トップニュース 「第11回 APAC(アジア製薬団体連携会議)」を開催 —ミッション:革新的な医薬品をアジアの人々に速やかに届ける—
テーマは「APAC次の10年に向けてアジアの人々に価値あるイノベーションを届けるプラットフォームを構築する」

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2012年より開催しているアジア製薬団体連携会議(Asia Partnership Conference of Pharmaceutical Associations、APAC)は2022年で11回目を迎えました。第10回に引き続きオンラインカンファレンスとして、500名を超える視聴者のうち6割以上を海外からの参加を得て2022年4月5日に開催しました。

発表者一同

はじめに

アジア製薬団体連携会議(APAC)はそのミッションに則り申請(新薬、市販後)・許認可に係る規制の課題解決に注力してきましたが、患者さんが服薬できるよう手元に届くまでには規制のみならず医薬品アクセスの向上が不可欠との認識のもと、今回よりアジアのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を議論するaUHC Sessionを採り上げる等、5つのSessionに加え、特別講演2題を含む盛りだくさんな構成となりました。

本カンファレンスの発表資料をウェブサイトに掲載しています。興味をおもちの方はぜひこちらもご参照ください。

https://apac-asia.com/achievements/11th_apac.html

挨拶、祝辞

製薬協の岡田安史会長より、開会の挨拶がありました。以下、抜粋紹介します。 


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは医薬品産業に多くの課題をつきつけています。特にワクチンについては、グローバルな供給がパンデミックの早期終息に欠かせないことを痛感しました。2021年、日本政府は、「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を打ち出し、G7にてワクチン開発や治療法の開発にかかる期間を100日以内に短縮する「100 days mission」に合意しました。このミッションを実現するためには国際的治験ネットワークを活用したワクチン開発環境の整備、治療薬も含めた製造・調達等、各国の製薬団体が協力して課題に立ち向かっていくことが必要です。

APACビジョンの実現に向けて、特に創薬環境の改革は急務です。発足時からDA-EWG(drug discovery alliance expert working group)はアジアの天然物創薬、アジアの創薬研究者の育成において中心的な役割を果たしてきました。今後はゲノム情報等、健康医療ビッグデータの利活用による精密医療(プレシジョンメディシン)の実現が重要と考え、今回のプログラムに盛り込みました。また迅速な新薬承認とアクセスの実現を目指し、今回新たにaUHC-TF(タスクフォース)を立ち上げました。APACを通した関係機関の緊密な連携によって、革新的な新薬とヘルスケアソリューションが創出され、アジアの人々の健康寿命の延伸、経済成長に貢献できると信じています。
 

岡田会長の挨拶の後、国際製薬団体連合会(IFPMA)理事長のトーマス・クエニ氏からのビデオによる祝辞に続いて、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原康弘氏による基調講演を行いました。

講演の中では、COVID-19ワクチンの有効性・安全性評価に係る作業において「透明性」を重視して広く国民の理解を得られるように努めたこと、36当局から成る薬事規制当局国際連携組織(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities、ICMRA)の副議長としてリモート査察導入等に注力したこと、そして日本の医療機関が中心となって進めているアジアでの多施設臨床試験をさらに推進していくこと等の紹介がありました。

基調講演の様子

DA(創薬連携)セッション

APAC DA-EWGはアジアにおける創薬連携を推進するため、創薬シーズの情報共有、天然物の創薬活用と人材育成を目的とする取り組みを検討しています。両取り組みともに3年以上が経過し、仕組み作りの段階から仕組みの活用段階に移行しています。このため、2022年のAPACでは、取り組みの現状共有ではなく、新たな連携テーマの選定を見据えて医薬品開発に重要なリアルワールドデータ(RWD)の活用やプレシジョンメディシンをテーマに選択しました。

セッション冒頭、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)機構長の山本雅之氏による特別講演を行いました。ToMMoは東日本大震災の復興を目的に設立され、現在、医療情報とゲノム情報の利活用が可能な国内最大の複合バイオバンクに発展しています。講演ではToMMoの概要だけでなく、プレシジョンメディシンに対する可能性についても言及しました。

続いて台湾でTaiwan Precision Medicine InitiativeをリードしているPui-Yan Kwok氏から、SNPアレイを使った100万人規模のゲノム解析と予防・治療への活用について紹介がありました。さらに、官主導の取り組みとして、独立行政法人国際協力機構(JICA)の須之内龍彦氏とブータン政府のUgyen Tashi氏から、2国間連携によるバイオバンク構築について講演がありました。医療の質向上だけでなくバイオ産業振興も目的である点は、バイオ産業が発展段階にある国々の参考事例となると期待されます。4名による講演の後、セッション後半では、Roche Pharma IndiaのBruno Jolain氏も参加して、RWDの活用やプレシジョンメディシンをテーマに活発なパネルディスカッションを行いました。

DAセッションの様子

RA(規制・許認可)セッション

RAセッションは、PMDA国際部長の佐藤淳子氏および製薬協の中川祥子常務理事が共同座長となり開催しました。APACが第11回を迎えたことより、APAC RA-EWGの畠山伸二リーダーから、これまでの10年間の活動概要と今後10年間の活動方針をまとめたコンセプトペーパー※1の紹介がありました。これからますます研究開発が進められる「新しいモダリティに基づく革新的な医薬品」を速やかにアジアの人々へお届けすることを目指す内容となっています。また、APAC RA-EWGの陸川隆委員からAPACメンバー製薬団体が各国規制当局と優先度高く対話を進めるべき項目をまとめたポジションペーパー※2の紹介がありました。

続いて、フィリピン食品医薬品局(FDA)のJesusa Joyce Cirunay氏、中国製薬団体(RDPAC)のSara Wang氏、シンガポールヤンセンのVicky Han氏、IFPMAのJanis Bernat氏の4名から発表がありました。COVID-19禍が各国のワクチン等の承認過程に影響を与え、デジタル化、臨床試験の分散化が進み、ひいてはCOVID-19ワクチン審査で経験したように、規制当局間で審査結果の共有を進めていくためには、信頼関係の構築がその礎であることが再認識されました。4名の演者を迎えたパネルディスカッションでは、業界と規制当局がそれぞれに期待する点が語られましたが、総じてコンセプトペーパー・ポジションペーパーに記載した要素が重要であることが明らかになりました。まとめでは、規制調和/収斂を進めていくことが官民双方の目標であり、われわれがOne Asiaとして官民対話を通して信頼関係の構築を推し進めていくことが重要であると座長より確認されました。これらのパネルディスカッションは、RAチームが10年先を見据えた活動を推進していくうえで、非常に有益で希望を与える内容となりました。

RAセッションの様子

e-labelingセッション

第3セッションは、2021年7月に発足したAPAC e-labeling EWGのセッションでした。現在、APAC e-labeling EWGは、アジア地域の13製薬団体からなる36名のチームで活動しています。COVID-19に対するワクチンや治療薬の緊急使用において、最新の添付文書情報を医療現場に届けることの重要性が再確認され、世界中でe-labelingイニシアチブが加速しました。

本セッションでは、e-labeling EWGの活動成果(e-labelingサーベイ結果、ロードマップ)を共有し、アジア地域におけるe-labelingの現状と今後の展望をPMDA、台湾FDA、シンガポール健康科学庁(HSA)、フィリピンFDA、マレーシア国家医薬品規制庁(NPRA)、インド中央医薬品基準管理機構(CDSCO)の6名の規制当局および国立がん研究センター東病院の医療従事者をパネリストに迎えて、APAC e-labelingサミットとして議論しました。

国立がん研究センター東病院の青柳吉博氏は、日本における添付文書の電子化の現状と課題について医療従事者の立場から講演し、e-labelingの普及に向けて2つの課題、1)相互運用性の向上、2)標準化について提言しました。

PMDA国際部の小川佳織氏は、2021年8月1日に施行された日本の薬機法改正による添付文書の電子化について紹介し、e-labelingはXMLを用いることで、他国・地域の最新の添付文書に記載されている情報を、自国・地域における審査に即時活用することが可能となり、迅速な審査の実現に貢献するという将来の構想を共有しました。

台湾FDAのPo-Wen Yang氏は、2022年第2四半期に、Drug License Online Search Systemにユーザー・フレンドリーなインターフェースの実装を予定しており、XMLによる添付文書規格を策定し、段階的に構造化と標準化を進め、近い将来すべての医薬品を対象にした添付文書の電子化を実施することについて言及しました。パネル討論では、各エコノミーのCOVID-19ワクチン等におけるe-labelingの経験を共有し、いずれのエコノミーもe-labelingの実装状況はさまざまであるが、デジタライゼーションの一環として重要な課題であると認識していました。また、e-labelingの5つの要素のうち、次に取り組むべき課題について議論しました。

共同座長のPMDA佐藤淳子氏は、e-labelingの実装と普及には多くの課題があるが、ポジションペーパーを作成していくことで、業界や規制当局といった垣根を越え一丸となり課題解決に臨み前進できるとし、2022年度にはポジションペーパーの作成および情報共有(当局間でワークショップ開催等)の機会を中心とした活動継続が提案され、終了しました。

e-labelingセッションの様子

MQSセッション

MQSセッションでは、タスクフォースチーム名をATIM(Access To Innovative Medicine)から活動内容が明確となるMQS(Manufacturing, Quality control and Supply)に変更することが報告されました。次いで、2022年度のテーマ選定の参考として実施したアジアでのGMP査察の現状に関するアンケート調査結果の報告が行われました。GMP査察対象の製造所、海外製造所での査察の免除基準、査察時の提出書面や記録の免除基準等について差異が認められました。得られた結果を基に今後調査を進め、医薬品査定協定・医薬品査察協同スキーム(PIC/S)加盟や相互承認協定(MRA)締結に基づいた免除基準を検討し、GMP査察の効率的実施が可能になるよう将来に向けて検討を継続します。

次に、2023年のAPACで協議するMQSセッションのテーマとして選定した承認後変更管理計画書(Post-Approval Change Management Protocol、PACMP)制度のアジアでの活用進捗を報告しました。新薬をアジアの患者さんにいち早く提供するには、ICH Q12での合意に含まれるPACMP制度のアジアでの活用を推進し、効率的な変更管理を実現することが必要です。2023年に向けて活動を進めるにあたり、制度の概要、制度活用のメリット、日本での状況を報告しました。アジアでのPACMP制度の活用をいち早く進めるために必要な取り組みについて、各国の協力・支援を得ながら次回のAPACで協議することを報告しました。

MQSセッションの様子

aUHC(アジアのUHC)セッション

本セッションは、アジア各国が革新的医薬品導入に向けて投資継続するために、社会保障制度・UHC構築に向けたナレッジ共有を通じて、新規医薬品への財源確保、基礎的医薬品の持続的な供給、ならびに新規医薬品の迅速な市場へのアクセスを実現することを目的とし、第11回より3回シリーズで開催するものです。

今回、日本・台湾・東南アジア諸国連合(ASEAN)よりCOVID-19パンデミック克服のためのUHCとしての現状と課題、加えてワクチン・治療薬を中心とする各国の取り組みをつまびらかにし、その後、パネルディスカッションを実施しました。最後に、世界保健機関(WHO)のUHC親善大使を務める参議院議員の武見敬三氏から、第11回APACの特別講演として、UHCに係るグローバルかつ歴史的視点における講演がありました。

講演1では、ボストン コンサルティング グループ シニアアドバイザーの武田俊彦氏より、コロナ禍の各国の課題である医薬品提供体制について、医薬品は国際的製品であるため国際的な協調が不可欠になると述べました。今後、日本の役割として、高度医療、地域医療、感染症医療等の提供体制をより強靭にし、ワクチン確保やデータ蓄積、地域における新薬の一定の確保について各国と協調していくことの重要性を強調しました。

講演2では、アジア開発銀行ヘルスセクターチーフのPatrick Osewe氏が、アジア太平洋地域の新興国におけるSDGs目標3のUHCに関する指標の達成状況の低さ、COVID-19パンデミックによる医療提供体制および医療財源確保への甚大な影響、そのことによるさまざまな課題の顕在化について紹介しました。このことをUHC推進の機会と捉え、アジア各国のUHC発展が将来の健康危機への備えとして、各国政府による投資が重要であることを強調しました。

講演3は、台湾衛生福利部部長の陳時中氏が、台湾のUHCにおけるService Coverage Indexの高さ、また台湾のCOVID-19パンデミックの良好なコントロールの要因(「厳格な入国管理」「自発的健康確認」「ワクチン接種」「ヘルスケアシステムの維持」「情報の透明化」)について紹介しました。

続くパネルディスカッションでは、武田氏、Osewe氏のほかに中華民国開発性製薬研究協会(IRPMA)のHeather Lin氏もパネリストとして加わり、COVID-19パンデミック後のUHC構築ポイントとして“Resilience”と“Sustainability”の2つのテーマで議論しました。

まず“Resilience”について、アジア各国のCOVID-19パンデミック禍における医療の確保に向けたさまざまな取り組みが紹介・議論されました。“Sustainability”については、いかにアジアで中長期的に持続可能なUHCを確立するかという点で議論され、各国政府による財源の確保(Financing)が重要という点が強調され、アジア各国の状況に応じたUHC確立に向けた議論を行うプラットフォーム構築が重要との結論に至りました。

aUHCセッションの様子

特別講演では武見氏より、グローバル視点のUHCと今後の展望について、(1)国連開発計画(UNDP)の安全保障の観点でのヘルスケアシステムの重要性、(2)グローバルヘルスに対する日本政府の取り組みやコミットメントについて紹介されました。

また、今回のパンデミック対応として、COVID-19ワクチンを複数国で共同購入し、公平に分配するための国際的な枠組みであるCOVAXやACT-Aの立ち上げの成果に触れ、その期限付きのスキームの課題対応として恒常的な仕組み構築の重要性を指摘しました。そして最後に、2023年に日本で開催予定のG7をUHC構築とその実現に向けた情報発信の場と位置付け、官民協調・協働に期待したいと締めくくりました。

特別講演の様子

本セッションを通じて、アジア各国がCOVID-19パンデミック禍を経験することでUHC構築の課題が浮き彫りになり、改めて強靭かつ持続可能なUHC構築の重要性について再認識することができました。今後、さらに議論を深めていきます。

閉会にあたって

製薬協の野村博副会長が閉会にあたり1日のセッションを総括しました。

「製薬企業は研究開発においてRWDやデジタルテクノロジーを精力的に活用することで革新的医薬品開発につなげることが求められる。私たちは、ますますデジタルテクノロジーを活用しつつあり、よりタイムリーに有益な情報が医療従事者や患者さんに届けられることになる。デジタルテクノロジーが医薬品バリューチェーンのあらゆるステージにおいて革新をもたらし、迅速な新薬提供に貢献していくことを再認識することができた」として「第11回 APAC」カンファレンスを締めくくりました。

閉会挨拶の様子

集合写真

(国際連携部長 松岡 和治

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