トピックス 「英国製薬工業協会(ABPI)との定期会合」を開催

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製薬協国際委員会欧米部会では、欧米の政府・製薬団体と協調し、国際的課題の解決を図る活動の一環として、欧州製薬団体連合会(EFPIA)、英国製薬工業協会(ABPI)、フランス製薬工業協会(Leem)、ドイツ研究開発型製薬工業協会(vfa)との定期会合を毎年実施しています。2022年のABPIとの定期会合は、3年ぶりとなる対面(+オンライン)で、2022年11月22日に開催しました。また、英国で事業を行う日系製薬企業の団体であるThe Japanese Pharmaceutical Group(JPG)との会合が前日の21日に行われ、会議後は在英国日本国大使館関係者や英国政府関係者も招いた夕食会が開催されました。今回は双方合わせて47名が参加し、活発な意見交換が行われました。会合の概要を報告します。

現地会場の様子 現地会場の様子

はじめに

冒頭、ABPI Chief ExecutiveのRichard Torbett氏より、歓迎の言葉と、久しぶりに対面で会合を開催できることを喜ばしく思う旨の挨拶がありました。ABPIは事務所移転を控えており、2023年の2国間会合は、今回(BMA House)とは別の場所になるとのことでした。

ABPIからはMarket overview and key issue update、Genomics、Health data utilizationについて発表がありました。

製薬協からは、パンデミックへの備え、薬価改定制度、G7に関連した製薬協の活動、全ゲノム解析等実行計画、保健医療情報の利活用に向けた動向について紹介しました。

■Market overview and key issue update(ABPI)

Chief Executive, ABPI Richard Torbett 氏                                            

Richard Torbett氏より英国市場の最新動向と課題についての話がありました。2022年7月以降、英国の政治は目まぐるしい変化を経ましたが、ライフサイエンス業界を重要視してきた点では一貫しており、各省庁関係者とは継続した連携が図られています。現在どの国も経済的な困難を抱えていますが、英国も同様で、国民保健サービス(NHS)の効率化への圧力も高まる中、最大の課題はVPAS※1払い戻し率の急騰です。2022年は過去最高に達し、2023年はさらなる上昇が見込まれており、国際的な基準から見ても是正されるべき状況にあります。企業の負担が重すぎるとして、複数の方面から政府関係者に働きかけを継続するとのことです。ほかの課題としては英国における治験の実施数減少、英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)の機能維持と発展等の紹介がありました。英国はBrexitに伴い、知財保護の立場をこれまで以上に強めており、新型コロナワクチンのTRIPS waiverの議論においては明確に反対の立場を貫いた国です。ABPIと政府との毎週のやり取りの中で、データ提供等により理解が得られていることが功を奏しており、今後も継続していくとのことでした。最後にパンデミックへの備えに関する政府のさまざまな活動について共有がありました。

質疑応答では、将来のパンデミックへの備えとしてのLife Science Visionの位置づけの共有がありました。創薬から製造まで幅広く、ライフサイエンス業界が成果を上げるための政府の各種支援策を、業界と長期的戦略として合意した内容だとのことでした。

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    VPAS:Voluntary Scheme for Branded Medicines Pricing and Access、先発医薬品に対する価格設定とアクセスに関する自主的な制度。会議後、2023年の払い戻し率は26.5%と発表されました。

■Market Overview and Key Issue Update(JPMA)

Future Pandemic Preparedness in Japan

製薬協 産業政策委員会 総合政策部会 感染症対策推進WG/国際委員会 欧米部会 粟村 眞一朗 委員                    

Current Status Over the NHI Drug Pricing System in Japan

製薬協 産業政策委員会 産業振興部会 草開 義隆 部会長                                       

Joint Proposal from IFPIA and JPMA for the G7 Hiroshima Summit Health Agenda

製薬協 国際委員会 伊藤 達哉 委員                                                 

はじめに粟村委員から、日本におけるパンデミックへの備えの例として、ワクチン開発・生産体制強化戦略や緊急承認制度等について紹介しました。続いて草開部会長から、創薬力強化およびドラッグ・ラグ解消のために、薬価制度の抜本的な改革に向けた厚生労働省の有識者会議等の説明があり、最後に伊藤委員長から、G7広島サミット2023保健アジェンダへの提言骨子の紹介がありました。

質疑応答では、感染症ワクチン・治療薬に対するインセンティブ制度や先進的研究開発戦略センター(SCARDA)についての質問のほか、公衆衛生に関する取り組みは各国さまざまなため、SCARDAと英国のHealth Security Agencyの機能の比較をすると面白いのでは、という提案がありました。また、米英の薬価の動向の日本への影響や、ドラッグ・ラグ解消への課題、日本政府の知財に関する姿勢について、確認や意見交換が行われました。

■Genomics

Director of Research Policy, ABPI Jennifer Harris
製薬協 産業政策委員会 イノベーション政策提言推進WT 鬼頭 正博 委員                                

英国・日本におけるゲノム基盤に関する今後の展望について紹介がありました。英国政府は2020年に「Genome UK」と呼ばれる新しい戦略を発表し、「診断や個別化医療」「予防」「研究」の3つの分野に取り組んでいくことを明言しています。英国におけるゲノムプログラムでは「UK Biobank」「Genomics England」「Our Future Health」の3つが有名ですが、世界100ヵ国以上の研究者がUK Biobankのデータを使用している点、英国のWelcome Sanger InstituteがSARS-CoV-2のゲノム配列の20%を世界に提供することでパンデミック時に多大な貢献をした点等、ゲノミクス分野での英国の役割の高まりに期待を膨らませる一方、ゲノム医療サービスの改善を促し、患者さんがゲノム情報に等しくアクセスできるようになるためには医療専門家への教育とトレーニングが必要だという課題の紹介もありました。

日本では、厚生労働省が主体となり「全ゲノム解析等実行計画」が進められており、2022年9月に「実行計画2022」が策定されています。

Genomics Englandを参考にして、事業運営に責任をもつ組織の設置や産業界が利活用できる仕組みを構築すること、がんで約1万5700症例、難病で8000例が先行的に解析され、今後、10万ゲノムを目標に解析を進める計画であることを紹介しました。

製薬協としては、創薬に活用できるゲノム基盤となるよう、充実した臨床情報の収集、オミックス情報の格納、利便性の高い解析環境を政府に要望しており、引き続き協力していくことも併せて紹介がありました。

■Health data utilization

Director of Health Data & Digital Policy, ABPI Janet Valentine
製薬協 産業政策委員会 イノベーション政策提言推進WT 安中 良輔 委員                                

日本、英国におけるヘルスデータの活用について紹介がありました。ABPIからは、2022年5月に公開された製薬業界の研究者が利用できる英国におけるヘルスデータについての報告書や、ヘルスデータを研究に使用する際の5つの基本原則について紹介がありました。政府の取り組みとしては、英国のNHSが2022年6月に発表したヘルスデータ戦略をはじめとした最新の話題についての紹介がありました。

製薬協からは日本の健康医療データ基盤と利活用に関する現状と、「骨太方針2022」に盛り込まれた医療DXに関する政府の方針を説明しました。また、2023年公開の「製薬協政策提言2023」では、健康医療データの基盤構築と個人情報保護法制を両輪とした総合政策の立案を柱とした要望を取りまとめる予定であることが紹介されました。

終わりに

製薬協の中川祥子常務理事は、データ戦略やゲノミクス・イングランド等、多岐にわたる内容について情報交換できたことについて感謝するとともに、今後も製薬業界に関連する共通の課題を解決するため、継続的に協力していきたいと述べました。

各セッションにおいて活発な意見交換が行われ、相互に理解が深まり、非常に有意義な会合となりました。次回は2023年度に開催の予定です。

会合の様子 会合の様子

(国際委員会 欧米部会 欧州グループ 英国チーム リーダー 中野 今日子

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