トピックス 「製薬協メディアフォーラム」を開催 —薬剤耐性(AMR)対策推進月間に向けて—

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薬剤耐性(Antimicrobial Resistance、AMR)菌に対抗する新規抗菌薬の開発を促進するために、製薬協国際委員会グローバルヘルス部会は、AMRがもたらす諸問題の重要性と喫緊の対策の必要性について、多くのみなさんからの理解と支持が得られるよう日々活動に取り組んでいます。11月は政府が定めた「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」であり、これに合わせ2022年11月8日、日本橋ライフサイエンスビルディング(東京都中央区)にて「製薬協メディアフォーラム —薬剤耐性(AMR)対策推進月間に向けて—」を開催しました。

会場の様子 会場の様子

はじめに

当日は厚生労働大臣政務官、参議院議員の本田顕子氏より開会挨拶があり、内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室内閣審議官の大西友弘氏、東邦大学医学部教授であり7学会合同感染症治療・創薬促進検討委員会委員長の舘田一博氏、日本医療政策機構マネージャーの河野結氏、製薬協国際委員会グローバルヘルス部会の有吉祐亮氏の産学官民4名による講演とパネルディスカッションを実施しました。会場およびWeb配信にて19社21名のメディア関係者が参加し、本フォーラムを通じてAMRの脅威とその対策である新規抗菌薬の研究開発の必要性に関する理解を深めていただく機会となりました。

■開会挨拶

厚生労働大臣 政務官、参議院議員 本田 顕子 氏                               

2022年の厚生労働省のAMR啓発活動は、人気TVアニメ『はたらく細胞』とコラボレーションしたポスター配布と動画の配信、薬剤耐性あるある川柳の募集等、一般の方にAMRをより身近に感じてもらえるよう工夫された理解促進の取り組みであることが紹介されました。さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で多くの医療者が経験している公衆衛生が危機的な状況に置かれている時代においても、対策に向けて絶え間ない努力が必要であるとの指摘がありました。

■講演1

薬剤耐性(AMR)の普及啓発活動について

内閣官房 新型コロナウイルス等感染症対策推進室 内閣審議官 大西 友弘 氏                  

内閣官房においては、AMR対策について、従来、「国際感染症対策調整室」が担当してきましたが、2021年に感染症対策関係の組織再編が行われ、同室と「新型インフルエンザ等対策室」および「新型コロナウイルス感染症対策推進室」が一本化されて、現在「新型コロナウイルス等感染症対策推進室」で担当しています。また、次の感染症危機に対応する政府の司令塔機能強化の一環として「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」が2023年度中に設置される政府方針が決定されており、AMR対策についても同庁に引き継がれることが検討されているとの紹介がありました。

2019年に実施された「薬剤耐性(AMR)に関する世論調査」では、約半数の国民が「薬剤耐性をよく知っている」と回答し、その中の7割の方は「感染症を起こす菌に抗生物質が効かなくなる」と答え、5割の方は「抗生物質を正しく飲まないと薬剤耐性菌が体の中で増えるおそれがある」と正しく理解していました(図1)。しかし、まだ国民の半数しかAMRを知らない状況であり、さらに認知度を上げていくことがAMR対策の重要な課題であるとの説明がありました。

図1 薬剤耐性(AMR)に関する世論調査結果(2)
図1 薬剤耐性(AMR)に関する世論調査結果(2)

 

また、COVID-19の影響で、この2年間、政府の普及啓発活動が休眠状態になっており、AMR認知度が下がっている可能性もあり、このため、2022年のAMR対策推進月間(11月)では、「薬剤耐性(AMR)って何だろう」と原点に立ち返るメッセージを盛り込んで、ポスター1万枚による啓発を展開しています。

また、厚生労働省等の各省庁もそれぞれ周知広報等に取り組んでいますが(図2、3)、「薬剤耐性(AMR)対策推進国民啓発会議」等の休止中のイベントを含めて、2023年度以降どのような形で普及啓発活動を強化していくかが内閣官房のこれからの課題であると強調しました。

啓発ポスター 啓発ポスター

図2 薬剤耐性(AMR)対策推進月間(2)
図2 薬剤耐性(AMR)対策推進月間(2)

図3 薬剤耐性(AMR)対策推進月間(3)
図3 薬剤耐性(AMR)対策推進月間(3)

 

■講演2

学会としての取組み

東邦大学 教授、7学会合同感染症治療・創薬促進検討委員会 委員長 舘田 一博 氏               

AMRは健康な人が感染するわけではないため、知られないまま広がります。その広がりはサイレントパンデミックともいわれ、市中感染と院内感染のいずれでも起こり得ます。また、途上国では処方箋なしに抗菌薬が購入できるため、耐性菌が広がりやすい状況にあります。

その一方で、抗菌薬が購入できることにより救われる命があるのも事実であり、耐性菌は医療のみの問題ではなく、経済、貧困を含めた社会全体の問題であり、それがAMRの課題に取り組む際の難しさである点が指摘されました。

日本の製薬企業は、かつて世界標準となる抗菌薬を多数生み出した事実があるにもかかわらず、新しい抗菌薬の開発投資を継続できず、抗菌薬領域から撤退しています。その理由として、慢性疾患の薬剤等と比較し、抗菌薬領域が投与期間や適正使用の点からビジネスとして成り立たない背景が説明されました(図4)。

図4 感染症治療薬の開発が続けられない…
図4 感染症治療薬の開発が続けられない…

 

このような研究開発の停滞を解決するための日本の取り組みとして、創薬促進検討委員会、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)抗菌薬産学官連絡会等について紹介がありました。また、日本の7学会合同でAMRに対する提言の発信を継続しており、2022年7月には治療薬・ワクチン・検査法の研究開発を継続できるプル型インセンティブ等の制度の必要性を発信したことについても紹介がありました(図5)。

図5 7学会合同感染症治療・創薬促進検討委員会 提言
図5 7学会合同感染症治療・創薬促進検討委員会 提言

 

最後に、2023年のG7広島サミットは、2016年の伊勢志摩サミットから始まったプル型インセンティブの議論を、国際貢献、創薬促進・診断法開発の視点も含めて日本がリードする好機と捉えられることから、同サミットに向け機運を高めていくことへの期待が示されました。

■講演3

AMRアライアンス・ジャパンの取組み

特定非営利活動法人日本医療政策機構 マネージャー 河野 結 氏                       

本講演では、はじめに特定非営利活動法人日本医療政策機構(HGPI)について紹介がありました。AMRについては2016年のG7伊勢志摩サミットのころから注力しており、中立的な立場でAMRの課題を議論するプラットフォームに対して国内外における社会的要請の高まりもあり、AMRアライアンス・ジャパンが2018年11月に立ち上げられた経緯が説明されました(図6)。

図6 AMRアライアンス・ジャパンとは
図6 AMRアライアンス・ジャパンとは

 

続いて、AMRに関連した多岐にわたるシンポジウムやラウンドテーブルの開催、2021年のAMR対策としてのプル型インセンティブ導入に関する提言、2023年のG7広島サミットに向けた政策提言等の作成、当事者インタビューを通じた語りの収集による啓発活動や市民との連携、メッセージング調査等、AMRアライアンス・ジャパンの幅広い活動が紹介されました。

抗菌薬は社会の公共財であり、薬剤耐性の発生と広がりを防ぐには皆で取り組むことが必要であること、さらには抗菌薬が感染症以外にも、抗がん剤治療等、広い分野で使われているとの認識を広めるため、メディアの力も必要であることの説明がありました(図7)。

図7 メディアの皆さまへ
図7 メディアの皆さまへ

 

■講演4

薬剤耐性(AMR)に対する日本製薬工業会の取り組み

製薬協 国際委員会グローバルヘルス部会 感染症グループ 有吉 祐亮 リーダー                 

本講演では、AMRの現状、製薬協のAMRへの取り組み、製薬協および国際製薬団体連合会(IFPMA)による製薬産業のG7広島サミットへの提言が紹介されました。今、なにも対策を講じなければ、2050年にAMRで死亡する人は全世界で1000万人と推定されています。これまでに多くの国でAMR対策アクションプランが策定、実践されてきたにもかかわらず、残念ながら2019年には約127万人がAMRによって死亡しており、その進行を抑えることができていません。日本においてもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌による菌血症で2017年に約8000人が死亡していると推定されていること、多くの診療科でAMRが問題になっていることが紹介されました。

一方で、製薬協が実施した市民の方々に対する「薬剤耐性対策のための新規抗菌薬開発の促進に関する意識調査」からは、AMRの認知度が低いことが紹介され、AMRを多くのみなさんに認知していただき、自分事として行動につなげていただくことが重要であると述べました。

続いて製薬協のAMRの取り組みが紹介されました(図8)。現在、産学官が連携してAMR対策に取り組んでおり、「耐性菌を増やさない適正使用の取り組み」と「新たな耐性菌に対応できる薬の開発の必要性」を2つの重要な考え方としています。

図8 AMRに対する製薬協の取組みの考え方
図8 AMRに対する製薬協の取組みの考え方

 

製薬協では、2017年からポスター、フライヤー、動画、イベントやウェブサイトによる啓発活動を継続し、2021年からはメディアへの情報提供の重要性を鑑みメディアフォーラムの開催と、課題とその変化を把握するために意識調査を開始したことが紹介されました。

G7広島サミットに対する製薬産業の提言書は、持続可能なUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)※1の実現、次なるパンデミックへの備え、AMRへの対処から構成されています。特にAMRに対しては、プル型インセンティブを含めた研究開発の促進、低中所得国も含めたアクセスの向上、サーベイランスの取り組みの重要性が指摘されていることが紹介されました(図9)。

  • 1
    UHC:すべての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられること

図9 まとめ
図9 まとめ

 

■閉会挨拶

製薬協 国際委員会 伊藤 達哉 委員長                                  

AMRに関する国民の理解度が高まることが重要であり、抗菌薬を適正に使用し薬剤耐性菌を発生させないこと、感染が発生した場合に備え耐性菌と戦うための抗菌薬を準備しておくことの重要性が改めて強調されました。

2023年のG7サミットは日本が議長国となり、広島で首脳会合が開催されます。AMR対策は2016年に開催されたG7伊勢志摩サミット以降継続的に議論されている重要なヘルスアジェンダの一つであり、世界的なAMR対策において、日本のリーダーシップが期待されることを述べ、本フォーラムは閉幕しました。

最後に

重要なグローバルヘルス課題の一つであるAMRへの国民の関心を高めることは重要であり、またAMRに対する抗菌薬の開発は、産学官が連携して取り組むべき課題です。製薬協は新たな知見も積極的に採り入れながら、今後もAMRの問題解決に向けてさまざまな活動を進めていきます。

(国際委員会 グローバルヘルス部会 渡辺 剛史中野 今日子椿原 慎治

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