「第14回APAC(アジア製薬団体連携会議)」を開催 ミッション:革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける
APAC(Asia Partnership Conference of Pharmaceutical Associations)は2012年より開催されており、2025年で14回目を迎えました。2025年4月22日に 開催された今回のカンファレンスには、国内外から約700名が参加し、そのうち6割が海外からの参加者でした。カンファレンスでは、医薬品ライフサイクルにおける創薬、申請・許認可に係る規制、医薬品アクセス向上への課題解決のための5つのセッションと2つの基調講演が行われ、非常に活発なディスカッションが行われました。
APAC関係者一同
APACカンファランスの発表資料は下記のAPACウェブサイトよりご覧ください。
APAC:https://apac-asia.com/achievements/14th_apac.html
以下、当日のプログラムに沿ってご報告いたします。
Opening Remarks要旨
製薬協 上野 裕明 会長
製薬協の上野裕明会長(開催当時)は、Opening Remarksとして、はじめに2025年3月28日にミャンマーで発生した大地震の被災者へのお見舞いの言葉を述べました。
その後、製薬協のさまざまなグローバルな協業活動と新しいビジョン「製薬協 産業ビジョン2035」に言及し、その3つの柱と「革新的な医薬品とワクチンを日本と世界に届ける」というメッセージを紹介しました。
APACについては、これまでの歴史と最近の活動に触れ、アジアの13の研究開発型製薬団体と規制当局・アカデミアが集まり、APACの使命である「革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける」ことを議論する場であることを強調し、第14回APACのテーマは「信頼と協力を通じてアジアのより健康な未来を実現する」ことを紹介しました。

さらに、新しい医薬品やワクチンの開発、新しいモダリティ、デジタルトランスフォーメーション(DX)技術の導入、グローバル市場への拡大など、医薬品業界の環境の変化に対応するために、APACの活動範囲も拡大していくことを述べました。また、地政学的な動向が急速に変化し、不確実性が高まっている現状を指摘し、特にアジア地域における地域協力の重要性がこれまで以上に増していると強調し、今こそより強固な絆を築き、協力を強化する時であると述べました。
最後に、参加者と準備に関わったすべての方々に感謝の意を表し、第14回APAC会議が非常に生産的で有意義なものになることを願っていますと締めくくりました。
祝辞要旨
IFPMA 事務局長 David Reddy 氏
国際製薬団体連合会(IFPMA)事務局長のDavid Reddy氏は、祝辞の中で、「信頼」と「協力」の重要性を強調しました。業界のビジョンとして、科学の進歩を次世代の医薬品やワクチンに変換し、すべての人々に健康な未来を提供すること、そしてエビデンスに基づく政策立案の重要性を述べました。
また、日本のリーダーシップとグローバルパートナーシップについても触れ、日本が医療イノベーションの推進において重要な役割を果たしていることを強調しました。特に、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のリーダーシップと薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)のような国際的な規制フォーラムへの協力について称賛しました。
第14回のAPACのプログラムでは、患者アクセスを真に向上させる具体的な分野に重点が置かれていると述べ、特に3つの分野(regulatory relianceの推進、e-labeling、GMP)を挙げました。

最後に、public-privateの協力が重要であり、共に協力することで革新的な医薬品を患者さんに提供し続け、アジアのライフサイエンス分野が世界クラスの水準を維持するという共通の目標を実現できると確信していると締めくくりました。
基調講演要旨
Global Health Vision of Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan
厚生労働省 医務技監 迫井 正深 氏
迫井氏より、「厚生労働省国際保健ビジョン」について基調講演が行われました。
本ビジョンは、元厚生労働大臣の武見敬三氏の強いリーダーシップの下、国際保健の課題として、感染症対応や医薬品の開発、医療人材の育成・確保など、国内外の問題が密接に関連する中で、厚生労働省が国際保健に積極的に関与することが、国際社会への貢献とともに、国内の課題解決にもつながるものであり、国際保健への取り組み方針および具体策として取りまとめられました。
8つのイニシアティブについて紹介し、特に本日のセッションに関連する3つのイニシアティブ(創薬基盤強化の国際戦略、「医薬品・医療機器等開発エコシステム」の展開、経済安全保障としての医薬品の安定供給確保戦略について、その背景と目的、主な取り組みを詳細に説明しました。
最後に、セッションにおける実り多いディスカッションを期待していることを述べ、講演を締めくくりました。

PMDA’s efforts for “Tomorrow's Normal” together ~with everyone around the world~
PMDA 理事長 藤原 康弘 氏
藤原氏より、3つのトピックスを中心に基調講演が行われました。
PMDAが設立20周年を迎え、新しいロゴと目的を発表したことに触れ、新しいロゴは、科学と情報を活用し、平和で健康的な生活を支える「生活プラットフォーム」としてのPMDAの役割を象徴していると述べました。続いて、PMDAによる革新的医薬へのアクセス向上への取り組みとして、新興バイオ医薬品企業(EBP)のグローバルな研究開発における役割が重要視されていること、一方で、アジアにおける国際共同治験(MRCT)においては、EBPが主導する臨床試験の数が増加していないことが課題とされている点を指摘し、希少疾病用医薬品や小児用医薬品の開発促進、審査期間の短縮、革新的な医薬品の迅速審査プログラム、海外企業の英語による申請資料受け入れ、臨床試験エコシステムの確立、MRCTへの参画、PMDAワシントンD.C.事務所の設立など、新しい相談サービスやさまざまな施策を実施していることを述べました。

アジアにおけるPMDAの国際協力として、PMDAアジアトレーニングセンターのこれまでの取り組み、PMDAアジア事務所の設立によるアジア地域の規制当局や産業界との直接的なコミュニケーションの促進と規制問題の調和の活動について触れ、「リライアンス」の概念について説明され、世界保健機関(WHO)とアジア地域における協力を通じて、この概念の普及を進めていくことを述べました。
RA(規制・許認可)セッション
リライアンス審査を促進する取り組み ~予測性と透明性の観点から~
座長:PMDA ATC・二国間協力部長 遠藤 あゆみ 氏
RA-EWG リーダー 畠山 伸二 氏
規制・許認可を取り扱うRAセッションでは、「リライアンス審査を促進する取り組み ~予測性と透明性の観点から~」をテーマとして取り上げました。ここで紹介するリライアンスは、各国の医薬品規制当局間がお互いを信頼して協力しながら医薬品の承認審査を効率的且つ迅速に推進することで、世界中の人々に速やかに医薬品を届けることに繋がることが期待されます。
RAセッションでは、2019年第8回APACにおいてWHOが推奨するリライアンのスコンセプトを紹介してから、アジア各エコノミーのリライアンス関連ガイドラインの共有や、日本の医薬品承認をアジア各エコノミーが参照する二国間リライアンスの事例紹介、WHOとASEAN諸国が推進するASEAN共同審査の進捗など、リライアンス審査を広く普及するためのテーマを継続しています。
今回、冒頭で紹介した通り、リライアンス制度を活用することによる審査の予測性と透明性の重要性をセッションテーマとして設定しました。申請者の観点から医薬品の申請方針を立案するうえで、審査の予測性と透明性は非常に重要となります。これらに関して申請者および審査側で相互理解を深めることにより、リライアンス審査によるメリットを改めて認識し、さらに積極的に活用するようになることを目指しました。
座長としてPMDA ATC・二国間協力部長の遠藤あゆみ氏を招待し、RA-EWGリーダーの畠山伸二氏が共同座長を務めました。
はじめに、WHOのAlireza Khadem氏からリライアンス審査における審査の予測性と透明性の重要性について全体的な立場から講演があり、次に申請者側からの期待を、アジアの製薬企業団体を代表して、シンガポールSAPIのHelene Sou氏およびベトナムPharma GroupのHuyen Do氏より紹介がありました。また、アジア各規制当局の取り組みについて、マレーシアNPRAのSiti Noor Haryani binti Ismail氏およびタイFDAのWorasuda Yoongthong氏より、それぞれの当局におけるベストプラクティスの共有がありました。最後に、PMDAアジア事務所長の北原淳氏より、アジアのリライアンス審査推進に対するPMDAアジア事務所の取り組みについて講演がありました。
引き続き、講演者によるパネルディスカッションを実施しました。申請者側からはSou氏およびDo氏に代わりシンガポールSAPIのKC Wong氏がパネリストとして参加しました。両座長による司会進行により、1)WHOが推進するリライアンスへの理解、2)審査の予測性と透明性に対する申請者側からの期待やアジア規制当局が実施しているベストプラクティス、3)リライアンス審査制度利用時の審査の予測性と透明性に関する重要点(プロセスの明確化・コミュニケーションと相互理解・申請資料の一致性・WHOやPMDAによる支援など)、について話合い、審査の予測性と透明性の観点からリライアンス審査を推し進めていくために取り組む重要点について、コンセンサスを形成することができました。
RAセッションの演者
RAセッションの様子
DA(創薬連携)セッション
日本とアジアにおけるマイクロバイオーム研究の現状と創薬応用
座長:DA-EWG リーダー 池森 恵 氏
DA-EWGは、「アジア各国の人々のために、アジアの国々が協力して、アジア発の革新的な医薬品を創出する」というアジアにおける創薬連携の推進を目標に、(1)創薬シーズの情報共有、(2)創薬プラットフォームの構築、(3)次世代を担う研究者の育成を進めています。
DA-EWGのセッションでは、2024年に引き続き、マイクロバイオーム研究を取り上げました。マイクロバイオームは創薬研究における新たなモダリティの一つとして注目され、日本をはじめ、アジア諸国でコンソーシアムが設立されるなど、アジアでも活発に研究が進められています。特に腸内のマイクロバイオームは健康や病気にも影響を与えていることが明らかになり、病気の発症メカニズム解明や予防・治療法の開発、ヘルスケアへの貢献が期待されていましたが、近年では、欧米を中心に医薬品もいくつか販売されるようになっています。日本でもFMT承認のための品質ガイドラインの作成が始まりました。
本セッションではDA-EWGリーダーの池森恵氏を座長とし、「日本とアジアにおけるマイクロバイオーム研究の現状と創薬応用」をテーマに、3名が登壇しました。
はじめに、国内マイクロバイオーム研究の第一人者である、一般社団法人日本マイクロバイオームコンソーシアム(JMBC)の寺内淳氏、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)の國澤純氏が登壇し、それぞれ「産学連携によるマイクロバイオーム研究の加速化」、「日本国内のマイクロバイオーム研究の課題と可能性」を発表しました。講演を通じて、創薬研究の新モダリティとして注目されているマイクロバイオーム研究の現状の確認と創薬応用への可能性を考え、マイクロバイオーム研究を創薬で活用する場合の産学官連携のあり方についての知見を得ました。
最後に、PMDAの栗林亮佑氏から、「マイクロバイオーム医薬品の規制面からの考え方」の発表があり、新モダリティであるマイクロバイオーム創薬に関し、PMDA科学委員会のマイクロバイオームに関する報告書を中心に、従来とは異なる視点での規制策定についての知見を得ました。
DA-EWGリーダー 池森 恵 氏
JMBC 寺内 淳 氏
NIBN 國澤 純 氏
PMDA 栗林 亮佑 氏
DA-EWGでは、今後も、マイクロバイオームの創薬研究の可能性と課題に注目し、アジア各国のアカデミア、スタートアップや製薬企業のマイクロバイオーム研究とその創薬応用の推進に貢献したいと考えています。

e-labelingセッション
e-labelingへの取り組みの加速-デジタルヘルスプラットフォームとの相互運用性、ヘルスケアエコシステムとしての活用
座長:PMDA 安全性情報・企画管理部 部長 太田 美紀 氏
e-labeling EWGリーダー 松井 理恵 氏
2025年のe-labelingセッションは、『e-labelingへの取り組みの加速-デジタルヘルスプラットフォームとの相互運用性、ヘルスケアエコシステムとしての活用』をテーマとして、e-labelingの取り組みをAPAC地域の患者さんのためにさらに加速させることを目的に議論しました。
APAC地域におけるe-labelingへの取り組みは、規制当局との協力により、規制の作成/改訂、ガイダンス発出等、素晴らしい進展を遂げています。一方で、欧米では、デジタルヘルスプラットフォームとFast Health Interoperability Resources (FHIR※) e-labelingの相互運用性が議論され実装に移行しています。本セッションでは、(1)APAC地域のe-labelingの構造化に際し、FHIRの導入に関するベネフィット・リスクを議論し、(2)医療用医薬品の患者向添付文書作成し e-labeling により提供することの重要性を再確認しました。
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※FHIR:医療情報交換のための標準開発組織であるHL7が開発した、ヘルスケア情報の相互運用性に関する国際的な標準規格
本セッションでは、PMDA 安全性情報・企画管理部部長の太田美紀氏、e-labeling EWGリーダーの松井理恵が共同座長を務めました。冒頭に、2024年10月に開催したAPAC とEUのIMI Gravitate Healthとの共同イベントや、第14回APACの前日に開催した第1回対面による規制当局とAPAC製薬団体とのFHIR e-labelingワークショップの成果について、松井より共有がありました。
はじめに、HL7 VULCAN Electronic Product Information ProjectのCo-leadの Craig Anderson氏より、欧米におけるFHIR e-labelingの現在の状況と将来について共有がありました。その後、タイFDAのWorasuda Yoongthong氏、台湾FDAのMei-Chen Huang氏より、タイ、台湾における現在のe-labelingの進捗およびFHIR e-labelingへの取り組みについて共有がありました。また、マレーシアNPRAのMaslinda Mahat氏より、マレーシアのe-labelingのスタディーの中間報告および今後の予定について共有がありました。
パネルディスカッションでは、本セッションの演者に加え、韓国MFDSのYeonHae Han氏、インドネシアBPOMのNova Emelda氏、フィリピンFDAのMaria Cecilia Matienzo氏、インドCDSCOのAnnam Visala氏、PMDAの太田氏が登壇し、総勢10名でe-labelingについて議論しました。パネリストの方々からそれぞれのマーケットのe-labeling実施状況について共有があり、その後、パネル討論に参加した8規制当局に事前に行った『これから3~5年間に取り組んでいきたいe-labelingの分野について』のアンケート結果が報告されました。回答は、FHIRのような国際的な標準規格に基づきe-labelingの構造化に取り組んでいくかが最も多く選択されました。また、FHIRは、薬事の分野での議論および実装が進んでいるが、電子処方箋や電子カルテ等のヘルスケアシステムで国際的に導入が推進されている標準規格であるため、e-labelingに取り入れることはヘルスケアエコシステムにも繋がることについて議論されました。一方で、そのマーケットの添付文書のテンプレートや患者向添付文書の作成にあたりFHIRをどのように使用していくかを検討するため、Use caseを議論する必要があるとの意見もありました。
最後に、PMDA太田氏より、セッションの成果として、1)APAC地域のe-labelingの実装をより多くの製品、より多くの市場で加速させる、2)APAC地域においてもe-labelingの構造化に際してFHIRの導入を検討し、デジタルヘルスプラットフォームとの相互運用性を確保し、活用していくため議論を進める、3)APAC地域においても患者向添付文書を作成し e-labelingとして医薬品情報の提供を推進していく。そして、ヘルスエコシステムの一部として活用するため議論を進めていくと、締めくくられました。
e-labelingセッションの演者
e-labelingセッションの様子
MQSセッション
GMP調査のリライアンス
座長:PMDA 品質管理部 品質管理第一課 課長/検定・検査課 課長 今田 理裕 氏
MQS Task Force Leader 丸山 都 氏
MQSセッションでは、APACのゴールであるAccess To Innovative Medicines(ATIM)を達成するため、製造・品質・サプライに関するテーマについて、協議を行っています。
PMDA品質管理部 品質管理第一課課長/検定・検査課課長の今田理裕氏を座長とし、グローバルなサプライチェーンの複雑化と技術の急速な変化の中で、重要性が認識されつつある「GMP調査のリライアンス」をテーマとして取り上げました。
スピーカー/パネリストとして、日本からはPMDA品質管理部の原賢太郎氏、マレーシアNPRAのKim Mi Hng氏、シンガポールHSAのLi Lian Lim氏より講演がありました。原氏からは、GMP調査のリライアンスの基本的な考え方と利点およびPMDAの活動が共有されました。Kim Mi Hng氏からは、マレーシアのリライアンスの状況および東南アジア諸国連合(ASEAN)のGMP分野における相互承認協定(MRA)について共有されました。さらにLi Lian Lim氏からは、シンガポールのリライアンスの状況およびシンガポールと韓国の間で締結されたGMP分野におけるMRAに関する事例やAccess ConsortiumでのGMPコラボレーションについて共有されました。
続くパネルディスカッションでは、講演で共有された内容を踏まえて、以下の点についてディスカッションを行いました。
- GMP調査のリライアンスを推進するうえでの課題や重要と考えられるポイント
- GMP調査のリライアンスの実現に向けて、当局と業界あるいは当局間で求められることは何か
- GMP調査のリライアンスの枠組みにおいてどのようなGMPに関する書類が求められるか
- GMP調査のリライアンスがもたらすと考えられる管轄国の患者さんおよび企業への将来的なものも含めたベネフィット
- アジアでのGMP調査のリライアンスの実現はアジアにどのようなベネフィットをもたらすか
GMP調査のリライアンスの構築において重要な点として、規制の標準化、規制当局間の定期的なコミュニケーション、継続的なトレーニング、調査能力の評価、透明性の確保、信頼性の構築等があげられ、これらに対する具体的な取り組み事例とともに意見が述べられました。また、査察の重複を避ける、査察の能力の向上をリージョンレベルで達成できるといった当局のベネフィットに加え、企業にとってもリソース削減につながり、患者さんにとっては品質を担保しながら承認プロセスの短縮を達成できるというベネフィットがあり、その有益性について共通認識が持たれました。さらには、GMP調査のリライアンスの枠組みとして、法的拘束力のない柔軟な枠組みでの取り組みの可能性や、リライアンスの適用拡大の可能性、アジアとしての取り組みに対する構想も含めた意見が述べられ、今後のさらなる展開が期待されるディスカッションとなりました。
最後に、座長の今田氏から、結論として下記3点が報告されました。
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GMP調査のリライアンスの推進は、重複調査を避け、リスクに基づくリソース配分の適正化に繋がることにより、当局・企業双方にリソースを生み出し、イノベーションの実現をサポートする。
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GMP調査のリライアンスを推進するには、コミュニケーション、トレーニング、アセスメントを通じた当局間の相互理解と信頼関係の構築が不可欠である。このプロセスにより、各国のGMPレベルが高い水準で維持されることが期待される。
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GMP調査のリライアンスの実現は、最小限のリソースと時間でGMP評価を行い、早期承認に寄与する。これにより、患者さんに高品質な医薬品を早期に提供することが可能になる。
MQSセッションの演者
MQSセッションの様子
aUHC(アジアのUHC)セッション
アジアにおける真のUHCの実現
座長:ボストン コンサルティング グループ 武田 俊彦 氏
本セッションは、ボストン コンサルティング グループの武田俊彦氏の司会進行のもと、アジア各国・地域がUHC達成に向け、さまざまなアプローチで課題に取り組んでいる現状について議論を行いました。
はじめに、元厚生労働大臣で参議院議員の武見敬三氏による「From Health Reform to Global Vision: Building the Future of Healthcare Together」と題した基調講演で幕を開けました。武見氏は、日本の医療改革として医療DX、感染症対策、医師偏在対策等の取り組みを概観し、グローバルな視点を取り入れた創薬力の強化、官民連携の推進、UHCナレッジハブの設立、アジア太平洋地域との連携強化などを提唱しました。特に、イノベーションによる医療費高騰への対応と高額治療へのアクセス確保のための制度的見直しの必要性を強調しました。続いて各国の専門家によるプレゼンテーションを行いました。
韓国からは、同徳女子大学教授のSeung-Rae Yu氏が「韓国における治療領域別新薬支出:国際比較及び政策への影響」について発表しました。韓国の新薬支出は経済協力開発機構(OECD)平均より低いものの、がん領域への支出の集中を指摘し、疾患領域間での支出バランスの改善を提唱、リスク分担協定(RSA)や薬剤経済評価免除(PEE)の適用拡大を提言しました。
タイからは、マヒドン大学博士のPattara Leelahavarong氏が「タイにおけるUHCを支援するための医療技術評価(HTA)の活用」について発表しました。限られた資源と急速な技術進歩の中、UHC政策決定におけるHTAの重要性を説明し、タイにおけるHTAのプロセス、費用対効果の閾値、価格交渉におけるHTAの活用事例に触れ、研究者と政策立案者間の連携強化の必要性を強調しました。
シンガポールからは、シンガポール大学教授のAlec Morton氏が「シンガポールの医療財政制度における民間医療保険の役割」について発表しました。シンガポールの医療財政制度「S+3M」と民間保険的役割を担う補完医療保険であるIntegrated Shield Plans(IP)の役割を解説し、IPに関連する機会と課題、HTAの役割、国民の制度理解促進の必要性について説明しました。
台湾からは、衛生福利部中央健康保健署(NHIA)健康保険署長のChung-Liang Shih氏が「革新的ながん治療薬へのアクセス向上」について発表しました。台湾のがん死亡率と治療費の増加を背景に、国民健康保険のグローバル予算外で運営される台湾がん治療基金(Taiwan Cancer Drugs Fund 、TCDF)を紹介し、早期発見とリアルワールドデータ活用によるプレシジョンメディシンの重要性を強調しました。
パネルディスカッションでは、各プレゼンテーションにて取り上げられたテーマに関して活発な議論を行いました。高齢化に伴う医療費高騰への対応として、支出上限の設定、リアルワールドデータを用いた優先順位付け、バランスのとれた償還戦略の必要性、TCDFのような革新的資金メカニズムの設計・運用等の議論を行いました。HTAについては、高額な遺伝子治療等への予算制限を回避するために費用対効果だけでなく、健康上の利益、社会的影響、財務リスク保護など多角的な視点の必要性を強調しました。民間保険の役割については、公的制度を補完する形で活用し、個人の選択とリスク許容度を反映できる利点を生かしつつ、公的制度への投資意欲を阻害しない制度設計が重要との見解が示されました。
最後に、政府と製薬業界は透明性と協調性を重視し、新薬に伴う不確実性への対応や市販後調査の実施、更には補完的な予算確保や官民連携を通じて、革新的医薬品へのアクセス向上に取り組むべきとの共通認識の確認がありました。
今回のセッションは、アジア各国がUHC達成に向けた課題と展望を共有し、今後の協力関係を強化する貴重な機会となりました。
aUHCセッションの演者
aUHCセッションの様子
Wrap up
APAC運営責任者/製薬協 国際委員会 村上 伸夫 委員長
APAC運営責任者/製薬協国際委員会の村上伸夫委員長は、講演者やパネリストに感謝の意を表しました。
そして、本日行われた5つのセッションの内容と主なハイライトについてスライドにまとめて詳細を説明しました。積極的な発表と議論が行われ、多くの合意とコンセンサスが得られたことを述べました。

Closing Remarks
製薬協 眞鍋 淳 副会長
製薬協の眞鍋淳副会長は、まず各国の規制当局、アカデミア、APAC加盟の製薬団体に感謝の意を表し、今回の会議には約16カ国・地域から700人近くが参加し、成功裏に終わることができたと述べました。
APACは2012年に「革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける」を使命に初めて開催し、2025年で14回目を迎えました。「信頼と協力を通じてアジアのより健康な未来を実現する」をテーマとして掲げ、本日のカンファランスでは多くの問題について合意が得られ、次の行動が明確になったことが述べられました。
また、本日の祝辞と基調講演においても、アジアの患者に革新的な医薬品を届けるための取り組みが紹介され、国際的な薬事規制の調和やアジアにおけるユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の推進には、信頼と友好関係の永続が重要であり、APACで共有された取り組みは、患者さんにイノベーションを迅速に届けるだけでなく、アジアのエコノミー間の友好と信頼関係の構築の重要性を再認識させると述べました。

さらに、COVID-19パンデミックの経験を通じて、「健康」こそが社会と経済の基盤であることが認識され、感染症だけでなく、まだ我々が医薬品やワクチンを届けるべきアンメットメディカルニーズは残っており、その課題解決のため、産学官が協力し、製薬産業は創薬イノベーションの発揮によりその責務を果たさなければならないことを強調しました。
最後に、あらためて参加者に感謝の意を表し、2026年の第15回APAC会議で再会することを楽しみにしていると締めくくりました。
(RA-EWG 畠山 伸二 氏、DA-EWG 池森 恵 氏、e-labeling EWG 松井 理恵 氏、MQS TF 丸山 都 氏、aUHC-EWG 香川 治 氏、国際連携部長 八尋 勇治)