トピックス 「第1回 APAC e-labeling 規制当局ワークショップ」を開催

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APAC※1 e-labeling Expert Working Group(EWG)は、2022年11月29日に「第1回 APAC e-labeling 規制当局ワークショップ」をオンライン形式で開催しました。主な参加団体として、インドネシア国家医薬品食品監督庁(BPOM)、インド中央医薬品基準管理機構(CDSCO)、ベトナム保健省医薬品管理局(DAV)、シンガポール健康科学庁(HSA)、韓国食品医薬品安全処(MFDS)、マレーシア国家医薬品規制庁(NPRA)、フィリピン食品医薬品局(FDA)、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、台湾衛生福利部食品薬物管理署(FDA)、タイ保健省食品医薬品委員会事務局(FDA)の10規制当局から65名が参加しました。

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    APAC:アジア製薬団体連携会議(Asia Partnership Conference of Pharmaceutical Associations)
    製薬協は、より広い観点からアジアを捉え、欧州や米州のように連携して問題を解決していくことを目的とし、アジア各国・地域の製薬団体に呼びかけAPACを創設しました。また、APACのミッションを『革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける』と掲げ、アジアの製薬団体ならびに政府、アカデミアとの連携協議の場を設けることで、良質な各国・地域医薬品市場の育成、ひいては医薬品産業の発展に大きく貢献することも目的としています。

はじめに

ワークショップの目的

「第1回 APAC e-labeling 規制当局ワークショップ」は、以下の2点を目的に開催しました。

  1. (1)
    ロードマップの作成や業界、医療・製薬団体との連携の調整を含む、医薬品情報の電子化(e-labeling)に関する課題や経験を共有すること
  2. (2)
    規制当局におけるe-labelingの専門家から詳細な技術的知識を共有すること

開催の経緯

APAC e-labeling EWGの活動および本ワークショップの開催に至った経緯を紹介します。2020年から始まったコロナ禍の影響によりデジタルトランスフォーメーション(DX)化の流れがいっそう強化される中、アジア諸国におけるe-labelingを医療分野でのDX化の重要な1方策と考え、APACの議題として採り上げました。APAC加盟各国のe-labelingへの取り組みはさまざまな段階にあり、昨今のコロナ禍において、紙媒体による従来の医薬品情報提供のあり方をアジア諸国で見直しています。デジタル化を強化・加速させて速やかに最新の添付文書情報を提供する革新的な方法のみでなく、アジア諸国の状況を勘案し、どのように情報提供すべきかユーザーの視点を捉え、相互運用性についても議論し、将来のデジタルヘルスの一部としてe-labelingの活用について検討しています。

2021年4月に開催された「第10回 APAC」において、アジア地域での共通点、利点、課題を共有し、e-labelingを実践していくこと、より広い選択肢を示し、今後のより良い選択につなげるため、そしてアジア地域である程度統一のとれたアプローチができるようにポジションペーパーを作成し発信していくこと、また、これらの実現に向けた取り組みとして、APAC加盟団体の各国規制・ニーズ等の調査を行い、青写真(ロードマップ)を作成し、アジア地域における医療従事者および患者さんのために、規制当局および製薬企業団体間でe-labelingプロジェクトに協力していくことが重要であると合意しました。

この流れを受けて、APAC加盟各国のメンバーを含むAPAC e-labeling EWGを2021年7月に結成し、2023年1月現在、アジア地域の13製薬団体から38名で活動しています。2022年4月に開催された「第11回 APAC」では、アジア地域でのe-labelingの現状把握のための調査結果※2を報告しました。現在のアジア諸国でのe-labelingの状況はまだ発展段階ですが、APAC e-labeling EWG参加のすべての製薬業界団体はe-labelingの議論を始めていることが共有されました。また、APAC e-labeling EWGのロードマップが示され、2022年度には、業界や規制当局といった垣根を超え、一丸となって課題解決に臨み前進していくためのポジションペーパーを作成していくこと、さらに、規制当局間での情報共有のため、ワークショップを開催することが提案、合意されました。

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    Survey Result for E-labeling Initiatives in Asia(springer.com)

第1回ワークショップの内容

開会挨拶・e-labelingの基本的な要素について

本ワークショップでは、最初にタイ先発医薬品製薬工業協会(PReMA)のUsanee Harnpramukkul氏から開会の挨拶がありました。

次に、製薬協APAC e-labeling EWGの松井理恵リーダーより、e-labelingは世界的に共通した定義はないが、(1)信頼できるe-labelingのプラットフォーム(たとえば、規制当局のウェブサイト)を設立し、最新の添付文書情報を電子的に提供すること、(2)GS1バーコード等を外箱に付しe-labelingとリンクさせ、スマートフォンのアプリ等を通して、最新の添付文書の入手を容易にし、読みやすくすること、(3)製品に同梱されている紙媒体の添付文書は廃止し、電子的な方法で閲覧することが基本となること、(4)XML等を使用した構造化された電子的な添付文書を作成し、添付文書をデータとして取り扱うことを可能とすること、(5)相互運用基準を取り入れ、最終的には電子カルテや電子処方箋等のほかのシステムとリンク・統合させ、デジタルヘルスの一部として活用すること、といった要素があると説明がありました。

アジア諸国でのe-labelingの現状

日本のe-labelingの現状としては、相互運用基準以外はすでに実施していることから、現時点では世界に先駆けているとの見解を示しました。そしてアジア諸国では、シンガポールがe-labelingのガイドラインを発出しており、また、台湾はe-labelingのパイロット試験を開始している状況にあることから、本ワークショップでは、PMDA、台湾FDA、シンガポール製薬工業協会(SAPI)に登壇してもらいました。一方、欧米では国際標準規格(HL7FHIR)がe-labelingへの導入の決定、あるいは活発に検討されているので、欧米のe-labelingについて、ファイザーUKに登壇してもらい、その背景が共有されました。

PMDA安全性情報・企画管理部の杉山祥子氏からは、「Current status and future of e-labeling」と題して日本のe-labelingイニシアチブについて薬機法改正からGS1コード、添付文書閲覧アプリまで、幅広く詳細にお話しいただきました。杉山氏の発表の後、非常に多くの質疑応答が行われ、海外規制当局の日本のe-labelingイニシアチブに対する関心の高さが明確となりました。

台湾FDAのPoWen Yang氏からは、e-labelingイニシアチブを円滑に進めるためにラベリングの項目およびテンプレートを統一し、2021年には構造化されたラベリングを作成できるように新しいプラットフォームを構築したこと、また、2022年5月にe-labelingのユーザーフレンドリーなインタフェースを実施し、2022年から同梱を廃止しラベリングを電子的に提供するためのパイロットを開始したと説明がありました。

SAPIのBenjamin Tan氏からは、シンガポールでのe-labelingは2019年8月にe-labelingのトライアルが始まり、希望する会社が自主的にトライアルに参加し、医療従事者からのフィードバックをSAPIからHSAに報告したと説明がありました。その結果、2021年4月にe-labelingの最終的なガイダンスが発出されました。シンガポールのe-labelingでは、添付文書の同梱を廃止する場合、個装箱の表示を変更しなければならず、シンガポール出荷分のみ個装箱を変更する場合、包装コストが上昇する等の課題が共有されました。

ファイザーUKのShimon Yoshida氏からは、欧米でのe-labelingイニシアチブ、国際標準規格(HL7FHIR)を使用して構造化されたe-labelingへの取り組みについて、共有がありました。

質疑応答、議論・閉会挨拶

最後のセッションとして、PMDA安全性情報・企画管理部長の大澤智子氏を座長として、規制当局間のみの質疑応答、議論が行われました。大澤氏から「私たちは、e-labelingに関してそれぞれがいろいろな段階にあること、また、それぞれが直面している課題(インフラの整備や標準化等を含む)や、これまでの経験、また今後の計画の概要等を共有し、貴重な時間を過ごすことができました。それぞれの国や地域の事情により、目指すe-labelingのあり方は異なるかもしれませんが、今後も情報を共有し、相互に協力することが大切です。世界の患者さんのためにより良い状況を実現していくためにも、これからもぜひ対話を続けていきましょう。みなさんのご参加、また、このような機会をいただきましたことに心から感謝します」と結びの言葉がありました。そして、SAPIのKum Cheun Wong氏からの閉会挨拶により締めくくりました。

最後に

ワークショップ後、参加者にアンケートを行い、回答者全員から本ワークショップの全体的な満足度について、「期待を上回る」あるいは「大変満足している」とのフィードバックを得ました。2023年4月に開催予定の「第12回 APAC」のe-labelingセッションでさらに議論を深めていきながら、「第2回 APAC e-labeling 規制当局ワークショップ」の開催も企画しています。

(APAC e-labeling EWG リーダー 松井 理恵、サブリーダー 丹羽 新平

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