2025年度事業方針、事業計画
日本製薬工業協会
はじめに
「創薬の地」・「成長産業・基幹産業」との政府方針と製薬協の目的・事業
政府は、昨年7月に開催された創薬エコシステムサミットにおいて、我が国の創薬力を向上させ、国民に最新の医薬品を迅速に届けることが最重要施策とし、日本を世界の人々に貢献できる「創薬の地」とし、医薬品産業は、我が国の科学技術力を生かせる重要な「成長産業」であり、我が国の今後の成長を担う「基幹産業」となるべき産業と位置付けた。
もとより、日本製薬工業協会(以下「製薬協」という)は、研究開発を志向する我が国製薬企業を会員とし、創薬と製薬産業の健全な発展を通じ、我が国、そして、世界の人々の健康・福祉向上を目的とする団体であり、創薬エコシステムサミットで示された我が国の未来を政府とともに実現するため、その使命は会員会社共々ますます重大となった。
他方、政府において、2025年度(令和7年)薬価中間年改定実施が決定されるなど、医薬品産業を、国民そして世界の人々のため、一層、貢献でき、我が国の今後の成長を担える産業とするための道のりは、決して、平坦とは言えない。
産業ビジョン、政策提言と事業方針・事業計画
そのうえで、製薬協は、内外での大きな環境変化も踏まえ、製薬協 産業ビジョン2025を改定し、製薬協 産業ビジョン2035を公表した。
また、当会の事業として、1.医薬品の研究開発の推進に必要な基盤整備のための提言、2.医療保険制度を含む社会保障制度に関する提言、3.研究開発型製薬産業に必要な提言を行うことが日本製薬工業協会会則(以下「会則」という)で定められており、これらを踏まえ、政策提言2025を公表している。
このため、2025年度の事業方針・事業計画は、会則で定められた目的・事業に基づくとともに、製薬協 産業ビジョン2035を実現するためのものとして政策提言2025で示した取り組み方針を踏まえ、策定する。
1. 事業方針
2025年度の事業方針は、製薬協 産業ビジョン2035の柱建てに準拠して定めることとし、上記会則のほか、会則で定められている以下の事業についても、一体のものとして積極的に取り組んでいく。
- 自由かつ公正な企業活動の確保と企業倫理の高揚のための対応
- 医薬品の品質・有効性・安全性確保と適正使用促進の推進
- 関係国際機関・団体との連携および国際協力・支援活動の企画とその推進
- 医療消費者・生活者との対話の促進と製薬産業に対する公正な世論の啓発および喚起
- 環境問題への適切な対応等
なお、2025年度は、製薬協 産業ビジョン2035等の初年度であるとともに、診療報酬改定、研究開発税制の見直し年度でもあり、通常国会での医薬品医療機器法等の制度改正、第3期健康・医療戦略等を踏まえ新たな中長期計画期間が始まるAMED等も含め、所要の対応が必要となる。
また、日本を世界の人々に貢献できる「創薬の地」等とするとの政府方針と、予見可能性が不足している薬価制度、薬価削減に依存した社会保障制度等、現下の環境も踏まえ、イノベーションや業界のあり方について議論を深めていく。
(1)イノベーションを継続的に創出し、健康寿命の延伸とともに我が国の経済成長に貢献する
最先端科学技術を迅速に導入・応用し、革新的新薬を継続的に創製
- 開発や製造、市販後対策等、全般にわたり、引き続き、生命工学、AI(Artificial Intelligence)、DX(Digital Transformation)の活用、新規モダリティへの対応(Digital Therapeutics等を含む)等の最先端科学技術の導入に取り組んでいく。
創薬環境基盤の構築
- 薬研究に有用な従来のテクノロジーのみならず、次世代放射光や高性能コンピュータシステム等日本の強みとなり得るテクノロジー、さらには、ナノテクノロジーや量子コンピュータのような萌芽的テクノロジーへも裾野を広げ、産学での利活用推進を図る。
- 本年度に開始される全ゲノム解析等実行計画事業に際し、事業実施組織準備室やコンソーシアムへの参画等を通じ、利便性の高い充実した利活用システムとして構築されるよう尽力するとともに、必要な環境整備への提言等を含め、加速・推進を図る。
- 2025年の公的DB利活用促進に向けた法改正も踏まえ、効率的・効果的な創薬を一層図るため、更なる健康医療データ基盤構築・法制度整備、データの規格化等に向けて働きかけを行う。
科学技術立国日本へ向け、我が国の高度人材の育成に貢献
- 引き続き、オープンイノベーションを主導し、産学含めた知の高度化に努める。
- 従来の薬学的知識の枠を超える新たな創薬科学教育プログラム育成に関し、積極的にコミットする。
- 「即戦力バイオ製造人材の育成支援」、「学生のバイオ製造教育支援」、「一般社団法人バイオロジクス研究・トレーニングセンター(BCRET)活動支援」を提言し、人材育成プランの策定を進めていく。
患者・市民参加型創薬の実現に向け、患者さん・市民を含めたCo-creation(共創)を推進
- 「くすりビジョナリー会議2024」の共同宣言も踏まえ、臨床試験はもとより、非臨床から市販後まであらゆる段階で患者さん・市民の参画を進められるよう、「Co-Creation=共創」へのコミットメントを加速させていく。
- 「日本における倫理的連携のためのコンセンサス・フレームワーク」に基づき、「臨床試験にみんながアクセスしやすい社会を創る会(通称:創る会)」および「くすりビジョナリー会議」の事務局運営等を通じ、産学官患連携のための場づくりを進める。
- 臨床試験においては、DCT(Decentralized Clinical Trial)の実現、情報公開の効率化、製薬企業が公開する臨床試験情報が、患者さんや国民が理解しやすい内容や表現で記載されるよう等の取り組みを図る。
- 難病・希少疾患については、Rare Disease Dayにおけるシンポジウムや「希少疾患における医療従事者の困りごとに関する調査」等を行っており、引き続き、関係団体と協働し、取り組みを続ける。
創薬エコシステムの構築・発展により、ライフサイエンス関連産業全体の裾野を拡大
- 本年度、予定されている官民協議会等の場において、創薬・実用化の知見に富んだ業界の意見が反映され、「創薬の地」にふさわしいエコシステムが根付くよう尽力する。
- 本年度から第3期中長期計画期間が始まる国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)においては、研究開発支援の中心として期待された役割が果たされるよう、計画策定までに抽出された課題や解決の方向性を踏まえ、事業の縦割りが排され、基礎研究事業は柔軟に推進、実用化を推進する事業は統合的に推進される等、改革の確実な実行を求め、協力していく。
- 国内に数多く存在する創薬・バイオクラスターについて、クラスター間のつながりを強化し、各地に分散する「ヒト・モノ・カネ」をつないでいく。
革新的新薬のグローバル展開を進め、世界の人々の健康に貢献
- 各国政府、業界団体、在外公館等との連携も図りつつ、会員会社の活動を支援する。
- 各国の情報収集、我が国薬事規制の海外への浸透および調和、医薬品査察協定および医薬品査察共同スキーム(PIC/S)等の規制当局間国際協調の推進およびGCP相互認証の実現に向けた国際連携の推進、我が国薬事承認に基づく簡略審査制度の連携強化等を図る。
- アジア製薬団体連携会議(Asia Partnership Conference of Pharmaceutical Associations、APAC)、2国間会合およびシンポジウム等を通じた官民連携強化により各国の薬事規制課題解決を推進し、アドボカシーを強化する。
- 国際製薬団体連合会(IFPMA)やBCR(Biopharmaceutical CEO Roundtable)等を通じ、製薬事業を取り巻く重要課題について共有し、IFPMA等と連携しながら製薬協独自の活動を含めた多国間アドボカシー(Multilateral Advocacy)活動を強化する。
- 遺伝資源およびその情報のアクセスと利益配分に関して行われている生物多様性条約(CBD)や世界保健機構(WHO)での国際的議論において、遺伝資源の活用により患者さん・医療に貢献していく研究開発活動等が阻害されないよう、適切に対応する。
- ICHにおいては、新規トピック等の検討体制を整備・強化する等、創設産業団体の一角としてふさわしい活動を継続する。
国内薬事関連施策への適切な対応
- 「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」での合意事項や通常国会に提出された医薬品医療機器法改正における制度見直し等も踏まえ審査および調査のさらなる効率化、従来の薬事規制の再評価等、提言を進める。
- RWD(Real World Data)等の活用等、ICH E6(R3)を踏まえたGCPリノベーションについて、治験・臨床研究の国内実装等を図る。
- 新規モダリティへの対応、健康医療データに対応したソフトウェア等、技術進歩に対応した薬事規制環境について、調査、提言等を図る。
税制、知的財産制度等への対応
- 研究開発税制の見直しにあたる2026年度税制改正要望につき、イノベーション創出が促進されるよう対処するとともに、イノベーション拠点税制についても、医薬品業界が活用できるよう検討・取り組みを進める。
- 長期の研究開発と巨額の開発投資が必要な製薬業界に対応したデータ保護制度等について、引き続き検討するとともに、知的財産権の制限が議論されることもある国際世論において、投資環境を改善し、継続したイノベーション創出を支える知的財産権の国際的保護について理解・促進を図っていく。
輸出の拡大、担税力の強化等により、基幹産業として日本の経済成長に貢献
- 成長産業・基幹産業と位置付けられた医薬品産業を担うとともに、経済成長等に関する医薬品産業の貢献等について、調査研究を進め、発信していく。
(2)国民に革新的新薬を迅速に届け、健康安全保障に貢献する
革新的新薬を継続的に生み出し届けるために、イノベーションの価値を追求し、魅力ある日本市場を構築
- 2026年度薬価制度改革に向けて、イノベーションの適切な評価の仕組み(新薬の価値評価プロセスの改善、医薬品の多様な価値の評価等)の構築・実現に取り組む。
- 2024年度薬価制度改革等に基づく運用や課題を検証し、費用対効果評価等、次期制度改革に向けて改善に向けた検討・働きかけを推進する。
- 日本製薬団体連合会(日薬連)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)等と連携を取りつつ製薬協としての意見、改善要望を積極的に続けていく。
「最新」の治療が、いち早く、かつ「世界標準」の治療が将来にわたり安定的に受けられる社会保障制度を提案
- 持続可能な社会保障制度を構築するため、薬価削減に頼らない給付と負担、財政運営について政府に訴えていく。
- 我が国の創薬力強化とドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消を実現するための、革新的新薬のイノベーションの適切な評価を図る2024年度薬価制度改革の方向性が受け継がれるよう、その検証も踏まえつつ、2026年度薬価制度改正に対処する。
- ドラッグ・ラグ/ロスの解消には、我が国の創薬環境改善と適切なイノベーション評価が重要であり、政府に対し引き続き訴えていく。
- 海外スタートアップ企業に対し、昨年に設置されたPMDA米国事務所等も通じ、我が国の市場や薬事規制の情報を発信し、我が国での上市を促進する。
- 顕在化しているドラッグ・ロスについては、情報の更新と継続調査を行うとともに、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を通じた開発要請等に対し、適切に対応していく。
国・保険者、医療関係者とともに議論を進め、日本および日本国民の健康安全保障の一翼に参与
- 政府の審議会等に積極的に参与する。
- 医薬品のサプライチェーンの確保、安定供給を図るため、地政学的リスクの高まりに応じた経済安全保障の観点も含め、取り組みや会員への情報共有等を進める。
(3)倫理観と透明性を担保し、社会から信頼される産業となる
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成を始めとする社会問題の克服や気候変動等環境課題対応への参画
- 引き続きユニバーサルヘルスカバレッジを推進するとともに、グローバルヘルス課題について、各種ステークホルダーと協働して課題解決が図られるよう活動を進める。
- 世界的に死亡者が増加している薬剤耐性(AMR)感染症に対し、研究開発等を進めるとともに、政府に対し、プル型インセンティブ等の提言活動を行う。
- 感染症に関する次のパンデミックに備えるため、ワクチン産業基盤を強化するとともに、現在議論されている「予防接種に関する基本計画」の改定についても、その刷新に向け、積極的に提言していく。
- 地球温暖化防止のためのカーボンニュートラル計画や循環型社会の形成についてのコミット等、引き続き、環境問題へ適切な対応を図る。
社会からの信頼を得るべく、高い倫理観と行動基準、透明性を持った活動の実施
- 「コード理解促進月間」における点検等、製薬協コード・オブ・プラクティスの精神に則り、高い倫理性と透明性をもって企業活動の遂行を促進する。
- 「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」に基づき、引き続き、関係者と連携し、医薬品取引の適正化に向けた取り組みを実施する。
国民に医薬品を適正に使用いただくために、関係者と協力し、健康・医療や科学に関する国民のリテラシー向上に貢献
- 患者さん・市民向けに作成した薬の開発プロセスの紹介資料の活用を図るとともに、さらに、市販後の企業の取り組みや、それを通じて得た医薬品の安全性・有用性情報を患者さん・市民向けに丁寧に発信していく。
- 関係団体と協力し、「薬と健康の週間」等イベントや「知っておきたい薬の知識」等のパンフレット等を活用し、フィードバックも踏まえつつ、国民のリテラシーの向上に貢献。
- 国民への医薬品情報提供のあり方等を検討するとともに、患者ニーズに応える情報提供活動の実現に向けたルールについて検討・提言等を行っていく。
- 抗菌薬の適正使用や高額薬剤の最適使用に向けた普及啓発活動等を引き続き実施する。
- ポリファーマシー対策として、幅広いステークホルダーへの啓発活動を引き続き実施する。
医薬品を高品質で安定的に提供し続ける体制の確立
- デジタル技術等も活用し、品質管理における高品質化を図る。
- サプライチェーン確保を含め、安定供給のための調査・検討を引き続き実施する。
- 引き続き物流に関する「2024年問題」に対応し、医薬品の安定供給の確保を図る。
医薬品や製薬産業の社会的意義を国民に広く知っていただくとともに、次代を担うこどもや若者に製薬産業やアカデミア、医療現場などで活躍したいと思っていただけるよう、継続的に発信
- 国民の切望する医療ニーズに適切に応えるための製薬業界の取り組みに理解と支持を得られるよう、アカデミア等も含めたアドボカシー活動に、積極的に取り組む。
- 製薬協フォーラムや製薬協セミナーの実施等、各種団体とも共同し、シンポジウム・セミナー等の取り組みを行う。
- 来訪者の大半を青少年が占める科学技術館(東京都「北の丸公園」内)のくすり展示室「クスリウム」の全面改修を支援する。
- 就学中の学生に対して就職先としてバイオ医薬品の製造、CMCの研究開発に興味を持つきっかけとして、全体像や魅力を伝える機会を継続的に提供する。
2. 事業計画
企業活動の透明性・公正性の確保等については、不断に実施するほか、政府への提言活動等については、法案、予算、骨太方針、薬価基準等の政府等における審議・決定のタイミングに応じ、適時適切に実施していく。
急速に変化する国内外の諸情勢を踏まえて、機動性、柔軟性を確保する観点から、前述の通り、具体的な事業計画については、従前どおり、各委員会および医薬産業研究所の実施計画に委ねるものとする。必要に応じ、各委員会の委員長は委員会活動について常任理事会等へ報告することとされており、その意見を踏まえて、各委員会の実施計画については所要の変更等を行うものとする。
本会の目的および製薬協 産業ビジョン2035等の実現については、すべての委員会等がそれぞれの立場から、その専門性を発揮し、計画的に追及されるものであるが、ビジョンのそれぞれの項目に即し、主な役割が期待される委員会を示せば、以下の通り。
(1)イノベーションを継続的に創出し、健康寿命の延伸とともに我が国の経済成長に貢献する
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最先端技術の迅速導入、創薬環境基盤・創薬エコシステムの構築
研究開発委員会、医薬品評価委員会、品質委員会、バイオ医薬品委員会、産業政策委員会、薬事委員会
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患者さん・市民も含めたCo-creationの推進
患者団体連携推進委員会、医薬品評価委員会、産業政策委員会
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グローバル展開対応
国際委員会、APACプロジェクト、ICHプロジェクト
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国内薬事関連施策への対応
薬事委員会
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税制、知的財産制度等への対応
産業政策委員会、知的財産委員会
(2)国民に革新的新薬を迅速に届け、健康安全保障に貢献する
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革新的新薬が継続的に生み出し届けられ、「最新」の治療がいち早く、かつ「世界標準」の治療が将来にわたり安定的に受けられる我が国市場・社会保障制度の提案等
産業政策委員会、医薬産業政策研究所
(3)倫理観と透明性を担保し、社会から信頼される産業となる
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SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成を始めとする社会問題の克服や気候変動等環境課題対応への参画
国際委員会、環境問題検討会、バイオ医薬品委員会
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高い倫理観と行動基準、透明性をもった活動の実施
コード・コンプライアンス推進委員会、製品情報概要審査会、流通適正化委員会
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医薬品適正使用を含めた薬・健康等に関する情報提供・情報発信
広報委員会、医薬品評価委員会、くすり相談対応検討会、産業政策委員会
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医薬品を高品質で安定的に提供し続ける体制の確立
品質委員会、流通適正化委員会、薬事委員会
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医薬品や製薬産業の社会的意義、子ども・若者への発信
広報委員会、産業政策委員会、バイオ医薬品委員会