トピックス 「ベトナム保健大臣ダオ・ホン・ラン氏との意見交換会」を開催

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2023年7月3日から7日まで、ベトナム保健大臣をはじめベトナム保健省の8名が来日しました。厚生労働省、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、国立国際医療研究センター等を視察し、最終日に日本の製薬企業との対話の場が設定されました。製薬協国際委員会アジア部会所属企業が、保健大臣、医薬品管理局局長と意見交換を行いました。企業側からは、抱える薬事面の課題を率直に述べ、ベトナム当局側からは薬事法改正と課題解決の取り組み状況の紹介がありました。また日本企業によるベトナム医療に貢献する事業の紹介やベトナム医療産業発展のための協力要請もあり、日本とベトナムの外交関係樹立50周年の節目の年として、両国の関係がますます強化される中で、医療分野における協力にも大きな期待がもたれています。

全体写真 全体写真

今回の意見交換会は、視察団に同行した独立行政法人国際協力機構(JICA)の専門家であるベトナム保健省政策アドバイザーの正林督章氏の発案で、厚生労働省国際薬事規制室の支援のもと開催に至りました。ベトナムは現在、薬事法改正の法案作成にあたっており、2024年の国会承認を目指しています。改正にあたり、国際的慣行を採り入れ、承認審査手順の改善、現行法で直面している課題への対応を図っています。また、今後の医薬産業の発展計画として、国内企業の海外進出や、海外企業のベトナムへの投資や誘致を考えており、海外から広く情報を得ようとしています。

製薬協のアジア部会では、その活動の中で薬事規制の国際調和推進および審査の効率性・透明性・予見性の改善のため、各国当局への提言や意見書の提出を行っています。ベトナムについてはここ数年、薬事的な困難が多く、これまでも規制案を検討し、意見書の提出に取り組んできました。今回のイベントは、企業側にとって直面している薬事問題や薬事法についてベトナム医薬品規制当局と直接意見を交わす非常に良い機会となりました。

意見交換会の当日は、保健大臣のダオ・ホン・ラン氏、医薬品管理局局長のヴ・トァン・クォン氏をはじめとするベトナム保健省視察団一行計11名と通訳士を製薬協に迎え、日本側は、製薬協の木下賢志理事長を含む5名と、製薬協国際委員会の村上伸夫委員長を筆頭にアジア部会所属企業の16名が集いました。

製薬協の木下賢志理事長とベトナム保健大臣のダオ・ホン・ラン氏 製薬協の木下賢志理事長とベトナム保健大臣のダオ・ホン・ラン氏

製薬協の中川祥子常務理事の司会進行により、木下理事長とベトナム保健大臣の開会のあいさつがあり、製薬協とアジア部会の活動を製薬協国際委員会アジア部会の香川治部会長が紹介した後、ベトナムチームの活動紹介、本題の課題や要望の協議について、製薬協国際委員会アジア部会ベトナムチームの東山昌代リーダーが進行しました。

製薬協国際委員会アジア部会ベトナムチームの東山リーダーから要望をお伝え 製薬協国際委員会アジア部会ベトナムチームの東山リーダーから要望をお伝え

以下に課題・要望として採り上げたトピックをいくつか紹介します。

登録更新の制度見直し・簡略化について

ベトナムに医薬品を供給している企業が直面している薬事的な問題は複数ありますが、この数年企業が悩まされてきたものは、薬事手続きが規定された期間で処理されず大幅に遅延するという点です。その中でも特に登録更新手続きが大きな問題となっており、企業は審査を待っている間に登録証が有効期間切れとなる不安を抱え、どのように欠品を回避するか苦心してきました。登録更新とその審査期間は薬事法で定められているので、現在取り組まれている薬事法改正において、有効かつ運用可能な制度への見直しの要望を行いました。

ベトナム医薬品管理局局長のヴ・トァン・クォン氏は、登録更新制度は薬事法改正案作成の中で取り組んでおり、改正法案が公開された際には意見を出してほしいと答えました。また、ベトナム保健省からスイスと日本へ視察団が派遣され、これら当局の手続きを視察しており、ベトナムでも5年、10年とすでに流通し、安全性が確認されたものは、手続き不要とする検討があることも説明に含まれていました。

審査期間の迅速化・効率化について

ベトナムの新薬申請では、審査結果を3年、4年と待っているケースも珍しくありません。ドラッグ・ラグが大きいのはベトナムの患者さんにとって不利益であり、企業にとっても審査期間の見込みが立たない、予見性が低いということは、その市場に進出することをちゅうちょさせる一因にもなります。変更申請についても時間を要しており、企業にも患者さんにも不利益となっています。審査の迅速化・効率化について、たとえば、デジタル化の促進と有効利用、公式な相談制度や簡略審査制度の導入、また審査手数料の値上げも含め、審査センターの設立等の抜本的な改善策を検討いただきたい旨を要望しました。

ヴ・トァン・クォン氏は、確かに新薬審査の遅れがあることを認めたうえで、計画中または進行中の対策を説明しました。6大学と連携して4つの審査センターを設立し、徐々に審査をセンターに移行しています。審査費用については、今回の日本の審査担当部門の視察で、日本の審査手数料を知りました。最近ベトナムも若干の審査手数料の値上げはしたものの、政府の方針で高い費用を設定することは難しい状況です。公式相談制度については、大臣の指導のもとに設立された企業支援研修センターに公式相談の機能をもたせることが検討されています。PMDAの審査報告書を活用した審査については、PMDAの結果を参照できるようにする方針であり、現在、PMDAとその方向で調整をしているところです。なお、ベトナムの審査の遅れの理由の一つは、申請資料の不備であり、95%が差し戻しとなっている現状の報告がありました。またオンライン申請審査については、2023年5月4日よりオンライン申請が運用されており、企業はそのアカウントを通じて、審査の進捗が確認できる旨の紹介がありました。

ベトナム当局からの要望

ベトナム側からは、ベトナムで生産した医薬品の日本への輸出や、ベトナム国内で生産可能な体制作りについて今後議論をしていきたいと要望がありました。日本の企業に対しては、製薬分野におけるベトナムへの投資を期待しており、誘致する優遇政策も検討することになっています。

意見交換の様子 意見交換の様子

ベトナムにおける日本の製薬企業の取り組み

医薬品供給だけでなく、さまざまな形でベトナムの医療と患者さんに貢献する日本企業の活動も紹介されました。

製薬協国際委員会グローバルヘルス部会の丸山潤美委員(住友ファーマ)より、住友ファーマの取り組みである抗菌薬の適正使用の推進と薬剤耐性対策への貢献を目指し、2019年からベトナムの主要な病院施設で実施している薬剤感受性サーベイランスの研究について紹介がありました。研究で得られたデータから、エビデンスに基づいて抗菌薬を選択・使用できるよう感染症治療のキャパシティービルディングに取り組んでいます。2023年2月からベトナム保健省許可のもと、第2回薬剤感受性サーベイランスの研究を開始しました。研究開始のセレモニーは、日越外交樹立50周年の記念事業としベトナム・ハノイにて開催しました。

丸山委員からは、製薬協国際委員会グローバルヘルス部会のアクセスグループの取り組みとして、ベトナムの臨床薬剤師を介して行う服薬支援ツールを用いた医薬品適正使用の推進プロジェクトの紹介がありました。2019年度から2021年度までの3年間、国立研究開発法人国立国際医療研究センター(NCGM)薬剤部および一般社団法人くすりの適正使用協議会と連携し、バックマイ病院を中心にベトナム北部地域における薬の適正使用推進活動を行っており、パンデミックの間もオンラインで積極的な活動を継続していました。服薬支援ツールは、ベトナムの患者さんに配布し、自宅で家族とともに学ぶことのできるものもあり、高評価を得ています。今後は、新しく国立研究開発法人国立がん研究センターの協力を得たプロジェクトの実施も予定しています。

製薬協国際委員会グローバルヘルス部会の丸山委員による発表の様子 製薬協国際委員会グローバルヘルス部会の丸山委員による発表の様子

製薬協国際委員会アジア部会の今井亮翔副部会長(武田薬品)より、武田薬品の活動であるデング熱への取り組みと、希少疾患である遺伝性血管性浮腫(HAE)に関する日越二国間プロジェクトの紹介がありました。特にベトナムではデング熱の感染が深刻であるため、デング熱ワクチンや産学官連携による予防と対策の取り組みについて、ベトナム保健省は高い関心を示しました。また、同社はデング熱ワクチン、HAE治療薬をベトナム当局にすでに登録申請しており、ベトナムの患者さんのためにも、遅れなく審査が進むよう要望しました。

製薬協国際委員会アジア部会の今井副部会長による発表の様子 製薬協国際委員会アジア部会の今井副部会長による発表の様子

閉会にあたり

これまでPMDAとベトナム医薬品管理局の間で3回の合同シンポジウムの開催がありました。両国の薬事の相互理解を深め、医薬品規制のより良い発展のための両国官民のプラットフォームとして、製薬協も全面的に開催支援をしてきました。次回は2023年末の開催に向けて協議しています。ベトナム保健大臣のダオ・ホン・ラン氏は閉会にあたり、「ベトナム保健省は今回のような意見交換をする機会は常にもっており、さらに協議が必要な事項があれば、いつでも意見交換をしたい。製薬協には常にベトナム側と協議できる状態にしておいてほしい」と述べました。今後、日本とベトナムの官民の間の協力がさらに強化され、両国の医薬品アクセスの改善が加速されることを期待します。

(国際委員会 アジア部会 ベトナムチーム リーダー 東山 昌代

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