トピックス 「バイオジャパン2022」開催・参加報告 開会式ならびに基調講演、バイオ医薬品委員会セミナーについて

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「バイオジャパン2022」が2022年10月12日~14日にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催されました。例年同様に「再生医療JAPAN 2022」および「healthTECH JAPAN 2022」も併催されました。2022年もコロナ禍での開催となり、会場とオンライン形式のハイブリットにて行われましたが、2021年を超える約1万5800人が来場し、また、目玉の一つであるパートナリング商談の申し込みが事前に埋まるほどの盛況ぶりで、コロナ禍以前の状況に近づきつつあると感じました。製薬協も主催団体の一つとして参加し、会員会社のみなさんが多数発表するとともに、多くの会社・団体がアライアンスブースを出展し、アカデミアやベンチャー等と面談する等、活発な情報交換と交流が行われました。

開会式 開会式

開会式ならびに基調講演

主催者団体を代表してバイオインダストリー協会代表理事・会長の阿部啓子氏による挨拶の後、経済産業大臣政務官の里見隆治氏、厚生労働省医務技監の福島靖正氏、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員の上山隆大氏、神奈川県知事の黒岩祐治氏および横浜市長の山中竹春氏による英語での祝辞がありました。その後、基調講演として「わが国のバイオエコノミー形成に向けて」(日本経済団体連合会会長の十倉雅和氏)、「日本発ヘルスケアイノベーション・エコシステムの形成に向けた展望と課題」(製薬協の岡田安史会長)および「英国ライフサイエンスエコシステムの展望」(Vice-Provost, Health, University College LondonのDavid Lomas氏)の3つの講演がありました。

製薬協の岡田会長の講演では、アンメット・メディカル・ニーズを満たす新薬開発において、モダリティの多様化に伴いベンチャーの重要性が増してきている中、日本のベンチャーが置かれている状況およびイノベーション創出に向けた他国の取り組み等が示されました。今後、日本が革新的新薬を生み出していくためには国家支援が必要であること、製薬産業のビジネスモデルにもパラダイスシフトが起こっており、世界の医薬品市場における日本のプレゼンス低下を克服していくためには製薬産業が自らビジネスモデルを進化、トランスフォームさせることが必要であること、日本の健康医療情報の基盤構築は大きく出遅れており、ビッグデータの利活用によるイノベーション創出や、活用目的に応じたデータの環境整備が必要であることが挙げられました。また、縮小する日本の医薬品市場や増加する国内未承認薬の状況等を踏まえて、患者アクセス改善のために新たな薬価維持制度や新たな価値評価プロセスが必要であること、加えて国内バイオコミュニティの構築やバイオ人材育成にも注力していく必要があることが挙げられ、製薬協としてもこの取り組みを強化していく旨が表明され講演が締めくくられました。

製薬協 岡田 安史 会長

バイオ医薬品委員会セミナー

次世代バイオ医薬品製造プロセスのデジタル革新

製薬協バイオ医薬品委員会では、バイオ医薬品の製造プロセスや製造基盤、さらにはバイオ人材育成に関する話題について、過去数年間にわたりセミナーを開催してきており、2022年度は「次世代バイオ医薬品製造プロセスのデジタル革新」というタイトルで10月12日に開催しました。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科特命教授の内田和久氏がコーディネーターとなり、今回は海外からのリモート参加の演者も含め4名が登壇し、アカデミア、企業のそれぞれの立場から幅広い議論が行われ、会場は満席となりました。

主催者セミナーの様子 主催者セミナーの様子

セミナーのイントロダクション

冒頭、内田氏より、本セッションのオーバービューが紹介され、次世代のバイオ医薬品、ワクチン等、新たなモダリティによる開発が進められている中で、製造における生産性の向上、プロセス効率化、リスク低減等、より生産を最適化することが必要となっており、モダリティは異なるが、バイオ製造プロセスにおいてはデジタル化にかかわる共通の課題があることが示されました。また、本セッションでは生産の最適化に寄与するロボティクス、AI、デジタル化等の関連するテクノロジーが紹介され、将来の生産プロセスの方向性等について考えたいと、本セッションの趣旨が説明されました。

各演者による講演内容

Moderna社のSatish Singh氏は「Development of Moderna's Covid Vaccine - Evolution and Use of Platform Approach」について講演し、mRNA(メッセンジャーRNA)インフルエンザワクチン等の過去10年の研究開発で蓄積された技術、スキル、ノウハウを基に、コロナワクチンの開発において、遺伝子配列決定からフェーズ1の投与まで63日(臨床サンプル製造はわずか43日)であったことを紹介しました。また、体系化された製造プラットフォームやクオリティコントロール等について概説し、変異株の遺伝子配列を入れ替えるのみで、同じ原材料、製造プロセスで変異株ワクチンの製造が可能なことに加え、付随するデータの蓄積もあり、プラットフォームの完成度を印象付けました。最後にデジタルツールは、コロナワクチンの迅速な開発に不可欠であったと総括しました。

次に、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構細胞療法研究開発センター長の川真田伸氏は「CMO/CDMO※1の業態に革新をもたらすQuality by Design(QbD)に基づく細胞製造systemの紹介」について講演しました。冒頭、多くの細胞製造において最終製品のverificationによる品質評価(Quality by Tests)のみに頼っている現状に課題感を示し、自らが開発に携わった閉鎖系自動培養装置「CellQualia TM - Intelligent Cell Processing System」を紹介し、細胞製造へのQbDの実装に向けた検討について説明しました。最後に、細胞製造プロセスを可視化、デジタル化し、同システム上に登録された情報と医療現場で得られる情報とをつないで統合的に活用することが重要であると述べました。

続いて、ホワイトバイオ(物質生産)の先進的な取り組みとして、神戸大学先端バイオ工学研究センター長、教授の蓮沼誠久氏から、酵母等の微生物をモデルにしてAI/IoT、Robotics、Data management等を駆使したスマートセル創出プラットフォームの開発や、企業と組んで開発を進めている自律型実験システム(Design→Build→Test→Learnを自律的に繰り返すイメージ)について紹介がありました。

また、バイオプロセス開発のデジタル化やデータ統合・分析、QbD等、製薬企業のバイオプロセスのワークフローの効率化を支援するスイスGenedata社の久野瑞枝氏は、グローバルトップ企業とのコラボレーションの事例を紹介し、最新の企業ニーズに即したプラットフォームにアップデートしていることを強調しました。

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    CMO:医薬品製造受託機関(Contract Manufacturing Organization)
    CDMO:医薬品製剤開発受託機関(Contract Development and Manufacturing Organization)

まとめ

最後のパネルディスカッションでは製造プロセスにかかわるプラットフォームシステムはクラウド型が良いか、あるいはオンプレミス型(特に日本の製薬企業で好まれる)が良いのか議論されました。細胞製造ではプロセスと品質管理(QC)を同時に見ていく必要があり、膨大なデータへのアクセスを考えるとクラウド型だろうという意見やグローバル企業はほぼクラウド型で世界の各拠点からデータを共有、アクセスできるシステムである等の紹介があり、目指す方向はクラウド型が共通との認識でした。

次に、プラットフォームシステムを構築するうえで、社内にシステムエンジニアが必要かどうかについても議論されました。システムエンジニアが会社を辞めるとたちまち困るのではないか、プラットフォームシステムや機器・装置を専門で開発している企業と協働・連携していることが多い、しっかりフォローアップ体制も構築できるところに任せるべき等の意見がありました。
 

次回の「バイオジャパン2023」は2023年10月11日~13日、パシフィコ横浜にて開催される予定です。

製薬協のブース 製薬協のブース

(薬事・バイオ医薬品部長 塚田 純子、バイオ医薬品委員会 政策実務委員長 渡辺 佳宏

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