トピックス 「第10回 日台医薬交流会議」開催される

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2022年10月20日、日本橋ライフサイエンスビルディング(東京都中央区)にて「第10回 日台医薬交流会議」が開催されました。当日は会場とオンラインのハイブリット形式で実施され、対面での開催は2019年以来3年ぶりとなりました。衛生福利部食品薬物管理署(TFDA)署長の呉秀梅氏をはじめ、台湾当局および産業界から34名が来日し参加しました。

当日現地参加者による集合写真 当日現地参加者による集合写真

本交流会議は、2013年12月に台北で「第1回 日台医薬交流会議」を開催してから10回目の節目を迎えています。発足の契機は、2013年11月5日に「医療品規制に関する協力の枠組み設置のための公益財団法人日本台湾交流協会(日本側)と、亜東関係協会(現・台湾日本関係協会、台湾側)との間の取り決め(略称「日台薬事規制協力取決め」)の締結でした。この取り決めの主な内容としては、日台間の薬事規制に対する相互理解と協力へ向けたプラットフォームの設定、および日台の規制当局に対する協力要請等になります。

第10回となる今回の交流会議では、医薬品・医療機器関係者から、日本、台湾合わせて500名以上が参加し、デジタルツールを利用した臨床試験の推進、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策や双方の医療保険制度に関して、最新の情報を共有しました。双方の協力体制の基盤形成と併せ、各テーマについて掘り下げた発表および討論が毎回行われ、新薬に関しては日本で承認された新薬を台湾で迅速に上市するための新薬審査協働スキームも進んでいます。双方の課題について議論することで、アジア地域の高齢社会に対応した革新的な新薬創造に向け、相互理解をいっそう深めることができました。

交流会議の日本側の主催は公益財団法人日本台湾交流協会、協賛として独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、製薬協等が行っています。厚生労働省医薬・生活衛生局総務課国際薬事規制室長の安田尚之氏、PMDA理事の宇津忍氏、日本の規制当局、製薬協国際委員会の伊藤達哉委員長をはじめとする製薬協、一般社団法人日本医療機器産業連合会(医機連)等、関係各所から多くの方が参加しました。

台湾側は、台湾日本関係協会主催のもと、衛生福利部食品薬物管理署(TFDA)、財団法人医薬品査験センター(CDE)、衛生福利部中央健康保健署(NHIA)、台北市工商会医薬品医療機器部会(JCCI PMDC)、台湾製薬工業同業公会(TPMA)、台湾研究開発型生技新薬発展協会(TRPMA)、中華民国開発性製薬研究協会(IRPMA)、台湾後発品協会(TGPA)、中華民国製薬発展協会(CPMDA)、台湾医療器材工業同業公会(TMBIA)、中華民国医療器材商業同業公会全国連合(TFMDCA)の協賛となっています。

今回の交流会議では、まず医薬品・医療機器共通のkeynoteセッションとして両当局から規制に関する情報のアップデートが行われ、その後、デジタルツールを利用した臨床試験の推進、COVID-19に対して種々の対応に関する台湾および日本双方の取り組みの共有、さらに医療保険に関する議論が交わされました。以下にご紹介します。

1. Keynote speeches

医薬品・医療機器に係る規制のアップデートとして、台湾側からTFDA、日本側からPMDAの最新の状況が発表されました。

PMDAからは、日本および台湾双方の協力が10周年を迎え、このように長期にわたって密に協働が継続できたことが一番の成果である旨が述べられました。また、日本の主な薬事規制に関するアップデート、新型コロナウイルスのワクチン評価に関する考え方、リモートでのGood Clinical Practice(GCP)調査、COVID-19パンデミック下における臨床試験のQ&A、e-インフォームドコンセント等が紹介されました。最後に、今後もさまざまな協働を進め、20周年も盛大に祝いたいと伝えられました。

TFDAからは、COVID-19ワクチンの緊急使用許可(EUA)、再生医療、医薬品申請におけるリアルワールドデータや臨床試験および医療機器に関する最新動向について紹介されました。e-ラベリングでは5つのパイロットプログラムが進行中であること、電子カルテやその他システムとリンクさせ医療に役立てる構想等、将来のビジョンについて紹介がありました。最後に、これまで実施してきた連携により貴重な経験ができていることに関する日本への感謝、そして今後の連携についても積極的に図っていきたいと述べました。

2. 10周年記念セッション

本交流会議では、10周年を記念したセッションが企画されました。まずはTFDA署長の呉秀梅氏よりこれまでの10年を振り返る講演があり、その後6名のパネリストにより、この10年の協働で達成したこと、まだ解決されていないチャレンジ等、過去に関するトピック、また、他のアジアの国をリードしていくためになすべきこと、アジアからエビデンス構築するためにすべきこと、次の10年に日本と台湾の協働をどのように推進していくか等、現在および未来に関するトピックについて、さまざまな意見交換が行われました。

また、これまで日本と台湾はレギュラトリーサイエンスを背景に科学的観点から協力体制の構築や施策を講じてきたこと、将来も引き続き科学的観点から、いかに新規技術を規制に反映させていくかがとても重要であることが述べられました。今後も協働しアジアをリードしていくためには、今までの努力を基に、データの収集および知見の共有が重要であり、これは当局だけで実現することができないため、産業界の協力も必要であること、さらには、これからの10年だけでなく、その先の10年も見通して活動していくことが重要である旨が述べられました。

3. デジタルを利用した臨床試験の推進

本セッションでは、臨床試験を推進するためのデジタルツールに関する取り組みの現状が紹介されました。

PMDAからは、臨床試験の実施の多様化に対応するため、ICH E7改訂作業が進められていること、またその中で分散型臨床試験(DCT)についても触れられていることが紹介されました。基本的には、被験者は通院し検査を受ける必要がありますが、COVID-19の流行で診療に制限が生じたことによりデジタルを利用したDCTが進み、オンライン診療やウェアラブルデバイスを利用することにより訪問頻度を減らせるようになりました。今後、対面型およびリモート型の両面での利点を最大限に活かし、臨床試験デザインに応じて最適な組み合わせをすることにより、効率的かつ効果的な治験の実施が可能になると期待している旨が述べられました。

TFDAからは、患者登録に関してSNSを活用していること、開始された臨床試験はデータベースにすべて登録し、誰でも検索できるようにしていること等、簡単なプロセス、被験者の安全性担保に影響がないプロセスから、随時デジタル化を進めてきている旨が紹介されました。台湾でのデジタルツールを用いた臨床試験は始まったばかりであるが、関係者との連携を密にし、多くの参加者、医療機関により良い臨床試験体制が構築できるよう推進していきたい旨が述べられました。

4. COVID-19

本セッションでは、COVID-19に対する取り組みに関する現状が紹介されました。

PMDAからは、COVID-19の状況、薬事規制当局の取り組みについて紹介されました。日本では第7波での行動制限はなく、2022年9月7日から水際対策も緩和され、感染環境対策は新たな段階に入っている旨が紹介されました。また、ワクチンや治療薬を迅速に導入するため、特例承認や新しく導入した緊急承認制度に関して紹介されました。COVID-19に関する問題は、1つの規制当局で解決できる問題ではなく、さまざまな既存の枠組みの活用、二国間での対話等、複数の国々の協力のもと、より良い対策につながったことから、今後も関係各国と連携し問題解決につなげたい旨が述べられました。

TFDAからは、国内の医薬品備蓄状況を確認するための供給データベースプラットフォームや患者登録のプラットフォームを構築したこと、COVID-19ワクチンに対する安全性モニタリングの取り組み等の紹介があり、デジタルを用いた迅速かつ適切な素晴らしい取り組みが実施されていることが共有されました。

5. 健康保険制度

本セッションでは、両当局から薬価制度の紹介がありました。厚生労働省からは、薬価制度・算定ルールおよび費用対効果評価制度について紹介がありました。新薬算定ルールに関して、類似薬効比較方式(類似薬がある場合)、原価計算方式(類似薬がない場合)と有用性・新規性が認められた場合の特別加算、加えて、海外薬価調整等、幅広い算定ルールが紹介されました。また、「医薬品産業ビジョン2021」についても触れ、医薬品は経済安全保障上の重要項目と位置づけられるものである旨が述べられました。

NHIAからは、台湾における保険制度および薬価制度の現状について共有がありました。透明性と予見性をより明確にし、官民で協力して、医薬品市場の魅力を上げていくことで投資を呼び込み、患者さんの医療アクセス向上につながる仕組みにしていくことが重要です。

将来の新薬に関する予算の予見性を高めるホライゾン・スキャニングや、承認時の薬価の適切性を評価する医療技術評価(HTA)、承認後の費用対効果を再評価する医療技術再評価(HTR)等の制度を駆使し、保険償還に関する運用を強化していきたい旨が述べられました。

6. 総括

2013年に始まった本交流会議は今回で節目の10回目を迎えました。この10年の取り組みの中で、2015年に台湾でのGCP査察制度の見直し、2016年に台湾における新薬簡略審査制度に日本を追加、2019年に日台で新薬審査協働スキームに関するポジションペーパーの発行、そして2022年は日本の再生医療等製品の規制を参考に台湾で再生医療等製品の規制制度の整備等、両当局間で確実な調和・協働が進んでいます。

COVID-19による制限も徐々に緩和され、2019年以来3年ぶりに対面での開催が可能となり、活発な議論ができました。双方の取り組みに関しても、柔軟かつ迅速に対策を進めていることが紹介され、今後も、両当局間で継続的にコミュニケーションをとり、相互理解と信頼を深めていくことが不可欠だと感じました。

2023年は台湾で開催予定です。これまでの10年を次の10年につなげ、日本および台湾の医薬品、医療機器に関する規制調和・協力、相互の規制制度の理解の促進が官民でなされていくことを願ってやみません。

(国際委員会 アジア部会 台湾チーム 小山 辰也池上 真悟

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