「CMC Strategy Forum Japan 2025」開催
2025年12月8~9日の2日間にわたり、CASSS(California Separation Science Society)主催の「CMC※1 Strategy Forum Japan 2025」が東京マリオットホテル(東京都品川区)にて開催されました。日本だけでなくアジア、北米、欧州等14ヵ国から約100名の参加登録があり、非常に活発な意見交換が行われました。
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※1CMC:Chemistry, Manufacturing and Control(医薬品製造および品質を支える統合的な概念)
CMC Strategy Forum Japan開催の経緯
CMC Strategy Forumは2002年にWCBP(Well Characterized Biotechnology Pharmaceutical)シンポジウムから独立し、米国で第1回が開催された後、2007年から欧州、2012年から日本、2014年からラテンアメリカで継続して開催されており、2021年には中国でも開催されました。CMC Strategy Forumでは、企業、アカデミア、および規制当局の専門家がバイオ医薬品のCMCについての研究開発、製造、規制等に関する課題に関して、十分に時間をかけて議論を行い、相互理解と課題解決を促進しています。
日本でのCMC Strategy Forumは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)と製薬協で準備委員会を組織し、テーマの選定や議論の方向性を決めるだけでなく、約1年をかけて準備を行ってきました。
会の開催に際し、CASSSのFellow、CMCフォーラムグローバル諮問委員会議長を務めるGenentech社のWassim Nashabeh氏とPMDA再生医療製品等審査部長の丸山 良亮氏からのWelcome and Introductory Commentsの後、以下のテーマで議論が開始されました。
Wassim Nashabeh氏
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Session 1
Recent Trends in the Regulation of Biopharmaceutical Products
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Session 2
Advancements in AAV technology: Quality Considerations, Analytics and Manufacturing Strategies
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Session 3
Advancing Stability Testing: Modernization and Expansion of the ICH Q1 Guideline with Science-and Risk-Based Approaches
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Session 4
Innovative Approaches in Biopharmaceutical Manufacturing: Advanced Manufacturing Dx, and AI/ML
丸山 良亮氏
Session 1: Recent Trends in the Regulation of Biopharmaceutical Products
座長: Takeda Pharmaceutical Company Limited: Alexey Khrenov氏
PMDA再生医療製品等審査部 栗林 亮佑氏
Session 1では、バイオ医薬品および再生医療等製品を中心とした最新の薬事規制動向、国際共同審査の状況、新しい技術に対するガイダンスの説明等、幅広い内容が紹介されました。
PMDA再生医療製品等審査部 栗林 亮佑氏
本邦におけるバイオ医薬品関連の最新の規制動向として、試行が開始された中等度変更事項に係る手続きについて、再生医療製品等での審査経験、およびバイオ医薬品に中等度変更事項を適用する際の考え方や、中等度変更事項への該当性に係る事前相談の重要性が説明されました。
新薬承認のトレンド分析に関する公表論文が紹介され、本邦での新規承認品目の約3分の2を抗体医薬品等のバイオ医薬品が占めており、今後も増加する傾向にあることが説明されました。また、バイオシミラーに関する公表論文として、先行品との品質特性の差異が有効性同等性試験で正当化できた割合は6%にとどまることや、バイオシミラーの開発が進んでいない状況が示されました。
再生医療製品等、多様化するモダリティに対する品質・安全性確保の考え方やガイドライン整備の進捗が共有されました。
PMDA再生医療製品等審査部 田中 敬介氏
本邦におけるICH Q12(医薬品のライフサイクルマネジメント)ガイドラインの実装について、製造および管理に関するエスタブリッシュトコンディション (ECs)、承認後変更管理実施計画書(PACMP)および製品ライフサイクルマネジメント (PLCM) 文書を中心に説明がありました。ICH Q12に含まれる要素を活用することにより、より効率的なライフサイクルマネジメントが期待されます。
また、ICH M4Q【CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)】ガイドライン改訂に向けたワーキンググループでの議論の最新状況について、ガイドライン改訂の背景、ロードマップ、ICH M4Q(R2)におけるCTD M3およびM2.3の新たな構成を含む特徴、そして公開された記載事例(モックアップ)について解説がありました。ICH M4Q(R2)は、ライフサイクルマネジメントと知識管理のさらなる向上を目指しているとの説明がありました。
欧州医薬品庁(EMA) Nino Mihokovic氏
新設されたガイドライン、既存の薬事変更ガイドラインの改訂、そして薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)共同審査パイロットプログラムについて説明がありました。薬事変更ガイドラインは、これまでに欧州で得られた経験と科学的・技術的進歩に基づき、欧州域内の公衆衛生を確保しつつ、審査効率を向上させることを狙って2025年9月22日に改訂されました。2026年1月15日から発効される改訂後の薬事変更ガイドラインでは、特にバイオ医薬品において、変更カテゴリーが従来のものからのダウングレードされることを含め、多くの合理化が盛り込まれており、効率化が期待されます。また、ICMRA共同審査パイロットプログラムについては、過去の事例とともに審査効率化の実績が共有されました。
アイルランド規制当局(HPRA) Kevin O'Donnell氏
GMP査察官であるO'Donnell氏より、GMPの観点から見た薬事要件の解釈についての発表がありました。変更管理に関して医薬品品質システム(PQS)の有効性は、規制を柔軟に利用するための核心的な要件としてICH Q12においても位置づけられており、サプライチェーン全体の製造変更の管理は、ライフサイクルに渡っての変更管理システムの重要な部分であると言えます。薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)の共同リフレクションペーパーでリスクベースの一変申請についても言及されており、これは新しい概念ではなくQ10 Appendixで述べられているものと同じです。したがって、適切なPQSにより根拠をきちんと示すことで、査察の免除や承認後変更をスムーズに行える可能性があります。
パネルディスカッション
Health CanadaのJayda Siggers氏、オランダ規制当局(MEB)のMarcel Hoefnagel氏が加わり、パネルディスカッションが行われました。
まず、発表のなかったHealth Canadaからカナダでの最新の薬事規制について説明があり、ICH Q12や新モダリティに対する取り組みが共有され、今後は事例を積み重ねながら運用を進める方針であることが示されました。その後の質疑応答で、ICMRAやACCESSなどの共同審査、プラットフォーム申請およびICH M4QやQ12実装の課題点等について討議されました。共同審査の進捗に関して、各国の規制要件の違いから即時調和は難しいものの、それぞれの規制当局における経験の積み重ねに加えて、規制当局内外の連携を深めることで、意思決定のプロセスを効率化していくことが言及されました。またプラットフォーム申請に関しても当局側も模索中であり、企業側はプロセスの理解をしっかり示すとともに、当局側ともコミュニケーションを取りながら進めることが重要であることが強調されました。
Session 1
Session 2: Advancements in AAV technology: Quality Considerations, Analytics and Manufacturing Strategies
座長: PMDA再生医療製品等審査部 岸岡 康弘氏
Roche Singapore Srinivasan Kellathur氏
本セッションでは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの製造・品質評価に関する最新の知見と課題について、学術界・産業界・規制当局の専門家が講演とパネルディスカッションを行いました。AAVは遺伝子治療の主要なプラットフォームであり、その品質管理は患者の安全と製品信頼性の確保に直結します。
本セッションを通じて強調されたのは、AAVは本質的に不均一な粒子集団(充填状態:Empty/Partial/Fullや、関連する不純物を含む)であること、そしてその複雑性を前提として、重要品質特性(CQAs)の定義・特性解析・管理戦略を一体的に設計することが不可欠である、という点でした。加えて、分析技術(特に質量分析(MS)を中心とした多層解析)の高度化により、AAVの充填状態、カプシドタンパク質(PTMを含む)、宿主細胞由来タンパク質(HCP)などの評価をより定量的・多面的に実施することが可能であり、これが製造・精製プロセスの理解と管理に直結することが示されました。さらに、製造プラットフォーム(細胞株、遺伝子導入法、精製手法)の選択が収率や品質に大きく影響するため、全製造工程を通じた一体的な最適化が、コストと安全性の両方の観点で重要であることが共有されました。規制面では、AAVカプシド内の治療遺伝子の充填率(Empty/Partial)の管理、不純物管理、ゲノム完全性・力価、分析法の妥当性に基づく規格設定に加え、プロセス一貫性、原材料リスク、製造変更時の同等性が審査上の主要論点であり、製品ライフサイクル全体で信頼性の高い管理戦略を構築する必要性が示されました。
大阪大学 工学研究科 教授 内山 進氏
AAVの不均一性とそれに伴う不純物について包括的に概説し、精製・未精製ベクターの両方を評価して重要品質特性(CQA)を把握するための一連の分析手法を紹介しました。加えて、新たに開発されたヒト由来生産細胞株であるHAT細胞で産生したAAVの詳細な特性解析データを示し、生産細胞プラットフォームが粒子集団や品質プロファイルに影響し得ることを説明しました。
アイルランド国立バイオプロセッシング研究研修所 Jonathan Bones氏
AAVの特性解析技術に関する非常に専門性の高い知見が共有されました。AAV解析の複雑性や限られた試料量といった課題に対し、多層的MSワークフローの有効性が示されました。まず、ネイティブMSおよび電荷検出MS(CDMS)によるEmpty/Partial/Full粒子の判定に加え、pHグラジエント陰イオン交換クロマトグラフィーとこれらのMSを組み合わせることで、クロマトグラフィーの時間スケールで充填状態を評価する手法が紹介されました。また、LC-MSやマイクロチップ電気泳動(MCE)-MSを用いたカプシドタンパク質の特性解析、さらに配列相同性(縮重)のため翻訳後修飾(PTM)の帰属が難しい場合を補完するトップダウンMS/MSの活用が示されました。最後に、Orbitrap Astral MSなどの高性能MSを用いたHCPクリアランス評価の例として、AAVxアフィニティ精製およびEmpty/Full分離工程を含むラボスケール検討が紹介されました。
【用語解説】
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■ネイティブMS:タンパク質やウイルス粒子を変性させず、元の構造を保ったまま測定できるMS。
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■電荷検出MS(CDMS):AAVのように大きくて不均一な粒子を、1粒子ずつ高精度に測定することができるMS。
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■マイクロチップ電気泳動(MCE)-MS:マイクロチップ上で高速に分離し、そのままMSで解析する手法。微量で複雑な試料を短時間かつ高分解能で測定できる。
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■トップダウンMS/MS:タンパク質全長をそのまま質量分析し、直接断片化して配列情報やPTMを同定する手法。
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■Orbitrap Astral MS:Thermo Fisher Scientific社が提供する、超高分解能・高速・高感度なハイブリッドMS。
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■AAVxアフィニティ精製:Thermo Fisher Scientific社のCaptureSelect AAVXレジンを用いたAAV精製手法。複数のAAVセロタイプに幅広く対応する。
アステラス製薬株式会社 セル&ジーンセラピーリサーチ 櫻井 隆史氏
培養工程および精製工程を通じたAAV製造の実務上の課題を取り上げ、生産性、回収率、品質が、原価低減と患者安全性に直結する主要因であることを強調しました。あわせて、細胞株や培養形態、培養拡大システムなどのプラットフォーム選択、ならびにアフィニティ、イオン交換、サイズ排除、超遠心といった精製戦略が収率および原薬品質に与える影響を整理しました。さらに、同一の導入遺伝子(GOI)(例:CMV-GFP)であっても、設計の違いによりベクターゲノム力価が変動し得る事例を紹介しました。最後に、より堅牢で効率的な将来のAAV製造に向けた展望を示しました。
PMDA再生医療製品等審査部 前田 健一郎 氏
規制当局の観点から、AAVベクター製品の品質評価における重要論点と審査で頻出する留意点をまとめました。具体的には、Emptyカプシド/Partially Filledカプシドの特性解析および管理、製品由来ならびに工程由来の不純物管理、ゲノム完全性および力価の評価、規格設定を支える分析法の妥当性などが挙げられました。さらに、申請資料でしばしば課題となるプロセス一貫性の確保、原材料リスクの適切な評価、および製造変更後の同等性/同質性データの充足性にも言及し、臨床的意義を踏まえた規格設定と、製品ライフサイクル全体を通じて信頼性の高い管理戦略を確立することへの期待が示されました。
パネルディスカッション
座長であるRoche Singapore のSrinivasan Kellathur氏の進行のもと行われた演者4名によるパネルディスカッションでは、AAVの製造および管理戦略に関する実務的な論点や課題が中心に議論されました。参加者からは、ロット間差や製品特性の違いによりAAV製造プロセスがどのように変動し得るかについて意見が交わされ、同定(ID)試験にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いること、および工程内管理(IPC)を活用して品質管理(QC)における出荷試験数を削減できるか、といった点について質疑がありました。加えて、未知不純物への対応や全体的な特性解析アプローチについても議論が行われました。免疫原性の観点では、Emptyカプシドの性質、Empty低減の重要性(細胞株選択を含む)、およびAAV9で85~90%がFullといった高いFull比率を示す細胞株の登場が取り上げられ、PMDAからは免疫原性リスク低減のためEmptyカプシドは可能な限り最小化すべきとの見解が示されました。その他、精製工程におけるウイルスろ過、安定性に関連する容器の検討、細胞株構築を強化して製造原価を低減する戦略、およびAIの適用(特に実験計画法(DOE)による最適化)が議題となりました。
Session 2
Session 3: Advancing Stability Testing: Modernisation and Expansion of the ICH Q1 Guideline with Science- and Risk-Based Approaches
座長:国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)生物薬品部長 石井 明子氏
Amgen社 Andrew Lennard氏
2025年4月にStep 2bに到達したICH Q1ドラフトガイドラインは、複数存在する安定性試験に関するガイドラインを統合し、科学およびリスクに基づく安定性評価を導入するとともに、先進医療製品など新しいモダリティへの対応を図ることが目的とされています。本セッションでは、ICH Q1ドラフトガイドラインの概要が解説され、この改訂がバイオ医薬品の安定性評価に与える影響について議論されました。
PMDA ワクチン等審査部 亀田 隆氏
ICH Q1(安定性試験)ドラフトガイドラインの概要の説明に加え、規制当局の観点からバイオ医薬品の安定性評価の展望について紹介がありました。新しいドラフトガイドラインでは、安定性試験に関する6つのガイドラインとQ1Fを統合し、リスクベースでの安定性評価の考え方が充実した内容となっています。また、バイオ医薬品の適用範囲は大幅に拡充され、治療用タンパク質、ワクチン、アレルゲン製品、先端医療医薬品(ATMP)なども対象となる予定です。長期保存試験データを基本とする原則は維持されますが、従来困難とされてきたバイオ医薬品におけるリテスト期間設定や外挿の利用についても、凍結保存され安定性プロファイルが十分に理解された原薬に限り、限定的な適用が可能になることが示唆されています。
Genentech社 Boris Zimmermann氏
製品ライフサイクルを通じて蓄積される製品の安定性に関する知識の増加に応じて、安定性評価の実施方法における厳格さの程度を最適化する「リスクから知識へのフレームワーク」が提案されました。また、バイオ医薬品における有効期間外挿のケーススタディが提示され、限られた安定性データに既存のプラットフォーム知識を組み合わせることで、科学的妥当性に基づく外挿が可能となり、初回承認時に合理的な有効期間設定を実現した事例が紹介されました。
Amgen社 Andrew Lennard氏
ICH Q1ドラフトガイドラインで示される安定性試験の標準アプローチと科学およびリスクに基づき安定性試験の試験計画を合理的に最適化する代替アプローチの違いに着目し、代替アプローチは標準アプローチと同等の重みを持つことが強調されました。代替アプローチの導入は、モデリングやPrior Knowledgeの活用により開発期間を短縮し、患者さんへの迅速なアクセスの実現を目的としていることが紹介されました。
国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)生物薬品部 柴田 寛子氏
近年公表されたバイオ医薬品の品質特性の安定性挙動のモデリングに関する論文に基づき、バイオ医薬品でのリテスト期間や外挿を用いた有効期間の設定の実現可能性について紹介がありました。また、国内の複数の製薬企業とともにバイオ医薬品の安定性予測に関する研究グループを立ち上げており、国内でも議論を促進していけるよう取り組んでいる状況が紹介されました。
パネルディスカッション
日本、米国、EUなど地域間での代替アプローチの受け入れ方の違いや、未知の要素・リスクに対して慎重になる姿勢、製品ライフサイクルマネジメントにおける製法変更や製造サイト追加への対応、さらに凍結製品や凍結乾燥製品における外挿の許容性などが論点として議論されました。
総じて、ICH Q1ドラフトガイドラインは科学およびリスクベースに基づく安定性評価を加速する「変革の鍵」となり、ケースバイケースのより柔軟な安定性評価のアプローチを許容することで、医薬品の患者さんへのアクセスと開発効率の両立が期待されます。ガイドライン実装に向けて規制当局と業界の協働によるグローバル調和は不可欠であり、標準アプローチが唯一の方法ではないこと、代替アプローチが品質・安全性を担保しつつ迅速な製品供給を可能にすることが強調されました。
Session 3
Session 4: Innovative Approaches in Biopharmaceutical Manufacturing: Advanced Manufacturing、 Dx、 and AI/ML
座長:Takeda Pharmaceutical Company Limited: Alexey Khrenov氏中外製薬株式会社 渡邊 洋介 氏
本セッションでは、バイオ医薬品製造・品質管理における革新的技術として、Advanced Manufacturing、Dx、AI/MLをテーマに最新の知見が共有されました。規制当局の視点からのイノベーションへの考え方に加え、自動化やプロセス最適化、品質管理の高度化、リアルタイムモニタリング、開発段階でのAI活用に関する最新事例が共有されました。
また、規制遵守やデータインテグリティの観点から、規制当局および業界におけるAI活用の現状、メリットと限界、将来的な展望について活発な議論が行われました。
F. Hoffmann-La Roche社 Gert Thurau氏
本講演は大きく二つのパートで構成され、前半は人工知能(AI)に関する概要説明に続いて、医薬品開発におけるAI活用の事例を紹介し、実際にどのような場面でAIが導入され得るのかが示されました。後半は、医薬品の開発・製造におけるAI利活用の規制環境について、米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)からそれぞれ2025年に公表されたガイダンス案の内容が取り上げられ、規制上の課題も含めその現状について解説しました。AIを取り巻く規制環境は、FDAやEMAを中心として、規制当局とステークホルダー間で活発な議論が続けられており、AIのような進化の速い技術分野においては、安全な利用を確保しつつイノベーションを促進する、そのバランスを適切に保つことが極めて重要であるとの考えが示されました。
MSD株式会社 古木 健一朗氏
大型施設によるバッチ製造のみでは少量多品種製造には対応しきれません。小規模な同一の設備を用いた分散型製造を実現することで、特に細胞製剤を各国の患者さんに適切なタイミングで供給できる可能性が高まること、MSD社ではバイオ医薬品の連続生産化を進めており、これをPOD設備(Portable-on-demand)と組み合わせることで小回りの利いた供給が期待できることが示されました。
また本技術と関連し、プロセス分析技術(PAT)の利用や滞留時間分布モデルによるロットの考え方が示されました。さらにソフトセンサーの導入による濃縮工程の透過流速低下に対応したデジタルツインの構築について紹介がありました。
カナダ保健省(HC) Jayda Siggers氏
本講演では、医薬品の開発・製造でのAIやモデルの活用に関して、カナダ保健省での審査の観点が示されました。モデルの審査では、意図した使用目的に対してモデルが適切かを重視しており、重要な判断やデータの根拠として用いられるPrimary modelと補足的な情報およびデータを提供するSupporting modelに分類したうえで、使用目的を踏まえて審査の厳格さの程度を判断していることが説明されました。また、モデルを利用して申請する際には、モデルの概要を規制当局が理解しやすい形で説明し、早期の段階から議論することが推奨されるとともに、申請で用いたアプローチや戦略を公開し、将来的なベストプラクティスの確立につなげていくことが今後の重要な方向性として示唆されました。
オランダ規制当局(MEB) Marcel Hoefnagel氏
EMA品質イノベーショングループ(QIG)における、医薬品の製造支援活動について紹介されました。QIGには化成品とバイオロジクスに加えて、ATMPとGMPの専門家が在籍しており、技術面、薬事面、国際的な協業についてアドバイスをしているとのことです。そのうちListen & Learn Focus Groupsは2023年から活動を開始しており、産学官のエキスパートと、AI活用やデジタル化、自動化、連続生産を含めたAdvanced manufacturingのトピックについて議論し、イノベーションの後押しをしていることが紹介されました。QIGでは詳細なガイドラインの策定は避け、ベストプラクティスを見つけていくことを優先しており、各国当局の期待値の均質化やAIの定義については今後の課題と捉えていることが説明されました。
パネルディスカッション
アイルランド規制当局(HPRA)のKevin O’Donnell氏、PMDAの櫻井 陽氏、武田薬品工業株式会社の竹中 公亮氏が加わり、現時点でAIツールはどの程度活用されているのか、その有効性をどう評価しているのかを中心に議論が行われました。規制当局・企業ともにAIはすでに試験的あるいは限定的に導入が進んでいるものの、審査そのものやリスクの高い意思決定への本格活用には至っておらず、比較的リスクの低い領域での活用が中心であることが共有されました。今後1~2年で、シンプルな審査やプロセス効率化において段階的にAI活用が進む可能性がありますが、その一方で、AIモデルのブラックボックス、妥当性の説明、リスク管理、監査や査察のあり方が引き続き大きな課題として挙げられました。また、AIの適用においては、原薬・製剤間で本質的な差はなく、AIが何を判断し、その誤りがどのようなリスクに直結するかを基に評価すべきとの認識が示されました。特に、AI導入を成功させるためには、企業内の製造・薬事間、ならびに企業と規制当局との早期かつ継続的なコミュニケーションが不可欠である点が強調されました。AIは人を置き換えるものではなく、補完的に活用しながら、リスクとベネフィットのバランスを見極めて進めるべきとの共通認識が得られました。
連続生産に関して、連続生産によるバイオ医薬品の製造は品質へのリスクが高くなることは避けられないこと、バッチ式による製品との同等性/同質性については、さらなる議論と検討が必要との意見が挙がりました。
Session 4
最後に
今回のフォーラムは2024年に引き続き対面にて開催され、各セッションのパネルディスカッションでは非常に活発な議論が交わされていました。また、フォーラム中に設定されていたNetworking ReceptionやNetworking Breakでは、国内外の産学官からの参加者が相互にコミュニケーションできる非常に良い機会となり、本フォーラムならではの良さを十分感じとることができました。
4つのセッション終了後、CASSS Board of DirectorsのVice PresidentであるJamie Moore氏から本フォーラムの総括が実施され、閉会となりました。
このグローバル会議が、今後も日本で継続的に開催され、バイオ医薬品の研究開発の促進とCMC領域の活性化の一助になるよう、製薬協として支援を続けていきたいと考えています。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。
次回の「CMC Strategy Forum Japan 2026」は、2026年12月7~8日の開催を予定しています。
(バイオ医薬品委員会 柴田 瑞世、中村 奈央、定光 信、吉山 英幸、早水 健二、伊藤 宏昭)
