「ICHマドリード会合」が開催される
医薬品規制調和国際会議(ICH)の会合が、2025年5月10日~14日の日程で、スペインのマドリードにて開催されました。会合では、全ICHメンバーおよびオブザーバーが参加する総会に加え、総会への付議内容を協議する管理委員会が開催されました。また同期間中には各分野の専門家もマドリードに参集し、ICHガイドラインの策定を担う11トピックの作業部会が会議を実施しました。各作業部会にて活発な議論が行われた結果、それぞれのトピックについてガイドラインの作成が進捗し、特に2つのトピックの技術文書案が、ICHにおける主要なマイルストンであるステップ2に到達しました。
総会全体写真
ICH会合は、対面会議が原則とされており、開催地マドリードには世界各国から400名の委員や専門家が集まりしました。今回の会合では、創設メンバーである日米EUの産官6団体※1、常任メンバー2団体※2、メンバー15団体※3、常任オブザーバー2団体※4、オブザーバー23団体が参加しました。製薬協からも総会・管理委員会関係者、作業部会の専門家をなど、27名が開催地であるマドリードへ赴きました。
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※1米国食品医薬品局(FDA)、欧州委員会/欧州医薬品庁(EC/EMA)、厚生労働省/医薬品医療機器総合機構(MHLW/PMDA)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)、日本製薬工業協会(JPMA)
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※2ヘルスカナダ(HC)、スイスメディック(SM)
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※3ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)、アルゼンチン医薬品食品医療技術管理局(ANMAT)、メキシコ連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)、エジプト当局(EDA)、シンガポール保健科学庁(HAS)、ヨルダン食品医薬品局(JFDA)、韓国食品医薬品安全処(MFDS)、英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)、中国国家薬品監督管理局(NMPA)、サウジアラビア食品医薬品庁(SFDA)、台湾食品薬物管理署(TFDA)、トルコ医薬品医療機器庁(TITCK)、バイオテクノロジーイノベーション協会(BIO)、世界セルフケア連盟(GSCF) 、国際ジェネリック・バイオシミラー医薬品協会(IGBA)
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※4国際製薬団体連合会(IFPMA)、 世界保健機関(WHO)
以下にICHマドリード会合でのICH管理委員会、ICH総会を踏まえた特記事項を記載します。
1.新規オブザーバーの加盟
ICHオブザーバーとして、新たにパラグアイ公衆衛生・社会福祉省国家衛生監視局(DINAVISA)、クウェート保健省(MOH)及びエルサルバドル衛生規制監督庁(SRS)の3団体から申請があり、いずれも総会にて承認され、ICHへの加盟が認められました。なお、今回ICHオブザーバーからICHメンバーへの昇格の申請はありませんでした。
この結果、メンバーは23団体(増減無)、オブザーバーは41団体(3増)となり、ICH全体としては64団体の組織体制となりました(末尾の参考資料参照)。
2.ICH技術トピックの動向
ICHマドリード会合では、総会の開催に合わせて11トピックの作業部会が参集しました。各グループは、普段は定期的なウェブ会議を開催していますが、この機会に4日間あるいは5日間の対面会議にて集中的な討議を行い、ガイドライン作成の進捗を図りました。
会合をもった作業部会
E6(R3) EWG | 「医薬品の臨床試験の実施の基準」の改定 |
E22 EWG | 患者選好試験の一般的考察 |
Q3E EWG | 医薬品の抽出物及び溶出物ガイドライン |
Q6(R1) EWG | 「医薬品の規格及び試験方法の設定」の改定 |
M1PtC WG | ICH国際医薬用語集(MedDRA)に関する留意事項 |
M4Q(R2) EWG | 「コモン・テクニカル・ドキュメント-品質に関する文書の作成要領に関するガイドライン」の改定 |
M7 Sub-group | 潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理 -ニトロソアミン不純物管理-
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M11 EWG | 電子的に構造化・調和された臨床試験実施計画書 |
M13 EWG | 即放性経口固形製剤の生物学的同等性試験 |
M14 EWG | 医薬品の安全性評価においてリアルワールドデータを活用する薬剤疫学調査の計画、デザイン、解析に関する一般原則
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M15 EWG | Model-Informed Drug Developmentに関する一般原則 |
本会期中には、M4Q(R2) とE21の技術文書案が総会で承認され、ICH上重要なマイルストンであるステップ2に到達しました。また今回の総会では、活動中の全トピックの進捗についても議論され、2024年11月のICHモントリオール会合以降に主要なマイルストンに到達したトピックが確認されました。以下に、マイルストンに到達したトピックをまとめます。
ステップ4に到達したトピック
E6(R3) | 「医薬品の臨床試験の実施の基準」の改定:原則及び付属書1(2025年1月) |
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※ステップ4到達とは、ガイドライン案がICH総会の規制当局代表者によって最終的に合意、採択され、英語版ガイドラインが確定したことを意味します。今後、各地域・国の規制当局において実装プロセスに入ります。
ステップ2に到達したトピック
M11 | 電子的に構造化・調和された臨床試験実施計画書:技術仕様(2025年3月) |
M13B | 即放性経口固形製剤の生物学的同等性試験:含量追加のバイオウェーバー(2025年3月) |
Q1 | 原薬及び製剤の安定性試験(2025年4月) |
M4Q(R2) | 「CTD-品質に関する文書の作成要領」の改定(2025年5月ICH総会) |
E21
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妊婦及び授乳婦の臨床試験への組入れ(2025年5月ICH総会) |
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※ステップ2到達とは、技術文書をベースにしたガイドライン案がICH総会の規制当局代表者により承認され、今後各地域・国の規制当局がパブコメを実施し、その結果を踏まえながらガイドラインを最終化するステップ3に移行することを意味します。
3.新規ICHトピックの採択
ICHで取り扱う新規トピックは、毎年各ICHメンバーから提案される新規トピック案の中から、ICH管理委員会がその緊急性や重要性、フィーシビリティ等を検証して採否を検討し、ICH総会で決定しています。今回の総会では以下の4つが新規トピックとして採択されました。なお、具体的な活動開始時期は今後検討されることとなっています。
- 医薬品の有効性に焦点を当てたリアルワールドエビデンス(RWE)利活用に関する考慮事項
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バイオシミラー開発における有効性比較試験の有用性判断の枠組み
- 希少疾患医薬品開発を促進する自然歴研究とレジストリデータ
- 先端医療医薬品(ATMP)の製造プロセス変更に伴うコンパラビリティ評価(Q5E補遺)
また、今回のマドリード会合でM4Q(R2)がステップ2に到達したことに伴い、過去に新規トピックとして採択されていた「構造化された製品品質データ申請(Structured Product Quality Submissions:SPQS)」というトピックも、今後活動が開始されることになりました。
4.MedDRA
ICHでは、MedDRAを開発し継続的に維持しています。前回のICH会合では、MedDRA運営委員会のメンバーを拡大することが承認され、今回新規メンバーの募集が行われました。各団体からの立候補をもとに本会合にて選挙が行われた結果、以下の2つの規制当局と1つの業界団体がICH管理委員会により承認されました(任期3年)。
- 中国国家医薬品監督管理局(NMPA)
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サウジ食品医薬品庁(SFDA)
- 国際製薬団体連合会(IFPMA)
次回ICH会合
2025年11月15日~19日の日程で、シンガポールで開催予定です。
なおICHでは、ICH会合の成果を含め、ICHの活動に関する情報を積極的に開示し、関係者のみならず一般の方々に理解を深めていただけるように公開しています。今回のICHマドリード会合の成果や各トピックのコンセプトペーパー、作業計画等はICHウェブサイト(https://www.ich.org/)よりご覧いただけます。
【参考資料:ICHメンバー、オブザーバー一覧(2024年11月現在)】
表1:メンバー(23団体)

表2:オブザーバー(41団体)

(国際規制調整部長 加藤 真理子)