トピックス 「2021年度 製品情報概要管理責任者・実務責任者研修会」を開催

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2022年3月29日に「2021年度 製品情報概要管理責任者・実務責任者研修会」をオンライン形式で開催しました。当日は、会員会社の製品情報概要管理責任者・実務責任者をはじめ、各社で資材審査を担当している方を中心に、約600名の参加がありました。
以下、本研修会の概要について報告します。

会場の様子

1. 開会挨拶

製薬協 製品情報概要審査会 近藤 充弘 委員長                                             

はじめに、会員会社の医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領(以下、作成要領)の遵守・徹底に協力いただいていること、本日、600名を超える参加に対する感謝の言葉が述べられました。

本研修会は、作成要領を正しく理解し、日頃からの社内審査活動に活かしていただけるよう定期的に開催していること、また今回の研修会では、過去3回の審査会でクラスIIの指摘で多い、(1)サブグループ解析、(2)虚偽・誇大、誤解を招くおそれのある表現、(3)安全性の強調・保証等について、紹介・解説するので、日々の審査の参考にしてほしい旨が伝えられました。

また、特別講演を行う製薬協製品情報概要審査会の小宮山靖副委員長の紹介があり、医薬品評価委員会データサイエンス部会で部会長も務め、医薬品開発の統計分野では業界を代表する第一人者であり、本日の講演は参加者にとって有意義になると述べました。

さらに、医薬品開発分野では、現在GCP Renovationの議論が進められ、レジストリをはじめとするリアルワールドデータ(RWD)活用議論の活性化、緊急承認制度の国会議論等、医薬品開発スタイルがこれまでと大きく変わってきており、変わりゆく中でも、承認された医薬品の情報、データ、結果を正しく・適切に医療関係者に提供していくことは、医薬品を販売する企業の責務であり、医療関係者に提供する情報を、正しく発信できるよう今回の研修会を企画したと締めくくりました。

2. 製品情報概要審査会における指摘事例の共有

今回の研修会は、作成要領の理解促進を図ることを目的に企画し、過去(第113回・114回・115回)の審査会で指摘基準「クラスII」に相当する指摘が多かった項目について事例を交え研修を進めました。以下、当日の研修プログラムを紹介します。

■説明(1)

「サブグループ解析」について

製薬協 製品情報概要審査会 村瀬 勝人 委員                                              

「結果にサブグループ解析結果であることを明記」
「紹介する項目を解析計画等に明記」

■説明(2)

「虚偽・誇大、誤解を招くおそれのある表現」について

製薬協 製品情報概要審査会 佐伯 敏彦 委員                                              

「最大級の表現」「保証表現」「医療関係者のコメントの留意事項」「『優れた』を使用する際の留意点」

■説明(3)

「安全性の強調・保証」「特定の副作用」について

製薬協 製品情報概要審査会 黒田 由樹 委員                                              

「安全性の強調・保証の事例紹介」「特定の副作用を紹介する際の留意点」

3. 特別講演

統計学的観点からの作成要領の解説

製薬協 製品情報概要審査会 小宮山 靖 副委員長                                            

講演の冒頭に、本公演の目的は「作成要領の統計に関するルールの理解を深める」ことであり、「統計ルールの必要性・そのルールを遵守しなければ医療関係者にどのような誤解を招くか」を理解いただきたいと伝えました。

その後、聴講者に資材作成の目的を問いかけられ、「その薬を目の前の患者さんに使うことで、どのような効果がどの程度期待できるのか、どのようなリスクが想定されるのかを誤解のないように伝えることが医薬品の適正使用に結び付くはずで、販売量はその帰結としてもたらされる」と述べました。

講演の中で、統計のルールについて、臨床試験/臨床研究ではさまざまなデータが取られているが、そのデータはある条件のもとで「切り取られたデータ」であり、これらのデータを解釈するために統計解析が使われてきたが、「自分たちが言いたいことに統計解析(特にP値)がお墨付きを与えてくれる」という誤った認識が蔓延していると説明しました。また、このような誤った認識を是正しなければ、情報を受け取る医療従事者は「どの程度信頼できる情報なのか」を適切に判断できないことから、このような状況を正しい方向に向かわせる指針の一つとして、統計のルールが定められたことが紹介されました。

その後、作成要領のルールに定められている以下の5つの考え方について説明がありました。概要を紹介します。

(1)統計解析の結果の提示について

米国統計学会(American Statistical Association、ASA)が公表した「統計的有意性とP値に関するASA声明」の紹介がありました。将来も含めて、検証的な解析において「統計解析手法及びその結果を記載すること」は、極めて重要であることに変わりはなく、検証的な解析以外の結果においても、現状ではこれらが適用されていますが、解釈できないP値の提示に意味がないことが周知されれば、解釈できないP値の解析方法を明記することは、それほど重要でないことも理解されていくのではないかと紹介しました。

また、信頼区間の2つの側面(統計的推定の精度と統計的検定と対応)について、10例未満の有効性における信頼区間の記載において、少数例では信頼区間の幅は広く、ほとんど情報を与えていないことを示すことになると述べました。

(2)検証項目についての記載(ポジティブ・ネガティブ結果について)

検証という言葉の重み(最強の証明方法=検証)について説明があり、「言いたいこと」と結び付けてP値を解釈できるのは検証的な解析で得られたP値だけであり、ほかのP値はその値だけではなにも解釈できないため、だからこそ、どの結果が検証的な解析結果なのかを明示することが重要であると述べました。

(3)事前規定について

2019年度の研修スライドを用いて、改めて説明がありました。

(4)共変量等について

説明の中で、どのような背景因子によって患者さんの反応が異なる(あるいはその可能性が高い)のかを伝えられるように分析することは、医師が治療方針の選択に際して、重要な情報になるはずであるとの紹介がありました。

また、欠損値の補完方法については、かつては、欠測値を無視した集計・解析、LOCF等がよく使われていましたが、最近では、群全体のデータを用いて経時的な変化を推定する方法(MMRM)、欠測の理由に応じて補完方法を変える方法(Multiple imputation)等、さまざまな補完方法が使われており、補完方法により違った結果が得られる可能性があるので、その方法の明記が重要であることが紹介されました。

(5)サブグループ解析の考え方について

「医療用医薬品の広告の在り方の見直しに関する提言」の紹介があり、サブグループ解析の結果がすべて信用できないのではなく、事前規定もされていない、たまたま得られただけかもしれない解析結果に基づいて、なんらかの主張をしたり、その主張を明示的にしなくても印象付けたりすることが、問題の本質であると述べました。
 

特別講演の最後に、統計にかかわる現在のルールは完全なものではないこと、本来あるべき姿に近づけていき、新しい手法等にも対応できるようにするため、作成要領の見直しの検討を行っていると紹介がありました。また、審査会レポート等を参考に、審査動向のフォローの必要性を述べ、締めくくりました。

4. 閉会挨拶

製薬協 田中 徳雄 常務理事                                                      

閉会にあたり、日々の製品情報概要の審査・作成、関心の高さから今回の研修会に600名近いみなさんに参加いただいたこと、販売情報提供活動に関するガイドラインにおける監視事業においても小さな指摘はあるものの、作成要領の変更・改訂に至るような大きな問題はなかったこと等、参加者に対する感謝の言葉を述べました。

また、「3ない運動の推進(不適切な資材を作らない、不適切な資材を社内審査で通さない、正しい資材を不適切に使わない)」への継続した取り組みへの要請があり、各社の自社資材に関する問いかけとして、「販促資材」ではなく、「資材・プロモーション資材」とするのが良いとコメントしました。

そもそも製薬協コード・オブ・プラクティスでは、「プロモーション」の定義をいわゆる「販売促進」ではなく、「医療関係者に医薬情報を提供・収集・伝達し、それらに基づき医療用医薬品の適正な使用と普及を図ること」としている点、さらに製薬業界では1993年の「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」以来、「販促(販売促進)」という言葉は、投薬しなくても良い患者さんにも医薬品を処方し、売り上げを上げるというイメージがあるため、使用しなくなっていることの説明がありました。

2021年8月26日の「MRフォーラム」において、MRは「医薬情報担当者」ではなく、「適正使用推進者」と呼称を変えたいと提案したことの紹介があり、また、その考えから、「資材・プロモーション資材」の名称は「適正使用推進資材」、自社製品の説明会は「適正使用推進説明会」、自社講演会は「適正使用推進講演会」というように、業界自らが名称を変えていくことで、本当の意味で適正使用推進に向かっていくのではないかと考えを述べました。

最後に、作成要領は、製薬協の会員会社として当然守るべきルールであるものの、万全ではなく、その理由は科学・科学技術の進歩とともに見直しが必要な場合もあるためと説明がありました。また、製薬協コード・オブ・プラクティス「1.1 範囲」に「会員会社は、製薬協コードにおける具体的な記載の有無にかかわらず、その行動が製薬協コードの趣旨に則った行動であるかどうかを常に判断の基準とする」との記載があると紹介され、「作成要領の具体的な記載の有無にかかわらず、作成要領の本来の趣旨に則っているかどうかを常に判断の基準としてください」と述べ、引き続きの会員各社の理解と協力を求めたうえで、会を締めくくりました。

(製品情報概要審査会 木村 正彦

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