トピックス 「2022年度 医薬品評価委員会総会」を開催 Digital Transformationで医療の未来を切り開く! ~疾患から未病、そしてWell beingへ~

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2022年11月25日に室町三井ホール&カンファレンス(東京都中央区)で「第141回 医薬品評価委員会総会」が開催されました。新型コロナウイルスの感染を考慮し、製薬協幹部や医薬品評価委員会メンバー等約40名は会場で、その他約630名はオンラインでの参加となりました。

会場の様子 会場の様子

総会は製薬協の森和彦専務理事による本総会の趣旨説明から始まりました。外部講演の後、製薬協医薬品評価委員会の各部会・委員会タスクフォース(TF)が取り組んでいるデジタルトランスフォーメーション(DX)の活動が紹介されました。また、パネルディスカッションでは、医薬品評価委員会のDXの課題や将来が議論され、今後の取り組みにつながる機会になりました。最後に、医薬品評価委員会の柳澤学委員長の閉会の辞をもって4時間にわたった総会が終了しました。

第1部

■外部講演

デジタルイノベーションによるサステナブルな未来の実現

富士通 コミュニケーション戦略統括部 シニアディレクター 西川 博 氏                    

富士通では、実現したい未来ビジョンとその実現にテクノロジーがどのように貢献するかを提言する「Fujitsu Technology and Service Vision(FT&SV)」を2013年から毎年発信し、富士通が考える未来に対する挑戦を提示するとともに、全社員に対する未来への羅針盤としての役割も果たしています。

これからの10年は多様性の減少や気候変動、新型コロナウイルスの持続、貧困や教育問題が世界規模でさらに拡大していくであろうことを受け、富士通では、デジタルイノベーション技術によってサステナビリティ・トランスフォーメーションの実現を掲げて取り組んでいます。

富士通 コミュニケーション戦略統括部 シニアディレクター 西川 博 氏

世界中の動向を調査するために、世界9ヵ国1800名のビジネスリーダーを対象とした調査結果を分析したところ、サステナビリティについては重要な経営課題であると認識されているものの、その実現にはばらつきがありました。その中で、成功している企業では企業パーパス(CEOが自ら情熱をもって従業員に促すリーダーシップ)を定め、そのパーパスに基づいたヒューマンセントリック(従業員のエンパワー)、データ・ドリブン(データやデジタルテクノロジーの活用)、コネクテッド(人・モノ・サービスが安心・安全につながるエコシステムの構築)の3つの要素を実現に移していました。

それらを踏まえ、2020年に富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」ことをパーパスとし、(1)リアルとデジタルが融合した「ボーダレス・ワールド」、(2)不確実な未来をデジタルツインで予測する「ダイナミック・レジリエンス」、(3)量子コンピュータやAIを使用した「ディスカバリー革命」、(4)ボーダレス・ワールドを守る分散型トラストのテクノロジーによる「すべてにトラストを」の4つをテクノロジービジョンとして掲げ、量子コンピュータの開発等の「Computing」、5G・6Gワイヤレステクノロジー等の「Network」、超大規模データから因果関係を推論できる等の「AI」、分散型ID技術等の「Data&Security」、リアルタイムデジタルツイン基盤の構築等の「Converging Technologies」に投資し、パーパスの実現を行っています。さらに、「Fujitsu Uvance」を立ち上げ、人・モノ・アイデアをつなげ、サステナビリティ・トランスフォーメーションを推進しています。

第2部

製薬協医薬品評価委員会の各部会・委員会TFが取り組んでいるDXの活動等として、以下の8つの説明がありました。

  1. 1.
    医療情報DB活用促進タスクフォース 青木 事成 リーダー
    医療情報データベースの活用を推進するために、現在課題となっているデータ構造の不一致や同意等の個人情報保護法制の改善等基盤整備を中心に活動を実施。
  2. 2.
    基礎研究部会 鈴木 睦 部会長
    非臨床領域で発生するデータを構造化・データベース化することにより、SENDデータ化や過去の毒性試験の背景データを対照群として扱うこと、またAI病理判定への利用可能性を検討。
  3. 3.
    臨床評価部会 田畑 智之 副部会長
    リアルワールドデータ(RWD)/レジストリの利活用、医療機関への来院に依存しない臨床試験手法の検討、デジタルヘルスの利活用といった課題への検討成果の紹介。
  4. 4.
    ファーマコビジランス部会 宮崎 真 部会長
    リモート調査(再審査)の手引きの発行、紙から電子フォーム(PDF)を利用した副作用の詳細調査票の作成、DXによる患者さんへの情報提供・医薬品リスク管理計画(RMP)資材へのアクセスの向上等のDX活動を展開・検討、および企業におけるファーマコビジランスの大胆な将来像の紹介。
  5. 5.
    データサイエンス部会 土屋 悟 副部会長
    モデルを用いた将来の推測に役立てる医薬品評価「Model-informed drug development」や、プロトコルの国際標準化を検討するICH M11の活動を通し、解析計画書や総括報告書等、他の文書類へのコンテンツリユースを容易にできる未来の紹介。
  6. 6.
    電子化情報部会 染谷 美紀 リーダー
    eConsentの導入状況、eTMF metricsの利便性、ePRO 導入状況、臨床試験でのIoT利用状況、および今後の課題の紹介。
  7. 7.
    メディカルアフェアーズ部会 若村 友太郎 副部会長
    メディカル部門が行う「医学・科学的情報提供」に関する手引き(案)を通して、医学・科学的情報で考慮すべき情報の種類や方法に応じたデジタル利活用(Digitation, Digitalization)状況と現時点の課題を整理しつつ、DXを見据えた今後の展望等について紹介。
  8. 8.
    DX検討タスクフォース 海邉 健 運営幹事
    医薬品評価委員会で取り組むDXと個社のゴールを比較し、環境整備や政策提言を行い、加盟企業やステークホルダーが取り組むDXを加速する必要性の共有。今後は、病気になってからだけでなく、予防や健康維持に向けた取り組みが必要になり、その実現のためにDX活動を推進していく必要性を提示。

第3部

製薬協の森和彦専務理事、医薬品評価委員会の佐野俊治副委員長を座長として、西川氏、海邉運営幹事、青木リーダー、宮崎部会長に加え、臨床評価部会の松澤寛部会長をパネリストに迎え、パネルディスカッションが行われました。

今回の総会のテーマである「既存の枠組みにとらわれない ~Well beingのためにDXができること」に関して、なんのためになにを使って、誰になにを提供するのかを念頭に置いてディスカッションが行われ、DXが日常生活の中に入ってきているが、医薬品開発を行ううえでのDXを考える機会としたいという趣旨説明から開始されました。既存の枠組みを超えたメジャーリーガーの大谷翔平選手の登場により、大リーグのルールが変更になったことを引用し、新たなデジタルテクノロジーの登場によりルールや規制が変更になる可能性が議論されました。

パネリストから、オンライン診療やウェアラブルデバイスの登場等により医療機関への来院に依存しない臨床試験が現実化し、将来的には世界中のどこにいても必要な治験に参加できるようになるかもしれないとの意見や、疾患治療のガイドラインを管理できるサイトに治験の情報をつなげることで治験のアクセスがより推進されるとのアイデア、DXの進展により市販後安全性監視がスマート化すると、臨床開発もより早期の段階で承認され、残った課題はスマート化された市販後安全性監視が担えるかもしれないとの意見が出ました。

一方、過度に監視された社会を許容するか否かも個人で異なるだろうとの意見もあり、その解決として個人の意思を識別でき、その同意を取得していくことを含めたテクノロジーの開発の必要性が提案されました。

医薬品評価の場面で、日本規制当局はグローバルとは異なり、日本語での資料を求める等、言語の壁があるが、テクノロジーで解決できる日は近い将来に来るだろうとの意見も出ました。また、個人のデータについて、検索エンジンではそのデータが目的以外にも活用されているにもかかわらず厳しい規制は求められていない現状がある一方で、マイナンバーカードの取得率は上がらない等、個人データが使われる場面によってその受忍性が異なる課題に対して、利用者がメリットを感じられているか否かが違うのではないかという認識が共有されました。この点は、今後の医療情報データベース構築の議論に際して重要な要素となると考えられます。

最後に、製薬企業が目指すWell beingの定義は十把ひとからげではなく、細かい配慮をしていく必要があること、また、それに対してDXは新たな価値を提供できる可能性をもつことが共通で認識され、パネルディスカッションは結ばれました。

パネルディスカッションの様子 パネルディスカッションの様子

(医薬品評価委員会 副委員長 今枝 孝行

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