トピックス 「製薬協メディアフォーラム」を開催 医薬品の適正使用を目指して —患者さんへ信頼できる医薬品情報を届けるために—

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2022年7月19日、オンライン形式にて、「製薬協メディアフォーラム」を開催しました。今回は、「医薬品の適正使用を目指して —患者さんへ信頼できる医薬品情報を届けるために—」と題して、一般社団法人くすりの適正使用協議会理事長の俵木登美子氏より講演がありました。昨今問題となっているポリファーマシー問題への対応や、患者さんにとって信頼できる医薬品情報の提供について、詳しい解説がありました。なお、当日は11社14名の記者の参加がありました。

ポリファーマシー問題への対応

ポリファーマシーとは

ポリファーマシーが、最近テレビやニュース等で紹介され話題となっています。ポリファーマシーは「Poly(多くの)」+「Pharmacy(調剤)」の造語ですが、単に薬剤数が多いことではなく、それに関連して、薬物有害事象のリスク増加や服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態のことをいいます。ポリファーマシーの是正に際しては、一律の剤数/種類数のみに着目するのではなく、安全性の確保等から見た処方内容の適正化が必要との見解が述べられました。

一般社団法人くすりの適正使用協議会
理事長 俵木 登美子 氏

高齢者の薬物療法の問題

高齢化の急速な進展により、肝・腎機能の低下や体成分組成の変化による薬物動態の変化、合併症による多剤投与(ポリファーマシー)の増加、ポリファーマシーによる副作用の増強、薬物間相互作用の発現のような高齢者への薬物療法に伴う問題が顕在化してきています。

また、医薬品の情報提供が単品単位で行われ、複数薬剤を包括した注意喚起が行われていないおそれや飲み忘れ等、服薬管理の必要性が高い患者さんが多く存在している問題も指摘されました。

使用薬剤数

調剤報酬明細書1件における使用薬剤の薬剤種類数について、院内処方、院外処方別に薬剤種類数階級別の件数の構成割合を見ると、ともに「1種類」「2種類」が多くなっているものの、年齢階級別に見ると、院内処方、院外処方とも「75歳以上」で「7種類以上」の割合が高くなっている状況の説明がありました(図1)。

図1 使用薬剤数

薬剤数と有害事象発生頻度

高齢者では処方される薬の種類が6剤以上になると薬物有害事象の発生リスクが高まることがデータを用いて紹介されました(図2)。

図2 薬剤数と有害事象発生頻度

ポリファーマシーの問題点

新たな病状が加わるたびに新たな医療機関、または診療科を受診していると、それぞれ2、3剤の処方でも足し算的に服用薬が積み重なったり、新たな病状を薬剤で手当てしていくと、薬物有害事象に薬剤で対処し続ける「処方カスケード」と呼ばれる悪循環に陥ったりすることでポリファーマシーとなることが示されました(図3)。また、ポリファーマシーの問題点としては、薬物有害事象の発現頻度の増加、飲み忘れ・飲み残しや症状の変化により生じたと思われる多量の残薬(調剤されたものの服用・使用されなかった薬剤)の増加等が挙げられました。

図3 高齢者の薬物療法の問題

ポリファーマシーに対する対策

厚生労働省は、2017年に高齢者医薬品適正使用検討会を設置し、診療・処方の際の基本的留意事項をまとめた「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」を2018年に公表しました。また、高齢患者さんの医療環境ごとの留意事項をまとめた「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」を2019年に公表しています。これらの指針は、医師、歯科医師、薬剤師を対象としてまとめられたものですが、同検討会においては、患者さんや国民へのポリファーマシーに係る啓発の重要性についても指摘しています。この指摘を受けた形で、くすりの適正使用協議会と製薬協は、一般向け資材(リーフレット、QRコード付きカード、ポスター)を2020年に作成しました(図4)。これらの資材を薬局等の窓口への配架や、各種イベントでの配布等で積極的に活用いただけるよう、関係団体(公益社団法人日本薬剤師会、一般社団法人日本病院薬剤師会、一般社団法人日本保険薬局協会、一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会)とも連携のうえ、広く国民への普及啓発に努めています。

図4 一般向け啓発資材作成2020

なお、2022年は、ポリファーマシーのさらなる啓発につなげることを目的とし、啓発冊子の内容をわかりやすく表現した動画版を新たに制作し、くすりの適正使用協議会と製薬協のウェブサイト上で公開していることの紹介がありました(図5)。また、当日は動画版の上映も行われました。

図5 動画のご紹介「あなたのくすりいくつ飲んでいますか?」

信頼できる医薬品情報の提供

一般の方の医薬品情報入手先

くすりの適正使用協議会が実施したアンケートによると、処方された医療用医薬品に関する情報の調べ方は、57.5%が「インターネットで調べる」という結果となりました。インターネットの利用が「薬剤師に聞く」「医師に聞く」といった医療関係者を通じた情報入手と、同程度までに増加しています(図6)。

図6 一般の方の医薬品情報の入手先

くすりのしおり

くすりの適正使用協議会では、患者さんへの服薬説明指導書として「くすりのしおり」を提供しています(図7)。医療用医薬品添付文書をもとに、患者さんやそのご家族にも理解しやすい表現で、A4サイズ1枚程度にまとめたものです。製薬企業約180社が作成し、現在、薬価収載品目のおよそ75%程度を網羅しています。外来処方薬はほぼ網羅していますが、注射剤がまだ少ない状況であることや、英語版も作成し、在留外国人対応等に活用できることの紹介がありました。なお、くすりのしおりへのアクセスは、月平均1000万PVに上っており、そのうち75%が一般の方からのアクセスとなっています。

図7 くすりのしおり

くすりのしおりミルシルサイトを4月に公開

くすりのしおりをさらに活用いただくために、従来のくすりのしおりサイトを全面リニューアルし、患者さんが“くすりのこと、見る、知る”ためのプラットフォーム型サイト「くすりのしおりミルシルサイト」が2022年4月に公開されました(図8)。今後、くすりのしおりを軸とした患者さん向け情報のポータルサイトとして、製薬企業作成の患者さん向け情報をくすりのしおりにひもづけて掲載していく予定であり、順次各社の登録作業が始まっています。なお、くすりのしおりのデータは、電子お薬手帳等の50以上のシステムに活用され、多くの患者さんに情報を提供しています(図9)。

図8 くすりのしおりミルシルサイトを4月に公開

図9 くすりのしおりデータを各種システムに連携

医薬品の適正使用には患者さんの参加が必要

患者さんがくすりの情報にアクセスし、正しく理解していただくことにより、副作用の初期症状が早期に発見されることは大切です。くすりのしおりミルシルサイトが医療者と患者さんのコミュニケーションのハブになればとの願いが述べられました(図10)。

図10 医療者と患者の良好なコミュニケーションのために

最後に

今回の講演を通じて、くすりの適正使用協議会と製薬協のポリファーマシー問題への対応や、くすりのしおりミルシルサイトについてわかりやすく伝えることで、製薬企業のくすりの適正使用に対する取り組みの重要性を改めて認識することができました。今後も製薬協は、くすりの適正使用協議会と連携し、くすりの適正使用推進に努力していきます。

(産業政策委員会 医薬品適正使用推進WG 藤本 雅也

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