トピックス 「第12回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」開催される

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2022年9月9日、10日に、国立情報学研究所学術総合センター(東京都千代田区)にて、「レギュラトリーサイエンスを担う人材育成の現状と今後」をテーマに「第12回 レギュラトリーサイエンス学会学術大会」が開催されました。

シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

はじめに

レギュラトリーサイエンス学会は、医療現場、大学・研究機関、産業界や規制当局の関係者が、対等の立場で一堂に会して、医薬品・医療機器等のレギュラトリーサイエンスに関する研究成果や考えを公開討議し、その学術の進歩と普及を図るという設立理念のもと、2010年8月に設立されました。設立から12年が経過し、レギュラトリーサイエンスの概念は広く浸透しつつあります。

2022年の学術大会は、9月9、10日の2日間にわたり、「レギュラトリーサイエンスを担う人材育成の現状と今後」をテーマとして2年ぶりに対面形式にて開催され、大会長講演、特別講演、シンポジウム(13題)、一般演題(口演12題、ポスター27題)の各セクションで活発な議論が行われました。

特別講演3:ポストコロナ時代の創薬エコシステムとレギュラトリーサイエンスの進化について

特別講演3では、製薬協の森和彦専務理事から「ポストコロナ時代の創薬エコシステムとレギュラトリーサイエンスの進化について」の講演がありました。

2020年から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって極めて多くの課題に直面し、医薬品の開発から使用に至るまでのすべてのプロセスにおいて、限られた時間と資源と情報の中で最も適切な科学的判断を行うため、レギュラトリーサイエンスも新たな課題に直面してきたことが示されました。

緊迫した状況における医薬品等の承認の可否判断を、いかに合理的かつ納得感のある手法で行うのかだけでなく、それを実現可能とするために開発早期の創薬段階から市販後の育薬段階まで全体をエコシステムとして捉え、さまざまなステークホルダーを巻き込んで進化させることが求められていると説明がありました。

特別講演3の様子 特別講演3の様子

シンポジウム8:医療用医薬品の承認書記載の課題について

厚生労働省保険局医療課薬剤管理官の安川孝志氏、製薬協薬事委員会の柏谷祐司委員長を座長として「医療用医薬品の承認書記載の課題について」をテーマに講演がありました。

製薬協薬事委員会薬事制度部会の小林正次部会長は「承認書記載及び変更管理に関する課題」として製薬企業を取り巻く環境の変化、承認書の記載内容や品質に係る変更管理の課題解決や将来を見据え、承認書制度の舵を切る時期であり、舵を切る方向にはさまざまな選択肢があり、例として世界共通のエスタブリッシュトコンディション※1を承認書に記載することや、CMCに関する制度の欧米との調和等を考慮し、GMP制度を含めた薬事制度全体について産学官での議論の必要性を訴えました。

同じく中山能雄委員からは、日本と欧米の承認事項の分量、日米欧で同一の変更を対応する場合の各極における手続きの変更カテゴリー、審査期間ならびにGMP適合性調査の実施状況に関するアンケート調査結果が発表されました。また、グローバル化した医薬品サプライチェーンの現状を考慮した日本の薬事制度の再考について問題提起がありました。

続いて、富山大学薬学部医薬品品質保証・評価学講座教授の鳴瀬諒子氏からは「国際的整合性を踏まえた医薬品の品質管理に関する査察手法の質的向上に資する研究」を基に、GMP査察手法の国際比較に関する内容および日本でのGMP調査の視点が紹介されました。また承認書を巡る課題として、製造業者を監査する側のスキルや人材育成、経営層の品質に係るクオリティカルチャーの醸成が挙げられました。

最後に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の佐野幸恵氏から「本邦における承認書の順守現状と課題」と題して、承認書記載に関する不適切な当局相談事例が紹介され、経営層も含めた企業側における承認書の位置付けの理解促進、および委受託における変更管理に関する連絡体制の確認の要望がありました。

その後のパネルディスカッションでは、「患者さんのために高品質の医薬品を安定供給する」という共通の目標を達成するために、今後も承認書のあり方について協議を重ねていくことが確認されました。

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    エスタブリッシュトコンディション(Established Condition):製品の品質を保証するために必要な法的拘束力のある情報

シンポジウム10:緊急事態における薬事承認制度 —国産ワクチン・治療薬の実用化をめぐって—

一般社団法人Medical Excellence JAPAN理事長の笠貫宏氏、BeiGene Japanの永岡真氏を座長として、「緊急事態における薬事承認制度 —国産ワクチン・治療薬の実用化をめぐって—」をテーマに開催されました。

はじめに、ファイザーR&Dの森久保典子氏より「コミナティの開発」をテーマとして実際の特例承認の事例紹介が行われました。

製薬協薬事委員会の柏谷委員長からは「緊急承認制度の活用のために(企業側立場から)」をテーマとして、特例承認および緊急承認制度活用における行政と企業間の綿密な連携の重要性、海外との承認時期のラグの解消策としてクラウドを活用した国際共同審査へ参画の提案、審査プロセス加速制度への期待について発表が行われました。

続いて、早稲田大学大学院法務研究科教授の甲斐克則氏より「国産ワクチン等の研究開発に向けた2022年薬機法改正の意義 —レギュラトリーサイエンスと医事法の視点から—」をテーマとして、法律家の立場から、緊急承認制度の育成における課題について発表がありました。

最後に、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長の吉田易範氏より「我が国の新型コロナ対応と緊急承認制度について」のテーマで緊急承認制度設立までの行政側での議論が紹介されました。その後、演者4名を交えたパネルディスカッションでは、緊急承認制度に対する企業側および行政側の考えの意見交換や制度の課題について活発な議論が行われました。

一般演題<ポスター>

ポスター発表の様子 ポスター発表の様子

ポスター発表は、製薬協薬事委員会から以下の4つのテーマについて発表が行われました。

日本製薬工業協会薬事委員会加盟会社における開発プロジェクトの現況 ~Global開発実施状況からの考察~

製薬協 薬事委員会 石原 惟志 委員、鈴木 亨 委員、他                                          

製薬協薬事委員会加盟会社66社を対象として、2022年3月末時点における開発中および申請中のプロジェクトに関するアンケート結果が紹介されました。開発プロジェクト数は2011年の調査以降漸増しており、日本における医薬品開発においてグローバル開発が8割以上を占め、国際共同治験や海外試験の利用等、多様化された開発ストラテジーはここ数年来変わらない状況が示されました。開発領域についても最近の傾向として抗悪性腫瘍薬の割合が多いことが示されました。また、リアルワールドデータ(RWD)の利活用の状況や、国際共同治験におけるICH-E17の活用状況、日本人P1試験の実施状況等について報告がされました。

新医薬品の審査状況に関するアンケート2022

製薬協 薬事委員会 山本 善一 委員、浜田 奈津子 委員、他                                        

2021年1~12月に承認された新医薬品135品目のうち、製薬協薬事委員会加盟会社66社が承認取得した104品目を対象としたアンケート調査結果が報告されました。申請から承認までの中央値の期間は、通常審査品目で11.3ヵ月、通常審査品目以外で8.0ヵ月でした。申請電子データの提出義務化の状況、審査分野に対する満足度、審査プロセスに対する改善要望等に加え、7品目の特例承認の状況についての報告が行われました。審査において申請電子データのさらなる活用を期待することや、審査・調査の進捗状況をタイムリーに共有し、「見える化」することで規制当局および申請者のさらなる効率化につながることが示されました。

製造販売業者の立場から見る基準確認証制度の実装・運用上の課題について —GMP適合性調査制度の更なる合理化を見据えて—

製薬協 薬事委員会 藤川 誠 委員、他                                                  

2021年8月改正薬機法施行において導入された基準確認証制度について、製薬協薬事委員会薬事制度部会加盟会社を対象に2021年11月に行ったアンケート調査結果が紹介されました。製造販売業者の立場から本制度の運用上の課題があり、制度利用のメリットが見出せていないこと、また承認前や輸出用医薬品に係るGMP適合性調査等の運用の合理化に関する要望が多いことがわかりました。基準確認証制度の運用にあたっての課題解決、本制度導入によるGMP適合性調査の効率化への寄与の検証、GMP調査制度全体のさらなる合理化が必要という考えが示されました。

規格及び試験方法の変更事例に係る実態調査 ~製薬協・薬事制度部会によるアンケート結果及び考察~

製薬協 薬事委員会 佐藤 幸広 委員、他                                                 

過去5年間の医療用医薬品の規格および試験方法の変更に係る薬事手続きの事例について、製薬協薬事委員会薬事制度部会加盟会社を対象に2021年8~9月に行ったアンケート調査結果が紹介されました。2021年8月改正薬機法施行分において、薬機法施行規則第47条の「承認事項の軽微な変更の範囲」の対象外とされていた変更内容のうち「規格及び試験方法に掲げる事項の削除及び規格の変更」が削除されました。この変更後、試験特性が確認できない場合は一部変更申請を求められている場合がある一方、簡易相談を経て軽微変更届出にて対応可能な事例が示されました。軽微変更届出とすることが可能な事例を一般化し、通知等で示すことができれば、薬事手続きおよび審査の効率化につながり、ひいてはタイムリーな変更管理、安定供給にも資するという考えが示されました。なお、本発表は、第12回優秀ポスター賞を受賞しています。

表彰式の様子 表彰式の様子

最後に

本年の学術大会はCOVID-19の第7波襲来により開催が危ぶまれましたが、ポスター発表を2日間に分ける等、感染対策を実施したうえで2年ぶりに対面での開催となりました。

シンポジウムにおいてはフロアからの積極的な発言等、本来の学会の姿として産学官で活発に意見交換が行われたと思います。また、レギュラトリーサイエンスを担う人材育成をメインテーマとし、医療情報エコシステムの構築、RWDの利活用、プログラム医療機器、革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業等の旬で幅広い分野のシンポジウムが開催され、さまざまな立場からの議論が数多く交わされることによりレギュラトリーサイエンスの推進と産学官間のさらなる連携がいっそう進むことと思われます。本学会活動の活発化により、ますますレギュラトリーサイエンスが発展することを祈念いたします。

(薬事委員会 清水目 梢、藤川 誠、小室 真人、竹内 豊

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