トップニュース 「日経クロスヘルス EXPO 2022」特別セッションに製薬協会長が登壇 イノベーション・エコシステム時代における製薬企業の変革の方向性と課題

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日経BPの主催による「日経クロスヘルス EXPO 2022」が、2022年10月11日~21日の会期でオンライン開催されました。本EXPOはヘルスケアにかかわるあらゆる業界・業種・人をつなぐ専門イベントです。最終日の10月21日には、「日本に魅力あるヘルスケアエコシステムが構築されるためには」と題する特別セッションが実施されました。特別セッションの登壇者は、参議院議員/慶應義塾大学法科大学院・医学部外科教授の古川俊治氏、製薬協の岡田安史会長、公益社団法人日本医師会常任理事の黒瀬巌氏、厚生労働省保険局長の伊原和人氏の4名でした。セッションテーマは「日本に魅力あるヘルスケアエコシステムが構築されるためには」と設定され、登壇者からのプレゼンテーションとパネルディスカッションにより議論が展開されました。以下は岡田会長のプレゼンテーション内容の再録です。

製薬産業は今、大きな環境変化の真っ只中にありますが、われわれが目指すべき姿、果たすべき使命は、国民のみなさんの健康寿命の延伸に貢献することであり、基幹産業として日本経済の成長に貢献することであります。

われわれの生命線である創薬開発では、これまでは企業が単独で行うことが通常でした。しかし、近年の製薬産業のビジネスモデルの転換により、新薬の「シーズ」は製薬企業の中から見出されるのではなく、ベンチャーから生み出されるようになりました。開発品目数の8割がベンチャー由来とのデータがあり、特に、新規モダリティである抗体や遺伝子治療、細胞治療では、ほとんどの開発品がベンチャー由来です。

世界では、有望なシーズをもち、人・モノ・カネが集まるベンチャーが次々と起業して革新的な新薬が生み出されるバイオクラスターが形成され、イノベーションの発信源となっています。残念ながら、このバイオクラスターランキングのトップ20に日本の都市は1つも入っていません。日本が世界に伍してイノベーションを生み出していくには、世界から投資を呼び込み、世界で戦えるベンチャーを生み出す土壌となるバイオコミュニティの形成が急務となっています。

製薬協 会長 岡田 安史 氏

では、なぜ、日本は遅れを来しているのか。その理由の一つに、日本ではベンチャーに対する資金供給源が不足していることが挙げられます。米国では、創薬の初期段階からさまざまな支援がある一方で、日本では資金供給源の不足が課題で、特に巨額の投資が必要な臨床試験段階で手薄な状況です。

日本がライフサイエンス分野で科学技術立国となるためには、世界で戦える製薬産業やベンチャーの育成、世界の投資家が日本での研究開発に魅力を感じ、日本が世界のイノベーションの創出拠点となるための国家支援が不可欠と考えます。具体的には、「創薬ベンチャー支援事業」において、現在ある感染症領域の縛りをなくすとともに、さらなる投資規模の拡大を訴えています。

このような国への要望を行う一方、医薬品産業としてのコミットメントも大切だと認識します。有望なシーズを保有するアカデミアやベンチャーに対し、ベンチャーキャピタル、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)やMEDISO※1、 InnoHub※2といった機関が伴走して支援し、最終的な出口戦略における社会実装の段階では製薬企業が大いに貢献することで、革新的なヘルスケア・ソリューションが生まれます(図1)。

  • 1
    厚生労働省の医療系ベンチャー・トータルサポート事業
  • 2
    経済産業省のヘルスケアやライフサイエンスのベンチャー企業等による支援をワンストップで行う相談窓口

図1 イノベーションの出口戦略における製薬産業の貢献
図1 イノベーションの出口戦略における製薬産業の貢献

2022年4月に、国のバイオ戦略2020に基づくグローバルバイオコミュニティが内閣府により認定されました。製薬協では、このコミュニティとの連携の強化とその活性化にコミットすることを宣言しました。その取り組みの第1弾として、東京圏を中心としたGreater Tokyo Bio community(GTB)の本郷・御茶ノ水・東京駅エリアにおいて、東京大学と東京医科歯科大学、製薬協の3者による連携強化を確認しました。この連携事業により、できる限り早く、力強いイノベーションの胎動につなげていきたいと考えます。

イノベーションの出口戦略への貢献の面で、エコシステムに重要なバリューチェーンの基盤構築へのサポートも製薬産業の重要なコミットメントです(図2)。バリューチェーンを担うのは人材であり、創薬シーズを社会実装するためには、資金や設備に加えて、エコシステムを動かす人材の育成が不可欠となります。コロナワクチンの研究開発で日本が直面した国内の製造基盤および臨床環境の不備に対して、政府からはデュアルユース製造設備等の支援が進められていますが、われわれはその設備を動かす人材、バイオ医薬品のCMCに精通する人材、高質な臨床試験を実施するための生物統計家の育成にコミットしていきます。

図2 製薬協はバリューチェーン構築に貢献
図2 製薬協はバリューチェーン構築に貢献

最後に、エコシステムの重要な要素として、「イノベーションの評価」について触れておきたいと思います。

代表的な創薬国である日本・米国・英国・ドイツにおいて、新薬のグローバル売上上位30品目が、特許期間中にどの程度の薬価改定を受けているかを示したデータがあります。欧米では新薬のイノベーションの価値は守られていますが、日本では特許期間中であっても価格が引き下げられていることは明らかです。イノベーション・エコシステムが機能するには、イノベーションによってもたらされる多様な価値が適切に評価されて、特許期間中はその価値が守られることが重要だと考えます。日本では、イノベーションが市場で評価され、たくさん売れると薬価が下がるという仕組みがビルトインされています。これは日本で新薬を上市することのディスインセンティブになっていて、欧米で承認されているにもかかわらず、日本では未承認の薬剤が近年大きく増加している状況にあります。イノベーションが適切に評価される制度を構築することは、日本の患者さんに革新的な新薬への迅速なアクセスを確保することにつながります。

われわれ製薬産業は、世界最先端の科学技術立国としての日本の地位を確立すべく、世界に向けて日本発のイノベーションを創出すること、そして世界から投資を呼び込む魅力的なエコシステムを構築すること、その両面に貢献してまいります(図3)。

図3 世界最先端の科学技術立国へ
図3 世界最先端の科学技術立国へ

本セッションの演者4名それぞれのプレゼンテーションの後、医療法人社団鉄祐会理事長の武藤真祐氏をモデレーターとするパネルディスカッションが展開されました。

パネルディスカッションの様子 パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションでは、武藤氏より2つのテーマの問いかけがなされました。1つ目は「ヘルスケアエコシステムの構築に不可欠なコ・クリエーション(共創)のあり方」です。岡田会長からは、エコシステム構築に向けて必要となる視点として「自助・公助・共助のベストバランス」を掲げ、「国民皆保険がベースの日本において、なにを公助に、なにを自助とするかについては幅広い議論と見直しが必要である。日本の保険制度におけるパイの取り合いになるようなことはしてはいけない」「製薬産業はペイシェント・セントリシティの考え方からも、新薬開発のみならず、予知予防を含めた人々のライフコースに沿う、公的保険の枠外となるサービスも含めて提供するビジネスモデルを拡充し、国民に貢献していかなければならない」「自助の観点では、ヘルスケアエコシステムにセルフメディケーションをどのように位置づけるかが重要になる」「国民に革新的な新薬を迅速に届けることが、国民の健康を守り、健康寿命の延伸を支えることにつながる。そのためには、イノベーションの価値を評価して守ることが必要であり、コストではなく投資であるとの考え方をもつべき」と説明しました。

2つ目のテーマは、「医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)はなんのために行うのか」でした。岡田会長はフリップに「Data is Oil」と記載し、「AIの構築等、DXはデータなくして進まない」「健康医療ビッグデータの利活用を加速することで、国民皆保険下で蓄積されている均質で高質なデータを保有する日本の強みを発揮し得る」「エコシステムの中心は患者さん。パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)といわれる健康情報も含めたご自身のデータの提供と活用によりエコシステムが機能する」「従来、入口規制であった考え方を、出口規制へと180度転換する必要がある。つまり、データの保護に偏重するのではなく、データの使用に対してしっかりと規制して不正な使用を防ぎ、データ使用に対する国民の不安感を払しょくすることを目的として、法整備も含め施策を講じていく必要がある」と述べました。

岡田会長は最後に「製薬産業の使命は、いまだ満たされていないアンメットな医療ニーズに対して、画期的な新薬を生み出すイノベーションをお届けすることであり、病気に苦しんでいらっしゃる患者さんに、しっかりと希望をお届けすることにある。これらに引き続き全力で取り組んでいきたい」とのコメントでディスカッションを締めくくりました。

(広報部長 酒井 信一

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