トピックス 「第6回 日インド医療製品規制に関するシンポジウム」開催される
2023年2月1日に「第6回 日インド医療製品規制に関するシンポジウム」が厚生労働省、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)およびインド保健家族福祉省、中央医薬品基準管理機構(CDSCO)によって開催されました。製薬協は、日本製薬団体連合会、一般社団法人日本医療機器産業連合会、一般社団法人再生医療イノベーションフォーラムとともに後援団体として企画・運営に協力しました。本シンポジウムは、医薬品、医療機器、再生医療等製品の規制に関する日インド両国の最新動向、産業界の課題や提案を共有し、国際的な規制調和・協力を議論することで、両国の薬事規制のレベル向上や、産業界による規制対応の円滑化を目指すものです。医薬品に関するものとして、(1)Fast Patient Access促進のための規制、(2)国際協力とリライアンス、これら2つのセッションにおいて官民の活発な意見交換が行われ、理解の促進が図られました。ここでは医薬品セッションについて報告します。
はじめに
本シンポジウムは、2021年12月の第5回に続いてオンライン形式での開催となり、両国から300名以上が参加しました。オープニングセッションでは、厚生労働省大臣官房審議官(医薬担当)の山本史氏より冒頭挨拶が行われ、日インド間の規制当局および産業界の協力関係の重要性が言及されました。昨今のサプライチェーンのグローバル化を含め世界情勢は変化していますが、日本におけるインドの位置づけは大きくなっており、インドで製造された原薬等の日本を含む世界の市場への供給は、今後も拡大していくことが想定されます。インドからの高品質な医薬品の供給は、世界からの信頼を獲得するうえで必要不可欠であり、日本は協力を惜しまないとのことでした。続いて、インド保健家族福祉省のJoint SecretaryであるRajiv Wadhawan氏は、医薬品の品質確保はグローバルな課題となっており、安全な医薬品を供給するために、規制調和と産業界との連携をもって達成していきたいと述べました。
製薬協の白石順一理事長は、製薬協および会員会社が治療薬やワクチンの早期創製、医薬品の安定供給という研究開発型製薬企業としての使命を果たすために活動を進めている一方で、日インド間でのイノベーションの創出が促進される規制改革、医療全体の質の向上に寄与する官民連携が必要とされることについて述べました。そして、この対話の成果が新薬を待ち望む世界の患者さんへ還元できることを期待し、今後のシンポジウムの継続を強く要望しました。
キーノートスピーチ
両国の規制当局より新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける規制の柔軟性・迅速性(Agility)についての学びと教訓が紹介されました。
PMDA理事長の藤原康弘氏より、COVID-19関連製品の迅速承認、緊急承認制度の施行、COVID-19関連製品以外についての体制整備がPMDAの主な取り組みとして紹介されました。緊急承認のような制度には国際協力も不可欠であり、アジア各国の患者さんの早期アクセスを可能とする国際共同治験(MRCT)や医薬品のグローバル製造とその品質管理の向上を目指した、「医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム(PIC/S)」への重要性にも言及しました。また、COVID-19を通して得られた経験を、COVID-19のみへの対応として終えるのではなく、この経験を基にさらなる協働をいかに進めていくかが重要であり、重要なパートナーであるインドとの国際協働は、互いに国民のニーズに速やかに、かつ透明性をもって、業務を行おうとしている考えに根づいているとの発言がとても印象的でした。
CDSCOのDrugs Controller GeneralであるV.G.Somani氏からは、日本を含む各国とのレギュラトリーリライアンス、緊急審査や緊急承認に関するガイドラインの整備、COVID-19関連のワクチン・診断薬・治療薬に対するSpecial Subject Expert Committee(SEC)の設置等の取り組みが紹介されました。バーチャル監査の活用、Regulatory Processのデジタル化、緊急非常時のオンライン申請処理等の取り組みが加速する一方、国際協力も重要であり、日本を含めた12ヵ国と契約を締結し、リライアンスを促進していく旨を説明しました。輸入依存度を下げるために、より価値ある製品を開発・製造し、国内および世界市場における製造供給基盤を強化し、自立することや、安価で高品質な医薬製品のアクセスを向上させるエコシステム構築、プロセスの簡素化やデジタル化も行っていくとのことです。
製薬協からは、インドのライセンス許諾に関して、その効率化の観点から、多くのドキュメントが必要とされ、ライセンス更新時の大きな負担となっている現状を説明し、輸入ライセンスの有効期限を3年から5年に延長することや、ライセンス更新では1度承認されているものについて期限を延長してほしいと提案しました。Somani氏からは、非常に有効なニーズである一方で、当局サイドとしてはまずさまざまな側面から評価をすることが必要であると述べたうえで、今後検討し回答を改めて伝えるとのことでした。さらに、インドからの参加者からも質問があり、コロナ後の市場における新しいテクノロジー、治療、そして診断薬といった革新性のあるものについての新規性評価や進め方について問われました。これについては対応する規制当局が異なるがゆえに詳細な回答は得られませんでしたが、インドのイノベーション創出への意欲を垣間見た印象を受け、改めて承認取得のみならず承認後のプロセスを含めて医薬品アクセス全体を考えていきたいと感じました。
(1)Fast Patient Access促進のための規制
PMDA国際部アジア第一課の松本峰男氏より、早期承認のための薬事規制制度について紹介があり、特例承認と緊急承認が採り上げられました。いずれも緊急時に健康被害の拡大を防止するために、当該医薬品以外に適当な方法がない場合に適用されます。日本にはほかにも革新的医薬品の早期承認可能な制度として、迅速審査、優先審査、先駆的医薬品等指定制度、条件付早期承認制度等がありますが、市販後の安全対策の重要性についても言及しました。また、効率的な承認審査プロセスとして、治験相談やGMP実地調査をリモートで実施した経験等についても紹介されました。インドでもさまざまな取り組みが行われていますが、情報交換によりさらに良い制度を作り運用していきたいとのことです。
インド側からはCDSCOのJoint Drugs ControllerであるA.K.Pradhan氏より2019年3月に発出された新規制について説明がありました。この規制では、倫理的かつ科学的な臨床研究と新薬開発を促進するために医薬品アクセス改善に向けた規定も取り入れられており、オーファンドラッグや未承認新薬の迅速承認等の説明がありました。特に、インドにおける臨床試験免除については、グローバル企業や製薬協会員会社にとっても関心が高いところです。アンメット・メディカル・ニーズあるいは生命を脅かす重篤な疾患、ほかに代わる治療法がない等の状況においては、その疾患の重度、希少性、有病率等を考慮してCDSCOが検討します。また、サロゲートエンドポイントを有効性評価に代わるものとして考慮することもあり、一方で臨床第II相試験データに基づくものであっても、アンメット・メディカル・ニーズがあると判断された場合には、販売承認が得られることがあります。こういった場合の規制当局としての判断の明確化について、製薬協からCDSCOに質問しました。製薬協では、臨床第III相試験をインド国内で実施しているにもかかわらず、臨床第IV相試験を求められることがあった事例を課題として捉えており、免除される基準をより明確に示すガイダンス等の整備、たとえば、症例数の目安、必要な評価内容、評価資料の明確化を要望しました。これに対して、CDSCOのPradhan氏より、インド国内で臨床第III相試験を実施していても、臨床第IV相試験の実施を承認条件とすることがあり、その製品の特徴、どのような治験が行われたかによるとのことでした。これ以外にも、SECの助言が新薬承認申請(NDA)にどのように関与するのか、またSECによる事前相談の効率化についても質問しました。Pradhan氏は、SECの役割を明確にしたうえで今後フレキシブルな対応を検討していくとのことでした。
さらに、規制当局間でのディスカッションの中では、予測性を高める規制改革はすばらしいと思う半面、規制当局内部や産業界からの抵抗があったりはしないかといった質問があり、PMDAから制度への適合性を申請者と審査側で合意できていること、また審査側は短期の審査に対応できる体制を整えているといった経験が語られ、先駆的な制度へのリスクを最小限にし、抵抗なく実施していく工夫についてのヒントを官民で認識できたことが印象的でした。このように、当シンポジウムにおいては議論が加速するようなトピックスも多方面からたくさん投げかけられ、発表内容のみならず意見交換の充実が図られたと思います。
(2)国際協力とリライアンス
近年、サプライチェーンの国際化、新技術の急速な発展、さらにCOVID-19のパンデミックにより国際連携の重要性はますます高まっています。日本で使われる医薬品の多くは、インドや中国等、海外から原薬や中間体を輸入しているため、各国での問題は日本国内の医薬品供給への影響に直結します。薬事規制の国際調和、またグローバルでの迅速かつ正確な情報共有が欠かせません。
CDSCOのDeputy Drugs ControllerであるRubina Bose氏より、これまでインド当局がさまざまな国の当局と協力関係を築いてきたことが述べられ、主には世界保健機関(WHO)や日米豪印戦略対話(QUAD)でのイニシアチブ、医薬品規制調和国際会議(ICH)オブザーバーや薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)メンバーとしての参画、ワクチン使用への国際的な枠組みへのかかわりについて紹介がありました。
PMDA国際部アジア第一課長の緒方映子氏からは、日本当局がICHにおいてリアル・ワールド・データ(RWD)を活用した安全性評価や国際共同治験に関するガイドラインを提案してきたことや、ICMRAでCDSCO長官のSomani氏とともに活動し、コロナワクチンの基本的な考え方を策定してきたこと等が紹介されました。また、日米欧三薬局方検討会議(PDG)では、欧州薬局方(EP)、日本薬局方(JP)、米国薬局方(USP)の試験法と医薬品添加物の各条について国際調和活動を行っており、最近では2022年10月に年次会議が開催され、インド薬局方(IPC)がPDGのメンバーシップ拡大プログラムの参加者として初めて参加しました。今後IPCにおける規制調和についても期待されているところです。
一方、インドでは製薬協会員会社が抱える課題として、原薬のIPC収載時、オリジネーターとは異なる規格および試験方法が収載される場合があります。オリジネーターであっても、別途承認された規格のアップデートを要求された事例もありました。この点で、製薬協からはJPの参照化に加え、合理的な理由がある場合にはIPCと比較して柔軟な規格および試験方法の受け入れを検討することや、インドで登録済みの原薬をIPCに収載する前には、オリジネーターと意見交換する機会を設けてほしいと要望しました。その結果、Bose氏からは当該課題はすでにCDSCOでも認識されており、局方収載の際はオリジネーターの規格を登録すべく、ウェブサイトで新たな規格を公表しパブリックコメントを募集しているとのことでした。このプロセスに関してはより柔軟性のあるアプローチにすべく検討し、改善していく予定だそうです。今後製薬協からはJPの参照化を含め、現地の製薬団体と協働し局方収載のプロセスにおいて多面的に課題解決を検討していく予定です。
最後に
CDSCO長官のSomani氏より結びの言葉として、薬事規制においては迅速性、透明性、説明責任があるが、さらに重要なこととして「予測できるか」ということであるとの発言がありました。Somani氏はすべての人が革新的で品質の高い医療製品を開発できることが望まれるとコメントしました。続けて、インドでは日インド関係を1つの家族、1つの将来といっており、日本との特別な関係が今後もさらに成長することを期待するとのことでした。COVID-19をはじめ、世界情勢が刻一刻と変化する中で、この日本とインドの良好な関係がさらなる国際協働を生み、世界の患者さんへの公平な医薬品アクセスとして還元していくことを願ってやみません。次回の第7回シンポジウムは、2024年に開催予定です。
(国際委員会 アジア部会 インドチーム リーダー 桑原 千佳)