨床的裏付けが付いて初めて価値になる。
- その価値形成プロセスと特許の位置づけを改めて議論すべき。
2.医療データの利活用とAiガバナンス論理
モデレーター:生成AI利活用において、学習データの質や整合性が、AIの信頼性にどのような影響を与えると考えられるか?
- 生成AIの性能差やハルシネーションは、学習データの質に大きく依存する。
- 汎用生成AIは大量のネット情報を学習し、量で信頼性や整合性などの性能を担保している。
モデレーター:知財業務においても、どのようなデータをAIに利用するかが、出力の質や信頼性にとって重要だと考えてよいか?
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企業競争力の源泉は社内データであり、社内に眠るデータをいかに活用できるかが差別化の鍵となる。
- 特に非構造化データの活用が重要であり、非構造化データの質を高め、AIの学習や検索拡張生成(RAG)※を使った推論として活用することで出力品質が向上する。
- 知財業務には定型業務と非定型業務が存在する。
- 特許検索や申請書作成等の定型業務は生成AIによる効率化が可能である。
- 過去出願のデータ、権利化判断ロジック、知財戦略等は非構造化データとして蓄積されているはずで、これらのデータをどのようにAIに活用させるかが今後の知財部門の重要課題である。
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※RAG(Retrieval-Augmented Generation):大規模言語モデル(LLM)によるテキスト生成に、外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術
モデレーター:生成AIにおけるハルシネーションやバイアスの観点から、学習データの整備や取捨選択はどのように行うべきか?
- 創薬分野ではデータ量が限られるため、質の重要性が特に高い。
- 論文データには質のばらつきがあり、キュレーションにも限界があるが、製薬企業データは高品質であり、複数社データを統合することで偏りを低減できる。
モデレーター:生成AIの利活用が進む中で、プライバシーリスクにはどのように対処していくべきか?
- 生成AIは個人情報へのアクセス量・質が高いほど性能が向上するが、これは目的限定やデータ最小化といった従来のプライバシー原則を揺るがす。
- 対応策として、データそのものと学習結果を切り分ける考え方が重要であり、連合学習や非属人データ、合成データの活用も有効である。
モデレーター:AIエージェントが自律的に行動するようになる中で、ガバナンスやリスク管理はどのように行うべきか?
- 高度に自律的なAIは、安全装置を回避するリスクを持つ可能性があるので、重要なのは実装アーキテクチャの設計である。
- AIオーケストレーター※により、AIも人間と同様にガバナンス下で監視され、AIの行為に対する説明責任と、責任・権限の所在を明確にする必要がある。
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※AIオーケストレーター:複数のAIモデルや関連サービスを組み合わせ、相互に連携させ、より高度・複雑なタスクを実行するために司令塔の役割を果たすシステム
モデレーター:生成AIの利活用に伴う著作権や知的財産侵害のリスクについて、利用者や組織はどのように対応すべきか?
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学習データの適法性やAIアウトプットの利用可否が課題となる。
- 問題行為を組織としてどのようにコントロールするかが問われている。
- 政府レベルでも議論が進められており、プリンシプルコードが公表されている。
- 今後は国の議論を踏まえ、各社が自社実装を検討していく必要がある。
モデレーター質問:生成AIができること・できないことを踏まえ、人とAIはどのように役割分担していくべきか?
- AIが得意とする領域ではAIを積極的に活用し、人間による判断・評価が必要な部分は人間が責任を持って担う役割分担が重要である。
- 最終的な責任と権限は人間側にあり、ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)※は過不足なく設計することが重要である。
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※ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL):人間が自動化システムの操作、監督、意思決定に積極的に関与するシステムやプロセス
モデレーター:将来的に、人間の役割や意思決定のあり方はどのように変化していくと考えられるか?
- AIにできない仕事は必ず残る。
- 人間の役割は、意思や哲学を持ち、判断・評価を行い、最終責任を取ること。
- これは企業における社長に近い役割であり、人はよりBOSS的な仕事にシフトしていく。
3.知財業務自体のAIによる変革と人材育成
モデレーター:AI時代の知財人材に求められるスキルセット、そして人材育成とは?
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質とスピードの両立のためにAIの利活用能力は必須である。
- 特許庁として説明責任を果たし、出願人の納得感を得る等、人とのコミュニケーションが欠かせない業務は今後も人が担う。
- 今後も審査官にとって従来の法律・技術知識の習得は必要である。
- 審査においても、AI利用により新たな気付きが得られるケースは多くある。それが審査の質向上にもつながる。
モデレーター:AI時代の人材に求められるスキルセットは?
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道具としてのAIを利用する能力と多くの情報を適切に考慮して方向性を決定する能力の両方が重要となる。
- 医薬品には厳密なプロファイルが求められるため、課題設定は今後も人が担う。人にはその能力が求められる。
- 上記スキルを教育機関で学ぶことは困難。人材教育は企業が担う。
モデレーター:領域を統合する人材と部門を超えた統合連携を主導できる人材の共通点は?
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会社のビジネス上の戦略のなかで知財を正しく位置づける能力を有している人材が求められる。そのうえで新しいことにチャレンジする能力も必要。その実現のためには基礎能力としての人間力の向上が重要。 これらはAIで代替できない。
- 医薬品業界は従来の商習慣を変革する大きなチャレンジが必要な業界。日々進化しているテクノロジーとビジネスの融合によるビジネス変革には困難を伴う。それを自ら考え、推進する人材が必要。
モデレーター:AI時代に知財部門が目指す姿は?
- 今後、知財部門は企業の価値創造のエンジンとなる。知財部門には、戦略的なIP利活用をリードし、バリューチェーン全体の価値向上をもたらす組織となることを期待している。
- 知財という企業の経営資源を可視化し、マネジメント、エンハンスする組織となることを期待する。
モデレーター:AIが基点となる製薬産業におけるエコシステムとは?
- 業界全体で協力すべき非競争領域が存在するはず。AIが、業界に存在しているひずみをときほぐす取り組みの基点となるのではないか。
(知的財産委員会 知財フォーラムTF)
