トピックス 「第37回 広報セミナー」を開催 ~ニュース解説、報道番組制作の今~

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製薬協広報委員会は2022年4月13日、野村コンファレンスプラザ日本橋(東京都中央区)にて、「第37回 広報セミナー」を開催しました。今回は、社会や国民が製薬産業をどのように見ているのか、国民に産業界の考えを伝えるうえでどのような視点で内容をまとめるべきか、という点で、広報委員がメディアの考え方に触れ、日々の活動に反映するために、NHK解説委員の中村幸司氏を招き、「ニュース解説、報道番組制作の今」と題したセミナーを実施しました。

講演の様子

NHK解説委員の中村幸司氏は、製薬協広報委員会が主催する記者向けのイベントに定期的に参加する等、製薬業界への造詣が深く、今回のセミナーでは、「解説と視聴者の理解」や、「国民にどう理解してもらうか」を主題に、テレビや新聞が中心であった国民の接するメディア環境が変化している実情や、関心をもってもらうための話の構成上のテクニック、また新しい手法や、最初の一歩を踏み出す際の「覚悟」に関して、自身の経験を交えながらの講演となりました。

終了後のディスカッションでは、広報委員から「伝えたいことが、なかなか伝わらない」といった悩みをメディアの方ももっていることがわかり、ともに考えるきっかけになった、というコメントがありました。また、製薬協の岡田安史会長からは、講演の最後にあった「覚悟」という言葉に触れ、「改めて個社や製薬産業の権益ではなく、パブリックマインド(みんなのために役に立つことをしようとする気持ち)による発信を続けて、国民の理解を得ていきたい」とコメントがありました。

以下は中村氏の講演内容の採録です。

国民にどう理解してもらうか

薬価制度がどうなるのか、ドラッグ・ラグがどうなるのか、製薬会社の将来性はどうなるのか、等々の漠然とした危機感を「国民にどう理解してもらうのか」というのが、製薬業界で働くみなさんが直面している問題かと思います。

広報委員会、製薬会社で広報を担当されているみなさんは、思っていることがなかなか世に伝わらないと感じているかもしれませんが、それは、新聞やテレビ等のメディアにいる者も感じているところだと思います。かつては新聞をよく読んでくれたり、テレビのニュースを見てくれたりしていましたが、最近は、ネットから情報を得ることが多くなっていると思います。世の中にどのように物事を発信するのかということが、年々難しくなっています。

製薬協 コード・コンプライアンス推進委員会 田中 聡 委員長 NHK解説委員 中村 幸司 氏

NHK京都放送局にいるときに、当時注目度の高かった生体肝移植を取材しました。このことが医療を担当するきっかけだと思っています。最近の2年間は新型コロナウイルス感染症に注力し、NHKの解説番組「時論公論」だけでも、2年間で70回くらいは解説しています。ワクチンの接種に関しては、日本が世界のワクチンを使っているのではなく、国産ワクチンの開発を急いで、途上国が使うワクチンの余剰を生み出すべきだと解説しました。

ワクチンを接種すべきかどうかについては、本人が判断することです。NHK解説委員の立場から示すことができるのは、副反応はあるものの、感染予防や重症化防止につながるメリット等、判断材料を正確に提示することだと考えています。ただ、若い世代にそのメッセージがなかなかうまく伝わらない、理解してもらえていない。これが単にテレビを見ないからなのか、われわれの問題提起や解説の仕方に問題があるのか、悩ましいところではあります。

NHKの解説委員室は、平日は毎日「夕会」という夕方の会合を開いています。さまざまな分野(政治、経済、社会、文化、国際等)の解説委員が20名くらい集まり(現在はオンライン)、専門外の解説委員から「よくわからない」「そもそも構成が違う」等の指摘があります。専門的な部分はいらないから、肝心な部分に時間を割くよう指摘され、冷や汗をかいたことも何度かあります。NHK解説委員室で長く続く「夕会」は、多角的に指摘やチェックができ、解説能力向上に非常に有効なものになっていると考えています。

解説の構成に関して、理科系の人にありがちなのが、「基礎的なこと(A)」を言って、だから「こうなんだ(B)」、だから「結論(C)」という流れではないでしょうか(図1)。この構成で解説すると、たびたび「わからない」と言われます。好まれる構成はまったく逆です。まず「結論(C)」から入って、「なぜなら(B)」、「なぜなら(A)」とかみ砕いていき、「だから、結論(C)」であるというように、「相手の知りたいことから話をしていき、興味をもってもらいながら展開する」という流れです。要は解説するときも、「どこまで相手の立場、気持ちを考えているか」だと思います。自分にとっての伝えやすさや好み、心地良さのようなものにとらわれないようにすることが大事だと思います。聞き手が知りたいと思っている「結論(C)」に関して、最後の最後に言うのではなく、導入部で示さないと関心をもってもらえません。「A」や「B」はなおのこと聞いてもらえません。

また、結論から示すと、「だから(C)」と言った後に、「ということで(D)なんです」と、結論のもう1つ先のことまで提示できる利点もあります。私は日々、こういうことを考えて解説しています。

図1 解説と視聴者の理解

理解してもらうためにどんなことを実践しているのか、私の経験を紹介すると、NHKのウェブサイトに、学生を対象にした「就活応援ニュースゼミ」があります。最近では「1からわかる!新型コロナ」という解説を掲載し、アクセス数は今までに1000万PVくらいになっています。放送は揮発性が高くすぐ消えてしまいますが、普段の解説をさらにかみ砕いた、こうした解説のウェブサイトにアクセスしてもらうことで、若者の理解が進むことを期待しています。

さらに、以前ラジオの部署にいた時は、「みんなで科学ラボラジオ」という番組を担当していました。この番組を企画したきっかけは、ニュースの伝え方の限界を感じた経験です。20年以上前になりますが、ニュースでテロメア研究を紹介した際に、局内で同僚と「テロメアって実は、寿命に関係しているのかもしれない」という、取材をした先生から聞いた数十年分の研究の話をしたところ、「それはすごく面白い」と言われました。しかし、ニュースでは一般的な長さの1分40秒の原稿にしかなりませんでした。「ニュースの本質をどうしたら伝えられるのか」と考えるようになりました。

そこで、ひと月の科学ニュースから題材を取り上げ、それをとことん2時間かけて説明する番組をラジオで放送することにしました。「相対性理論」や「人工光合成」等、ゲストの人がわからないことをゲストが理解するまで私が説明するという内容です。テロメア研究のニュースではできなかったことを実現すべく、ある意味実験的な番組として、2年以上続きました。

私なりに模索はしていますが、なかなかうまくいきません。取材したことや、伝えたいことがなかなかうまく届かないというのは大きな悩みです。では、どうすれば? ということですが、まずは「相手の話を聞く」ということと、失敗はあるかもしれないけれど「新しい手法に挑戦する」ことが必要ではないかと思います。私が番組を1つやるのと、製薬会社のみなさんが新しいことに挑戦するというのは、意味合いは違うと思いますが、なにかそういうことをしないと、突破口は開けないのではないかと思います。

また、医薬産業が抱える問題を「国民にどう理解してもらうか」という問いに対して、明確に答えることはできませんが、問題を解決するための「覚悟」は必要だと思います。国民や政治もですが、製薬会社のみなさんもかなりの覚悟をもたないと、この問題を良い方向に動かすことはできないと思います。

その覚悟をもつだけでなく、相手にも示す。時間が限られている中、国民、政治、製薬会社のうち、誰が最初にやらなければいけないのか、やるべきなのか、という段階に来ているのだと思います。相手がどう受け止めるのか、相手が関心をもつ形で提示できているのか、あるいは、これまでとは違った新しい手法を模索してみること、そういった視点で考えてみることも重要ではないかと感じています。

(広報部 部長 足立 尊史

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