From JPMA イノベーション創出力向上へ 産業自らの変革

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1つの新薬を生み出す成功確率は約2万2000分の1、10年以上の時間がかかり、数百から数千億円を超える研究開発費を必要とします。製薬産業は極めてリスクの高い特殊なビジネスといえます。

一方、私たちはビジネスを持続性あるものとするため、事業活動により生み出したキャッシュを、研究開発等の無形資産、有形の研究や生産設備等への投資、そして株主への還元に使っています。2010年以降に製薬協会員会社のうち9社がそれぞれ9以上の新薬を生み出しており、その売り上げは2021年の医薬品全体の7割を占めます。私たちは将来のイノベーションを見据え収益を確保し、研究開発に投資、継続的に新薬を創出して、患者さんや国民の健康へ貢献するサイクルを回しているのです。

日本経済にも大きく貢献しています。製薬産業は、研究開発による知的財産の創出が本質といえます。物質特許や技術によって海外から得られる技術導出入収支で輸出額は6000億円を超えており、これは自動車産業に次いで多く、海外で得た利益を、知財を有する日本に還元しています。

日本製薬工業協会 会長 岡田 安史 日本製薬工業協会
会長 岡田 安史

しかし、製薬産業の国内市場は世界で唯一縮小しているのが現状です。各国では製薬産業の伸びはGDPを上回っています。われわれは、国の施策として、医薬品市場全体で1~2%程度の微増を許容し、新薬の特許満了後は速やかに後発品に置き換え、長期収載品の価格を速やかに引き下げる政策を進めることで、持続的成長が可能であると考えています。市場をグローバルスタンダードに近づけ、魅力あるものに再生すべきとの主張です。

日本のイノベーション創出力を高めるには、われわれ産業自身の変革とともに、国の積極的な施策も必要となります。産業として創薬スタートアップ育成への支援や健康医療ビッグデータ利活用環境の整備等を要望してきました。日本はとりわけ臨床段階の資金が不足しており、前途有望なシーズがあっても育ちにくいのが現状です。そのような状況下で、2022年12月に創薬ベンチャーエコシステム強化に3000億円もの補正予算が措置されました。国家のコミットメントが示されたものであり、われわれはそれにしっかりと応えてまいります。

健康医療ビッグデータ利活用環境は国家にとって、今最も大切なインフラ整備の一つです。国民にどのような価値を提供するかという視点から、データ基盤と法制度の整備を両輪として進めることを要望しています。2022年、欧州では医療分野のデータ利活用を推進するヨーロピアン・ヘルス・データ・スペース(EHDS)という非常に先進的な構想がスタートしました。個人データの取り扱いに厳しい欧州が、ヘルスケアや創薬、国民の健康のためにその利活用を積極的に進めるという意思が示されており、日本も大いに参考にすべきと考えます。

日本の創薬力強化に向け、製薬産業自体のビジネスモデルの転換も不可欠となります。日本はバイオ医薬品開発という潮流に乗り遅れてしまいました。その間にもモダリティ、すなわち創薬技術や手法は非常に多様化・高度化しており、抗体医薬、核酸医薬、遺伝子治療、細胞医療等多様なモダリティが生まれています。最先端のバイオテクノロジーやデジタル技術の積極的な取り込みが急務です。

また、製薬産業は、病気になったときの診断・治療をメインの領域としていますが、予知、予防、予後等、人の一生を支えるビジネスモデルに進化させる必要があります。すでに巨大IT企業は健康アプリ、AI診断、オンライン診療等にも参入していますが、われわれはそれを静観してはなりません。デジタルトランスフォーメーション(DX)、AIを含めたビジネスモデルを大きく進化させ、日本発のイノベーションの創出、世界からの投資を呼び込む医薬品市場の形成により、国民に最先端の医療へのアクセスを実現すべきと考えます。そのためのわれわれのコミットメント、そして必要と考える政策を「製薬協 政策提言2023」にまとめました。国民の健康寿命の延伸と経済成長に寄与する産業となることを目指して取り組んでいます。

※「第34回 製薬協政策セミナー」の詳細はこちら
https://www.jpma.or.jp/news_room/newsletter/215/15tn.html
※「製薬協 政策提言2023」の詳細はこちら
https://www.jpma.or.jp/vision/industry_vision2023/

(「第34回 製薬協政策セミナー」講演内容より)

日本製薬工業協会(製薬協)
Japan Pharmaceutical Manufacturers Association (JPMA)

製薬協は、研究開発志向型の製薬会社が加盟する任意団体です。1968年に設立された製薬協は、「患者参加型医療の実現」をモットーとして、医療用医薬品を対象とした画期的な新薬の開発を通じて、世界の医療に貢献してきました。

製薬協では、製薬産業に共通する諸問題の解決や医薬品に対する理解を深めるための活動、国際的な連携等、多面的な事業を展開しています。また、特に政策策定と提言活動の強化、国際化への対応、広報体制の強化を通じて、製薬産業の健全な発展に取り組んでいます。

新薬の開発を通じて社会への貢献をめざす 日本製薬工業協会

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