2024年度事業方針、事業計画

日本製薬工業協会

はじめに

昨年は長く続いたコロナ禍が収束に向かい、人や物の往来が再開し、経済は反転成長へと向かう一方、円安の進行、猛暑、物価高騰、人手不足など、経済に水を差す出来事が相次ぎ、医薬品の供給不安はサプライチェーンの混乱や原価率の増大と相まって長期化している。
世界に目を向けると、ウクライナやイスラエルで続く戦乱、世界的な景気減速や物価の高騰といった経済問題がある。
日本製薬工業協会(以下、製薬協と略す)としては、困難な状況下にあっても、国民の健康寿命の延伸に貢献し、世界に創薬イノベーションを届けていかなければならない。
製薬企業が革新的な医薬品を継続的に生み出すためには、イノベーションが適切に評価される薬価制度が必要である。2018年の薬価制度抜本改革では革新的新薬の薬価について一定の条件が付され、特許期間中であっても薬価が維持されない制度が導入された。さらに薬価改定も毎年行われるようになり、日本の医薬品産業は疲弊し、グローバルマーケットでの日本市場の魅力は徐々に損なわれてきた。こうした日本市場の停滞に伴う魅力度低下等により、海外で承認されているにもかかわらず日本では未承認の新薬が増加し、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスが拡大しつつある。
この状況を打破すべく、製薬協では「イノベーションが適切に評価される薬価制度」の必要性を訴え続けた結果、2023年6月に閣議決定された政府の骨太の方針に医薬品のイノベーションの推進が記載された。そして本年の薬価制度改革では、革新的新薬を日本にいち早く導入することへの評価や、新薬創出等加算で薬価を維持する仕組みに見直されることとされた。また、知的財産の創出等を促し、我が国のイノベーション拠点としての立地競争力を強化するためのイノベーションボックス税制が創設される見込みとなった。
こうした制度改正の動きを契機として、イノベーションの評価の必要性が再認識され、医薬品の評価のあり方が見直されるようになったことを踏まえ、革新的新薬の開発の加速化やドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの改善に製薬協としても政府や関係機関とも連携を図りながら取り組む。また、こうした取り組みの動きを後押しすると考えられる医薬品の多様な価値を評価する新たな価値評価プロセスの創設は今後の課題とされており、イノベーションのさらなる評価を実現するために検討を進めていく。
一方、今回の薬価制度改革では長期収載品に対する選定療養の適用が初めて導入されており、臨床上必要な医薬品が患者さんの医療ニーズに対応しつつ安定的に提供されるよう今後の動向を注視していく必要がある。また、費用対効果評価、市場拡大再算定など薬価制度のあり方、毎年薬価改定、薬価差の問題など薬価制度を取り巻く課題はまだ存在しており、日本製薬団体連合会(日薬連)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)等と連携を取りつつ製薬協としての意見、改善要望を積極的に続けていく。
また、健康・医療戦略推進本部において、2025年度から5年間を対象とする第三期健康・医療戦略及び医療分野研究開発推進計画の策定が進行しており、製薬協としても積極的に関与する。さらに2023年12月に第一回が開催された「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」における議論に対し、積極的に参画する。
本年は10月から保険証をマイナンバーカードに統一するなど医療のデジタル化の節目の年でもあり、医療・介護のデータ連携、プログラム医療機器の制度整備などが次々と導入・実施される。デジタル技術による医療データの利活用は創薬への応用、流通の効率化など、さまざまな可能性が考えられるため、デジタル技術を活用し、より効率的な医療システムを構築し、多くの課題を解決していく取り組みに製薬協としても積極的に参画する。
高齢化、ポストコロナ、人件費高騰、光熱費高騰など、医療界は多くの課題に向き合うことになる。併せて、物流や医師の時間外業務規制が始まる2024年問題も忘れてはならない。さまざまな課題と向き合いながら、製薬協は、これからも本来の使命である国民の新薬へのアクセス向上や高いコンプライアンス意識に基づく医療に必要な医薬品の安定供給の確立に引き続き取り組み、社会からの信頼に応えていく。

1. 事業方針

  • 昨年6月に、厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が取りまとめたに報告書に諸課題として示された、創薬力の強化、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消、安定供給の確保、適切な医薬品流通に政府、関係機関と連携を図りつつ取り組んでいく(特にドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス)。
  • 2023年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」および「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」に官民連携による科学技術・イノベーションの推進として示された、ゲノム創薬を始めとする次世代創薬の推進等に製薬業界としても引き続き取り組む。
  • 魅力ある日本市場とするため(政策提言2023を踏まえて)①イノベーション創出を促進する環境整備および②持続可能な医療・社会保障の実現に向けた取り組みを引き続き進める。

①については、創薬力強化を目指して については、創薬力強化を目指して

  • 日本が強みを有するアカデミアの研究領域から「創薬プラットフォーム」構築
  • 創薬スタートアップへの支援強化
  • バイオ開発・製造人材の育成強化
  • 健康医療データ基盤構築と法制度整備
  • イノベーション創出を促進する税制の強化
  • 薬事、知的財産関連施策等の推進

などに取り組む。

② については、

  • 2025年度薬価改定ならびに2026年度薬価制度改革に向けて、イノベーションの適切な評価の仕組み(新薬の価値評価プロセスの改善、医薬品の多様な価値の評価等)の構築・実現に取り組む。
  • 2024年度薬価制度改革で実現された、迅速導入加算の新設、小児用医薬品の評価の見直し、新薬創出等加算の品目要件の追加や「企業指標」の撤廃、市場拡大再算定の類似品の取り扱いの見直し措置を中心に、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロス解消等の医薬品開発への影響等も含めた分析・評価に取り組む。
  • 費用対効果評価について、2024年度制度改革に基づく運用や課題を検証し、次期制度改革に向けて業界としての考え方や改善に向けた検討を推進する。
  • 医薬品の適正使用(薬剤耐性(AMR)問題、最適使用推進ガイドライン、ポリファーマシー等への対応)の推進
  • 全世代型社会保障制度の下での効率的・効果的な医療の提供への貢献(医薬品の安定供給、デジタルセラピューティクス(DTx)への対応など
  • 2023年7月から開催された「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」における議論や厚生科学審議会医薬品制度部会における議論への参加等を通じて、厚生労働省や独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)等の関係者と議論を尽くし、2025年に見込まれる次期医薬品医療機器法改正における制度見直しに向けて盛り込むべき効果的な施策について提案する。
  • 医療のデジタル化の節目の年を迎え、臨床開発におけるDCT(Decentralized Clinical Trial)の実現、製造・品質管理におけるデジタル技術の利活用、製造販売後のRWD(Real World Data)やAI(Artificial Intelligence)を活用した積極的な安全性監視活動など、開発や製造、市販後全般にわたってデジタルトランスフォーメーションの具体的な取り組みを進める。あわせて、新たなモダリティとしてのDigital Therapeutics(たとえば、アプリを介して行動変容を促し、疾患の治療や発症リスクを低減する等)に関する検討課題にも取り組む。
  • 国民の切望する医療ニーズに適切に応えるための製薬業界の取り組みに理解と支持を得られるよう、積極的なアドボカシー活動に引き続き取り組む。

2. 事業計画

2023年度の事業計画として掲げた以下の5項目はその内容は基本的に継続するが、急速に変化する国内外の諸情勢を踏まえて追加・修正する。

(1)「製薬協 政策提言2023」に掲げた創薬イノベーションの推進とイノベーションの適切な評価の実現に引き続き取り組み、健康寿命の延伸、社会・経済発展に貢献する。

産業政策委員会、医薬品評価委員会、品質委員会、バイオ医薬品委員会、薬事委員会、知的財産委員会、研究開発委員会、患者団体連携推進委員会、くすり相談対応検討会、環境問題検討会、医薬産業政策研究所が取りまとめた実施計画に基づき実施

(2)「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書を踏まえ、安定供給の確保、創薬力の強化、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消等に取り組む。

産業政策委員会、医薬品評価委員会、品質委員会、バイオ医薬品委員会、医薬産業政策研究所が取りまとめた実施計画に基づき実施

(3)製薬産業への理解を高めるための戦略的なアドボカシー活動に引き続き注力する。特にがんや難病の患者団体等との連携を一層強化する。

産業政策委員会、医薬品評価委員会、国際委員会、広報委員会、患者団体連携推進委員会が取りまとめた実施計画に基づき実施

(4)国際展開、国際協調の推進とグローバルヘルスに貢献する。(昨今の国際情勢を踏まえつつ、経済安全保障、生物多様性条約及びWHOパンデミック条約の動向にも留意)

産業政策委員会、ICHプロジェクト、国際委員会、知的財産委員会が取りまとめた実施計画に基づき実施

(5)次期医薬品医療機器法改正に向けた議論に積極的に参加するとともに引き続きコンプライアンス徹底の活動を進める

コード・コンプライアンス推進委員会、流通適正化委員会、医薬品評価委員会、品質委員会、バイオ医薬品委員会、薬事委員会、製品情報概要審査会が取りまとめた実施計画に基づき実施

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