トピックス 「第9回 日本-タイ合同シンポジウム」開催される

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2023年1月17日、「第9回 日本-タイ合同シンポジウム」がタイ食品医薬品局(タイFDA)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の主催にて開催されました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響でオンラインでの開催が続いておりましたが、2019年の「第6回 日本-タイ合同シンポジウム」以来、約4年ぶりに対面での開催が実現しました。本シンポジウムは、2018年4月にタイFDAと厚生労働省間で締結された「医薬品医療機器規制協力に関する覚書」に則り、日本とタイの薬事関係者間の相互理解を深め、両国の医薬品・医療機器規制や開発のための協力体制の基盤形成を目的としております。今回のシンポジウムでは、医薬品、医療機器および再生医療に関するセッションを設け、日本およびタイにおける効率的な審査のための取り組み等、両国の医薬品等の規制に関する最新の情報の共有および討論が行われました。

シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

日本からはPMDA国際部をはじめ厚生労働省、製薬協会員会社、一般社団法人日本医療機器産業連合会(JFMDA)加盟企業、タイからは、タイFDA Secretary-GeneralのPaisarn DUNKUM氏をはじめ、タイFDA、タイ産業界から本シンポジウムに参加しました。タイFDAのDUNKUM氏、PMDA理事長の藤原康弘氏による挨拶で本シンポジウムは開幕しました。

現在の両国におけるCOVID-19に関連した取り組み、医薬品・医療機器に関する規制、医薬品の承認後のモニタリング方法等について両国の取り組みを共有しました。本稿では、医薬品関連の発表を中心に紹介します。

■Regulatory Update

Director of Medical Device Control Division, Thai FDA Varavoot SERMSINSIRI
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 執行役員(国際部門担当) 中島 宣雅 氏                              

タイFDAからは2022年のアップデートとして、ASEAN Joint Assessmentや世界保健機関(WHO)、またはStringent Regulatory Authority(SRA、2015年10月以前のICH加盟当局等)の審査を参照としたCollaborative Registration Procedure(CRP)への参画により、審査を加速させる制度が導入されたことについて報告されました。

またCOVID-19ワクチンについては、以下の3つの審査方式により通常の審査よりも早期承認が得られるシステムになっています。
 

(1) Recognition Scheme(審査期間30日)
(2) Reliance Scheme(審査期間60日)
(3) Priority Review(審査期間120~150日)

PMDAからは、COVID-19関連に対する取り組みが紹介されました。

医薬品医療機器等法第14条の3に基づく特例承認プロセスは、他国で承認され効力が確立されているものに適用されていました。この適用範囲が広がり、他国で承認されていないが、効果が推定できる医薬品に対して適用可能な緊急承認制度が導入されました。

本セッションでは、製薬協として簡略審査およびe-labelingに関する質問を行い、タイFDAから以下の回答を得ることができました。
 

参照国で承認され2年以上経過した場合でも、簡略審査を利用した申請を受け付けています。
タイにおいてe-labelingの拡大に力を入れており、今後の新規申請や登録更新にはe-labelingが導入されていく予定です。

タイFDAとしては、特に参照国での承認後2年以内の申請に難しさを感じている企業が多いことから、今後簡略審査の活用は拡大する可能性があるという見解をもっています。

■Pharmaceutical Session 1:Initiatives for fast patient access to pharmaceuticals

Pharmacist, Senior Professional Level, Medicines Regulation Division, Thai FDA Athiporn DOOMKAEW
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 国際部 アジア第二課 調整専門員 前田 雄太 氏                            

タイFDAからは、医薬品への早期アクセスを実現するためにJoint assessmentやWork sharingへの期待やReliance Pathway制度※1、医薬品のWHO共同登録(承認)手続き(Collaborative Registration Procedure、CRP)の取り組みについて紹介がありました。医薬品の通常審査の審査期間は220日ですが、簡略審査(審査期間:180日)やWHOやSRA国の審査結果を参照とするCRP(審査期間:90日)も整備され、さらなる早期承認を実現するプロセスを整えています。

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    WHOが提唱する信頼関係構築に基づいた規制当局間の協力による革新的医薬品の効率的な審査推進

さらにタイで他国に先駆けて承認を得られるような基盤作りにも着手しており、国家の問題と考えられている特定の疾患(指定あり)を対象として適用されるPriority review(審査期間 200日)の制度も存在します。

PMDAからは、日本におけるCOVID-19治療薬レムデシビルの特例承認事例について説明がありました。レムデシビルは以下のように米国で緊急使用(Emergency Use)の承認を受けてから速やかに日本で承認されました。

2020年5月1日:米国でレムデシビルのEmergency Useの承認
2020年5月2日:日本でレムデシビルの特例承認が適用できるように政令改正
2020年5月4日:日本でレムデシビルの申請
2020年5月7日:日本でレムデシビルの特例承認

早期に承認が実現できた要因として、2020年5月1日に米国でEmergency Useの承認を得る前から申請者と密にコミュニケーションをとったことや、迅速に対応できるよう規制の整備を進めていたことが挙げられます。また、COVID-19を教訓として緊急性を要する疾患に対し、他国で承認を得られていない製剤を承認する緊急承認制度も2022年に導入されたことが報告されました。さらに、PMDAが実施する治験相談にも触れ、日本では申請品目のほとんどが開発段階において1回以上の治験相談を実施していることもあり、新薬の審査期間は、優先審査品目で9ヵ月以内、通常審査品目で12ヵ月以内と設定しており、中央値として、これを毎年達成できていることや、Reliance Pathwayにより当局の負担を軽減し、リソースを緊急性、革新的な案件に向けることの重要性が改めて説明されました。

本セッションでは、製薬協として簡略審査に関する質問を行い、回答を得ることができました。
 

簡略審査を適用して新薬承認申請(New Drug Application、NDA)申請した結果却下された場合でも、通常審査にて審査が継続されます。簡略審査を適用する場合、タイFDAからPMDAに問い合わせを行うことが想定されるため、あらかじめPMDAと情報共有しておくことが好ましいといえます。
簡略審査にはマスキングなしの完全な審査報告書が必要となります。

簡略審査の適用ができなかった場合に通常審査で審査が継続されるという見解は、申請者側のリスク軽減につながるため、今後簡略審査の活用拡大につながる可能性があります。

■Pharmaceutical Session 2:Effective pharmacovigilance activities through product life cycle - Including AEFI of SARS CoV 2 vaccine

Pharmacist, Senior Professional Level, Health Product Vigilance Center, Strategy and Planning Division, Thai FDA 
Pattreya POKHAGUL
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 国際部長 佐藤 淳子 氏                                      

タイにおける承認後のリスク管理を目的としたモニタリング手法として、以下の3つが存在します。
 

Existing Surveillanceは通常の医療従事者によるモニタリングであり、接種者に対する聞き取り等で得た情報を記録して管理する手法。
Active SurveillanceはCOVID-19のまん延によって整備された方法で、患者側から副作用報告のためのアプリをスマートフォン等にインストールして、患者さんが自発的に報告する情報を収集し管理する手法。
Sentinel Surveillanceは過去のデータにさかのぼってモニタリングするシステムで、COVID-19関連等、緊急性の高い案件に適用される手法。

COVID-19のケースでは、このように収集された情報から接種後に起こる有害事象(AEFI)committeeが次のワクチン投与に関するフィードバックを実施しています。

PMDAからは、日米欧のファーマコビジランスについて比較したうえで、ICHガイドラインの実装に基づく各国間の類似性が説明されました。日本では再審査制度を導入しており、新規有効成分であれば承認から8年間、実臨床での安全性、有効性、品質に係る情報を収集・評価して承認事項が適切かという評価を行っています。またPMDAの承認審査における各過程のタイムラインの開示の重要性についても当局、企業双方の作業効率化を図るために重要であるとの考えが示されました。

ワクチンのケースについては、医療機関から提供されたAEFIの情報をPMDAで精査したうえで収集、厚生労働省と共有し、外部の専門家とともに新たな安全対策の必要がないかという検討を行っています。COVID-19ワクチンは特に短期間で開発が進められたため国を超えた情報共有がますます重要であり、薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)にて欧米諸国やアジア諸国との情報共有を行っています。また日本国内のさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションを効果的にするために表現の工夫もしています。ファーマコビジランス領域でも、今後ますますタイFDA、PMDA、厚生労働省で密に連携していくことが重要です。

結び

今回の「第9回 日本-タイ合同シンポジウム」は、久しぶりに対面での開催となりました。両国のCOVID-19への取り組みや審査を加速させる制度についての詳細な説明や、活発な質疑応答が行われ、対面開催の良さを再認識するとともに大変有意義なシンポジウムとなりました。平時の交流を密に行ってきた両国間で、緊急時の対応や審査制度においても学び合うことが多くあることを実感しました。革新的な医薬品をより早期に両国民にお届けすることができるよう、このような交流の場を活かしていければと思います。

(国際委員会 アジア部会 タイチーム 佐々木 賢次郎

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